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上場会見:アクセルスペースHD<402A>、中・高分解能の融合

13日、アクセルスペースホールディングスが東証グロース市場に上場した。公開価格の375円を100.27%上回る751円の初値を付け、674円で引けた。中村友哉代表と折原大吾CFOらが東証で上場会見を行った。

光学衛星のメリットや成長性について説明する中村代表

―株価が公開価格を上回ったが、その受け止めと、今後の成長への期待に対してどういうことを表明していきたいか
多くの投資家から高い評価を頂き、嬉しく思う。株価に一喜一憂することなく、アクセルスペースの成長性を示して、さらに期待してもらえる事業運営をしたい。

―上場によって、社内体制や企業文化にどのような変化があると期待しているか
既存の社員に対しては、上場企業の社員であることの自覚があると思うが、今後もモチベーションを高めて日々の仕事に取り組んでもらいたい。上場したことで知名度も向上するので、これを活かして世界中から優秀なタレントを採用していきたい。

―黒字化の見込みはいつごろか
折原CFO:いつとは言いづらいが、我々の今後の大きな成長ドライバーの1つに、来年にGRUS-3の7機の打ち上げとそれによる収益貢献がある。これが、今後の成長に大きく寄与してくると考えている。

―東京大学発のベンチャーとして、起業、上場と果たしたが、中須賀真一 教授はセレモニーに参加したか。また、その際に感想や今後への期待などに言及はあったか
中村代表:中須賀教授には、上場セレモニーに参加してもらった。我々は、創業時よりお世話になっており感謝の念を伝えた。教授にも、ご自身のことのように喜んでもらった。我々としては、これをゴールではなくスタートと捉えて、さらに成長していくことで小型衛星の可能性を世の中に示していければと思う。

―投資家の間で、SAR衛星を扱うQPS研究所<5595>やSynspective<290A>と、光学衛星を扱うアクセルスペースHDが比較されることが多かったようだが、光学とSAR衛星は両立して伸びていくのか、それとも競争が激化する見込みか
光学とSAR衛星は、基本的に共存関係にある。それぞれに異なる使い方や強み・弱みがあり、どちらかが優れているという性質のものではない。日本政府の地球観測衛星は光学とSAR衛星を順々に作ってきたし、防衛省の案件でも両方を調達する方針だ。基本的にSAR衛星の事業者とは競合関係にあるわけではなく、どちらも必要とされているので、地球観測のニーズが伸びていけば光学もSAR衛星も双方伸びていくという関係性にある。

―AxelGlobe事業において、民間市場のさらなる改革を強めるということだが、よく知られた活用事例として農業分野以外に期待している市場はあるか
民間の事業では単に画像を販売するのではなくて、ソリューションという形でその画像から何らかのインサイトやインテリジェンスを抽出する。あるいは衛星画像だけではなくて、そのターゲットとする業界の様々なノウハウや異なる種類のデータを組み合わせて、プロダクトを作っていくことが非常に大事だと考えている。

現在は、環境や金融、報道といった業界を最初のターゲットと定めており、業界特有のニーズに対して、どのように衛星データがアプローチできるかを、その業界のプレーヤーと組んで、一緒にプロダクトを作る取り組みをしている。今後、3つの業界だけでなく、様々な業界にも広げ、民間向けのサービスラインナップを拡充していきたい。

―2025年5月期からAxelGlobe事業の売上が落ちているが、GRUS-1Eの故障が関係しているのか。また、今後GRUS-3を7機打ち上げの予定であることを含め売上は戻る見通しか
GRUS-1Eの故障に関しては、その発生を検知し、データを取得することによって何が起きているかをまず把握した。起きている事象に対してどのようにアプローチできるかを検証し、リプログラミングという衛星搭載のソフトウェアを書き換える機能をフル活用することで、新たな姿勢制御アルゴリズムを衛星に導入し、画像をまた撮影できるようになった。現在は運用復帰に向けた最終調整中だ。衛星が故障する可能性はゼロにはできないので、様々なデータを取る仕組み、それからそのソフトウェアを書き換える仕組み、こういったものを駆使しながら、不具合が起きたときにも、可能な限り対処できるような設計を導入している。

折原CFO:2025年5月期の売上は、前期に比べて落ちているが、キャパシティが理由ではない。光学衛星というのはキャパシティが大きく、衛星4機であっても十分に収益貢献ができる。そのため、5機が4機になっても問題ではない。理由は別にあり、当初狙っていた案件が後ろ倒しになったり、規模が小さくなったりといった個別の案件の事象によって売上が2024年5月期と比べて少なくなった。GRUS-1Eは、十分キャパシティが残っており、今後も案件を取っていく。また、GRUS-3の7機の打ち上げによってキャパシティが増えること、性能が上がることも踏まえ、さらなる成長が見込まれる。

