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上場会見:ispace<9348>の袴田CEO、シスルナ経済圏を構築

12日、ispaceが東証グロースに上場した。初値は付かず公開価格の254円の2.3倍である585円の買い気配で引けた。地球と月の間に広がるシスルナ(cislunar)空間に経済圏を確立し、持続的な世界の実現に向けた月面開発事業を手掛ける。「ペイロードサービス」では、ロケットで打ち上げるランダー(月面着陸船)を用いて民間で世界初の月面輸送サービスを行う。昨年12月11日に打ち上げたランダーは、今月26日に月面に着陸する見込み。高頻度・低コストの輸送サービスの確立を目指す。月の環境や事業遂行時に発生する通信データなどを収集し、開発に必要なプラットフォームを構築する「データサービス」も進める。袴田武史CEOと野﨑順平CFOが東京証券取引所で上場会見を行った。

事業を進める過程で生じ得る不確実性や失敗を恐れずに活用して成長させていきたいと話す袴田CEO
事業を進める過程で生じ得る不確実性や失敗を恐れずに活用して成長させていきたいと話す袴田CEO

―買い気配で終わった初日の株価の動向について
株価については、市場が決めていくことだ。多くの株主や投資家に注目されており、今後、着実に事業を拡大していきたいという思いを新たにしている。

―4月12日は、62年前に、ユーリイ・ガガーリンが人類初の宇宙飛行をした日だ
我々としては特に計画してこの日にしたわけではないが、偶然4月12日という宇宙にとっても非常に重要な日に、宇宙での商業化の道筋を開けるような上場を迎えることができたのは、巡り合わせのような幸運がある。この日が宇宙業界にとって、今後も重要な日になり続けるように、最善の努力をして事業を拡大し、最終的には、人間社会の次の未来を作っていくことに貢献していきたい。

―世界的にスタートアップのダウンラウンドが目立っているが、逆風が吹くなかでのIPOをあえて決断したの理由は
野﨑CFO:エクイティのマーケットは確かにベストな状態ではないなかで、ダウンラウンドが多い。我々も直近2021年の最後のプライベートラウンドからダウンラウンドで出ていく。我々のようなスタートアップ企業にとっては共通だが、資金調達は非常に重要なイベントだ。この先、市場環境がベストな時にやるほうがいろいろな意味で良いが、現在、見通しが難しいなかでは、可能な時に資金を調達するのは、非常に重要な戦略だ。なるべく早期の資金調達をしていくことに基づいて、このタイミングで上場した。

―今回の公募増資で債務超過を解消し、赤字が続くのでリスクはあるが、東証はグロースであれば上場廃止基準の面で例外規定を設けている。一方でNASDAQは上場廃止基準に債務超過を定めている。両方が選択肢だろうが、東証を選択した背景と、今後のNASDAQ上場の考え方は
NASDAQへの上場は、過去には検討してきた。まず言いたいのは、債務超過という理由で東証かNASDAQかという判断をしたということはあまりない。開発資金が大きいので、確かに昨年12月に債務超過となっている。

今後も引き続き収益ロスが大きく、赤字が続くなかで、それを回復させていく道のりも、決してすぐに簡単に達成できるということではなく、日々の売り上げや、開発のコントロールが必要になってくるのは事実だ。ただし、東証にも事業計画を説明して、債務超過にならないような道筋を理解してもらっている。

東証を選択した理由は、現時点で、国内・海外にいろいろな株主がいるが、シリーズAという、2017年に行った投資以降、もう6年ほどになるが、日本の様々な企業に投資してもらい、上場を約束してきたので、そのなかで、現時点では最適な選択肢が東証だった。

将来的にNASDAQ上場が、我々の成長にとってプラスであれば、検討から排除するものではなく、今後も検討していきたい。

―宇宙ベンチャーとして初の上場で、業界全体で、ビジネスが容易になるのか、そうではないのか。上場しているベンチャーの多い米国と比べてどのような段階にあるのか。
袴田CEO:宇宙で事業を行うのは、簡単なことではない。ただ、不可能ではなく我々のように事業を築くことができ始めているのは、世のなかの、ほかの宇宙スタートアップに対しても非常に良いメッセージになっていくのではないか。

