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上場会見:西部技研<6223>の隈社長、ドライな環境を提供

3日、西部技研が東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の2600円を3.35%上回る2687円を付け、2701円で引けた。ハニカム状に加工した部材(積層体)に吸着剤を付けて湿気を吸着させる「デシカント除湿機」の製造と販売、据付・保守などを行う。また、VOC(揮発性有機化合物)濃縮装置を開発してモジュール部品を製造。装置メーカーに販売し、メンテナンスも提供する。リチウムイオン電池や半導体の製造工程での好調な需要が成長を後押しする。隈利實氏が1962年に福岡市で前身の隈研究所を創業した。隈扶三郎社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

50年以上続いたファミリー企業からの脱却とさらなる成長を目指して上場を決断したと話す隈社長
50年以上続いたファミリー企業からの脱却とさらなる成長を目指して上場を決断したと話す隈社長

―初値の受け止めを
日経平均株価が厳しいなか、こういった初値の評価を得たことについては満足というか、一安心だ。投資家の期待に今後も応えていけるように、パブリックカンパニーとして社業に一層専心したい。

―上場の目的は
上場を決断したのは、今まで58年間にわたり事業を続けてきたなかで、5~6年前から、当社の事業がさらに伸びる可能性があると考えていた。例えば、EVシフトが進むことによってバッテリーへの投資がグローバルで盛んになっている。また、それを支えるためのドライな環境が必要になっている。これが当社のデシカント除湿機にマッチした。

そうすると、供給を増やす必要がある。そうなった時に、これまでの事業投資のレベルよりも一、二段拡大した投資が必要なる。今まで通りの資金調達で済ませていくのか、それとも資金調達の多様化を行うのか。いろいろ考えたうえでIPOを実施し、直接市場から資金調達を行う(ことにした)。それによって企業の信用力も上げる。

また、事業の拡大局面で、会社の成長が見込めるため、それを支える人材を全国区で募集し、優秀な人に入ってもらいたい。そういう思いで上場を決意した。

―SDGs銘柄の側面もあり、エンドユーザーが西部技研の製品を使うことで環境負荷低減に繋がることについて
除湿機は湿度を低減させる。吸着した水分は、そのまま外気に排出する。一方で、VOC濃縮装置は、集めたVOCが凝縮されるが、元々有害なものを集めるので非常に有害な物質になる。仮に濃縮装置を使わない場合には、酸化分解させるための装置で燃焼させる。

だが例えば、自動車の塗装ブースからの排気や、半導体製造の際の排気は、高風量かつ低濃度なので、燃焼装置でそのまま処理すると、装置の容量が大きくなり、燃費もかかる。

その前段で我々の濃縮装置を使い、風量を10~20倍程度に濃縮できる。そうすると低濃度であったものの濃度が10~20倍に上がる。VOCは可燃性なので、濃度がある程度上昇すると自燃する。そこまで濃度を上げると投入する燃料が要らなくなる。

濃縮装置を使うことによって最終処理に用いる燃焼装置の容量を下げることができる。加えて、燃料も大幅に削減できる。環境負荷を下げられる製品だ。これらが評価され、低濃度・大風量の排ガスの場合は、濃縮装置を使うケースが多くなっている。

―湿気や有害物質を吸着する心臓部であるローターは使用後にどうなるのか。廃棄するのか
産業廃棄物として処理するケースが多い。

―CO2の濃縮供給装置に関する今後の見通しは
数年前から様々な用途について研究開発を行っており、直近で商品化に力を入れているのは農業用途、特にグリーンハウスやビニールハウスだ。ハウスのなかのCO2濃度を上げることで、例えば、イチゴやトマトといった作物の収量を上げることができる。

農家の人たちが今どうしているかというと、灯油をバーナーで燃やして、その排ガスをハウスに投入してCO2濃度を上げる。

化石燃料を燃焼せずとも、我々のローターを介して大気中のCO2を集めてハウス内に供給する。既に実証試験に入っているが、イチゴでは収量がおよそ2割上がることが分かっている。現在、CO2濃縮装置に「C-SAVE Green」というブランド名を付けて商品化を進めており、来年4月からの販売を目論んでいる。

―市場はどの程度のものか
CO2の供給に灯油バーナーやボンベを使っている市場に対して、我々がもっと環境に優しいものを供給することで、例えば10年後には、10~20億円程度の売り上げになるのではないか。そのような大まかな計画で市場に参入しようと思う。

―成長戦略は
1つはバッテリーで、もう1つは半導体という伸びる市場で我々の持つ得意な技術、しかも他社に対してある程度の技術的優位性があるものに磨きをかけて、市場のシェアを取っていく。拡大市場に対して、我々のプレゼンスをさらに上げていく。そのために必要な投資を行う。

また、当社は元々研究開発型の企業として自社技術にこだわってきた。そこに一層こだわることで、市場でのプレゼンスを上げていきたい。

―中国に対するビジネスの比率が高いことを気にしている投資家もいる。チャイナリスクへの対応は
確かにこの2~3年で、中国での売り上げが非常に伸びたことによって、足元では比率が非常に高い。中国がかなり先んじてバッテリーに投資しており、そのおかげで我々の中国での事業も拡大してきた。

一方で、足元の中国経済がどうなのかについては、若干不透明感があることは間違いない。ただ、EVへのシフトが始まると、まだバッテリーの投資が必要だろう。中国が一旦踊り場になったとしても、中長期で見た場合には投資がまだ続くのではないか。

ほかの地域では例えば、米国や欧州、日本もそうだが、特に米国はバッテリーへの投資、EVへのシフトが非常に進んでおり、IRA(インフレ抑制法)によって米国国内での投資の進捗が早くなっている。元々いろいろな計画があったうえにIRAで加速している。

そこに投資するメーカーとしては、韓国系や日系のバッテリーメーカーのプレゼンスが非常に大きい。米国での投資は大きなチャンスではないか。我々は韓国系や日系のバッテリーメーカーと長い取引実績がある。それを活かして、米国での投資についても、ドライな環境を提供する装置や、ドライな環境そのものを提供するビジネスチャンスが広がってくると見ている。

足元で中国が若干不透明なことについては、例えば、米国や欧州についても、いろいろな投資の物件が進んでいるので、これらの仕事を今後取ることで、中国の不安定さを補って余りあることになるのではないか。

―今期の配当は未定だが
最終的には配当性向30%を1つの目安にしているが、今期はいろいろな設備投資、特に工場の投資を複数行っている。米国での新設の工場や、ポーランドの既存工場の拡張、さらに製品の心臓部であるハニカムローターの工場を新設すべく準備を進めている。

成長投資の段階なので、会社の利益は投資に多く配分し、配当性向については少し抑え気味にしたい。具体的な数字はまだ決めていないが、成長投資が終わった段階で30%に近づけていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]