30日、インバウンドプラットフォームが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1850円を37.89%上回る2551円を付け、2388円で引けた。訪日旅行者向けのWi-Fiレンタルや、在留外国人向け生活関連サービス(ライフメディアテック事業)、キャンピングカーのレンタルなどを手掛ける。筆頭株主のエアトリ(保有株式:293万6000株、保有割合:85.43%)が、保有株式の2割程度を放出する。王伸社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値の受け止めは
マーケットから非常に期待をされているのかと感じた。
―上場の目的は。親会社のエアトリが売り出すが流動性のリスクもあるようだ
上場をきっかけとして、社会的な知名度や信頼性が飛躍的に向上する。これによって今まで我々がアプローチできてこなかった取引先も、金融機関もそうだが、いろいろな領域がこれから大きく開かれる。私は他社でも上場経験があったので、非上場から上場に変わることによって、より多くの成長機会に恵まれて大きく会社が変容するのを経験している。そうした意味合いで、上場は日本社会にとっては非常に重要と認識している。それがまずは一義的な目的だ。当然、今後のマーケティングやシステム開発で資金需要があったので上場を目指していた。流動性の問題では…
―今は25点数パーセントほどだが…
オーバーアロットメントも入れると、30%に近付く流動性は確保でき、元々90%以上持っていた親会社は今日の売り出しの後には66%ぐらいまで一旦は落ちる。親会社や少数株主とも対話を重ねながら、しっかり流動性を確保していく重要性を認識している。その重要性は親会社も認識していると聞いている。
―親会社から役員を受け入れておらず、そういう意味では、独立しているようだが、今後、売り出しをもう少し頼んで保有比率を下げるのか
時価総額の形成や、状況に応じて柔軟に親会社と対話を続けていきたい。
―キャンピングカーレンタルを祖業に、エアトリに買収された。このまま子会社でいても良いとも考えられる。同事業がずっと赤字だが、今後の扱いは
質問の意図を汲んで我々の会社の成り立ちを説明したい。エアトリグループに私が入社したのが2014年で約9年前だ。IPOチームのリーダーとして経営企画室長として入社していた。私のエアトリグループ最初のミッションは、東証マザーズに上場させることで、当時のエボラブルアジアに入社した。2016年にマザーズ上場、2017年に東証1部への指定替えがあった。
エアトリグループに入社する時から、自分で事業をやっていきたい、将来的には独立して会社を自分でやっていきたいという話を当時の経営陣としていた。それがインバウンドプラットフォームにつながる。私が最終的にエアトリグループでは取締役のCOOとしてグループ全社の事業を統括していったが、自分で立ち上げた新規事業や新しく買収した会社、携わった会社、これを全部統合して作ったのがインバウンドプラットフォームという会社だ。
キャンピングカーは私が当時エボラブルアジアで担当した第1号案件だった。なぜキャンピングカーに着手したかというと、2016年だったと思うが、徐々に訪日外国人が増えてきて、宿泊施設が足りなくなってきた。箱物にいきなり投資をすると、金額も時間もかかる。そこで、宿泊の代替施設としてキャンピングカーがあるらしいとなった。増えてくる外国人に対して手離れも良く、しかも車輪が付いているので、いろいろな所に持って行きやすく宿泊施設の代わりになるのではないかとキャンピングカー事業を始めた。
エルモンテRVジャパンという会社のM&Aに、私はエボラブルアジア側として携わって、第1号案件としてやった。その後も、自分で社内で立ち上げた事業や、新しく買収してきた会社が、蓋を開けてみると、外国人やインバウンドに関係するものが多かった。2018年に一念発起して、これらの会社を複数社全部、統合・合併してエアトリグループからスピンアウトして作ったのが当社だ。
インバウンドプラットフォームは最初からインバウンドの切り口で、これから外国人にサービス展開をしていく、どんどん成長していく、エアトリがやっているビジネスとは全然違うものとして独自で成長していくという思いで作っていた。そのような経緯で、エアトリグループとは取り引きも役員の兼任もほとんどない。
キャンピングカー事業をいつまで続けるのかという質問に戻る。コロナ禍の最中は赤字だったが、その前はちゃんと利益が出ていた。キャンピングカーは国内と海外でレンタルしている。海外は取り次ぎ型で、取次手数料が売り上げになる。取次手数料売り上げと国内のレンタル売り上げが、コロナ禍の前では大体同等だった。国内のなかでも、基本的に訪日外国人向けがメインだった。コロナ禍になると、半分を占めていた海外の売り上げが落ち、国内でも、ほぼ訪日だったので、それが落ちる。そうすると日本人向けの日本国内のレンタルしか残らないのでこの3年間は苦戦した。
