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上場会見:ELEMENTS<5246>の久田代表、個人認証とIOP

27日、ELEMENTSが東証グロースに上場した。初値は公開価格の160円を95%上回る312円を付け、392円で引けた。オンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」を提供。顔写真付き確認書類とスマートフォンで撮影した自身の顔をAIが照合する。金融機関の口座開設や回線契約などで利用され、eKYC (electronic Know Your Customer=オンライン上の本人確認)市場でトップシェアを持つ。個人情報を基礎に、その衣食住を最適化するIOP(Internet of Persons)の発想に基づく個人最適化ソリューションも手掛ける。久田康弘代表が東京証券取引所で上場会見を行った。

個人認証や個人の衣食住の最適化に関するデータ分析基盤を提供し、自社でそれらを構築するよりもコストやセキュリティ面で優れると話す久田代表
個人認証や個人の衣食住の最適化に関するデータ分析基盤を提供し、自社でそれらを構築するよりもコストやセキュリティ面で優れると話す久田代表

―初値の受け止めは
スタートということで、ここで全てが決まるわけではないが、しっかりと評価してもらえた。真摯に受け止めて、とにかく株価のためには業績を上げていくことが重要で、業績向上に努めながら、株価を形成しながらファンの人に末永く持ってもらうことを目指している。

―今回の公募価格や調達額は、決して大きなものではないと捉えられているが、その状況で上場に踏み切った背景は
個人情報を預かるため、かなり公共性の高い事業を行っているので、やはり社会的な信用性が事業上も重要になる。IPOをすることで社会的な信用性を高めていくことが事業上最も必要で、今回のIPOを決断した。

―あの価格設定については、投資のために今すぐ調達が必要だというものではなく、そういう背景ではなかったということか
手元の現金の保有の割合などもあり、足元ですぐに調達が必要ということではないが、中長期には成長のためには資金調達も検討しており、社会的な信用性と調達の多様性のためIPOを決めた。

―拡大する市場でトップシェア、今後も伸びが予想される。一方で、ダウンラウンドで(公開価格が)上場前に引き受けた株主の価格をかなり下回っている。IPOに伴う売り出しで全株式を放出する株主もいる。この相場なので規模を縮小して出てくる会社も12月には多く、株主が売り出しではなく上場後に売ろうとして売り出さなかった会社もあった。そうではなかったということで投資家と既存株主の行動にギャップがあるのではないか。ダウンラウンドの背景や要因をどう説明したのか
ダウンラウンド自体は、当社の業績は当初の計画通り達成してきており、マーケットの環境の変化を強く受けた。今回売り出しに応じてもらった株主は、我々がけっこう説得して応じてもらった面が大きくある。今回、IPO上、売り出しをしないと形式基準を満たさないところもあり、流動性の向上のために売り出しに積極的にある程度参加してほしいと我々から伝えて協力してもらった。

―ELEMENTS側からか
当社側からかなり積極的に声を掛けさせてもらった。

―投資家は怒らなかったのか
そこは各投資家の判断で、長期保有する株主も存在し、各社のスタンス次第というところだ。

―東京・渋谷区だったが、LINEで(本人の顔写真と顔写真入りの身分証を撮影して)写真を送り住民票を発行するサービスについて、総務省が認めなかったことから、その(サービスを提供する)会社が提訴し、東京地裁で敗訴したが、その受け止めと、(ELEMENTSの)事業に与える影響は
事業への影響はあまりないと思っている。我々は元来、公的認証をする場合、公的認証の方式で認証サービスを提供していて、地裁の判決は、事業上当然の受け止めという状況だ。あの方式自体が公的認証サービスで、現状適法性があるか否か(定まった)見解が全くないところだった。あのような地裁の判決が出ることも理解できる。

我々の提供しているサービスのeKYCのなかでも2つあり、自撮りを通じた顔認証のサービスも、マイナンバーカードを通じた公的な認証もいずれも提供している。行政サービス向けには、公的認証を提供することを以前から方針で決めている。そこが現行法上認められている方式で、今後先ほどの地裁と高裁の判決で何か変わっていく可能性はあるかもしれないが、現行は公的認証の方式で提供しており、事業に影響を与えることはない。