米国と比べると市場規模が大きく違うので、一概に比較できないが、日本初のスタートアップとして、日本でのみならずグローバルに事業を築いていくが重要だ。米国に何社かいる競合とも競いながら一緒にマーケットを作っていくことも重要なので、グローバルで協力しながらマーケットを作っていきたい。

―ニュージーランドの航空宇宙ベンチャーが最近、ロケット推進飛行を行う飛行機の試験飛行を完了したが、ランダーをロケット以外で飛ばすことは可能か
基本はロケットだ。ミッション1でも1トンの着陸船を静止軌道の少し先まで運んでもらわないといけないので、けっこう大きなロケットが必要で、SpaceXのFalcon9クラスでなければ飛ばせない。

―ランダーの月面着陸が迫っている今は重要なタイミングだが、そのタイミングでの上場について。着陸に向けた意気込みは
着陸と上場日が近づくことを計画したわけではないが、ミッションの進捗を踏まえて、発表できる準備が整ったので、結果的にそうなっている。より早く上場を目指したいと準備してきたが、結果的にこのタイミングになった。

上場も着陸も準備をして実行し、何が起こったとしても、ミッション2と3を実行できることをやっていく。もちろん成功したら成功したで、これから事業をさらに加速できるので、その流れを掴んで事業を拡大させていきたい。

―月着陸に向けた課題と意気込みについて。特に、日本円で20兆円以上の市場規模が期待されるとのことだが、着陸を通してどのような世界を作りたいのか
本日発表したように、4月26日の未明を最短の着陸時期として目指している。今までSuccess7まで実現できているので、特に大きな問題なく着陸フェーズまでいけるのではないかと考えているが、着陸できるかどうかは、その時、結果を見ないと分からない。今まで最大限ベストを尽くしており、Success7までも、様々な水面下でのトラブルも克服しながら実現してきたので、エンジニアがしっかりと運用してくれるものと考えている。

着陸が実現すれば、より多くの人たちが、月面に事業が展開されることに対して、より一層リアリティを感じてもらえると考えている。事業を加速していくうえで非常にポジティブな方向性になるのではないか。

―水面下のトラブルも解決していたとあるが、Successのクライテリアに関しては特に大きな変更はなく、計画を変更したというわけではないのか
マイルストーンについて何か達成できなかったとか、計画が変わったということはない。日常の運用上の様々なトラブルはあるが、それを解決しながら、マイルストーンを達成できている。

―着陸日のバックアップで日付が3つあるが、この3つの日付を含めて着陸地点は全て違うのか
それぞれ違う。

―着陸で難しいところは
各マイルストーンが非常に重要なステップで、着陸もその1つのマイルストーンなので重要なステップだ。一般的には着陸が難しいのではないかと思われる。確かに簡単ではないし、誰でもできるわけではない。信頼性のあるスラスターなどの技術を使って、実績のあるドレイパーのナビゲーションのソフトウェアを使っているので、非常に高い確率で、信頼性高く着陸をすることができる設計をしてきた。

もう1点付け加えると、ミッション前半で打ち上がった後、全ての機器のチェックをしてきた。スラスター系も、今までのマヌーバーでしっかりと動いていることが分かっている。万一、ハードウェアが故障していると着陸が難しくなるが、そういったことがないので十分に着陸できる可能性がある。

―4月26日に、仮に着陸が失敗した場合、控えているミッション2と3は予定通り実施できるのか。何かしら影響があるのか
ミッション1が仮に失敗した場合、現状では特にミッション2と3の計画変更は想定していない。失敗の内容によって変わるところはあるかもしれないが、既にSuccess7まで成功していて、ハードウェアには特に大きな問題はない。そこに問題があると、設計変更が必要になって長期間かかる可能性もあるが、それはあまりないのではないか。

―月保険について聞きたい。失敗した時にカバーされる金額は公表できるか
金額については、申し訳ないが非開示としたい。

―ミッション2以降の、月保険契約締結の進捗は
三井住友海上火災保険に設計してもらい、ミッション1で契約している。これは非常に画期的な保険で、月面の着陸までカバーする。これから月の事業が発展するうえでは、非常に重要で不可欠な要素だ。今後こういった保険は重要になるので、ミッション2・3以降も、ミッションが近づくとともに検討したい。

