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上場会見:アスマーク<4197>の町田代表、独自路線で新市場開拓

4日、アスマークが東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の2300円を6.52%下回る2150円を付け、2059円で引けた。同社は様々な手法のマーケティング・リサーチサービスを提供する。東急田園都市線沿線を中心としたパネル調査(固定・定点調査)の組織の構築を経て、パネル・リクルーティングサービスを開始した。オンラインとオフライン・リサーチ、外国人専門パネルサイトの運用などで事業を拡大。調査会社や広告代理店、メーカー、官公庁など年間で1000を超える顧客を支援する。TOKYO PRO Marketへ昨年1月に上場した。町田正一代表が東京証券取引所で上場会見を行った。

101万人のパネル組織を抱え、多様な手法でクライアントの課題を解決すると話す町田代表
101万人のパネル組織を抱え、多様な手法でクライアントの課題を解決すると話す町田代表

―今日の株価の動きについての受け止めを
飯田恭介取締役:初値について、当初の期待通りにはならなかったが、市場の声として真摯に受け入れたい。今後、成長とともに着実な業績を出していくことで、市場に受け入れられつつ株価を形成していければよいと現時点では考えている。

―できれば町田代表からも一言いただきたい。今日の結果を受けて、課題や改善していく部分は
町田代表:業界全体があまり元気がないと見られているというところがはっきりした。今まで以上に我々はチャレンジングに、他社がやらないビジネスにとにかくチャレンジして、業界の誰もが見本にするような、「凄いな、アスマーク」と言われるように、業界と一緒に歩むというよりは、独自の路線で強みを生かして新たな市場を切り開いていきたいと真剣に思っている。

―株価が期待通りではなかったことについては、業界全体の市場動向が影響しているのか、自社について(要因があると)分析しているのか
飯田取締役:リテールが強めの始まりだったので、いろいろなサイトを見ている。TOKYO PRO Marketの時に表示されていた金額から、一部のサイトで「相当な上昇率」という表記がされていたのは、大きくはないが、少しは影響があったのではないか。

―いったんTOKYO PRO Marketに上場した理由と、今回の上場のために必要な体制整備などで苦労した点は
上場にチャレンジしたが、できないというベンチャーを周りでたくさん見ていたので、私は「上場する」と言って勢いでやるのではなく、着実に1歩ずつ、東証の本則市場を目指したかった。まずはTOKYO PRO Marketに確実に上場して、さらに上に上がるための基盤を作って次を目指したかったので、最初から2段階で考えていた。

飯田取締役:TOKYO PRO Marketに行って、最低限のガバナンス体制と内部統制、会社の機関は整ったと見ているが、本則に上がるに当たっての審査を含めて、レベルが違うものだと肌で感じた。

結果的に、準備を1年して、1月31日から今日にかけて2年弱でスタンダードに来られたのは喜ばしいことではある。ガバナンス体制を含めて、統制を改善していく必要性を感じており、今後も会社としてブラッシュアップしていく必要がある。

―いろいろなリサーチやマーケティング会社が世の中には見受けられるが、アスマーク独自のものについて、具体的にイメージが湧かない。また、事業戦略の1つの柱であるDXに関連して、生成AIへの言及がなかった。事業への取り込みは。そういうものがなくても競争力があるのか
町田代表:他社はどちらかというとインターネットで早く安く、手軽にリサーチするのを売りにしていることが多い。我々の場合、インターネットで行うリサーチは、数あるソリューションの1つでしかない。我々の立ち位置は、クライアントである事業会社に寄り添って、いろいろな経営上の課題を聞き、それに合わせていろいろなリサーチ用のソリューションを提供する。

リサーチ手法ありきという会社が多くなっているなかで、クライアントの課題を解決する。そのためにリサーチのプロ人材が多数在籍している。早さ安さで手軽にできるのではなく、あくまでもクライアントの課題解決を一緒にやるのが大きな特徴だ。

AIは、ここ1年ほどずっと実験はしている。業界でもいろいろな議論がなされている。今、リサーチ業界では人の手を使っていたマーケティング・リサーチの企画や、調べものをAIに代わりに実行してもらうことがある。だが、人間に代替できるレベルに達していない。私が全く触れなかったのは、どう使って良いか決めかねていて、様子見しているということだ。

―将来的な収益の見通しや成長力について
基本的には2ケタ成長は継続したい。4つのビジネスをしっかり進めていけば無理な数字では全然ないと見ているので、それらをうまく掛け合わせて、業界で最もアクティブな動きをしている上場会社とされるように、私は今とにかくチャレンジしたくてウズウズしている。

上場を機に、新たな可能性に次々とチャレンジしていきたい。基本的な事業は、国内のリサーチと海外のリサーチ、いろいろなツールの月額課金のリサーチツールのビジネスと、HRテックの4つだ。それらに隈なく力を入れて全て伸ばして2ケタ成長を維持していきたい。できるだけ早く売り上げ100億円に到達したい。

―終わった期の見通しでは大きな増益ではないという数字が出ているが、利益面でも改善していくのか
直近の11月の決算では、人員を厚めに採用したが、これは、外に出していた仕事を内製化するべく育てているので、今期以降、外注費が減っていく予定だ。

