株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイト

上場会見:トリプルアイズ<5026>の山田代表、AI画像認証を柔軟に実装

31日、トリプルアイズが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格の880円の2.3倍となる2024円の買い気配で引けた。同社は、基幹・決済システムを開発するシステムインテグレーション(SI)と、独自開発のAI画像認識プラットフォーム「AIZE」で顔認証サービスなどを提供する。2019年12月に行われた囲碁AIの世界大会で、開発に参画したGLOBIS-AQZが準優勝した。今年1月に上場承認を受けたが、市況の悪化に鑑み延期していた。山田雄一郎代表が東京証券取引所で上場会見を行った。

山田代表は、独自開発AIと実装力に基づく導入事例としてヤマダデンキでの顔認証決済サービスなど3事例を紹介した
山田代表は、独自開発AIと実装力に基づく導入事例としてヤマダデンキでの顔認証決済サービスなど3事例を紹介した

―初値が付かなかったが感想は
投資家や市場関係者の皆さんに当社を評価してもらったことを本当に嬉しく思っている。まずは心からそれを伝えたい。ただ、一喜一憂することなくこれからスタートしていきたい。

―上場を延期したことへの評価は
今の時点では良かった。その時々の最適な判断としているわけだが、当時は(ロシア軍による)ウクライナへの侵攻や米国の連邦準備理事会(FRB)の動向など、悪いというよりも分からないという状況だった。そういったなかでいろいろな材料が出て、ある意味先行き不透明なことがあり、今また復活していくという期待のなかで、当社がこのタイミングで市場に出た。ただ、それは今日 1 日だけではなく、これからの判断でもある。

―(2021年3月に逝去した)福原智前代表の「創業者の魂を受け継ぐ」とは、どのような理念を受け継いで広げていきたいのか
テクノロジー・ファーストとあるように、私が(代表に)就任してからもエンジニア成長性第一主義を改めて掲げ、スローガンとしている。エンジニアが220人の約8割という会社なので、エンジニア成長第一主義の会社であることを継承していく。

―米国に比べて日本のAI導入が遅れているとの話だが、どのあたりに理由があり、それに対してどのように社会実装を進めていくのか
PoC(Proof of Concept=概念検証) の壁で、経営側と現場、技術側、いろいろな問題がある。経営側ではDXやAIを進めていかなければならず、現場側はオペレーションの問題があり、技術部門に関してはシステムの観点で原因がある。そういった 3者の意見がまとまらないところに、日米での差があると考えている。

そういったなかで、技術が非常に大事で、しっかり使えるものでなければ顧客からの信頼を得られない。もう1つは技術力だけではなく、顧客に寄り添うシステム的な観点や、現場のオペレーションという観点をしっかり実装する。当社の歴史がシステム開発から始まり、囲碁AIにチャレンジしてきたことから、そのバランス(を取って実装すること)ができ得る。

―競合は
公の場なので個社名は控えるが、顔認証のサービスでは、日本の大手や米中でもこの分野が進んでいるので、そういった企業と競合になる。顔認証では米中のサービスとの比較もあるが、個人情報の観点での国産という安心感は参入障壁になっている。

(国内では)技術力という(点での認識)精度やコスト、柔軟性の総合点で日本の大手と比較されて選ばれる。技術精度は正面画像であれば99.9%以上(の認識率)なので、大きな差がない。柔軟性では、ハードを選ばない、顧客のニーズに合わせて調整していく点で当社のベンチャーらしさが活きている。

―成長戦略について、短期と長期の戦略の間の離隔が大きいと感じるので、何年後ぐらいに何を伸ばし、次はこんなステップでというプランがあれば教えてほしい
まず、この1~3年の短期ではAI、そして画像認識や顔認識、予測の分野を中心に広げていく。そのなかで、いわゆるロボティクスや無人店舗、顔改札やメタバースは、この 3年以内にも大きく動いていくのではないか。程度の問題と考えており、無人店舗は徐々にPoCレベルで始まっているものもある。それがどれだけ広がっていくか、時間軸も含めて表現している。量子コンピューターについては社内外で議論を開始しているが、5年以上の単位になってくるのではないか。メタバースも今、社外で議論はしているが、認知が広がり、こういったことをチャレンジしてみようというスモールスタートで、小さい単位では3年内でプロジェクトが進んでいる。

