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上場会見:JDSC<4418>の加藤社長、AI実装で定量インパクト

20日、JDSC(Japan Data Science Consortium)が東証マザーズに上場した。初値は公開価格(1680円)を0.06%上回る1681円を付け、2081円で引けた。同社は、AIや機械学習などを活用したアルゴリズムモジュールの開発と、ライセンス提供事業などを手掛ける。経営と技術の両面に通じた人材を備え、顧客と共同で事業を開発し(ジョイントR&D)、事業に定量的な実績をもたらしながら、日本の産業共通課題を解決する。加藤聡志社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

加藤社長は、クローズドなデータを用い、SDGs課題とコストコンポーネントをセットにして訴求する事業モデルについて話した
加藤社長は、クローズドなデータを用い、SDGs課題とコストコンポーネントをセットにして訴求する事業モデルについて話した

―コンソーシアムの定義は
共通の目的を持つ企業や自治体を含む組織といったプレーヤーが力を合わせることで、個社では実現することが難しい価値を実現する。それらを目的とした座組だ。

―初値が公開価格をわずかに上回り、ストップ高に上昇する気配で市場が閉まった。反応をどう受け止めるか
作井英陽CFO:公募価格に対して若干ではあるが上で初値が決まり、その後もストップ高ということに関しては、当社の事業内容と、開示している業績予想、エクイティストーリーが評価・理解された結果と思っている。今後、業績をマーケットにしっかり出しながら、企業価値を向上していくことに努めていく。

―PoC(Proof of Concept)ではなくAIの実装が大事という点について、ほかのAIスタートアップはPoCで終わるケースが多いと思うが、実装できる大きな要因は
加藤社長:本質的な質問だと思う。外からは見えにくいが、当社の組織がどのように作られていったか答えになる。三位一体という表現を社内でしており、「三位一体が日本で一番できる企業にまずはなろう」といつも話している。それはデータサイエンティストだけではなく、それをどのような仕組みによって具現化して実装し、安定拡大させていくかを担うデータサイエンスエンジニア(MLOps)のメンバーがいて、かつそのメンバーたちと共通言語で話すことができるビジネスデベロップメントのメンバーがいる。

当社の事業開発のメンバーは、文系就職でプログラミングを触っていないメンバーが入ってきた時に、当社に入って初めて、例えばSQLやPythonといったものに触ることでレベルが上がっていき、ほかのエンジニアやデータサイエンティストと互角とまではいかないが、話が成り立つメンバーがほとんどだ。それに対して多数の投資をしていて、ベンチャーのなかで突出した投資だと思う。そうすると話が成り立つ。私が発注者として大企業にいた時には、そのようなパートナーは非常に稀有だった。

エンジニア側と営業側のメンバーは大体仲が悪い。発注者側としては、なぜ仲良くやってくれないのかと疑問に思うことばかりだった。我々は「何のために実現しようとしているのか」、「どのようなアルゴリズム上の方法論があるのか」、「実装する時にはどんなプランがベストだと思うか」、「データの量とクレンジングが必要だが、それができない場合にはどこで妥協すれば現実的によい解ができるのか」といった課題を持っている。これらは、オペレーションやEBITDAへのインパクトを十分に分かっているメンバーが、アルゴリズムや作り方と同じぐらいの注意を持って、同じように話が成り立たないと作ることができないほど難しい。

実際にできてる企業は、私が発注者側にいた時には非常に少なく、これを高いレベルで実現している。PoCでは終わらなくて、実際にEBITDAやキャッシュフローに対してアルゴリズムが作用するというものを実現できている。

―多次元時系列データを収集するというが、データを集める際の基準は何か
利用可能なデータが整備されているか否かに関係する。我々はプロダクトをたくさん持っていて、それぞれの表現形態が違うので、バラバラなものがたくさん散らかっていると思われるかもしれないが、全てで共通しているのは多次元のデータの予測だ。過去の一定タイミングで発生するデータ、例えばPOSデータであれば毎秒単位で発生している。それを基に将来の自分を予測することが我々の技術領域のなかでの最大のポーションだ。そうしたデータがあるかないかによって、既存の強みが活きる活きないが左右される。

データはあるが、画像や映像しかないという部分は当社の強みではない。利用可能データという意味では、一定の時間軸のなかで将来の自分たちの予測に寄与するような、将来の自分たちにそっくり似ているようなフェーズが来るか否か、株式も毎時間株価が決まっている。そうした同じ時間の中で何らかの数値があるかないかが我々の技術の強みを活かせるか否かに大きく関わる。

―東証マザーズのAI企業の株価が下落傾向にあるように思う。AIの幻滅期に入っているイメージだが、幻滅期に入っているのか。そうだとすればどう打開していくのか
幻滅というワードではなく、正しく価値を出している企業が正しく評価される時期に適正化されたと思っている。今までは単にAIを使って「PoCをやります」と言っただけで株価が反応した時期もあった。それは明らかに適切ではない。どんな技術もその目的に対して役に立つかどうかで評価されるべきであって、今まではそれよりもワードが持っている魔力で市場が動いていた側面は否定できない。これからはチャンスタイムだ。

