22日、ジンジブが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格の1750円の2.3倍となる4025円の買い気配で引けた。同社は高校生に特化した新卒採用支援と、高卒社会人の教育研修サービスを中心に手掛ける。求人サイト「ジョブドラフトNavi」や、合同企業説明会「ジョブドラフトFes」を運営。企業向けに、採用パンフレットやSNSコンテンツの企画制作などを行う。佐々木満秀社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―上場を経た率直な今の気持ちは
このビジネスは私が命に代えてでもやりたいと思って、全てを投げ打ってやってきた。社会的課題で入ってきたが、収益を上げなければならないのは企業の命題だ。とても苦労してようやく収益が出てきた段階に入ったので、ここに至った喜びは人一倍大きい。何よりも、上場という手段を選んだのは、世の中に知ってもらいたいというのが大きかった。
知ってもらわないと、高校生も今のまま変わらない。採用手段として、「もはや大卒は採れない。中途は採れない。外国人を採るしかない」という中小企業がとても多く、まだまだ希望を求める若い人を採用できる手段として「高卒はある」という認知を取りたかった。上場のメリットとして一番に考えてきたところで、ようやくこれで皆に知ってもらえる機会が増えた。
―上場で知名度が上がるだろうが、高卒人材サービスにまつわる課題を今クリアできているのか
高卒の課題は、教員だけが斡旋するしかなかったことが大きな課題だ。これは、決して教員が悪いわけではなくて、多忙な業務のなかで、就活も兼務しなければならない状況があって、その残業・労務問題も隠れていた。
民間で勤めたことがない教員が大多数なので、なかなかできないという部分は、我々のサービスを使うことで多少改善された。我々のサービスを見る高校生が凄く増えたので、求人票しか見ずに就職するのと、サービスを見て就職するのでは、自分の意思が全然違う。私は「何となく就職」という言葉を使っていたが、高校生は教員に紹介された記事を見て、とりあえず行ってみて、そこでほぼ内定をもらって就職する。この流れだったが、自分の意思が反映されていなかったところは、かなり改善されたのではないか。
教員と仲良くならないと高校生をなかなか紹介してもらえない流れがあったので、企業側にとっても、我々のような存在が出てきてかなり変わってきたのではないか。ただ、世の中のどれぐらいの割合でそれが改善されたのかというと、道半ばと思っている。
―事業を2020年に高卒採用支援に集約したが、その理由と将来的に事業が別の軸で拡大する可能性は
2020年まではホールディングスを経営しており、事業会社が3つあった。創業以来続けてきた会社がプロモーションの会社で、それ以外に人材紹介とジンジブがあった。人材紹介や広告事業は財務的にも優良で、黒字化していた。唯一、利益が上がらない企業がこの高卒採用支援だった。
高卒を変えるには「全勢力をこの事業に突っ込んで、ようやく成功するかどうかなのではないか」というぐらいの壁を感じていた。だから誰もやってこなかったと思う。優秀な人材こそ儲かる事業に配置していたので、森隆史専務も新田圭常務もジンジブには元々いなかった。この1社に全部を集約したら、成功へのメドが何とかつくのではないかという大きな決断が2020年1月1日だった。それぐらい社会的課題を解決したいという思いが強かったので、集約した。
軸はあくまでも我々の目的である「若者に夢を与えていこうぜ。希望を与えていこうぜ」というもので、その事業に紐づいた事業しかやらない。コングロマリット的にいろいろな事業展開をしようというのが昔はあった。いろいろな事業や社長を作るというのがグループ経営であった。
今は「若い人に夢と希望を与えようぜ」というのが我々の社会的存在価値だと思っているので、25歳未満ぐらいまでの人たちが、何かきっかけになるような夢や希望を持てるような事業に集中して事業を展開したい。
―投資家にも話し、今後も話すと思うが、手応えはどうか。単純に収益を求める会社とは違い、社会課題と両方を追うが、そのような企業家に対する現在の市場の反応は
投資家とは上場に至るまで話もして、収益よりも社会性を優先に意思決定した側面があり、これからも社会的価値のあることしかやらないでいこうと思っている。
そういう面では、長い目で見てもらえる投資家しか(投資は)無理だろうとは考えていた。40~50社の投資家とも話をする機会を得たが、一部には評価してもらえない投資家もいた。もちろん社会性だけの追求では駄目だということは分かっているので、そこにどう収益を付けていくのか、どういうビジネスモデルをするべきか話したので、けっこう評価されたと感じている。
―ジョブドラフトNaviの企業掲載に関して、有料と無料プランの割合は
直近の2023年12月期に2354社で、有料プランの掲載が1500社程度。そのほかが無料と思ってもらえれば良い。
―有料プランのうち、サポートプランの契約が最も売れているそうだが、年間契約の継続率はどの程度か
継続的にリピートする顧客で、今期末の段階でおおよそ6割となっている。我々のサービスの力だけで継続できるかは難しいところで、どうしても学生から応募が少ないところも含めて、応募が来ない会社がまだたくさんある。継続せず諦める企業も多い。
―高卒人材が欲しい企業と、そういう会社に就職したい学生側との需供バランスはどのような感じなのか