今までは売り上げが伸びると人件費と外注費の両方が増えていたが、今後は売り上げの伸びに比べて固定費ができるだけ増えないような準備を進めている。

―世界に名の通ったリサーチ会社になりたいとのことだが、外国人を対象にしたリサーチもあるだろう。沿革上、在日外国人専門のパネルリサーチを立ち上げているが、そのようなサービスは特有なものか
町田代表: 世界のマーケティング・リサーチ市場は非常に大きくて、約2兆円の市場がある。一方で、日本の国内のマーケティング・リサーチ市場は2000億円ぐらいしかない。世界を見ると10倍のマーケットがある。

日本のリサーチ会社は、世界に打って出る覚悟を決められず、上場しているリサーチ会社も海外展開をそれほど積極的に行っていない。我々は差別化で5年ほど前から外国人のスタッフを増やしており、今は約10人の外国人スタッフが東京・渋谷の本社にいる。そこで日々海外のクライアントを開拓し、海外のパートナー、世界のマーケティング・リサーチ会社の開拓を進めている。

ある時は当社の外国人スタッフが世界の現地に飛び、先々週にはシンガポールに行ってリサーチ協会のイベントに出てきた。今は48ヵ国の現地のリサーチ会社とネットワークを組んでいるので、日本の既存クライアントから相談を受けると世界で一気にリサーチができる強みがある。そこは他社には絶対ない部分だと見ている。

例えば、メーカーが外国で商品を売りたいと当社に相談してもらうと、我々が世界のパートナーを動かし、ワンストップで調査をして、現地の言葉で戻ってきたものを日本語に翻訳して納品する。我々が間に立っていろいろなリサーチができるが、これをできる会社は、まずないのではないか。

今、在日外国人のパネル会員約1万人を組織化している。海外で調べたい時には、時間と費用がかかってしまう。例えば、自動車メーカーが、「海外で車を売りたいので現地の消費者を調べたい」という時に、我々はワンストップでできるが、費用が数百万円かかってしまう。その前に、簡単なプレリサーチで、日本に住んでいる外国人に「ちょっとデザインを評価してもらいたい」という時に、日本であれば、数日で、数万円でインタビューできる。

当社の売り上げは約40億円で、前期は4億円程度がグローバル売り上げなので、これを10億、20億円と伸ばしていくべく準備を進めている。今後、間違いなく当社のリサーチ分野の売り上げの中心は、世界との取り引きで増えてくると想定しているので、世界展開を急ぐ。

―HRテック事業の分野は、いろいろなベンチャーや大手も参入してレッドオーシャンのイメージがある。マーケティング・リサーチを下地にしたプロダクトの強みや競合優位性は
参入する時にも、多くの人に、ここはしんどい市場なのではないかと必ず言われたが、我々はマーケティング・リサーチで培ったノウハウをベースに、この業界に参入している。最初は従業員満足度調査、いわゆるES調査で、もう1つは、ハラスメントに関する調査とコンサルテーションの2本柱でHR業界に入った。

その後、他社がやっていない在席管理ツールの「せきなび」というものがある。同業者が参入するHRのサービスはほぼ決まっていて、採用や人事評価制度などだ。そこに行くとレッドオーシャンなので、我々は自社がシェアを有利に取れる部分を探して1つずつシェアを取っている。疲弊戦にならないように注意してシェアを取っていくべく頑張っている。

―今回の調達資金の使途に「開発」とあるが、AI系ではなく通常のシステムか
飯田取締役:今あるリサーチのオペレーションシステムの改善がメインとなる。今回の資金使途以外でも、当社はある程度の現預金があり、今後そのような要素がある会社があれば、積極的に一緒になっていくことを検討していけたら良い。今回の上場の資金使途は、あくまでも目論見書に書いてあるものに限定されるが、それ以外でも資金需要があれば使っていきたい。

―成長するために、AIの使い方がはっきりしている段階では専門会社を取り込む方針は中期的にはあるのか
町田代表:十分ある。一方で、いろいろなAIの会社もそうだが、一緒にやりたいという相談は、スタートアップの会社から多数寄せられているで、いきなりM&Aでというのもお互い怖い。

直近では、メタバースの会社から、「リサーチと組み合わせて可能性を追求したい」という相談を受けている。いきなりM&Aではなく、できるだけ短期間で共同の新サービスを開発しようということになっている。そこで1回リリースして、お互いの相性を見ながら、うまくいけばグループに入ってもらう。積極的にM&Aを検討していきたい。

―今後の具体的な採用計画は
飯田取締役:業容の拡大とともに、身の丈に合った人員増加を考えている。今始まった期の計画はまだ出していないので、明確な数字は差し控えるが、去年の増員に比べると少ない人員増加で、その分生産性を上げる前提で計画を立てている。

―昨年は何人ぐらい増えたのか
33人だ。

―株主還元は
飯田取締役:これまではスタンダード上場していなかったこともあり、配当を出していなかったが、来期から出していく過程で、来年1月の決算発表の時に示すことができると思う。

―資本効率については
ROEを意識していきたい。当社は現時点で20%以上と高い数字を維持できている一方で、株主や市場に受け入れられるような知名度と実績をこれからも出していく必要があるので、企業努力を続けたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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