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上場会見:オカムラ食品工業<2938>の岡村社長、サーモンを日本品質で海外に

27日、オカムラ食品工業が東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1680円を52.62%上回る2564円を付け、3065円で引けた。青森市で魚卵の加工を祖業として1971年8月に設立。サーモンの養殖や水産品の加工・販売を手掛ける。特にサーモンは、日本国内での大規模養殖による原料供給から、加工・販売までを一貫して行う。東南アジア圏での日本食ブームの拡大を背景に、ミャンマーに自社工場を持ち、シンガポールやマレーシア、台湾、タイなどで販売。岡村恒一社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

水産物原料供給の不安定さと日本国内での水産物の消費の低迷。二つの課題を解決し、水産業を成長産業化したい。上場することで、水産業に少しでも光が当たり、勇気づけられれば幸いだと話す岡村社長。
水産物原料供給の不安定さと日本国内での水産物の消費の低迷。二つの課題を解決し、水産業を成長産業化したい。上場することで、水産業に少しでも光が当たり、勇気づけられれば幸いだと話す岡村社長。

―今日の株価について
最後が3065円だと思うが、株価が非常に上がったので、嬉しいというよりは責任を感じている。期待値が先行している気もするので、その期待値を裏切らないようなしっかりとした経営をして、計画通りあるいは計画以上の実績を達成するよう鋭意努力したい。

―創業した先代からの目標でもあった上場を果たした今の気持ちは
上場ゴールではないということを言いたい。上場は1つのきっかけとなって、ここから拡大し、成長していく。それがなければ上場の意味はない。多少の不安があったものの、意外にファンも多く、株価が上がってきたので、それに対しての安堵感と責任感が両方入り混じっている。今日を経験して、しっかりと責任を果たさなければならないという思いが強くなった。

―最近のIPO企業は、IT系の企業が多く、サーモンを養殖する会社が上場するのはとても珍しいが、その点については
私もIPO市場を詳しく分かっているわけではない。マイペースで進めて、他社との比較をしてきたわけでもないので、よく分からない。ただ、この事業に関して上場時にある程度評価されたのは嬉しい。

―国内では水産業が衰退産業と捉えられている。デンマークでは成長産業とのことだが、なぜ日本では衰退産業になっているのか
過去50年ほどの期間で、海外では養殖業が大体4倍に増えて日本だけが3割程度減っている。これ1つを見ても衰退要因だ。魚が減るということは衰退していくことなので、売る物が少なくなっているのが1つだ。日本は元々養殖大国だったが、食の欧米化によって肉食が進んできたとことも背景にあった。供給面と消費面が伸び悩み、それが衰退する要因だった。

海外はその逆で、供給量が増加し、かつ消費量も増えている。すなわち成長している。成長する領域には優秀な人材が集まってさらに成長していく好循環を見るにつけ、かつての水産大国としてのプライドもあり、資源もあるので、我々は志を持って成長産業化に繋げたい。

―青森県の会社の上場が16年ぶりとのことだが、青森県にとっての上場の意義は。その期待感は何か
企業の内容も、青森県にマッチしたものだ。1次産業寄りで、食料や人々の健康に、食を通じて貢献する事業だ。特に、サーモン養殖事業は、地元の漁業者の人たちにとっても非常に期待の高い事業で、これらが成功していくことが、苦境にあるというか非常に苦しい状況にある水産業の関係者に勇気を与えることになれば良い。また、経済界も、青森県の場合は1次産業中心の土地柄なので、2次産業や3次産業と、青森県から離れて世界で戦っていく企業が育ちにくい土壌ではある。私が期待しているのは、当社のような企業でも、世界に発信できる存在になれることを実現することで、それを見た若い人たちが「自分も続こう」という気になってくれれば、それは青森県経済自体の底上げに繋がる。そのあたりが最も期待されているのではないか。

―苦境にある県内の水産業について。中国の禁輸措置もあるが、前提としてサーモン事業に禁輸措置の影響があるのか。青森県産ホタテの販売への影響に対するアプローチも具体的に聞きたい我々の事業に対する影響は、今のところはないと想定している。元々、中国に対する輸出産品は約800億円だが、そのうちの6割がホタテだ。あるいはナマコやウニ、高級魚が止まったという話を聞いている。サーモンに関しては、元々日本から、生食用のサーモンは極端に言えば1キログラムも輸出されていないレベルだった。

中国でも生食用サーモンをたくさん食べるが、ノルウェーなどからの輸入でほとんどを賄っている。そうすると当社の事業にとっては、今は影響がない。ただ、間接的に想定できることは、中国の人たちが水産物を敬遠し始めるという動きが出た時に、中国での生食用サーモンの消費量が減るイコール需要が減る。供給量がだぶついて、相場の下落要因になるのではないかとの心配はある。調べてみたが、現時点で影響はない。

