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上場会見:SOLIZE<5871>の宮藤社長、現場で回す

7日、SOLIZEが東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1470円を37.41%上回る2020円を付け、2520円で引けた。エンジニアの派遣や請負による設計支援やコンサルティング(デザイン事業)と、3Dプリンターによる試作・最終製品の製作(マニュファクチュアリング事業)を手掛ける。インクスとして1990年に設立し、2009年から2012年の民事再生手続きを経て社名を変更した。宮藤康聡社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

エンジニアリングとマニュファクチュアリングの実践力と現場の暗黙知を組織知にしたコンサルティングの変革力の両方を提供するのは、日本でも唯一だと確信していると話す宮藤社長
エンジニアリングとマニュファクチュアリングの実践力と現場の暗黙知を組織知にしたコンサルティングの変革力の両方を提供するのは、日本でも唯一だと確信していると話す宮藤社長

―初値が公開価格を大きく上回ったが
非常に良いスタートを切ることができた。マーケットに出る以上、持続的な成長と企業価値の向上を果たしていきたい。改めて身の引き締まる思いであり、投資家の期待にしっかり応えていきたい。

―上場の狙いと、この日を迎えた感想を聞きたい
元々はオーナー会社でスタートして、過剰な投資とリーマン・ショックで、経営陣を一新するなか、民事再生で金融機関の人たちを始め、多数のステークホルダーに迷惑をかけた。再出発の時にはパブリックな企業になりたいと考えた。まずそこが1つの目的だった。

民事再生した会社ということで例えば、学生を採用して、本人がいくら良い会社だと思っても、その親族からすると、「民事再生した会社は大丈夫か」となる。一定の社会的信用を回復することを考えた場合、上場は大きな目標になると思った。

3つめは資金調達だ。オーガニックで成長を続けているが、今後、資金を調達するなかでは、これまでの人材や設備の投資に加えて、計画は具体的になっていないがM&Aなども積極的に行っていきたい。

2010年代の後半からずっと上場の準備を続けており、その後コロナ禍もあるなかで、万感の思いでこの日を迎えた。民事再生の時もSOLIZEの可能性を信じて残ってくれた社員と、その後に我々の可能性を信じて社員となった人、さらには、何と言っても民事再生下でも取り引きを続けてくれた顧客のおかげだと思っている。そういったステークホルダーも含めて、社会に対してしっかりと貢献していくことを改めて思っている。

―従業員持株会が筆頭株主である背景と、従業員にとってどういう会社でありたいか
民事再生してパブリックを目指す時にも、その前提として持株会を作って、それ以来上場を迎えるまで300人以上の従業員に入ってもらい、シェアも30%以上になっている。

どこを向いて(経営に当たるか)という時は、投資家も当然あり、一方で、我々は民事再生の時も社員に支えられたということがある。経営陣に常に言っているのは、社員とともに栄えて世の中に貢献していくあり方を社会に示すということだ。

民事再生ということを背負っている会社なので、それを示すことで会社の在りよう、人間の創造性をしっかり発揮してエンジニアとコンサルタントとしてやっていくこと、会社として公益性をしっかり果たしていくことを言っている。

社員にそのことをしっかり伝えて一緒に成長して、会社が成長する、株価が上がることが、社員にとっても、経営に一緒に参画するという意味でも、人的資本経営を標榜する点では非常に大事な機能と思っている。

―信用を高めていきたいとのことだが、今後どのように再出発していきたいか
上場を機に投資家とコミュニケーションを取るなかで目標を達成する、公に発表したものに対して実績を作るという繰り返しが、信頼を得る一番のことだと思うので、しっかりと果たしていきたい。

―今後の製造業DXの見通しと、どのように需要を取り込んでいくのか
今後の戦略としては、ものづくりのDXは、これからAIも含めてどんどん加速していくなかで、デジタル化の可能性というところを黎明期の時代から取り組んで、時代がある意味追いついてきた。

これを機に従来のハードウェアに加えて、2020年以降に投資をして伸ばしているソフトウェアを含めた新規領域も、さらに新たなものを作っていく両軸を持ちながら持続的な成長と企業価値の向上を目指したい。

―デジタルリスク領域について。最近ではIoTの観点からセキュリティを何とかしようという会社が出てきた一方で、 SOLIZEのように“デジタルものづくり”に関わる会社がセキュリティを扱っていく際の優位性は
今我々が入っている顧客は、特に自動車領域はサイバーに対して、自動運転などを進めていくなかで、もしセキュリティが侵されたらというリスクが非常に高い。

