3月27日、ダイナミックマッププラットフォームが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1200円を27.50%上回る1530円を付け、1601円で引けた。道路の車線や停止線、信号機の位置などを正確に把握する高精度3次元地図データ「HD(High Definition)マップ」を生成・販売する。HDマップは自動運転や先進運転支援システム上で、車両に搭載したカメラやレーダーと組み合わせて自車の位置把握や制御に用いられる。加えて、各種データを自動運転以外の複数の領域で展開している。吉村修一CEOが東京証券取引所で上場会見を行った。

―株価の受け止めについて
初値が公開価格を上回って終値も1601円で引けた。何よりも投資家にしっかり評価された。この状況に甘んじることなくきちんと事業を伸ばして、引き続き株を買って応援してもらえるようにする必要があり、身が引き締まる。
―上場の狙いや調達資金の使途は
大きくは2つを考えている。1つは、事業を拡大し、かつグローバルにやっていこうと考えると、各業界の社会課題をきちんと理解できる人材が必要で、上場したほうが、転職する人も安心して会社に参画してもらえ、認知度も上がる。まずは人材採用を挙げたい。
もう1つは、調達した資金を積極的に成長投資に振り向けたい。せっかく顧客の課題が分かっても、技術的な開発ができ、最終的に提供できるプロダクトでなければならない。
―公募株数が多く、売り出しがあまり多くないようだが、その枠組みにした理由は
仮条件を提示する前までは増資がほとんどで、売り出しはほとんどなかったが、ロードショーの期間を通じて、機関投資家から凄く強い需要を得たので、結果として全体のオファリングサイズを最大限変更して大きくした。
これは一昨年に東証が新たに導入したルールを我々が初めて適用したと認識しており、売り出しの上限を20%まで上げられるルールを使った。結果として、売り出しの金額がかなり大きくなって、公募も売り出しもそこそこのサイズになった。
―売り出しより公募のほうが多いのは
売り出しを増やした後も、引き続き公募のほうがやや多い。今回の上場の目的は人材採用と資金調達で、まずは発行体としての資金調達を優先して、残った分を売り出しに充てる考え方でオファリングを設計した。
―内外の機関投資家から強いニーズがあったとのことだが、どういった点を評価し、何を期待したのか。海外機関投資家に視点の違いがあればそれも聞きたい
全体としてデータ量が豊富である点と、顧客への導入が実際に進んでおり、自動車領域とほかのビジネスでもパイプラインが比較的明確で、今後の成長の確からしさがあるという点が、国内・海外を問わずに評価された。
国内・海外の機関投資家1社ずつにIOI(関心表明)を出してもらえたし、変わらぬ需要があったので、視点の大きな違いはなかったのではないか。
―HDマップについて。現在は月に1回程度の更新を念頭に置いているそうだが、長期的な視点に立つ場合、目指す速報性はどの程度のものか
実際には、変化が起こってからすぐにオンデマンドで変化を更新しており、月に1回必要だという人がいれば、3ヵ月に1回で良いという人もいてまちまちであり、顧客のニーズに応じて最速のタイミングでいつも提供できる状況にある。
―世界最大のデータアセットを保有しているとのことだが、それは車種数で見たときに最大なのか
米国と欧州でも、競合他社比でデータ量として、より具体的にいうと距離数で世界最大級のデータを持っている。もう1つは、実際に量産の車種に載っているデータの搭載実績でも最大と捉えてもらいたい。
―先進国でのデータの新規整備が完了して、新規カバレッジを需要に応じて拡大していくとのことだが、現時点での手応えとういか、期待が高いエリアは
既に特定の自動車会社から、「この国、この地域を高精度3次元化してほしい」という声を受けており、一方で、我々はこれまで新規の整備を積極にしてきた前提で、今後行う場合には、ある程度の高い収益性というか、当社にとってより良い条件で受注する方針であり、今はその契約交渉の真っ最中で、具体的な地域を挙げることはできない。
―オートモーティブ事業について。米国と中国では新興メーカーを中心にHDマップを使わないマップレス自動運転の「レベル2+」がかなり拡大しているが、それらとどう差別化するのか