県内のホタテに関しては、我々は地域に対して貢献をすることも1つの企業目的にしている関係上、何かしらの貢献をしていかなければならない。そもそも我々の卸売事業がシンガポールでスタートした時に、青森県のホタテをかなり売り込んだ実績がある。現在も中国の禁輸問題が出てすぐに、青森県のホタテ業者が台湾に行き、我々の営業と一緒に戦略を練って、どうやって台湾に売るか協議している。一層強化して、青森県のホタテを東南アジアと台湾に拡売していく。それによって少しでも貢献できれば良い。

―養殖事業を青森県内で行う優位性は
津軽海峡が、我々がデンマークで手掛ける養殖場と似ている。デンマークでは、バルト海と北海の中間地点にあるグレートベルトという海峡で養殖している。そこの技術がそのまま生かせる大きな優位性がある。

津軽海峡は潮流も厳しくて、それがゆえによく育つ。これらに鑑みると、適地だと考えている。

―上場した成果として、青森県の資産形成にも繋げていきたいとは具体的にどのようなことか
仕事柄、米国のシアトルに行っていた。シアトルは、優良な上場企業がたくさん出て、地元の人は応援する意味で株を買う。そうすると、Amazonやマイクロソフト、スターバックス(の株)を買った人がゴロゴロいて、その人たちは、いつの間にか大資産家になっている。シアトルは全米でも非常に裕福な街に変わっていった。そこまで大それたことは考えていないが、青森県の人もずいぶん応援してくれる。

応援してくれる人たちには、株を買っている人たちもいるのではないか。そういった人たちの期待を裏切らないように、企業としてしっかり成長していく。それによって資産形成になっていくのではないかという意味だ。

―上場について5年ほど前から検討してきたが、(東京電力)福島第1原子力発電所の事故に伴う処理水の話もあり、この世界的な経済情勢から、上場のタイミングをどう捉えるか
タイミングは偶然だ。必死で努力をして、上場に漕ぎ付けているわけで、我々がコントロールできるものではない。結果としてこのタイミングになったが、その環境を恐れずに我々の道を進むということで今回上場した。

―養殖のプロセスの最初に鮭の卵を北米やカナダから仕入れる部分があるが、完全養殖という言い方は、あくまでも卵から全部育て上げるということか
サーモン養殖自体が完全養殖だ。すなわち卵も養殖した親から作っている。それが北米であろうが日本であろうが、その卵を使って稚魚を作ってまた養殖している。稚魚を海から取ってきて養殖するのとは違う。そういう意味では完全養殖だ。ただ、卵も作っているかというと、これは「完全に自社内で完結している養殖」という意味で、それはまだできていない。

―これから、採卵の領域もカバーしていく可能性はあるのか
それはずいぶん先の話で、まだ1600トンといったレベルなので、何万トンという数字になってくるとやる意味もあるのではないか。国際分業もある程度進んでいるので、今はまだ検討もしていない。

―ノルウェーやチリで環境規制との関係で、養殖に関する制限が発生しているとのことだが、日本に関しても将来的に環境規制などとの関連で、養殖可能なエリアが狭まる、あるいは規制されていく可能性はあるのか
ノルウェーでは環境規制というよりは、サーモン養殖事業の利益が非常に大きいので、それに対して資源税をかけているのがポイントだろう。チリにおいては、適正な規制の下に養殖事業を拡大すべきだが、違法な養殖拡大をしている業者が多数あって、それに対して規制を行っており、養殖事業そのものに対する規制ではないと考えている。日本でも、環境配慮型の養殖から逸脱して、無制限なやり方でそれが拡大をすることは環境に対しての負荷を与え、それが基になって新たな規制が始まる可能性はあるので、そこは十分配慮して進める必要があるだろう。

―大規模に行っているサーモン養殖の生産キャパシティをどの程度まで高めることが可能なのか
生産量はやはり需要に応じて拡大するべきだろう。可能性があれば、需要がさらに増加し、環境配慮型の養殖が可能であれば順次拡大したい。来期の時点では、今のところは3000トン程度まではいけると踏んでいる。

―今回の上場の目的の1つに養殖の設備投資のための資金調達もあったが、これからも設備を拡張していく上での資金調達の基本的な方針について
橋本裕昭CFO:今回の調達資金は、養殖場の建設に充てようと思っている。国内養殖量の拡大が大きな戦略で、今拡大していくうえで中間養殖場のキャパシティがボトルネックになっている。

中間養殖場を建てることで、生産を拡大していきたい。この方向は、今後も続けていく方針なので、中間養殖場と海面養殖場への投資は継続する予定だ。資金については、利益(からの支出)や借り入れ、さらには増資という可能性もある。具体的にどの手段を用いるのかはこれからの話だが、設備投資は継続する。

―投資をする養殖場は、青森県今別町以外の場所について検討しているのか
岡村社長:養殖場の場所だが、現在計画として挙げている中間養殖場としては、今別界隈だ。そこにIPOで得た資金を投入する計画だ。

