■一行取引のジレンマ
―久米CSOは利息の設定についても問題意識があるとのことだったが
久米CSO:利息の設定の方法は難しい。
小野弁護士:一般的に、ベンチャーであれば利息は高くなるし、LBOも失敗する可能性もあるのである程度高いだろう。それぞれのスキームにもよる。どう評価してどう利息を付けるのかは非常に難しい。
久米CSO:企業価値担保を設定すると、基本的にその1行を優先して使う。この考え方として金融機関がリレーションを強化して、「しっかりやりましょう」ということが前提だと思っている。
これはベンチャー側からすると、1行に頼るので、今の金融機関は行わないと思うが、昔あった“晴れている時は傘を差し出すが雨の時には傘を出さない”という状況になるとベンチャーには逃げ場がない。そうすると小野先生が話したように、借入先が1行しかなければ、利息を高くしてもほかには行けないという話になると怖い。
小野弁護士:2番手の金融機関が「全部やりますよ、利息が減りますから」と言って全部借り換えしてくれたら良いのだが、どれだけの金融機関が参入してくるかによるだろう。
もし地銀がやるとすれば、地場であれば取引のある金融機関はある程度固まっているので、市場の人が外から見ると融資しにくい融資先にもしっかり貸してくれる。ベンチャーがどうかというのは別として、地方の中小企業に対しては、これが使えることでメリットがある。ただ、確かに東京のベンチャーは、上場手前では複数行との取引があるが、最初のうちは1行なので、1回借りてしまうとどうなのかというはあるかもしれない。
久米CSO:1行で切り替えができるかどうか。洗い替えと利息が高いから使いにくいというケース。感覚的に言うと、日本は特に中小に関してはそれほど利息が高くないと思っている。調達金利が低いからでもあるが、信用保証協会や政府系金融機関、地銀も信金もかなり頑張っていて、海外と比べた時に金利は比較的抑えられている。16~17%という高い金利で借りることはそこまで多くないのではないか。
小野弁護士:海外ではベンチャーにもデフォルトを考えて金利を高くして貸し出す金融機関もあるが、日本の場合、ベンチャーに途轍もない金利で出すことは聞いたことがない。
久米CSO:国民生活金融事業や中小事業と言えば、中小事業のほとんどが中小企業ではないか。売上が大体1~2億円から、10億円ぐらいの会社は昔も今も、地銀とある程度良い関係を作って融資を受けているので、金利の競争が1.5%から2%になって金利が高くなって苦労したとしても、1億円を借りていて金利が0.5~1%というのが大きな影響を及ぼす。それが5~10%で500~1000万円というのであれば影響はあると思うが、金利よりも、貸し剥がしが起こらないか、関係性でしっかりサポートしてくれるかという意識が強いのではないか。
赤字企業の場合に評価しにくいのはその通りだが、赤字企業のエクイティファイナンスでは、事業計画で、業績の伸びとその前提条件の確実さについて議論する。今は赤字だが、成長率がどの程度で、反復の顧客の状況から1~2年後の予測をベースに評価する。
■先端分野をどう見積もる
―関係性に基づいた取引には情報開示が欠かせないが、情報を貸し手側に対してどのように出せるのか。コミュニケーションを取るにしても、出せるものとそうでないものがあるだろう
小野弁護士:融資する側としては、融資に必要な情報は基本的にはもらえることを期待している。融資先管理のためにメイン銀行はインサイダー情報ももらってしまうことがある。
久米CSO:例えば、研究開発の内容に関する全部の生データを渡しても評価できない。十全に情報開示をしたところで、あるものを全部渡しても評価できない時にどういうものを渡したらそれで情報開示になるのか。
特に先端技術や創薬ベンチャーでは、技術自体が「海のものとも山のものとも分からないが、一部の専門家は凄く評価しています」という情報を渡したとしても、評価できないことがあるので、その金融機関に分かるような開示ができるのかは非常に難しい。
小野弁護士:金融機関はやはり基本的には財務情報と、資産として不動産だったら「この不動産です」というのはもらうが、その事業、特に製薬などでは情報をもらっても分からないだろう。
久米CSO:核融合などもそうだ。ディープテックと言われている会社は、その技術を評価する人が世の中にいて、そこで初めてエクイティで調達できる。現状では、創薬であればどこかの製薬会社にライセンスした契約は、どうなったらどの程度の収入が入るのか、ある程度ファイナンス寄りの考え方になる。
