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上場会見:トランザクション・メディア・ネットワークス<5258>の大高代表、購買可視化で店舗に還元

4日、トランザクション・メディア・ネットワークス(TMN)が東証グロースに上場した。初値は公開価格の930円を49.25%上回る1388円を付け、1265円で引けた。同社は三菱商事とトヨタファイナンシャルサービスの共同出資で2008年に設立。小売事業者を主対象にキャッシュレス決済サービスを提供する。1台の決済端末で、クレジットカードや電子マネー、QRコードなど44の決済手段に対応し、1000社以上が導入している。大高敦代表が東京証券取引所で上場会見を行った。

電子決済を通じた消費行動の全面的な把握で流通関係者と消費者の利便性を高めると話す大高代表
電子決済を通じた消費行動の全面的な把握で流通関係者と消費者の利便性を高めると話す大高代表

―初値の受け止めは
公開価格を上回ったことで、まずはほっとしている。地合いとして先月に海外でいろいろなことが起きていたことや、上場を取りやめた会社も何社かあり、当社のような規模の会社が需要とマッチするのか不安もあった。結果的には40%強上振れた終値を付け、安心している。

―上場の目的は
最も重視したのは信用力の強化だ。我々の顧客に流通事業者が多いことに起因している。大規模な店舗にシステムを導入してもらう場合、サービス提供に際して大手SIerや、既に上場している有名なIT企業が関与してくる。全国展開していない顧客からすると、より信頼できる会社に金銭に関わる処理を任せたいという本質的な要望がある。その信用を補完する意味で上場が必要だった。

中長期的な成長戦略のなかで、購買全体の状態を把握する活動では、企業との連携やM&A、新たなシステムを作り上げてより幅広い層の需要を満たさなければならないので、目的としては資金の確保もある。

―情報プロセッシング事業を突き詰めると、本当の1to1マーケティングができるのか
それを意識している。通常のデータビジネス事業者は、購買情報を入手して抽象化することで第三者に展開する。その情報を流通事業者やデータ販売業者から購入するためのコストが課題となる。また、情報を二次利用する時に消費者保護の観点からの問題もある。

我々は、店舗から集めた情報は、店舗のために戻す。例えば、クラウドPOSの事業を最近始め、それを使ってもらうと特定の店舗で、どの人が何を買ったのか全部把握できる。これを、地域ごとにどの品目がどの世代の人たちに購買されているか可視化・グラフ化、時には分析して、情報の出元に違う形で戻す。戻ってきた情報を流通事業者が使う時は、1to1マーケティングにつながっていく。

―steraやCAFISと競合になるかもしれないが、決済分野の売上高のうち、クレジットやQRはどの程度になっているのか
数字をきちんと把握できない部分がある。電子マネーとクレジットは、サブスクリプション型になっていて、顧客との契約時に、2つのサービスを一緒に提供し、月額を受け取る。売り上げの観点では答えられない。

取扱量では、昨年1年間で3兆円ぐらいだが、2兆円ほどが電子マネーで、1兆円がクレジット、大体3000億円がQRとなっている。1000社以上の顧客のほとんどは、当社とは電子マネーの決済でしか契約していない。おそらく違う会社からクレジットなどを導入している。

我々はクレジットやQRの仕組みも持っているので、システムを更新する時にバンドルして、電子マネーやクレジット、QR、プリペイドを一緒に導入してもらうとボリュームディスカウントができるとして、徐々に幅を広げていこうとしている。

―NTTデータとは、QRで取り引きがあるのか
ない。それは当社も自らやっており、当社のセンターの後ろ側につながっているのは楽天やPayPayなどの決済ブランドだ。

―NTTデータとは電子マネーではまだつながっていないのか
CAFIS Archというサービスの一部として、電子マネーのクラウドサービスサプライヤーとして我々が連携している。