―現在、青森県深浦町と今別町で展開しているが、(海面養殖について)それ以外に着目している地域は
可能性がある所を探っているが、まだ発表できる段階ではない。

―相場について。今期の予想の前提では大きく営業減益だが、相場の変動リスクを抑える取り組みは
当社は、サーモンを基軸として養殖・加工・販売まで垂直統合型のビジネスモデルを行っている。現状では完全に垂直統合モデルになっているわけではない。他社からの仕入れがまだ多い。仕入れに関しては相場変動の影響を多く受ける。今後、相場変動を抑えるには自社原料を拡大して、それを加工・販売まで繋げる垂直統合型を拡大することによって変動リスクを抑えられる。

―内製化の比率を増やしていくのか
そうだ。

―養殖場に投資をしていく
その通りだ。

―市場の環境について聞きたい。ニッスイも鮭類を養殖し、大手も商社と合弁を組んでいる状況で、意識している国内のプレーヤーはいるか。また、競合と比較して優れたポイントは
国内でのサーモン養殖は3種類ある。1つは、銀鮭の養殖で、歴史的・伝統的に行われている。生産量も1万5000トン程度と少なくない数が養殖されている。もう1つは「御当地サーモン」と呼ばれる。200件程度と聞いているが、日本各地で行われている生食用サーモンの養殖だ。

銀鮭は焼き魚で御当地サーモンは生食用だが、当社の位置付けは生食用であって、銀鮭のような大規模化を進めるのがポイントだ。今は国内でのライバルは見当たらない。競合はないと言い切って良い。競合はむしろ海外勢になる。今もそうだがノルウェーやチリといった国々からの競合品がライバルになる。

我々の優位点は、都市部の大消費地に近いことだ。例えば、ノルウェーから東京に運んでくるには4~5日、時によっては1週間かかり、キロ当たり運賃も1000円程度と聞いている。当社の場合は水揚げした翌日には首都圏に届いていて、なおかつその運賃も大体30円で運べる。国内販売ではこの辺が大きな優位性になる。ただ、海外の販売では、もろに競争になる。大きく成長するには、日本国内のマーケットだけでなく、海外での大きな展開を図らなければならない。そのためには養殖コストをいかに下げるかが肝になる。

―成長エンジンである海外卸売事業の具体的な成長戦略を聞きたい
今やっていることの拡大だ。シンガポールで始めた事業だが、シンガポールは先進国だ。東南アジアでは、先進国といえども、例えば、物流では、なかなか時間を守ってくれない。あるいは平気で欠品する、着いた荷物が溶けているといったことが日常的に起こる。

日本から進出する企業にとっては、そういうレベルは耐えられない。我々は通常の日本品質を提供することによって成長できると現地を見て踏んだ。そこでそれを普通に行っただけだ。そこにニッチなマーケットがあり、日本から進出する企業にも非常に喜ばれるし、ローカル企業にとっても「素晴らしい品質とサービスだ」と喜ばれる。

それによって大きく成長してきたので、その成功モデルをいろいろな国に同様に提供することで成長できるだろう。現にマレーシアや台湾、タイで同じような発想と事業スタイルで、徐々に成長している。

―既存マーケットの東南アジアと台湾を軸に深耕するのか。ほかの新興国ではどうか
それはマーケットの状況を見ながら順次検討していくことだが、今の段階では東南アジアを中心にやっているという現実がある。もちろんこれから可能性があればいろいろ国でやってみたい。

―海外の売り上げは、加工事業と卸売事業の2つのセグメントの売り上げが海外売り上げに該当するのか
橋本CFO:海外向け売り上げは、海外卸売事業は基本的には全部海外の売り上げになる。それ以外の3セグメントはほぼ国内で、養殖についてはデンマークの子会社が欧州に売っている部分がある。

それ以外の国内養殖と加工の2事業は海外売り上げもあるが、売り先としては国内が中心だ。

―直近の年で海外売り上げの割合はどの程度か
大体3分の2が国内で、3分の1が海外。2023年6月期では289億円の売り上げのうち、日本向けが185億円で、アジアが74億円、その他はほぼ欧州だ。

―その数字だが、東南アジアなど海外に事業を拡大していくうえで、ある程度先の目線として、例えば、2025年や2030年に、どの程度の海外向けの売り上げ規模にするイメージか
売り上げ全体として今の進行期は、40億円程度の売り上げ増で開示している。この大きな要因は国内養殖の拡大と海外卸売の拡大だ。海外卸売は成長のエンジンとなっている。進行期では、海外売り上げが20億円ほど増えると計画している。海外市場はどんどん大きくなっているので、その伸びをキャッチしていけば、そのような伸びが継続できるのではないか。

―より中長期の目線は
中長期は拡大していくという以上の具体的な数字は、今の段階では内々では検討しているが、特に外に向けて数字を出すには至っていない。

―M&Aの可能性は
岡村社長:否定するものではないので可能性はある。チャンスがあれば検討したい。

―仮にM&Aを検討する場合、何を補完していくのか
これから検討する。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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