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上場会見:学びエイド<184A>の廣政社長、教育の“半導体”に

学びエイドが28日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の970円を32.16%上回る1282円を付け、1140円で引けた。学習指導要領に準拠し、著作権に配慮した1コマ5分の映像授業(マイクロ講義)を、厳格な基準で選ばれた「鉄人講師」が制作する。また、学習塾向けの「学びエイドマスター」と、中・大規模学習塾向けの「学びエイドマスター for School」に加え、塾での学習状況や成績などを管理するシステムを提供。教育出版業界を中心に「学びエイド for Enterprise」も展開する。廣政愁一社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

経験豊富な講師陣と、学習指導要領に則り教育に特化した高効率の動画制作体制は、大手でも追随することはほぼ不可能ではないかと話す廣政社長

―初日の株価をどう受け止めているか
リアルタイムの株価はあまりよく分からないが、一定の評価を得たのではないか。公募価格より上だったということもあって身が引き締まる。一喜一憂することなく、3年、5年、10年としっかり成長させてこの株価を着実に積み上げていく。売上・利益をともに上げて広く認知をしてもらう。

―映像授業を提供するサービスや会社は非常に多い。学びエイドはタイムパフォーマンス重視の短尺動画に強みがあるだろうが、その良さを伝えて実感してもらうための戦略は
当社は教科書の会社と付き合いが多い。参考書でも老舗の啓林館や三省堂、旺文社、受験研究社などがある。このような会社は派手なものよりは、質実剛健、着実で安全なものを求める。

教科書やそれに準拠するようなものを出版する会社にとっては、わけの分からないベンチャーと組むことへの不安のようなものが凄くある。そういうところに対して、我々が上場することによって、経営的にも担保でき、「内容としてもしっかりやっています」ということをアピールできる。

映像授業の内容もそうだが、出版社や教育は保守的であるので安心感が非常に重要となる。その部分については、上場したのをきっかけにさらに進めていける。当社はライバルの人たちがやっている内容よりは質実剛健なものなので、広げやすいのではないか。

―少子化の影響を受けないようだが、なぜか
人数が多いに越したことはないが、(公教育分野で)GIGAスクール構想によって“個別最適化”が打ち出されている。今までの授業は集団でやっていたので、個別最適化する指導は、ほぼゼロだ。個別最適化の市場は今の子供の数だけ膨らんでいくはず。20年経ったらちょっと厳しいかもしれないが、この10年ほどは、少子化の影響ではなく、個別最適化という市場に関しては大きくなっていく。

もう1点は、小中高の部分だけでなく、社会人領域でも映像授業を必要としている。例えば、宅建や看護師試験でも、同じように映像授業が今後付いてくるはずだ。書籍に映像授業が付いてくるのがスタンダードになると考えると、映像授業やICTの力を使って確認テストをするというのが、子供だけでなく全年齢に対しての市場に広がっていくと見ている。

―今までと違った形の教育が求められ、それを学びエイドが提供していけるとのことだが、今は塾の支援をして、それがメインストリームになっていくと、学びエイドの立ち位置とは、どのように変わる可能性があるのか
まず、我々は“私教育”の分野にある。私教育は良くも悪くも、公教育ができなかったものを拾っていくビジネスモデルとなっている。公教育が今、個別最適化を打ち出したが、到底無理だ。同じ教室に30人もいて、その子たちを個別最適化する、タブレットを与えて一人ひとり全員違ったことをやらせていくことは不可能だ。

学校ではそれができなくなり、塾のほうに求められていく。公教育で駄目だったものはいつも塾に求められていくのが今までの流れなので、我々は学校そのものではなく、そこで取り切れなかった生徒について塾で面倒を見ていく。

塾はコンビニエンスストアの数と同じだけある。コンビニと同じ所に塾があると考えてもらってよいので、コンビニにATMがあるように、塾に学びエイドがあるようになれば通常の生活圏のなかでは困らない。そういう教育を我々が塾を介して提供できるのではないか。

―今後サービスがどんどん知られると、公教育でも映像授業を使えば良いのではという話が出てくる可能性はあるだろうが、どのようなスタンスか
公教育の分野で一生懸命やっているのはリクルート。ベネッセとソフトバンクが合同でやっているClassiが2強だ。学校教育の場合は、この2社でほとんどのシェアを持っている。

だが、私教育には入ってきていない。リクルートは一部入ってきていて、塾に提供しているが、塾に入れない事情がある。リクルートが例えば、塾に卸そうとした時に、「塾でリクルートのスタディサプリが見られます」と言ったところで、塾の生徒や保護者にとっては「学校で見られるので、別に塾に行く必要がない」というふうに逆のモチベーションになる。

学校領域と私教育の両方に行くのはなかなか難しい。我々は基本的に私教育の分野で入っていく。学校にいる生徒も、外で勉強をする生徒も一緒なので、我々は私教育で広げていく。

デジタル教科書の分野はこれから凄く大きくなり、マーケットが非常に大きいので、デジタル教科書を提供しているプラットフォームや教科書会社とは、エンタープライズのほうに関しては一緒に取り組んでいる。

例えば、三省堂や啓林館、旺文社など世のなかにあるいろいろなものの映像授業や裏側にあるシステムなどは、「三省堂の学びエイド」とか「啓林館の学びエイド」、「旺文社の学びエイド」とは書いていないが、内部では動いている。私の夢とすれば、教育業界の中に入る見えない半導体のようなものになることを考えている。