一方で、海外レンタルに注力している会社は日本国内ではほとんどなく、また、国内のキャンピングカーレンタルの外国人に特化しているところは、ほとんどない。マーケットさえ戻ってくれば、我々は何か新しい施策を特に打たなくてもマーケットで良い位置にいるので、自然にしっかりと稼いでくれる収益源の1つになるので継続した。足元では順調に回復してきている。
―既存事業の競合はどこか
Wi-Fi事業では、ビジョン<9416>が最も強い同業他社かつ大先輩だと思っている。国内の領域では圧倒的にビジョンが強い。ほかにも、イモトのWi-Fi(エクスコムグローバル)などいろいろな会社が数多くあるが、訪日というところでは、我々も十分に勝負できるのではないか。各社は売り上げのセグメントを開示していないので、今のシェア差は分からないが、各Webサイトのアクセス数の比較では外国人向けでは、いろいろな競合他社と比べても我々がかなり多くのアクセスがあるので、外国人マーケットでは、しっかりとシェアを取れている状況だ。
ライフメディアテック事業では我々と全く同じことをやっている会社はないのではないか。外国人向けのWebメディアを扱う会社は数多くある。電鉄系も入って複数の大手企業がやっているライブジャパンを始めいくつか大きいメディアがある。メディアだけをやっている。広告収入やプロモーション、少しコンサルティングのようなことをやっているメディアがある。あとはEC系で単一商品を販売している会社もいくつかある。
一方で、その会社が自社のコールセンターを持っているか、ECをやっている会社がメディアを持っているかというとそんなこともない。メディアを持っている会社は自社のサービスや物品を販売していないので、我々のライフメディアテック事業と同じようなビジネスモデルを持っている会社はないと考える。個別に、例えば、外国人向けの不動産を手掛ける会社は多くあり、外国人向けの病院の取り次ぎをする会社もいくつかある。ただ、全社としていろいろなサービスを持っている会社はないと見ている。
キャンピングカー事業に関しては、そもそも小さいマーケットで上場している企業はない。そのなかで海外に展開し、訪日に特化している会社はない。
―WAmazingは別段敵ではないのか
素晴らしい会社だと考えている。いろいろ新しい取り組みをしているが、通信領域ではそこまで凄く大きいシェアを取っているイメージは持っていない。いろいろな新しい取り組みをしていて素晴らしい。
―訪日外国人向けの通信機器の話では、Wi-FiのほかにSIMカードがあるが、棲み分けや競合状況は
当社のブランドでもWi-FiとSIMの両方を扱っている。その売り上げの比率ではWi-Fiが97~98%で残り2~3%がSIMとなっている。そういった意味で、棲み分けられている。Wi-Fiを求める顧客とSIMを求める顧客でニーズが全く違う。
Wi-Fiの特徴としては、通信の制限が全くない。我々はそういったWi-Fiばかりを扱っている。混み合う時間帯でも通信速度がなかなか落ちないし、通信容量では、1日に何十ギガ使っても通信ができる。加えて、1台のWi-Fiで複数人が利用できる。SIMの場合は、確かにより安価だが、自分のスマホにだけしか入れられない。物にもよるが、市場で手に入れ易い物は、通信容量がそこまで大きくない。7ギガや15ギガ、30ギガというものが多い。大容量通信をしたい人はSIMだけでは足りず、自分でしか使えないので、棲み分けができている。
―Wi-Fi事業のKPIに稼働台数を掲げているが、単価向上策は
単価に関しては、訪日向けと国内向けで異なる。国内向けは、月の売り上げは1台当たり数千円という水準になるケースが多い。これは、我々が安売りをしているわけではなく、市場価格としてWi-Fiを1台1ヵ月レンタルすると数千円というような値段が一般的と思う。インターネット回線の契約は1ヵ月で数千円なのでWi-Fiもそういった値段設定になる。
一方で、訪日向けの場合、日本に来る顧客は2週間ぐらいの滞在が多い。1予約あたりの平均レンタル期間も大体14日間だ。観光という側面もあるので、1レンタル1万円ぐらいの売り上げになる。さらに、14日間なので、これが月に2回転する。1台当たり毎月2万円ぐらいの売り上げを出してくれる。国内と比べると1台当たりの毎月の獲得単価が圧倒的に高い。訪日が増えるほど利益率が上がるが、こうした構造的な違いがある。
国内の単価を上げられるかというとなかなか難しい。インターネットの普通のインフラの会社や、数多くの競合がいる。大手キャリアもそうだ。訪日向けに関しては、外部環境や、その国々の物価水準によって徐々に単価を上げている。マクロ動態に応じて単価の引き上げは可能で、加えて、いろいろなオプションを付けられる。
例えば、翻訳機や保険を付けることもできるので、Wi-Fiだけでも当面、単価の引き上げは可能だろう。我々が考える顧客単価は、1人ひとりの顧客からどの程度の収益を上げられるかだが、扱っている商材はWi-Fiだけではない。例えば、空港送迎のハイヤーの手配なども行っており、1人の顧客に対していろいろとクロスセルをすることで顧客単価を引き上げたい。
