20日、フューチャーリンクネットワークが東証マザーズに上場した。初値は公開価格(2470円)を74.7%上回る4315円を付け、3615円で引けた。同社は地域に関する情報をプラットフォームである「まいぷれ」で流通させる。また、地方自治体のふるさと納税支援などを行う公共ソリューション事業を手掛ける。8月20日現在、全国149社の運営パートナー企業とフランチャイズに近い形で協業する。石井丈晴社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―初値の受け止めは
株主の期待を感じるため、その期待に応えるべく頑張っていきたい。
―このタイミングで上場した狙いは
官民協働の支援をしたいということが事業の根幹としてある。また、集めた地域情報を流通させたい。
両方とも我々の信用力や信頼性がハードルになって超えられない壁を感じた。例えば、遊休公共不動産の利活用を推進していくが、価値あるインフラを国や自治体から預かって再生するとなると、信用力と体力が必要になると痛感した。また、地域情報の流通のためにデータ放送に携わっているが、もっと大きいインフラに乗せる場合、信用が重要だと考えたため、よりパブリックになってもっと大きな事業を手掛けたいと考えた。
我々の事業のミッションが持続的かつ発展的な地域社会のモデルを作るというものであるため、フューチャーリンク自身が持続可能性を高めていかなければならないと考えた時期でもあった。
―少子高齢化で地方が衰退していくという見方があるが、そのような市場環境のなかで果たす役割は
意義とビジネスチャンスの文脈では、少子高齢化ゆえに地域に張り付いて自治体BPO業務や情報を配信する先がいなくなっていると思う。印刷業者がかなりいなくなったなかで地域の事業者の販促に寄り添う相手がなかなかいない。そんななかで我々が各地域に根付きながらノウハウを共有している運営体制があることは、民間企業が減っている地域で担える役割が出てくる。
だからこそ社会的な意義として我々が地域の付加価値を発掘する必要があるし、価値があると考えている。
―秋田県にまいぷれはないが
県単位でなく市区町村単位で見ているが、秋田県に関しては、今までも話がないことはなく単に条件に合わなかった。早晩、秋田県のなかでも良いパートナーが見つかると思う。
―投資家の間には「ふるさと納税事業」がまだ伸びるという意見と、既にピークアウトしているとの見方があるが、ふるさと納税に関するマーケットの見通しはどうか
ふるさと納税の寄付額に関して総務省が発表する寄付額の数字を見てピークアウトしているのではないかと思われるのであれば、数字の誤読がある。
2019年度に全体の額が落ちているのは、その前年に不適切なふるさと納税として指摘された4自治体が排除されたものによるのであって、その部分が翌年から900億円程度排除された。4自治体以外の寄付額は依然として伸びており、ふるさと納税全体としてピークアウトしたというのは時期尚早と考えている。
ふるさと納税の分野で、競争が激化しているとされるポータルサイト同士のシェアの取り合いがあるが、我々の立ち位置はそこではない。むしろ、楽天やふるさとチョイスなどそれぞれの媒体と提携しながら、我々が発掘した魅力ある情報を配信するため、彼らとはバッティングしない。そのような意味でも我々が担っている領域がピークアウトするというのはポジションの見方に関する説明が伝わっていないのかもしれない。
―ふるさと納税額から一定割合を受け取るビジネスモデルではないのか
自治体によって条件は違うが、ふるさと納税の寄付額の10%前後を成功報酬として受け取る。ポータルサイトの運営会社は掲載料を受け取るが、我々は自治体の職員が本来するべき仕事を担っている部分が大きい。彼らと金額を取り合っているわけではない。
―それぞれの自治体が何かを行う際に出しているのか
例えば、我々が支援している千葉県富津市は楽天にもふるさとチョイスにもぐるなびにも出稿している。我々は、「メロンがおいしいよ」とか富津市の魅力を取材してくる。生産者へはパッケージに関してアドバイスをすることもある。記事をポータルサイトに入稿し、寄付があれば寄付者の管理をする。農家からは、ふるさとチョイス経由でメロンの発送指示を受けるというようなポータルサイト以外の仕事を担当する。
―固定費用プラス成果報酬か
我々はその地域に寄付された額の10%を受け取る。
―地域の魅力を発掘する、返礼品を開発するという文脈で、ふるさと納税に限らず地方の産品を開発するような業務を展開する可能性はあるのか
既に始めているし、ニーズもあるので、今の延長で広がっていくと思う。ふるさと納税も事業の延長で縁があって支援するが、本来の根幹は地域の付加価値情報を発掘・流通して地域を活性化する。それが合致したので数年前から縁があって拡大している。
例えば、カーナビを面白くしたい。カーナビはいつまで経っても電話番号でしか情報を検索できないが、提案型のカーナビがあっても良い。その時には我々が集めている情報であれば、例えば、車を運転しながら、カーナビが打ち立ての蕎麦を出す店を提案してくれても良いかもしれない。そのような世界観を実現していきたい。
生きた付加価値情報をより多く流通させることによって人が動く、街に行く、そこに住む時にも選択肢が広がっていく事業を展開したい。