それを担保として評価できるか、過去に知的財産権評価について話したことがある。そこでも議論になったのは「これは本当に成功するのですか」と言われて「いや、成功すると信じていますけど分からない」という認識のギャップを埋められないことだった。
小野弁護士:ベンチャーキャピタル(VC)では、専門家に見てもらうか、ノウハウを持った人がベンチャーキャピタリストとして在席していてある程度できる。でもそれは100%の評価ではなくて、もしかしたら10倍で儲かるかもしれないし、ゼロになるかもしれないから、その間のリスクを取れるかという話だ。だが、融資と言われた瞬間に日本では、「貸し倒れはないよね」というマイナス評価になるので、それを評価しなければならないのは難しい。
久米CSO:エクイティとデットがあった時に、ディープテックはどちらかというとエクイティでの調達となる。なぜかというと、リスクとリターンのボラティリティが著しく高いからで、そうしたギャップはある。
逆に先端技術でも、キャッシュフローがある程度見込める部分に関しては見ることができるし、もうやっているところもあると思う。今の地銀や金融機関もかなり手を入れているだろうが、やってもらいたいのは、過去からの収益ではなくて、業績の伸びをベースに、将来価値をどう評価するか。それから、将来価値はリレーションから初めてくるところなので、そのために事業の将来をいかに見るかということをどんどんやってもらったら嬉しい。
ディープテックはちょっとまだハードルが高い。これはディープテックをやっていたから思うが、VCなど大きいところと組んで、「このVCが言うのであれば、フォロワーみたいな形で借り入れる時に担保を付ける代わりに、ポーションは小さいから先に回収するよね」みたいな話をしてもらえるなら、意味が出てくる気がする。
取引先とのNDA(秘密保持契約)の関係では、ライセンス交渉で、金融機関に対しても開示してはならないという契約を結んだら、それを開示することはできない。海外でも日本ででも、上場審査の過程でライセンス内容を全部開示して欲しいと言われることが多く、そこのハンドルは難しい。
それと同種のやり取りは金融機関とも発生するため、この点の交渉があることは双方で理解しておく必要はあるのではないか。
小野弁護士:製薬や開発型のベンチャーになかなか出資しないVCが結構あるので、それが融資になると評価がさらに難しくなる。物ができるか分からない世界に行ってしまうと難しい。
■定性要因を加味
―債務者格付けの区分について金融庁が柔軟な判断を求める旨が報じられた。突き詰めていくと、既存の債務者区分とは違う中二階的なものができる可能性があるのか。それとも今までのものの中に押し込めていくのか
片山教授:企業価値担保権はやはり優良担保とは言えず、一般担保として扱われるかどうかなので引当金は必要にはなる可能性は残るであろう。だが、債務者区分を柔軟に運用する必要性がある点は疑いがない。財務数値から債務区分をするのは、この世界では通用しないだろうから、定性判定をする。そのほかの情報に基づいて債務者区分をすべきということになるのではないか。
とりあえず定量判定すると破綻懸念先になってしまうとしても、実際に担保権者が手放さないとか、シンジケートローンを組んでいる金融機関が支援する限りは、その支援期間中に破綻はない前提で考えるべきなので、実質的には要注意先に留まると判定していかないと成り立たない。
久米CSO:それをやらないときつい。私は金融検査マニュアルの時期しか金融実務をしていなかったので、その頃は明確にルールが定められていた。今は世の中が変わって、直近で格付けをどうしているか不案内だが、定量と定性があって財務スコアリングを行っているのではないか。
ストラクチャード・ファイナンスをやっているのはほぼ大手なので、そういうところでは凄く使い勝手は良いと思う。事業性融資のスタートアップや中小企業を支えるという側面と、企業価値担保権が使い易そうな領域にギャップがある気がしている。ストラクチャード・ファイナンスは今後ほかの担保を全部解除して企業価値担保権を導入すると、個人的な印象では、広がっていく可能性があると期待している。