―マイナンバーカードについて、来年5月にandroidスマホからマイナカードの一部機能が搭載される。デジタル庁の資料では、登録されていればスマホ内の電子認証証明を使った本人確認の場合は金融機関の真贋確認は不要とある。そうするとELEMENTSのサービスに対する需要は減少する懸念があるが、その影響は
プラスに捉えている。認証の方式も複数種類あり、公的認証を活用した認証の提供もしているので、裾野が拡大していくと想定している。マイナンバーカードに搭載されたとしても、公的認証をする場合には、総務省やデジタル庁が公表しているが、みなし事業者やプラットフォーム事業者という形でeKYCベンダーが認証する。認証の需要も拡大していくと思う。

―総売り上げの2割ほどをPaidy向けが占めているが、今後の広がりや取引先の分散のイメージは
足元でも個人認証ソリューションでのPaidyの割合は低くなってきている。相対的に大きなほかの事業者にも広がってきているで、1企業に特段依存している状態ではなくなっている。

―2022年11月期までの業績予想が出ており、赤字が続いている。黒字化のシナリオは
具体的な数字は控えてくれと言われている。しっかりとトップラインを伸ばしていくことで、粗利が出るビジネスだ。赤字の大きな要因が販管費の研究開発部門だが、そういったコストを吸収していくことが黒字化の大まかな道筋となる。

―売り上げがどの程度になると収支が均衡するのか
鶴岡章CFO:そこも一旦控えさせてもらいたい。近日中に来期の見通しなども出るので、そこも含めて今検討している。

―個人最適化ソリューション事業に関して、ビジネスが広まるためのハードウェア上の要件やボトルネックは何か
久田代表:スマートフォンを中心に様々なセンサーを使っており、センサーを大量に使う時に最大の問題になるのが、大量にデータを取得しようとすると、バッテリーの消費がスマートフォン側にも求められる。

昨今、いろいろなバッテリーのテクノロジー革命も起きているが、そういったものが進んでいくと、より広域なデータの取得とアップロードが可能になっていく。バッテリーの部分と、通信網の拡充の2つが個人最適化ソリューションの裾野が広がる市場環境となる外部的要因と見ている。

―IoPについて、個人情報は同意を基礎に取得できるだろうが、法的な考え方は
個人情報保護に照らし合わせて、法令のなかでも、利用目的の明示とその範囲を認識してもらったうえで取得することを基本ポリシーに置いている。日本で最も細かいプライバシーポリシーと評価されることもあるが、かなり詳細に利用目的と範囲を開示し、しっかり同意を得ていく。

―競合は
伝統的なSIer企業が競合になる。金融機関と競合になるケースでも、大手の金融機関を得意としているSIer企業が競合となる。

―世界ではどうか
競合というか競争のプレーヤーはたくさん存在する。我々のような立ち位置でやっている企業は、データを連携してクラウドで預かっていくところで、競合というには規模が大きいが、Snowflakeだ。Snowflakeは業務系のファイルシステムをクラウド基盤で預かって急拡大している。我々は個人情報を切り口に、サイロ化されている企業の個人情報を我々のクラウドベースで預かる。Snowflakeは類似のサービスとチェックしている。

―海外展開の現状と今後は
インドネシアでジョイントベンチャーを1つ作っていて、前期に事業展開がようやく始まった。我々は「人データ」を扱っていて、言語で壁があるものではない。国を選ばずに活用範囲が広がっていっており、積極的に海外展開を進めていきたい。

―M&Aやマイノリティ出資の考えは
上場を機に、戦略のなかでは検討しているが、そこばかりは相手方もある。今は成長する市場で成長しているので、まずは自社内のオーガニックな成長を基本戦略にしながら、良い巡り合わせがあればM&Aも検討している。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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