―今回のIPOで、2度目の訂正報告書によると、諸経費の差し引きで58億円を調達し、2022年12月末の手元資金43億円と合わせると101億円になる。年間で大体50~60億円程度のフリーキャッシュフローのマイナスが続いたとすると、ランウェイが2年弱で尽きてしまうが、資金繰りのメドは
野﨑CFO:宇宙開発をしているので、使う資金は非常に大きい。ただし、このビジネスは今非常に大きく動いていて、一方では、非常に大きな売り上げとキャッシュインが期待できる。引き続き開発にはたくさん使うが、同時に、宇宙機関、政府の顧客も、民間企業の顧客もたくさんいるので、そこからの事業キャッシュも生み出していくことができる。そのようにして自分たちの事業を継続させていくことができる。

―黒字化の見通しは
昨年12月の段階での決算でも報告したが、現時点では赤字を出している。引き続き、開発負担があるので、この状態はもう少し続くと見ている。ただし、ミッション3から少し大型の着陸船を使う。これは最大500キロまで荷物を持っていけるので、これまでよりも、本格的な事業収益化を目指すモデルで、徐々に収益を出していって、向こう数年後を目指して、頑張って黒字化をしていきたい。

―ミッション3で大型のランダーを飛ばすが、収益規模は
ミッション3では、大きな顧客が1社決まっている。NASAのCLPS(Commercial Lunar Payload Services=クリプス)というプログラムで、NASAが選定している荷物を持っていく。それで5500万ドルで、1つの大きな塊となる。ただ、これだけでは終わらせる予定はなく、まだ荷物を積む余裕があるので、Interim PSA(最終契約であるPSAの手前のペイロードサービス中間契約)で世界各国の民間企業と契約している。その荷物を運んで、最終的には1億ドル以上の売り上げを作っていきたい。それぐらいの売上規模になる。

―向こう数年後の黒字化を目指すが、ミッション3が成功すれば黒字化が見えてくるのか
ミッション3で使う「シリーズ2ランダー」という少し大きめのランダーは、本格的な商業フェーズのものだ。ミッション3以降、ミッション4、5を行い、2027年頃には年間2回のミッションを打っていくことも計画している。シリーズ2ランダーを使い、黒字化のドライバーにしていきたい。

―売り出しがなかった理由は
個々の株主の意向について話すことはできないが、IPOで1番重視したことは、成長のための自己資金を取りに行くことだ。特に、マーケット環境が必ずしも理想的ではない状況で、数年前のマーケット環境が良い時に比べて、資金獲得力は減ってしまうという状況はあると思うので、成長のための資金を取ることを優先した。

―次の調達はいつ頃か
上場の大きな目的は、資本市場への確実なアクセスなので、将来的に大きな資金が必要となった場合、ますます活況な宇宙業界で、攻めの投資をすることで新たな研究開発をするニーズが出てくることはある。それが数年以内なのかどれぐらいなのか、今、話すことはできない。そのような状況になった時は、また株式市場の投資家に相談したい。

―株主還元の方向性は
株主還元に関しては、残念ながら新たに株主になってもらえる人に配当を出せるキャッシュ状況ではない。今最も大事なキャッシュの使い方は成長投資だ。これによって、自分たちの企業価値を上げていくことが株主への最大の還元であると考えている。もちろん中長期的に資金の余剰ができた場合には、配当などで還元していくことを考えている。

―シスルナ経済圏の構築に際し、短期または中長期的に課題になりそうなことは何か
袴田CEO:中長期的には、宇宙の資源の所有権が大きなテーマになる。今、米国も日本も、宇宙資源法があり、国単位では、既に民間企業が宇宙資源を所有して売買できるが、これが国際的な商取引になっていくので、国際的な枠組みを作っていくことが、大きなキーポイントになってくると見ている。

短期的には、着陸をして輸送の事業を組み立てていくことだ。そういった経済が回り始めてくると多くのプレイヤーも参加して、このシスルナ経済圏の構築が進んでいくのではないか。

noteにも記事があります。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]