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上場会見:eWeLL<5038>の中野社長、“8割手書き”を電子化

16日、eWeLLが東証グロースに上場した。初値は付かず公開価格の1700円の2.3倍となる3910円の買い気配で引けた。主力SaaSサービスである訪問看護専用電子カルテ「iBow」を提供し、効率化を支援する。勤怠システム「iBow KINTAI」や訪問看護ステーション用レセプトシステム「iBow レセプト」を投入し、事務管理代行サービスも始めた。中野剛人社長が東京証券取引所で正午に上場会見を行った。

「iBow」導入による効率化の効果について、1日当たりの訪問件数が従前の平均3件程度から6件程度に増加すると話す中野社長
「iBow」導入による効率化の効果について、1日当たりの訪問件数が従前の平均3件程度から6件程度に増加すると話す中野社長

―このタイミングで上場した狙いは
医療従事者に対してのサービスなので、会社の社会的信頼もある程度得なければならないため、2012年の創業時に10年での上場を最初から掲げてこれまでやってきた。ちょうど10年目で上場ができた。

―広告費をあまりかけずに集客でき、利益率が高いとはどのようなことか
この業界は1万4000ステーションほどしかない。また、我々は代理店を介さず、顧客に直接導入している。システムのフィードバックや徹底したユーザビリティ追求のためにそうしてきたが、これからもそれは変わらず続けていきたい。広告費は、展示会などピンポイントで決まっている利用者向けの広告になるので、使うコストはこれからもあまり変わらない。

利益率に関しては、SaaSのビジネスで、利用者が増えても、サービス提供する我々の人件費が増えるわけではない。広告費をかけずに原価もそれほど必要がない。今のリソースで利用者を増やすことができるという2つの理由がある。

―昨年にリリースした「iBow KINTAI」を無料で利用でき、製品画面に自社製品の広告を表示することがもたらす効果は、もう少し先に表れてくるのか
そう考えている。マーケティングの機能も持たせている。
浦吉修取締役:無料で提供しているからこそ「iBow」を使っていない人にも使ってもらえることが接点になっている。

―競合にはどのような会社があり、それらに対する強みや参入障壁は
中野社長:その前にシステムの違いを説明したい。80%がまだ手書きとされる日々の業務の(情報を管理する)、3省2ガイドライン(厚生労働省と経済産業省、総務省が2019年に策定した電子化した医療情報に関する2つのガイドライン)に準拠した訪問看護専用電子カルテの領域に、我々は取り組んでいる。

他社は、国に保険請求をするレセプト請求システムを中心に行っており、訪問看護ではなく訪問介護のシステムを例外なく転用している。我々はレセプト請求システムを作らずに、訪問看護師が日々訪問した際に使う部分をしっかりと作り込んできた。そもそも棲み分けがなされている。

システムの特徴として、電子カルテの部分は、日々の業務を入力していく結果、その情報が自動的に(他社と連携した)レセプト請求システム(や昨年に投入した自社製のシステム)に流れて計算が立ち、保険請求できる仕組みになっている。他社は、レセプト請求システムに情報を直接入力する点で決定的に大きく違う。月末・月初に入力が必要になる。我々のシステムを利用してもらうことで、間違いが起きない正確なレセプト請求ができる。

―数年以降先にデータビジネスに参入するとのことだが、具体的にどのようなことをしたいのか
実際に始めているのが、いわゆる遠隔治験だ。慢性期医療のデータを当社が1社で引き受けており、47都道府県の広域に及ぶ患者に関する膨大な情報を使ってできるサービスが遠隔治験だ。これは、新薬や副作用の治験などこれまで病院で行っていたものを自宅でできるようにする。我々の役回りとしては、在宅の治験対象者と訪問看護ステーションをアテンドする。そこは今までアナログで行っていたところだが、デジタルで提供できて効率が上がり、順調に伸びている。

