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上場会見:Fusic<5256>の納富社長、AIとクラウドで宇宙も

3月31日、Fusicが東証グロースと福証Q-Boardに上場した。初値は付かず公開価格の2000円の2.3倍である4600円の買い気配で引けた。クラウドを使ったシステム開発から、AI/IoTを活用したデータ解析までを一気通貫で提供し、企業のDXを支援する。大学や自治体の顧客を多数抱える。納富(のうとみ)貞嘉社長と濱崎陽一郎副社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

理系の大学院で情報系領域を専攻していたことから新技術に取り組む土壌が創業当初からできていると話す納富社長
理系の大学院で情報系領域を専攻していたことから新技術に取り組む土壌が創業当初からできていると話す納富社長

―初値が付かなかった
期待を持ってもらっていることは非常にありがたいと思いつつも、責務が発生する話なので身が引き締まる。期待に沿える形で頑張りたい。こればかりは我々でコントロールできるものではなく市場のみが知るもので、掲げた目標に対して事業を粛々と行っていくのみだ。

―上場の理由は
事業規模を徐々に拡大していくに当たって、ITを柱にしてきた。今後もITを軸にすることは変わらないが、顧客のシステム作りや新規事業を支援するうえで、信用が非常に重要になってきた。新規事業の成否や、システムの根幹を担うものを作る際に、顧客からすると発注先がきちんとした会社か否かは重要なことだ。

上場することで情報を適正に開示していく。それが、信頼に足り得る企業になるための近道ではないか。そうしたプロセスを取ることで、より成長でき、いろいろなクライアントと付き合い、より大規模なシステムを開発できる。信用を得るのが大きな目的だった。

―東証と福証への重複上場の理由は
ガバナンスや予実管理の観点で、まずは東証のレベルに耐えうる上場を目指してきた。地元福岡が創業の地であり、そこで事務所を構えている。地域経済や地元の証券の仕組みに貢献するために重複上場した。そもそも福証のみに上場することは考えていなかった。

―調達先を、福岡・九州に限らず幅広くしたのか
資金に色は着いていないので、特にこだわりはない。

―取引先の所在地を九州と首都圏で区分しているが、重複上場によって首都圏でも業績を伸ばし、それをきっかけとして海外へ展開するのか
海外は、一定割合は取り組みたい。純粋にトライしたいのもあるが、社内のエンジニアの10%ほどは欧州や東南アジア、韓国、様々な国から来ている。彼らの活躍のフィールドを広げたい。福岡という地の利からすると、韓国や中国は非常に近い。

一方、九州・首都圏と区切っているが、その割合はそれほど意識していない。地元である福岡・九州の成長にも貢献したいが、こだわるつもりはないので、この割合で制限するものではない。

―韓国や中国がメインか
地の利という観点では、東南アジアや韓国、中国も含めて市場としていきたい。

―技術力に関して、PoC(Proof of Concept=実証実験)から本開発に移行する割合はどの程度か
濱崎副社長:定量的な割合は手元にないのでイメージだが、我々のプロジェクトは、半分よりも上のパーセンテージで本開発に行く。要因としては、例えば、AIやIoTだけではなく、クラウドコンピューティングや、それを実装するソフトウェアの開発力がある。PoCから実開発に向けた障壁の大部分を、我々の事業のケイパビリティで吸収できるので、他社に比べれば比較的高い。

―どの事業で特に成長するのか
納富社長:言及できないというのが結論だ。IT業界に事業で携わって20年で、大学の頃から関わって25~26年になる。業界の変遷を見ても、5年先や10年先を想像するのは非常に困難だ。

我々が学生の頃に、量子コンピュータは理論的にはできるという話だったが、今になって実用化されている状況からも、この先にどのような技術が出てきてどうなるかは予想できない。

昨今のChatGPTを始めとした様々な動きに関しても、ここ数年で急速に加速してきたと考えているので、どの事業で伸ばしていくのか、長期的には言及できない。ただ、新しい技術に取り組む土壌があり、今後出てくる技術に追い付き、世のなかへの還元を加速させたい。