単にPoCをやっても十分にもてはやされたのでPoCが百花繚乱していたが、これからはそうではなく、適正化しているので実インパクトを出せる、SDGsでの定量インパクトやEBITDAやキャッシュフローといった財務の定量インパクトなど結果を正しく出す企業が正しく評価されるのであって、個別の株価に言及するのは控えるが、適正化されていく。

―4期目で上場した目的や狙いは
最も大きなものは顧客獲得のスピードアップになるということだ。ソリューションを提供する企業はどこも大きな企業で、特に1社目のジョイントR&Dパートナーは、中部電力や国内で誰でも知っている大手製薬会社であったり、ダイキン工業であったり、非常に大きな会社で、たまたまそこで話をしたトップの人が非常に明るかった。

我々のような未公開企業でベンチャーで、実績もない頃から付き合ってもらえるリスクテークは非常にしにくいと営業経験上痛感している。まだ4期目で小さい会社であるが、上場したことで市場からある程度の評価を得ていることを1つの武器に顧客を獲得していきたい。

―創業3期目での黒字化の理由は。この基調は継続するのか
ジョイントR&Dと横展開という2つの収益の源泉があることが理由として大きい。他の企業は、プロダクトをほとんど自社の費用のみで作らなければない。それを共同で開発するので我々は費用を受け取りながら開発できる。キャッシュインが2期進んでいるので、1期しかない企業と比べると収益性は非常に高い。

もう1つはSDGsという目の付け所だ。AI市場を見てはいるが、SDGsによって創出されるICT関連市場はAIの5倍程度あると見ている。SDGsの予算もAIソリューションの予算も取ることができるので、有利なビジネスモデルを作れている。

ずっと黒字は続いていくのかという点は、今のところ当社の業績見通しでいくと今期は黒字と開示している。今後はある程度の利益水準を確保していこうと現段階では考えているが、この領域にはもっと踏み込んで投資をしていくべきだろうというものが見つかれば、それをポジテジブな形で、株主に対して適時適切に開示したうえで、「ここについては踏み込ませてください。その時には赤字になります」とコミュニケーションしていく可能性は、現時点では見ていないものの、将来出会う可能性は十分にある。

―売り上げの立て方について。プロダクトの2社目以降の利用社数が増えると売り上げが立ってくるのか。また、利用者数開示の予定はあるのか
作井CFO:大前提として一般的なライトなSaaSでは1アカウントの単価とID数で売り上げがいくらになるという課金が通常だが、当社のプロダクト・ソリューションは、しっかりとクライアント企業や産業のコストやフィナンシャルの部分にインパクトを出す。課金の仕方も定型的な料金表ではなく、もたらされる定量的なインパクトを基礎に、「JDSCにこの程度のフィーを払っても正当化できる」という形で、クライアント企業が稟議を通している。

社数増が売り上げのドライバーなのかという点に関しては、現状ではやや複雑になっている。顧客ごとに単価がかなり異なるため、単価を開示すると、我々の営業戦略上も難しいことになるので、現状は細かい単価と社数の開示を控えている。

なぜこの3期で急速な売り上げをしているかといえば、社数も増えているし、既存のクライアントも、1期目よりも2期目、2期目よりも3期目のほうが売り上げが増えているので、社数も1社当たりの売り上げも拡大していく。1つひとつが定型的なものではないので、現状では開示していない。

―売り上げの伸び方が年度によって異なるのは利用者数が少ないことが要因か
開示している売り上げは14億7000万円で、前期対比35%成長だ。第2四半期上場ということもあり、取引所と証券会社の審査の人と丁寧に話したうえで開示している。会社のオフィシャルなガイダンスではないが、目論見書にも開示しているように、マネジメントメンバーにストックオプションを付与しており、毎年年間売り上げが前年対比の売り上げが50%成長するとオプションを行使できる。少しテクニカルだがそのように設計している。会社の正式なガイダンスではないが、マネジメントが見ている数字と認識してもらいたい。

―2社目以降に相乗りする企業が増えるモデルだが、広げ方として同業は難しいのか
加藤社長:確かに難易度はあるが不可能という意味での難しいではないというのが回答だ。特に、(ジョイントR&Dの相手方である)会社のトップマネジメントと話すと「そうだよね、下の者はそうは言わないかもしれないけれど、これって産業共通課題だし相乗りしたほうがいいよね」といったことを上の人であればあるほど言ってくれる。メディアの人と話をしていてSDGs課題に対する社会的責任のかつてない高まりを文字通り日々痛感する立場にある人は、「1社でなく複数社で組んだほうが絶対いいよね」と先方から言ってもらえることが多々ある。

