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上場会見:ABEJA<5574>の岡田CEO、ミッションクリティカルに強い

13日、ABEJAが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格の1550円の2.3倍である3565円の買い気配で引けた。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する「トランスフォーメーション領域」と、Platform上に構築したシステムを汎用的な仕組みやサービスとして提供する「オペレーション領域」を手掛ける。データ生成や収集、加工、分析、AIモデリングまでをカバーするソフトウェア群「ABEJA Platform」を開発・運用する。岡田陽介CEOが東京証券取引所で上場会見を行った。

Human in the Loopの仕組みでは、人とAIが協調してAIの精度を高めるため、PoCが不要で投資期間も短くなると話す岡田CEO
Human in the Loopの仕組みでは、人とAIが協調してAIの精度を高めるため、PoCが不要で投資期間も短くなると話す岡田CEO

―初日の受け止めは
上場企業初日といったところがある。株価については、当社が決めるものではなくてマーケットが決めていくものだと認識している。そのなかで投資家も期待しているので、しっかり進めていきたい。

―上場の目的は
当社は、ミッションクリティカル性(業務遂行に必須であること)の高い領域を担っている背景もあり、非上場よりも上場している会社のほうが信頼性も非常に大きくなる。人材採用の面も同様。上場をずっと目指していたので、タイミングなども含めて進めた結果が現状になっている。

―最後に第三者割当増資をした時に、株式の100分割を考慮すると1株あたり2880円だが、今回は1株当たりの1390円でのローンチだった。ダウンラウンドIPOのようだがどうか
株価に対するコメントはなかなか難しいので差し控えたいが、その時点における投資家の評価だと捉えている。そのうえで我々ができることはあまり変わらず、当社が確実に成長するための経営をしっかりと行っていくこと、そしてこれからも新たに迎える株主・投資家に対して、期待に沿うように成長を実現していくことではないか。そのような形で進めたい。

英一樹CFO:いわゆるダウンラウンドという形に見えるが、企業価値については、当社の状況や事業環境を含めて、上場前の既存株主とは継続的に建設的に話をしていた。結果、皆様から支持を得て今回の価格でのIPOに至っている。円滑に進んでいる。既存株主ももちろんだし、新しく株主になってもらう皆様を含めて、良好な関係を作って継続していきたい。

―トランスフォーメーション領域とオペレーション領域の関係について、ほかのAIベンダーのビジネスモデルでは、DXコンサルの後にそこから出てきた成果をSaaSのプロダクトにして外販するものがある。ABEJAの場合は、オペレーション領域というのは、DXを実現した後のアップセルやクロスセルになるイメージか
岡田CEO:その通りだ。当社としては、顧客で培ったノウハウをそのままSaaS化するということは、あまりよくないと考えている。そのプロセスをDXコンサル的に進めつつ、データを取ってPoC(実証実験)を経て本番適用をするのではなく、まずは本番適用したうえで、そこからプロセスを回すことによってどんどん巻き取る。

それがほかの企業でも同じような展開ができる可能性もあるし、同一企業の他の部署で「ここもできるんじゃないか」と広がっていく部分もある。多くの企業が取るアプローチは、我々としてはかなり違っている。

―水平展開をする際には、あくまでもナレッジを生かすような形式になるのか
どちらかというと、Human in the Loop(人とAIの協調)というかABEJA Platformに搭載している仕組み自体が、非常に汎化された仕組みになっている。SaaSのように、(外部から)入れて何とかするというものではなく、そのもう1レイヤー下の汎化のノウハウを横展開することで、多くの企業でミッションクリティカル性の高い部分へ導入できるイメージだ。

―SIerの話を聞いていると、大企業向けにシステムを開発する時には、かなりカスタマイズを要求されるようだが、AI関連のDXでもよくあるのか
ないかあるかといえば現実としてはけっこうある。それがあるからこそ、当社としてはABEJA Platform(が活きる)と思う。なぜかといえば、SaaSをポンと入れるのは、現実的にカスタマイズがどんどん入ってしまうと、「ほとんどカスタマイジングでSaaSになりませんでした」ということが多くなってくる。米国企業ではSalesforceや、SAPといった企業が日本企業向けにカスタマイジングして導入する事例が非常に多いが、それと同じようなイメージで進めている。