需要と供給とでいうと、若い人が欲しい状況で、求人側の企業の求める量が多い。20世紀の価値観で「高校生は皆進学しなさい」という流れが作られてきたので、就活人数は20万人ぐらいしかいない。企業側の求人数は45万人ぐらいなので、圧倒的に企業のニーズがまだ多い。
―採用する企業や業界について、製造業などに偏りがあると想像するが、企業や業種の開拓で工夫していることは
今までの流れでは製造業が圧倒的に多く、半数近くが製造業に就活していた。その次は建設や介護、地元のサービスといったところだった。職種も決まっていて、工場の作業員や事務系といった職種に固まっていた。
現状ではそのような掲載企業が多いが、フリープランを使って無料で、「とりあえず高校生を面接してもらえませんか」という流れを作っている。採用できて仕事をしてもらってみたら「高校生でも良いのではないか」という企業はどんどん増えてくるので、フリープランを使いながら例えば、IT企業やベンチャー企業の業種・業界を、現在増やしている。
―ジンジブでも採用を行っていると思うが、高卒人材の採用は多いのか
次は高卒が8期生で入ってくる。新卒採用を20年やっていて、高卒が取れなかったという面もあるが、大卒ばかり採用してきた。高卒採用を始めたのがこのビジネスを始めた翌年からって、ちょうど8年前だ。
当社は高卒と大卒を半数ずつ取る方針だ。今年は来月に59人が入ってくるが、30人が大卒で29人が高卒だ。高卒と大卒のどちらが、本当に仕事ができるのか検証したかった。実体験をしていかないと、自社の社員が自信を持って高卒を勧められない。8年前から始めて高卒と大卒で実績を上げるのは、本当に変わらない。大卒だから仕事ができるということはなく、高卒だからできるということもないが、その人による。その検証を含めて半数ずつの採用を常に続けている。
―参入障壁の源泉である、行政と主要経済団体、学校組織による三者協定では、1人1社しか応募できないなど制限があるが、これが大きく変わることはないのか
三者協定で今決められている厳格なルールだが、簡単には変わっていかないと見ている。1つには、生徒は高校3年生のいずれかのタイミングで18歳にはなるが、就活のタイミングでは未成年者が多い。
就活は大体7月に始まるので、内定を9月の末に取る生徒が多い。三者協定はあくまでも学業を優先とか、さまざまな理由があって決められているもので、未成年という扱いの下で決められてきた側面もある。簡単には変わらないだろう。
ただ、4年前に大きく変わったことの1つに、「民間を知らしめるべし」という通達が、厚生労働省からガイドラインとして全国の学校に降りた。我々のような存在を「きちんと高校生たちにも知らせてください」ということは決められたが、学校に関しての就活のルールが変わっていくのはなかなか難しい。
5年、10年という範囲では、若干変わってくると思う。大阪府と和歌山県も2社制になったのは、昨年や一昨年で、茨城県は今年の話だ。1人2社制になる可能性はあるが、それ以外のところで大きく変わることは簡単ではない。
一方、5~10年の範囲で大学生のように民間活用がどんどん進むと、我々以外の競合も出てくる。競合が出てきて民間をより活用すれば良いが、あくまでも教員がキーになるので、そういう面でも、我々の競争優位性は保たれると現状では考えている。
―今後の事業展開で、特にどこに力を入れていきたいのか
まずは第2新卒領域だけは絶対にやらないといけない。ここも大きく収益につながるかどうかは簡単ではないが、再就職に困っている高卒社会人はとても多い。そういう人のために、転職支援をやらなければならない。
もう1つ、絶対的に同時並行でやらなければならないのはスクール領域だ。既に新卒のROOKIE’S CLUBなどの商材も扱っている。商材としてWebマーケティング講座を持っている。これから若い人たちが未来に希望を持てる職に就けるようなスクールをどんどん展開していきたい。今の若い人たちは皆さんご存知だと思うが、YouTuberやTikTokerになりたいという人も多くなっている。そういった面でのスクール事業に、早急に力を入れていきたい。
―成長戦略のなかで、高卒社会人向けに、結婚や住まい、資産形成とライフステージに合わせたサービスを展開するとあるが、独立独歩で提供できるものなのか、それともアライアンスを組んで専門の人たちと展開していくのか、青写真があれば聞きたい
アライアンスを組むことで、早い展開が進むであろうと考えている。我々が独自で全てをやろうということではなく、金融は金融の世界で若い人も勉強していかなければならないし、そのほかの領域でも専門的に取り組むところはたくさんある。
18歳成人制になって、18歳から契約できるようになった。そういった面ではアライアンスを中心に、もしくはM&Aも含めて、我々独自でいろいろな事業を展開していこうというよりも、より速いスピードで複数の事業を展開していくことを優先に考えている。
―株主還元の考え方は
全て決定しているわけではないが、この2年間ぐらいは基本的に投資優先で、株主配当を出さない方向性で考えている。3年目以降は配当性向30%を目指せる程度の収益性を持って進めていきたい。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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