そこに対して、これまでの開発現場での信頼があるからこそ、「SOLIZEがそういうところを広げたなら、うちも入ってくれ」ということで入っているのが、強みとしてある。

ただ、当然、自動車産業は安全面でも非常に厳しい。まず自動車産業でしっかりと実績を上げれば、製造業のセキュリティという分野は、今後非常に注目を浴びているので、伸びていくことができる。まずは自動車産業を中心に広げていく。

―マニュファクチュアリング事業について。少量量産を手掛けているが、もう少し大きい規模で積層造形のような技術を使って多くの部品を作る可能性はあるのか
堤皓朗上席執行役員:3Dプリンターは注目を浴びているが、大量に作ろうとするとコストは従来の金型の工法には勝てない。これが向こう5年、10年で勝てるようになるかというと、我々もそうは思っていない。

月産1万個ぐらいのボリュームになってくると、現時点では金型を作ったほうがコストは圧倒的に安くなる。我々が少量量産と呼んでいるのは、数が少ないというだけではなく、カスタマイズ要素を含めて顧客からの細かな要望を受け入れることができると考えている。今の技術の段階では、少量量産に特化せざるを得ないと見ている。

ただ、3Dプリンターに1990年から携わっており、日本における3Dプリンター市場を作ってきた自負もある。もう1つ高い技術力で、次の3Dプリンター市場をしっかりと広げていきたい。

―既に米国やインド、中国に進出しているが、昨今、インドでは獲得競争も激しくなっているが、市場の面での拡大と人材確保について
宮藤社長:米国は日本とマーケットが似ていて、自動車が中心となる。1番はGM(General Motors)で、次はホンダに取り組んでいて、エンジニアサービスが中心となる。米国のマーケットを見ると、新しい技術を取り込み、マーケットで広まっていくスピード感が非常にあると思うので、執行役員を今年から駐在させている。マーケットもしっかり見て、これまで以上に成長のアクセルを踏むことは、米国でまずやっていきたい。

インドについては今、日本の台数を超えてきて500万台ぐらいになって、この先多分1000万台、最終的には2000万台ぐらいになるのではないか。中国が今3000万台弱なので、人口を考えるとインドは今後非常に伸びていく。我々が先行しているのは、プロダクツといってシステムを売るほうだが、今後はネットワークを通じて、“ものづくりエンジニアリング”にサービスが拡大していくなかでは、インドは非常に楽しみなマーケットだ。足がかりとして今、国内でスズキ<7269>と取り引きしているので、そういった関係性をうまく使って、マルチ・スズキ・インディアにもぜひ入り込めたらと考えている。

中国では広州にあるホンダを中心にビジネスをしている。自動車業界を相手にやっていく以上、中国は欠かせない一方で、地政学的なリスクもあるので、それを見極めながらビジネスを展開していきたい。

海外、特にアジア地域は人口が40億人を超え、今後まだまだ伸びていくので、インドだけでなく東南アジアなども魅力的なマーケットだと思うので、機会があればと思っている。

人材については、インドはソフトウェア人材が非常に豊富にいる。そこが魅力的なので、2020年以降、ソフトウェアの領域も拡大するなか、海外人材は、2010年代の後半に、100人の新卒採用のうち30人はアジア系人材を採っていた。インドやミャンマー、台湾、韓国から採っていたが、コロナ禍で一時的にそれができなくなった。

昨年来それを始めて今はインドだけではなくて韓国と台湾に力を入れて採用をしていく。アジアの人材は非常に優秀でソフトウェアに強い人が多いので、しっかりと採っていきたい。

―自動車生産・消費の中心が中国やインドに移っていくなかで、世界で競争する場合、自動車分野のエンジニアリング会社としての強みは
30年来続けてきたなかで、特にハードウェア領域のところはまず1点ある。内外装のところを請け負えるのは、一定の技術力あるいはキャパがない限り、顧客から外に出してもらえないので、そこでの一定のノウハウは非常に大きな強みがある。

加えて、我々はコンサルティング領域を持つ。多くのコンサルティング会社は、どちらかというと、ソリューションを顧客に提案して終わりで、あとは「顧客でやってください」だが、我々は実践する開発のエンジニアがいるので、ソリューションに対して具体的に実行して成果を出すところまでできる。それがほかにないエンジニア会社でもある。

それは海外に行っても同じことだと思うので、実際に提案したソリューションを最終的に現場で回すというエンジニアリングサービスとの両輪を持つところが最大の特徴で、差別化ができる。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]