―客単価を上げる保険や翻訳機を付けるようなことは始めているのか
販売はしているがかなり安価で出している部分で値上げの余地はまだある。あとは、他社で取り扱っていて我々がやっていないオプションも数多くある。
―今後、どういったオプションを付けていくのか
具体的に言いにくいところではあるが、他社はいろいろなオプションを付けていて、当社では、あまり付けていないので、これからはそういったところに着手していきたい。
―ライフメディアテック事業に関して、2023年9月期の売上高が前期比で4割減だが、コロナ特需が消滅したという理解で良いか
大きく2点あり、1つはコロナ禍ではPCR検査の取り次ぎを提供していた。外国人に特化してそれをやっていた会社はほとんどなかったので、ほぼ独占的に我々が訪日外国人の顧客をいろいろな医療機関に取り次いだ。そこは非常に大きく成長したきっかけになって、徐々にコロナ沈静化によってなくなっていった。
KPIを見てもらうと、件数に関してはそれほど落としてはいない。PCR以外の件数は徐々に伸ばしてきている。リソースをかければかけるほど件数はどんどん増えていくが、今期はどうしてもWi-Fi事業のほうに集中させる必要があり、開発のリソースをWi-Fiのほうに寄せた。今期に関しては一旦縮小という形で、来期に関しては回復傾向となると思う。
―いろいろな取り次ぎサービスがあるが、そのなかでの単価の違いは
平均してみると、前期の下期から今期にかけて平均の単価はそれほど変わっていない。商品ごとには当然大きな違いは出てくる。例えば、不動産の仲介では仲介手数料は賃料と同程度で、10~20万円になる。インターネット系の仲介では数万円、病院では数千円と物によって違ってくるが、平均すると1件当たりの単価は、数千円台後半で安定している。
―冠婚葬祭や教育などはライフメディアテック事業の提供サービスだろうが、時期的にはいつ頃から始めるのか
基本的には来期以降だ。マーケットの変化は大きいと見ているので、その時々に応じて最も収益につながる社会的なニーズがあるところに投資していきたい。ライフメディアテック事業の良いところは、何をやっても我々のビジネスモデルは変わらないということだ。しっかりと情報発信をして、それに関するウェブサイトをバックエンドも含めて構築し、マーケティングをしっかりして、コンシェルジュで取り次いでいく。そのモデルは変わらないのでどの商材を選ぶかは、その時々のマーケット環境に応じていく。
来期には新しく何かを立ち上げることはあると思うが、何になる、どの時期になるのかは環境の変化に応じてしっかりと決めていきたい。
―今後のライフメディアテック事業の位置付けだが、在日外国人向けで母数は多くない。Wi-Fiに次ぐ成長ドライバーのイメージなのか
ライフメディアテック事業は今後間違いなく第2の柱になってくる。大きな成長性を秘めている。足元では日本に住んでいる外国人に特化していると言ったが、そこに限定する必要はない。訪日外国人が使うサービスであればそれで良い。
結局、そこは同じ外国人なので我々がやることは変わらない。その商材が日本に住んでいる外国人にも、訪日外国人にもハマるサービスであれば両者に売れて、ニーズをしっかりと満たすようなものになっていく。Wi-Fiに次ぐ、それを超える商材をライフメディアテックのなかからどんどん育てていくイメージを持っている。
―中期的に海外展開の話をしていたが、Wi-Fi事業か、ライフメディアテック事業か
ライフメディアテックのイメージだ。我々は今、主軸がWi-Fiで、どうしてもWi-Fi事業部という形でそれが切り出されているが、両事業はビジネスモデルとしては全く一緒だ。ライフメディアテックのビジネスモデルは全社で変わらず、そのなかで大きく成長した商材が今Wi-Fiになっているだけという感じだ。これが今後違う商材が成長していけば、その商材単体の事業が出来上がるかもしれない。その意味では、このビジネスモデルを海外展開していきたい。
―アジア圏での展開のようだが、いつ頃になるのか
少なくともこの1~2年の間ではないというイメージだ。短いスパンのなかではしっかりと日本国内でビジネスモデルをもっとブラッシュアップして、いろいろな商材やサービスの立ち上げを行って、その後に海外展開を進めていきたい。
―調達資金の投資イメージは
まずはマーケティングの投資がある。このなかでも、大きくはWi-Fi事業における認知型の広告に投資していく。規模でいうと来期で約5000万円、再来期に約1億円、加えて一部、獲得型の広告にも数千万円を投資しようと考えている。もう1つはシステム開発だ。開発に関わる人員で外注を含め全てのコストという意味でのシステム開発コストだが、来期に1億円で、再来期に1億円と少しを使うと想定している。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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