―マーケティング支援事業以外の2事業に、足下のコロナ禍の影響はあるのか。
公共ソリューション事業について影響はなかった。むしろ巣ごもり需要が追い風になったと見ている。
地域情報流通事業は、昨年の3~4月は確かに例年よりも解約が若干多く、新規申し込みも苦戦し、やや心配な状態になった。ただ、まいぷれへ掲載するサービスには、「今日の定食はこれ」とか「週末にこんなイベントをする」と動的に情報を配信できる機能がある。
この機能を使って「コロナ禍なのでテイクアウトを始めた」とか「営業時間をこのように短縮した」など割引やクーポン配信以外にリアルタイムに情報を配信できるツールが、ありそうでなかった。そのため、見直されて重宝してもらい、昨年1年間を見ても結果は純増だった。中長期的にはポジティブに働いた。マーケティング支援事業はネガティブだった。
―今後の成長に関しては、安定的に伸びるイメージか
公共ソリューション事業に関しては、価値があり継続的な事業をとにかく開拓して役に立てるものを作り込んだソリューションを水平に展開する。加速度的には増えるが、指数関数的に増えることはないはずだ。
地域情報流通事業は、我々が開発したプラットフォームを展開して、パートナーが増えると逓増的に増えやすい。実際に利益率が上がっている部分が多い。顧客数が増えて単価が上がり、パートナーが増えると3重で大きく増やせる部分であり、期待している。それらのミックスで考えている。
―事業継承など新領域には競合が多そうだが
全国にパートナーがいることで、プラットフォームでノウハウを共有しながら各地域に密着して、顔を付き合わせた関係を持ってまいぷれの営業行為をしている。今、多くのデジタルマーケティングツールには直接営業する機能はない。ある程度のリテラシーがある人であれば自らオンラインで申し込んで利用方法に習熟するしかない。
WEBマーケティング運用支援や融資・助成金活用支援のようなニーズを酌み取るような営業をしていない。M&Aを支援する企業はあっても地域の中小事業者の暖簾渡しに寄り添っている人はほぼいないし、リテラシーに課題のある人にWEBマーケティングのノウハウを教示する人もほぼいない。そのなかでは、この規模の事業者に対して寄り添う競合は存在しないのではないか。
中川拓哉取締役:店舗と直接オフラインでの接点がある強みも、オンラインだけでの申し込み体制を取っている企業とは違う位置付けにある。
―小規模の市場に参入する会社はなく、既に面で全て持っているということか
石井社長:我々はインターネット広告の1ジャンルであり、競合はインターネット広告というよりは従来型のプロモーション広告の企業が多い。我々自身、地域の中小事業者のデジタルトランスフォーメーションを行っているという印象を持っている。
ビジネスの意思もチャンスも可能性を持っている人ですら、そこに関与する会社がいないなかで、我々が直接関与することができる価値が大きいと思う。
―資金使途を人件費に充てるというが、どのような人材を採用するのか
エンジニアやプラットフォーム運用者、WEBマーケティングのノウハウを持つ人員も含めて、特定の技術や高度な知識を持つエンジニアというわけではなく、ある程度広範なスキルセットを持つ人材を探している。社員の場合もあるし業務委託で依頼するケースも含めて人件費としている。
―広告宣伝費に関して、具体的にどのような広告を想定するのか
まいぷれのWEBマーケティング運用支援に関して、現段階ではあまり明らかにできないが、とあるソリューションを開発する計画にメドが付いている。試験的にリリースする段階に入っている。その時にリテラシーが不足した人に正確に分かってもらうためには、媒体に広告をばら撒くというより、理解を促す広告ツールに近い「知ってもらうためのツール」に予算を使いたい。
―とあるソリューションとは新規事業として確立するものか
新たな事業というよりは顧客単価を上げるサービス開発の一つで、数千円の追加料金でマーケティング機能を付加するという流れに近いイメージを持ってもらえれば良い。
―具体的にはいつ頃か
秋口にはリリースする。
―株主還元とROEに関する考え方は
中期経営計画までは、株主還元の前に事業への投資に使いたい。中期計画通りにいくと3年後に純資産が5億円になるので、そこで改めて株主還元を検討したい。
ROEは高いに越したことはないが、成長フェーズにあると思っており、特にサブスクリプションモデルの根幹にある先行投資が先に出るものがあると思うし、今回調達した資金に関しても使わせてもらいたい。来期には売り上げは増えていくと考えているが利益率に関しては、中期計画の間は、その向上をしばらく見守ってもらいたい。
―株主にベンチャーキャピタル(VC)がいないのはなぜか
2000年に創業し、リーマンショックの前に上場を目指していた時期にVCに出資してもらっていた。その時には自分の経営力不足から成長叶わずVCから買い戻したことがあった。それがあったからというわけではないが、自分のペースで愚直に実直に事業を行いたいとの思いから、償還期限のあるファンドからの出資を検討の俎上に上げずにここまで来た。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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