ほかにも慢性期医療は、これまでにデータとして存在しなかった。あるとすれば病院の中に眠っている情報で、これが自宅で展開されることで、新たにデータが蓄積されていくので、このデータと、急性期医療の情報を足すことで、本当の医療の情報提供ができる。

急性期医療の情報は短期的なもので、例えば、手術をした瞬間の情報がこれに当たる。慢性期は長期的に回復していくような長時間にわたっての記録の蓄積なので、この2つを足して初めて医療情報になると考えている。そのような強力な情報をこれからデジタルデータとして提供していくことは、今後非常に楽しみな領域と見ている。

もう少し踏み込むと、パーソナル・ヘルス・レコードという領域も、場合によっては行うことができると想定している。これまでデータ化できていなかったことが、やっとデジタル化でき、いろいろな解析が進んでいくのではないか。長期的なデータを持つ点で優位な立場にあり、活用して展開したい。

―今の質問に関連して、終末期の患者を対象とする複数の会社がここ何年かで上場してきた。例えば、パーキンソン病を扱う会社も含めて施設型が多いが、そういった会社が持つデータとの連携や協業の可能性はあるのか
そのパーキンソン病を扱う会社は、当社の顧客であり全面的に当社のシステムを使ってサービスを提供している。どのような形であろうと医療の連携であれば、積極的に進めていけたらよい。

―事務管理代行サービスの提供を含めて、訪問看護ステーションとのつながりが今後ますます強くなると思われるが、訪問看護業界がレッドオーシャンの状況であると聞いているところ、ステーションなど訪問看護業者のM&Aがあり得るのか。そうするとeWeLLがその仲介を行うという事業モデルはあり得るのか
可能性としてはないわけではない。顧客が必要とすることであれば、我々は積極的に検討していくべきだろう。(M&Aが)必要になる前に、訪問看護ステーションの運営の効率化に携わることができればよい。その先にはそのようなこともあるかも知れない。

―自社のM&Aについて
成長戦略上必要であれば視野に入れるが、現時点で具体的な計画はない。

―新事業の方向性は
訪問看護に関わるサービスを提供しており、そこが在宅療養での中心的な役割を担っていると言われている。在宅療養支援診療所やホームドクターなどいろいろな方面とつながっているので、必要であれば視野に入れて検討していきたい。

地域包括ケアの連携を実現するには、絶対に必要なポイントが1つある。それは訪問看護ステーションの情報の共有で、これがないと、在宅医療での連携をしても意味がない。例えば、ドクターと介護の事業者がシステムで情報連携をしたとしても、多分、お互いにその情報は必要がない。ドクターが介護側の情報が必要かというとそうではなく、介護側ではドクターの言語を聞いて理解できるかというと、医療従事者ではないので分からないという齟齬が実際に生じている。

訪問看護は医療保険も介護保険も両方使うので、医師と介護事業者の間に両方に精通する訪問看護士が入ることで、連携がうまくいく。システムの世界も同じで、情報連携の仕組みを作っても、そのなかを行き来する情報がない。そこに訪問看護の情報が入ることで連携がうまくいく。我々はおよそ2000ステーションの情報があるので、シェアを広げながら活用したい。

―マーケットはあくまで国内なのか
日本は世界一の高齢者大国であることと、2055年までは計算上は良くなることがなく、加速度的に少子高齢化が進んでいく社会であり、諸外国からは注目されている。少子高齢化のなかで上手くいっている企業は注目され、実際にそのような形で見に来る人もたくさんいる。海外に向けてのシステムの展開もあり得る。

―あくまで慢性期医療のデータなど今まで手書きで管理していた情報を扱う点で海外でも使えるということか
その通りだ。レセプト請求ではなく。

―株主還元は
上場直後ということもあり、研究開発に資金を投じながら、近い未来に向かってまずやるべきところに投資していく。その上で、利益を鑑みながら株主還元にも寄与していければ、前向きに考えたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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