―ブラックロックが投資の意向を示していたが、海外の投資家を入れることでの懸念は。また、ロードショーで海外の機関投資家からどういったことを期待されたか
海外の機関投資家が参入することによる大きな変化はないと考えている。ロードショーでは、AxelLiner事業における取り組みがユニークであると受け止められたと思う。また、強みであるAxelGlobe事業の光学衛星の独自性とAxelLinerとの組み合わせによって、シナジーが生み出されることと、我々が17年の歴史のなかで培ってきた部分が評価されたと推察している。

―ユニークというのは、どういった点か
AxelLiner Laboratryという事業がある。衛星をパーテーションで区切り、小部屋のような構造にして、コンポーネントメーカーに入ってもらい、実証サービスを提供する。このような事業はグローバルでも極めて少なく、その点がユニークと評価された。

上場の意義やインオーガニックな成長手法について話す折原CFO

―今回の上場に際しての調達額は満足か。また、非上場の状態で資金調達ができていれば、さらなる成長が見込めていたと思うか
金額に関して満足しているかは難しい話だが、我々が、中期的な成長に必要な資金を確保できたかという観点で言えばおおよそ確保できた。

上場する意義は資金以外にもある。宇宙業界の同業他社が上場していくなかで、例えば、副次的ではあるが知名度が上がることにより、人材採用の場面で効果がある。また、現在、我々が何かを計画しているわけではないが、株自体を対価として、インオーガニックな成長を手法として検討できるようになる。そういった点で上場は意義があると考えている。

―インオーガニックというのは、M&Aか
そうだ。株を対価にしたM&Aなどが、上場することによって、やりやすくなってくる。現在、計画はないが、将来的に手法として使える意味で意義は大きい。

―ブラックロックから事前にアクセルスペースHD にアプローチがあったのか
ブラックロックとは関係はない。ロードショーのプロセスにおいて、興味を持ってもらった。

―販売株式の55%が機関投資家向けであったが、長期で保有する投資家を増やす狙いがあったのか。また、投資家のバランスで意識したことはあったか
投資家の構成は、我々がこうしたいと考えてもそうなる訳ではないが、個人投資家に参入してもらうこと、ロングオンリーの機関投資家に参入してもらうこと、それぞれに意義がある。結果的には非常に良いバランスの構成になった。

―中分解能と高分解能を組み合わせると、どのようなメリットがあるか
中村代表:中分解能衛星は、広域を高頻度にモニタリングでき、高分解能衛星は、限られたエリアを細かく見ることができる。この強みを組み合わせることが大事だ。例えば、中分解能で、日常的に広域をモニタリングし、気になる変化が起きたときに、その部分を高分解能で撮影する使い方が考えられる。それを、Kプログラム(政府案件)で取り組んでいる、光通信機能で衛星間通信を実現する技術と組み合わせ、中分解能で取得した画像を衛星の軌道上で分析し、AIなどによって高分解能衛星で見たほうが良いポイントを抽出する。これを直接、高分解能に撮影命令を送ることが可能になる。これは、中分解能と高分解能のそれぞれの強みを活かした運用となる。また、1社で完結する形で実現できた事業者はこれまでいないため、我々の強みとしていきたい。

―Kプログラムでの実証結果や成果は、ほかの顧客にも展開するか
光通信技術は活用していく。Space Compassが、Kプログラム終了後に光データリレーサービスを商用化していくことを検討している。我々も協力するなかで、衛星メーカーとしての立場に加え、このサービスを活用するユーザーとしての立場も有している。そのため、中分解能と高分解能の衛星を効果的に組み合わせていく運用方法として、光データリレーサービスを活用していくことはあり得る。

―中分解能と高分解能の画像単価はざっくりといくらか
折原CFO:高分解能については、2028年打ち上げ予定のため、まだ決まっていない。中分解能については、様々なファクターがあり、1枚いくらという値付けが難しい。例えば、緊急性や撮影面積などによって変わってくるので一概には言えないが、1平方キロメートルあたり数百円程度の単価となる。ただ、実際の取引では、1平方キロメートル単位での購入は少なく、より広範囲での利用が多い。そのため、撮影範囲や取得方法によって、最終的な単価は変わってくる。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 紫乃]

 

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