マップレスの背景にあるようなAIや半導体の進化は、我々としては競合や代替品とは全く考えていない。市場全体をより成長させるための重要なテクノロジーだと見ている。現に我々のデータを活用して、AIに学習・推論させ、賢くして自動運転をより安全かつ効率的に進めようといった会社も見受けられる。自動運転が様々な技術を組み合わせてできているので、我々はHDマップ、データ側でのトッププレーヤーとして補完財であるAIや半導体などマップレスの会社と一緒にやっていくスタンスで考えている。
―出資企業の自動車メーカーは、自動運転の「レベル2+」を採用しており、DMPを使わずライバル企業の製品を使っているところもあるが、理由は
1番大きな理由ば、我々が成長投資をしてきたのが、この5年間だったことだ。米国の会社を買収してから成長投資をし、北米での距離数が120kmまで拡大しているといった圧倒的な差が出てきたのはこの5年間だった。一方で、今DMP以外を使っている各社は、当社が成長投資をする前に採用した。これだけの差がついた後で、各社ともいろいろな判断をしてくるのではないか。
―設立当初は自動運転車にどんどん搭載されるプラットフォームを目指していたのだろう。コロナ禍などで想定したように進まなかった時期もあり、そこから非オートモーティブ事業も始まったようだが、自動運転、特に国内やメーカーはどのように動いていくのか
自動運転のスピードは、途中でEV化が進んだことによって、一部の自動車会社の投資が、自動運転からEVに流れた時はあった。
一方で、EVに対する投資の方向性が決まってきたなかで、改めて各社が自社の車両を販売する際に、差別化としての安全性と自動運転、先進運転支援システムに投資が戻ってきていると昨年から強く感じている。データを様々な使い方で用いたいという引き合いが非常に強い。
加えて、非自動車の領域について、多用途展開、データの多重利用可能性から自動車以外にも使ったほうが良いという考えは、設立当初からあった。それを本格化させたのがこの3~4年で、高精度3次元データを可視化する「Viewer」と、データと測位端末を組み合わせる「Guidance」で、具体的なニーズやアプリケーションが積み上がってきた。成長性が明確な自動車以外の分野に投資を振り向けていくことで、全体のポートフォリオをきちんと構築していきたい。
―将来的に自動車と非自動車のどのぐらいの比率になるか想定しているのか
数字として比率は開示していないが、イメージとして、そこまで大きな差がないぐらいに、非自動車の領域も大きな市場と需要があると見ている。
―どちらかと言えば、これからの成長は北米でという理解か
北米がデータの量として圧倒的なので、牽引してくれるだろう。自動車に関しては、欧州や韓国、中東というほかのエリアでも、極めて特殊性の高いデータを持っているのが我々しかいないので、そこも強く牽引すると見ている。自動車以外では、日本も含めて高い需要があるので、北米に限らない。
―業績目標について。中期または長期での売上あるいは利益はどの程度の水準を想定しているのか
会社としては事業をこうしていきたいという思いはあるが、開示という観点で言うと、具体的な数字はまだ掲げていない。ただ、目指したいのは、グローバルにデジタル社会のインフラになりたいということなので、できるだけ投資家に満足してもらえるような会社の規模になっていきたい。
―今後の成長性に対する機関投資家の関心が高いが、リスクとして最も意識しているものは
これから先の売り上げや利益は、今持っているパイプラインをしっかりと実現していけば形に変えていけると思う。ディープテック型の会社でグローバルにこれだけ展開をすると、短い時間のなかでのズレはどうしてもあると思う。それをいかに抑えながら、市場と連動して速く動くことが最も重要なのではないか。
―単年度黒字になるのはいつぐらいか
開示上、明言していない。一方で、利益に対するこだわりは強く持ってグローバルにメンバーを動かして経営している。すでに持っているパイプラインをきちんと形にしつつ、今ある固定費と利益率を割り返していくと黒字化は計算可能なので、早く実現していきたい。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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