小野弁護士:本来はこの名前のように事業性融資推進で、担保の1つとしてはもちろん凄く良いし、いろいろな面で配慮してくれたので、使い勝手が悪いこともおそらくない。事業性融資として今すぐ何かあるかといえば、日本のいろいろな融資文化からは変革を必要とする部分があって、本当に今使えるかというと、ストラクチャード・ファイナンスであれば、全体を担保するという意味ではとても使い勝手が良いのかもしれない。
■モニタリングとコスト
―融資から担保実行までの平常時に、貸し手と借り手が相互にコミュニケーションを取ることが重視されるが、貸し手にとってオーバーワークになる懸念もある。これまではコミュニケーションが圧倒的に足りなかったのか
小野弁護士:銀行の場合、融資しているので借り手の企業に訪問していると思うが、見ているものが違う気はする。営業担当者によっては、財務諸表をもらって、資金ニーズのヒアリングに終始する御用聞きのようになっているとすれば、そうではなく事業のあり方を、今どうなっているかしっかり見ないとこの担保の意味がないのはその通りだと思う。政府系の機関ではどう見ていたのか。
久米CSO:融資が難しいというよりは、融資をして1回で終わるということは基本的にはなく、運転資金を融資して、ある程度減っていったら「次どうしますか」と動いていくので、定期的に回っているし、ほかの金融機関も一緒だと思う。
そのなかで、融資先から月次で試算表などを受領するので、その数字が予定と違っていたら既存の仕組みでも精査しているだろう。企業価値担保権を利用すると、業績の上下以外の部分に本当に踏み込むのかという論点が出てくるのではないか。
そこまでの計画を一緒に作っていけるかどうか、金融機関のモニタリングでは、事業の進捗を聞いて、数字に反映することは確認できるものの、さらに数字の背景に踏み込んでいかなければならない。全ての無担保や事業性融資に近い形で経営者保証をなくす時には、一般的に事業計画を見て進捗をしっかり確認することがさらに求められると考える。
小野弁護士:金融機関もコスト的な要素をしっかり見なければならなくなると、中小企業やスタートアップ向けでは残高も取れる利息もそれほど多くないのに、ノウハウを豊富に持つ人員を配置しなければならない。そうした人材が潤沢かというと、どこまで見るかによるが、コストパフォーマンス的に見合うのかという感じはある。
久米CSO: 1行がメインバンクになるので、その1行とのみリレーション・バンキングを行うとなると、数千万円規模で分散していた融資残高が、1行にまとまって1~2億円になった時に、モニタリング負担が上がるとすると、金融機関側の負担も考慮する必要性がある。
小野弁護士:少なくとも、担保評価している時にあまり適当なことを書いていると、当局に「評価できていない」と指摘されることになる。
久米CSO:融資で企業価値担保を設定した時に書いてある内容が的確に実行されているのかはしっかり見るので、リレーションは今よりも強化されると思う。
片山教授:金融機関が経営に関与してはいけないとは思うが、モニタリングはしっかりしてサポートしていく。関与とサポートは微妙だが、事業遂行時に、固定資産なり流動資産を処分する権限がどこまで設定者・事業者に認められるかという法的な枠組みでは、企業価値担保権は全面的な管理処分権を全て設定者にも委ね切るわけではない。「通常の事業の範囲」に関してのみ処分権限があり、それを超える処分は担保権者の同意が必要という枠組みになっている。
担保権のあり方としては非常に興味深いところで、集合動産譲渡担保では判例法理で通常の営業の範囲として対応していたが、今回の譲渡担保法においては、全面的な処分権限を借り手である設定者に与え、それに対して、担保権者を害する行為は例外的に無効になる建て付けになっている。
これに対して、企業価値担保権では、通常の事業の範囲でという枠でしか設定者に処分権限が与えられていない。同意権限が担保権者に与えられていることで、実質上、法的には経営に関与し得るので、そこで「さらにリレーションを強化してください」という仕組みになっているのではないかと、法律家の視点からは分析可能ではある。
実際に経営との関係がどうなるのかというと、やはり経営に関与してはならないと思うが、そこがリレーションシップを推進していく枠組みにはなっているのではないか。(3ページ目に続く)
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