―鉄人講師を始めとした人材の確保は
予備校講師と塾講について少しだけ解説すると、両者は何となく同じように感じるが、予備校講師は予備校の先生だ。どちらかというとスピーチができ、高校生を中心に指導する。例えば、東進ハイスクールや河合塾などで教えているのが、林修先生のような予備校の先生だ。

一方で、塾講師は家庭とつながっていたり、入塾面談をしたり、「今日、部活どうだった?」と声をかけ、もちろん授業を教えたりする。我々は予備校の講師を中心に鉄人講師を持っている。

予備校は、少子化の影響で、大学受験で浪人生が出なくなってしまった。東京で少し出るが、地方ではほぼ出ていない。代々木ゼミナールが2014年に(校舎を)一気に閉めたが、今は河合塾も駿台予備校も東進ハイスクールも浪人生がいなくなって皆苦しんでいる。

浪人生がいないということは、昼間の授業がない。我々の世代は、予備校は浪人生のものだったがいなくなってしまった。予備校の先生が昼間に失業しているなかで、その空いた時間で、我々の映像授業を録ってもらう。協力してもらう講師はかなり多い。

―当面、人材確保のメドは立っているのか
そうだ。

―新規事業の「テツヨビ」や「総合型選抜対策添削道場」について
「テツヨビ」に関しては、中学生の塾はたくさんあるが、高校生になるとない。中3は通塾率が80%を大きく超え、85%ぐらいは塾に行く。ところが、高校1年生になると30%ぐらいまで減る。中3で卒業させないで、高校生まで塾で面倒が見られたら、「塾の経営が楽なのに」と皆思っている。また、「自分が育ててきた生徒をそのまま大学受験まで持っていきたい」とも考えている。

高校の指導では例えば、世界史があり、物理があり、微分・積分があるという時、地方の塾長が教えられるレベルにない。「上智大学の対策を教えてください」と言われても、それを教えられる地方の塾長がいない。そのような専門的な部分の機能は、当社がオンラインで全部提供する。

今までは映像授業を渡すだけだったが、それだけではなく指導も全部オンラインでする。塾の先生は、生徒を集めて、「テツヨビ」を提供すれば、我々が運営するので、特に勉強しなくても塾のなかで高校部を作れる。私は以前に“学校内予備校”を運営していた。学校のなかに予備校を作る「ドラゴン桜」のようなもので、塾のなかにも予備校を作れると考えているので、“塾内予備校”の「テツヨビ」を持ってきている。

もう1つの「添削道場」は、塾で小論文を指導できる人が全然いない。そこは我々がオンラインで指導しようというところで、このニーズが最近ものすごく高まっている。一般受験が3割台で、推薦が6割台で小論文に対するニーズが非常に高い。我々がそのソリューションを提供していく。

―今後、企業向けを伸ばしていく成長戦略があるが、具体的にはどういう内容のコンテンツを充実させていくのか
分かりやすい例では、資格試験系だ。宅建や簿記は入口として入りやすいと見ており、昨夏に共同印刷と資本・業務提携した。共同印刷は出版社の印刷物を印刷しており、資格試験が多い。

資格試験の書籍を印刷するだけではなく、その時に印刷だけでなく、「映像授業も付けませんか」と営業をかけていける。その意味では、今印刷会社で請け負っているような資格試験全般はいけるのではないか。変わったところでは、ウエイトリフティングのやり方や、社内のマニュアルのようなものもある。今まで紙やOJTで伝えていたもの、例えば、「Teamsの使い方をもう10人に説明した」というのであれば、そのようなものを社内での映像授業にしていくというものになっていく。

教える対象が、小中高の部分だけでなく、資格試験や社会人領域、もっと言えば会社のなかで教えるものまで含めて、映像授業やICTそして確認テストのようなものができればと思っている。

―資格試験は、予備校やYouTubeにもたくさんのコンテンツがあるだろうが、差別化は
書籍を中心にしていくことが大事だ。今から20年ぐらい前に、書籍の後ろにCDが付いているというブームがあった。それを見るとCDが付いている物を買う人のほうが多い。ただ、そのCDを開けてじっくり勉強したかと言われると、意外とそのままにしている人が多いのではないか。

映像授業や付属のCDは、必ずしも見ることを前提にしておらず、困った時にだけ見れば良い。辞書を全部最初から見る人はいないように、必要のない映像授業は見なくて良い。ということは、それだけ単価を落として提供しなければならないという意味合いでは、非常にシンプルだが分かりやすい。そういう物を後ろに付けておく。

必ずしも見ることを前提としない映像授業で、これは重要なキーワードになる。ところがYouTubeはその逆だ。なぜならば再生回数が求められる。そうすると従量制課金になるのでエンターテインメント要素を高くしていく。そのためにはたくさんのお金をかけて編集もしなければならず、採算が合わない。レジェンドで力のある出版社の書籍に付加価値としての映像授業が付くことが、これから求められているものではないか。

―ストック収益の可能性について、学習指導要領の改訂なども含めて、今後どのように損益計算書に響いてくるのか
杉浦久恵取締役:ストック収益の部分については、エンタープライズのサービスであれば、4年、10年という改訂があって、そこに基づいて映像授業を作っているので、大きな改訂や中くらいの改訂のいずれにしても、出版社も含めて教育現場は新しい指導要領のものに改訂しなければならない。映像授業の受託の売上やそういったものが、そのタイミングでは大きく出てくる。

―しばらく配当はなさそうだが、将来的な株主還元策は
廣政社長:グロース市場にいる間はグロースさせていかなければならないので、アクセルを踏んでいく。利益に関しては未来へどんどん投資をして株価に反映させていくことが、株主にとっての還元ではないか。ただ、ある程度成長させてきたという段階では、検討しなければならない。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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