―そのようなものが事業として芽が出てくる、お金になってきそうなのはいつ頃か
イメージとして3年以降と見ている。AI事業は2014年に研究開発が始まって、3年前に立ち上げたことから、サービスとしてでき上がる。それがお金になるというスパンはそのぐらいと想定している。

―判断過程がブラックボックス化しがちなAIについて、ホワイトボックス化し検証可能なものにしていく取り組みは、AI導入のハードルを下げるのか
導入のハードルを下げることになると見る。予測の分野や医療の世界などで、何か(判断をした)その後にエビデンズが必要になるものがある。AIの活用はでき、何か答えは出てきて使える。しかし、何かあった時の事後的なトレーサビリティという観点で説明可能であるAIは、非常に大きなポテンシャルがある。

―株主にKudan Vision(Kudan<4425>のコーポレートベンチャーキャピタル)がおり、株式の譲渡理由が取引先との関係強化とのことだが、Kudanは画像認識でかなり強いベンチャーと見受けられる。どのような関わり合いがあるのか
彼らは人工知覚ということで、眼をさらに追求していく研究開発型のベンチャーだと思っている。当社は研究開発が囲碁から始まって、それをさらに実装していく。エンジニア人材不足のなかでエンジニアを抱えていることで、棲み分けが少し違う部分がある。そこが連携することで今後さらなるAIの新しい分野を追求できるのではないか。

―実績として現在はいろいろなことが動いているのか
今は開発ベースで、いろいろな議論をしていて、これからというところだ。

―高度人材をいつまでにどの程度増やしたいという人材投資のビジョンはあるのか
定量的な目標は、公の場で伝えるものはないが、この事業の拡大に向けて、SIエンジニアとAIエンジニア、新卒も含めて大きく強化していく。エンジニア人材不足という言葉では語り尽くせないほど、日本が抱えている深刻な問題の1つと理解している。

そういったなかで、私自身非エンジニアではあるが、エンジニアが志向する面白いもの、囲碁のAIや将棋部の活動やロボット大会へのチャレンジなどを大事にすることがエンジニアの地位向上ということも含めて大事だ。創業者の理念であるテクノロジー・ファーストも含めてしっかり継承することがエンジニアと事業の拡大につながっていく。

―海外はどうか。売上高が増える状況になるのか
今年の2月頃に、フィリピンの工場で顔認証による入出勤管理が海外発案件として稼働し(始め)ている。海外案件の展開も非常に大事な要素だが、まずは国内市場だ。顔認証や画像認識のAIの実装が日本で進んでいない状況なので、(海外は)その次の展開と見ている。

―ROEの考え方は
加藤慶CFO:現状、ROEについて具体的な指標を持ってここを目指しているというものがあるわけではない。当社はまずこの事業をちゃんと大きくするという意味で、売上高を大きくし、コンスタントに営業利益を出していくことを会社として大事にしていきたい。

―株主還元の方針は
山田代表:まずは成長に向けて投資していく基本方針を取っている。

―技術力を追いかける意味で超長期的な話になる気がするが、いわゆる強いAIである汎用型AIへの関心はどうか
強いAIに関して、本当にスーパーAIという世界を目指すという気持ちは会社としてやはり持っていたい。その時間軸については、今まさにAIの実装に日本社会全体が苦闘しているなかでは、まだ少し先と考えているが、それでも5年、10年前からすると囲碁で人に勝てると思わなかった時代があったように、あっという間に時代の変化があると想定している。この5年、10年、20年で、強いAIという世界があっという間に来るかもしれないということに備えて研究開発に取り組んでいる。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

関連記事