例えば、「フレイル対策コンソーシアム」を中部電力と三井住友銀行と作ったが、明確に既存の競争関係を越えて取り組むことが明文化されている。ただ、容易ではない。抵抗はあるが、社会課題として解いていこうという観点で、「この指止まれ」方式で増やしたい。

―SDGsを掲げたことが効いてくるのか
そこは大きい。

―従業員の平均給与が770万円でもっと高いと思っていた。最近はどのような感じか
給与水準をもっと上げていきたいが、1つには、複数の職能、「エンジニアをやっているがもっと上流のビジネスを理解したい」とか「ビジネスばかりやっていたが、エンジニアとつなぐ役ではなく、自分自身がデータサイエンスを武器にしたい、そのために教えてほしい、能力を上げてほしい」というメンバーが入ってくる。それを魅力に感じてもらっている部分もあるので今の給料でビジネスの達成に十分な人員を確保できている。そこは我々の教育という観点での魅力を感じてもらい給料に反映している。

ビジョンに「UPGRADE JAPAN」を掲げているが、社内でどんなアンケートを取ってみても、これに対するエンプロイー・エンゲージメントが非常に高い。ミッションへの共感もあって、今は外資コンサルや外銀に比べて高い給与水準ではないかもしれないが、そうした観点で将来は上がっていくから、「それでも入るぞ」と来てもらっているので、この給与で何とか実現できていると思う。採用については東京大学との関係もあり、SDGsかつAIをやっていることから突出したブランドがあるので、その観点で選んでくれる人が非常に増えている。

―教育について、今まで触れてこなかった分野でのエキスパートになるにはどのようなことをするのか
当社のサイトのリクルーティングというページにかなり詳しく書いている。例えば、「UPGRADE JDSC DAY」がある。2週間のうち1日は、業務に関わりなく自分のレベルを上げるための時間を取っていいというものだ。Googleは20%だが、我々は10日間で1日なので10%取れる。我々のような産業は人件費がほとんどなので、短期のビジネスに全く影響しない投資になっている。ここまで思い切ったことをするのは、良いシグナルになっている。

1ヵ月に1回誰がどのぐらい取っているかを全体で発表するが、忙しくて取れていない人には、来月のタイミングではその人を支えてあげて皆が取れるようにしようと私自身が司会者となって毎月レビューしている。その勉強を支えるうえで勉強会も非常に多い。昨年は記録に残っているだけで五十数回、記録に残っていないもっとマイナーなものやインフォーマルなものはもっと数がある。

あとは大学院に行くことを強くサポートしている。詳しい制度ではないものの、卒論や修論が難しいから週5日勤務を3日勤務にしてほしいということに迅速に対応し、それを支える文化がある。目に見えるものや目に見えないカルチャーや仕組みを良しとするシェアードビジョンといったものが有形無形に関わらずあるので、入社すると非常に速いスピードでデータサイエンティストとして成長でき、またはGCPプロフェッショナルエンジニアの資格を取れてしまうという結果が付いてくる。

―UTEC4号投資事業有限責任組合や未来創生2号ファンド、Deep30投資事業有限責任組合の関与は、資金以外で成長に貢献したのか
UTECとスパークス、Deep30だが、それぞれ単にキャッシュの貢献だけでなく、複数の会社を持っているので、どのようにビジネスを作っていくべきか、AIのトレンドといったことを、かなり客観的で大所高所から我々の見えない情報も含めてアドバイスをもらっており、非常に助かっている。UTECとスパークスは当社に社外取締役を派遣してくれた。UTECからの取締役は上場のタイミングで退任したが、スパークスのほうは引き続き残って、「会社の成長のパターンはこうだ」とガイドしてくれる。我々が見ることができない半歩先を常に照らしてくれるサポートがあった。

―顧問の松尾豊教授はいろいろな会社と関わっているが、そのなかでも発行体に対する力の掛け方の比重はどのようなものか
確かに12月に上場するほかの会社でも名前を見かけるが、当社が特別に大きいかというとそうではないと思うが、先生が「技術のことばかりを突き詰めていてはだめで、それが様々な産業やファンクションを通じて、世の中で実現することが大事だ」と常々話しているので、さまざまなベンチャーに関わっているのは決して不自然なことではないと考えている。

むしろ、先生が関わる時間がどうかというよりも、どのように関わるかが大事で、複数の企業に関わっているので、「このような形でAIを使うととてもよくできる」という知見が豊富であるため、時間は決して突出して多くはないかもしれないが、その内容については非常に深いアドバイスを得ている。

―配当性向の見込みは
作井CFO:当社は4期目で、今期の業績予想も売上高14億7000万円で、市場の成長性に鑑みると、まだまだグロースフェーズだと思う。当面、配当よりは成長のための内部留保を優先させていく。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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