―ミッションクリティカルな領域での強みを踏まえて、日本のほかのAI関連企業と比較しての特色は
三菱ガス化学<4182>の事例でもあるが、下手をすると爆発事故が発生するぐらいのミッションクリティカル性の高い領域で、当社としては人命にも影響するぐらい非常に重要な部分を預かっている。これは、Human in the Loopというアプローチを使っていることによって実現できている仕組みだ。これをABEJA Platformで実装を完了させている点が、ミッションクリティカル領域では他社との大きな競合優位性になる。

―Ethical Approach to AI(EAA)から出てくるアウトプットのプロダクト開発への応用というか実装はどのように行われるのか
EAAについては、当社の倫理委員会といった位置付けになっており、当社が行う案件や、プロダクトにおける状況を説明するなかで、委員から意見をもらい、経営に反映させていくのがベースの流れになっている。基本的にはプロダクトに活かしていく。その委員が話すことを全て取り入れるよりも、経営側で思考したうえで取り組み、プロダクトに反映させ、案件で対応させていく。

―EAAの取り組みというのは、AIがブラックボックス化してしまうとか、説明可能なAIが良いのではないかという話と関係があるのか
説明可能AIといったものが、確かに技術的に出てきているのは我々も認識している。一方で、ディープラーニングという手法については、中身がやはりブラックボックスになりがちだろう。

そういったなかで、ブラックボックスであればブラックボックスなりに、どのように倫理的に最適化していくのか、逆に説明可能なほうが良いものはもちろんある。多面的な方向性から、どういったAIのアプローチをしていくか、当然のごとく、EAAで議論している。ディープラーニングよりも説明可能なAIといったもののほうが、案件上も制度的にも都合が良いのであれば、そちらを採用していくことも含めて、技術的なアプローチに関しても対応している。

―現状、ABEJA Platformでは、AIは第3世代というかディープラーニングがメインなのか
基本的にはディープラーニングがメインではあるが、広範囲な機械学習や、一部、統計解析といった仕組みも入ってはいるので、最先端の技術をキャッチアップしながら徐々に実装している。直近のリリースだが、「ABEJA LLM Series」という大規模言語モデルも導入しており、最先端技術に対応してフォローしていきたい。

―投資家も少し気になっているところだが、SOMPOホールディングス<8630>に対する売上高割合の大きさと、長期的な関係はどうか
英CFO:2022年8月期が39%と7億5000万円という形で占めている。今後についてだが、まず関係性については、今は関係会社だが、そこは維持をする。売り上げについては実額で、昨年の金額プラスアルファと想定している。結果的には全体の売り上げが増えていくので、SOMPOHDの売り上げ比率は下がっていくと見ている。

―GoogleやNVIDIAからの出資を受けている点で、今後両社でどういう関係を築くのか
岡田CEO:まだ株主として残ってもらっていることが前提にあるなかで、NVIDIAについてはGPUを活用した大規模分散の研究開発を開示している。Googleについても、マーケティング的な面や協業を継続して進めていきたい。

―ABEJA Platformへの基礎的な投資は完了したとのことだが、調達資金の使途は
成長戦略の実現ということで4点を想定している。1点目が顧客基盤の拡大と深耕、2番目がプラットフォームの拡充、3番目が人材採用、4つ目がミッションクリティカル領域でのサービス拡大だ。主には、顧客基盤の拡大と深耕、プラットフォーム拡充、人材採用にコストを使って、事業を進めていくとことが重要なポイントになる。

英CFO:調達資金の75%は、顧客基盤の拡大と深耕に、ABEJA Platformプラットフォームについては一巡しているので、全体の15%ぐらいを考えている。

―人材採用戦略はどうか。オンボーディングの話も含めて、どういった形で人を育てたいのか
岡田CEO:人材採用については、マーケットも含めて非常に人材マーケットが高騰していて難しくなっていることは事実だ。当社は2012年からずっと事業を継続しており、ブランディングが非常に効いてきている。足元の状況を見ても採用の実現に関するイメージがついている。

オンボーディングについては、現状でほぼフルリモートが実現できるぐらいのシステマティックな仕組みができている。オンボーディング・プランから定着まで、リモートとリアルも含めて進めていく体制はできている。それを継続することで事業がより成長していくと想定している。

―株主還元の方針は
当社はまだ成長フェーズであるため、当面は内部留保を充実させ、研究開発などを進めていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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