―ChatGPTはプログラミングの領域にかなり食い込んでいるようだが、事業への影響はあるか
社内でも活用している。プログラミングなどで、「こういうロジックのものを作ってほしい」と頼むと、指定した言語で精度がそれなりに高く、場合によっては100点満点の回答をしてくることもあり、有用なツールだ。

我々の事業が侵食され得るのではという懸念に関しては、プログラマーのうちレベルの低い人たちは淘汰されてしまうのではないか。我々はエンジニアとしてのレベルを上げる。あるいは、AIは設計や概念的なものを捉える能力はまだ乏しいようなので、そういった分野に入っていく必要がある。当社はレベルの高い人を採用しているので、直近で脅威と捉えているわけではない。ただ、うまく活用する必要性を強く感じている。

―AI/IoT事業のIoTのほうで、リアルの世界にセンサーを設置してデータを取得するニーズの現状と今後をどう捉えているのか
自社のIoTエンジニアを支援するツールを持っている。例えば、“いろいろなデバイスが日本中にばら撒かれている状態をクラウド上に疑似的に生成できる”ツールを構築し、5~6年以上提供している。それが1つのきっかけになって、いろいろな企業から問い合わせがある。

リアルデータの需要は、今後より広がってくる。AIでは、データが非常に重要なのは間違いないが、それが増すに連れてIoTデバイスによるデータ収集が重要になる。さらに、九州エリアは製造業が多い。まだできていないが、将来的には開拓したい。

―リモートセンシングに関して、近いうちに宇宙関連の会社も上場してくるが、宇宙に関する情報の利用ニーズと今後はどうか
面白そうだと見ている。ニーズに関しては、まだ取り切れていないのではないか。宇宙ベンチャーが資金を要することもあり、その価値を十全に発揮できる状況か疑問符が付く部分もある。そういう意味では、ニーズはここから掘り起こしていく必要がある。

可能性は非常に大きく、ドローンなどで地上何百メートルの高さから取るデータと宇宙から取るデータは規模などが違う。人工衛星からのデータは、光学画像と合成開口レーダー(SAR)画像の差はあるが、ニーズはどんどん出てくる。

リモセン法(衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律)上の認定を取得したことや、AIとクラウドを得意とすることが強みとなる。宇宙から取得するデータは、1日に何テラバイトにもなり得る。そうするとクラウドで膨大なデータを管理することが有効になる。クラウドは世界中にデータセンターがあり、そこでデータを受信することにもメリットがある。もう1つはAIによる画像の解析であり、両方の技術で力を発揮できるのではないか。

濱崎副社長:IoT事業を手掛けていることから、IoTでフィットしない部分に衛星の技術が適し、逆に衛星で捉え切れないところはIoTが補うといった相互の課題が、少しずつ浮き彫りになっている。そこを補完できるようになれば市場はもっと大きくなる。

―調達資金の用途は
納富社長:人がキーポイントだと常々感じているので、採用に調達資金を注ぎ込みたい。従業員を20%増やし、セールス・マーケティング人材を拡充していく。

―現状の人員数と今後は
今が80人台後半なので、今期が終わる6月末のタイミングで約90人だろう。そこから20%増なので、来期が終わる時には、最低限でも18人は増やしたい。

―調達資金の使途には量子コンピューティングへの投資もあったが、フィックスターズと組み、アニーリング型の量子コンピューティングを選択した理由は
必ずしもそちらのみをやろうというわけではない。アニーリング型が実用化されていて、組み合わせ最適化問題のような分野に関しては、既存のスーパーコンピューターよりも性能が高い。まずは実現できるところに取り組んでいる。

―2024年6月期の目標営業利益成長率が25%だが、成長と投資のバランスを踏まえると中期的にもこのイメージか
基本的には25%成長と想定している。IT業界の変遷の激しさを痛感しているので、例えばどこかの期で、貯めた利益を投資する意思決定はあり得る。それは今後の25%成長を成し得るための一時的なもので、長期トレンドでは25%成長を掲げたい。

―株主還元は
現状で配当はあまり考えておらず、得た利益は成長投資に回したい。株価を上げることで還元できれば良い。

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