―他社に切り替えたわけではないのか
詳細は分からないが、おそらく我々だけではない。我々も各社を使っており、他の2社も使っているのではないか。

―今は、決済業界では、カード会社は対steraで動いているが、TMNは顧客でもあり、独自に端末を提供する立場でもある。今後、POSのリプレースが控えているが、新機種をどう展開していくのか
見る限りでは、steraの端末の設置先は、小~中規模顧客が多い。その部分は、TMNはパートナーシップで場所を取っていく。steraやNTTデータ、JCBグループのソリューションもあり、そこに我々のサービスを等しく提供している。そこはブランドを持つ事業者が、SMB(Small and Medium Business)獲得で日々しのぎを削り、場所を押さえていく。

SMB領域では、我々はできるだけ多くの事業者につながることで、誰が契約を取った状態でも何らかの収益がTMNにつながることをやろうとしている。大規模顧客は、大手のインテグレーター、NTTデータが競合として存在するケースもあるが、組む、あるいは正々堂々と入札に応じる。

―端末自体はPOS連動のような形で大手向けに提供していくのか
そうだ。新機種は、大手のPOSが置かれているような事業者に提供するために開発している。だが、小さな店舗で使えないわけではないので、他の決済ネットワークを扱う人たちがそれを担ぎたいのであれば、メーカーであるTMNとしては何ら問題ない。

―高いレイヤーで勝負していくのか
大規模加盟店向けのソリューションだ。情報プロセッシングは購買を掴む。我々が、大きなところへの直接営業に特化しているのは、そういった店舗で日本のほとんどの消費が行われている現実があり、その流れを正しく掴むためには、大手の顧客と、端末の提供も含めていろいろなサービスをしていかなければならない。

―新機種は2023年度のいつ頃に発売予定か
下期頃に設置を開始するイメージだ。

―業績予想に織り込み済みか
織り込んでいる。

―内諾を得たものや確度が高い案件で予想を立てているのか
その通りだ。

―業績にボラティリティがあるのではないか
過去に、事業規模に比して大きな投資を連続的に行ってきた。特定のシステムを作る時に人を採用し、業務委託費が先に出て、費用として立ち上がる。ものができた後は償却が進んでいく。これがサービスごとに連続したことで、過去のボラティリティが発生している。

提供する44のサービスは、全国で使われている決済ブランドの全てをカバーしていると見ており、今後は投資が比較的平準化していくのではないか。上場によって得られた資金も設備投資に活用していくので、緩めることなくまんべんなく投資を行い、ボラティリティをできるだけ低くしようと考えている。

―M&Aの対象業種は
流通とその現場に絡むものであれば、全てと言ったらいいのかもしれない。観点は3つあり、1つは開発リソースの調達だ。日本でITエンジニアが十分にいないため流通事業者も非常に苦労している。開発会社を我々のなかに仲間として迎え入れておくことが必要ではないか。

もう1つは情報プロセッシングという事業領域での、より幅広いサービスの提供だ。例えば、クーポンを配信する会社や、流通業の基幹システムで、顧客の1to1マーケティングを担うソリューションを持つ会社と組むことでより幅広いサービスができる。

一方で、足元では電子決済を、さらに力強く広げなければならない。情報プロセッシング事業にシフトすることではない。電子決済は今まで以上に力を入れていく。ゲートウェイを手掛ける会社や、我々がやっていないBtoCのサービスを行うフィンテック会社もあると思うので、提携の候補に挙がってくる。

―この2~3日の間に報道されているデジタル給与払いの実現に向けた動きが、事業に与えるインパクトは
我々も詳細な分析をまだ行っていない。直接的に影響を及ぼすというよりは、電子決済が使われる規模の拡大が加速すると想定される。例えば、昨年度でいうと32.5%という日本の電子決済比率を、何ポイントかこれまでのペースよりも早く押し上げるように動くと、我々のビジネスには追い風になってくる。

我々の基本的な収益は、流通事業者に提供するサービス数×端末の台数で固定料金が決まるサブスク型となる。使用の有無に関わらず固定料金を受け取り、下振れのない非常に安全なビジネスである一方、日本の電子決済(の比率)がこれから上がっていくなかではアップサイドを取りにくい。

この2~3年、使われた金額に対してのパーセンテージを課金するGMV(Gross Merchandise Value)課金を、特にQRコードの決済で試行している。そういったものと組み合わせて進めている。そうなるとアップサイドが増えていく。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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