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上場会見:Ridge-i<5572>の柳原社長、“燃え具合”をAIで

26日、Ridge-iが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格の1750円の2.3倍である4025円の買い気配で引けた。複数のデータを扱う「マルチモーダルAI」の開発・運用を中心に、「AI活用コンサルティング・AI開発サービス」と、そこで蓄積した知見やアルゴリズムを用いるライセンスサービス、「人工衛星データAI解析サービス」を手掛ける。2022年7月期の売上高9億6000万円の92%がコンサル・開発によるもので、ライセンス提供が3%、衛星AI解析が5%となっている。柳原尚史社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

画像や音声など様々なデータに応じたアルゴリズムを柔軟に組み合わせるマルチモーダル技術による実績について説明する柳原社長
画像や音声など様々なデータに応じたアルゴリズムを柔軟に組み合わせるマルチモーダル技術による実績について説明する柳原社長

―初値がまだ付いていない
高く期待されており、プレッシャーを強く受けているというのが正直な感覚だが、気を引き締めて株価に一喜一憂しないで、きちんと成長投資をしていくことが大事と考えている。

―製造・サービス業で、AI活用がさらに期待されているようだが、ごみ処理の事例があるが、ほかに具体的にどんな使い方があり、どこに可能性があるのか
問い合わせが多い種類が1つの解と見るが、製造業を中心として、画像AIと最適化と言われるAIというテーマでの問い合わせが多い。顧客からすると、それがRidge-iが強いセグメントだろう。

最適化の事例では、デザインプロセスや設計を自動化し、限られたリソースを目的に合わせて最適な配置をする。そのような問い合わせが、最近特に増えている。似たようなものでは、人手不足なのでスケジュールや人の配置の最適化がある。物流倉庫では、どこに商品在庫を置くとピックアップの動線が最小化するのかという事例も、同じ最適化の問題となる。1つのキーワードとしては、最適化のトピックでAIに期待するケースが、製造業やサービスに関わるところで多いと感じている。

―工場の物流倉庫でのラインの設計などに使われるのか
あとはサプライチェーンなどの最適化で使われることが多い。

―品質検査のAIは、従来型のAIソリューションとどう違うのか
その事例は、「感性評価AI」が使われているもので、自動車会社や荏原グループに活用されている。例えば、「火の燃え具合の評価」は、かなり定性的な表現になる。「良い燃え具合」を定義することや、ラベル付けすること自体が難しい。

また、物体表面の品質評価は、ツヤ感がある、光沢感があるといったものになってしまう。これは、ディープラーニングでよく学ばせる「光沢感1」、「光沢感2」のような綺麗な境目を付けることができない。普通のAIの学習手法ではなかなか難しいのは、定性的な感覚をAIにしたいというプロジェクトだ。

これに対して、我々は感性評価AIを用意している。守秘性があるためアルゴリズムまでは開示できないが、独自の学習データを生成するためのツールと合わせる。ディープラーニングや普通の機械学習と少し違うアルゴリズムを組み合わせ、熟練作業者の判断を定量化することに成功した。

例えば、金属塗装の評価について、マイスターと言われるベテランの人たちによる評価をうまく定量化できると、そのAIを下請けの工場に導入する。そうすると本社での納品チェックの手前で、現場でも「このクオリティで出してしまったら、どうせ弾かれてしまう」といった判断をできることがある。歩留まりを改善し、下請けや現場、工場での品質向上を自身で主体的に行ってもらうことができる。こういったサイクルの形成が期待されている。

―燃焼状態の評価とは、例えば、工場やボイラーでの利用を指すのか
そうだ。ゴミ焼却炉の事例では、発電効率を考慮する時に、現場の人が燃焼炉を覗いて確認することがある。それをシステム化できるようになった。

―採用実績としては、自動車メーカーや荏原グループがあったが
水質検査、排水の濁り具合や詰まり具合も画像では分かりづらいが、動画で状態を見極めるところで使われている。

―製鉄所での利用は
製鉄関係のプロジェクトも、具体的な顧客の名前は言えないが1つある。

―生成系AIに関する世界の潮流について。一時停止する、あるいは積極的に取り組むなど各地域でいろいろな態度があるが、現状をどう捉えるか
我々が創業した2016年のディープラーニングの期待に比較的近いニーズもあるのではないか。あの時も、「そもそもAIって何なのか」、また、「何か凄そうだけど、それを自社のビジネスにどう合わせればいいのか」、AIが山ほど出ているので、「どのAIがいいのか」と悩むケースが多かった。これがGPTの文脈でも起きているのは、問い合わせや顧客との対話から感じている。

生成系AIの注目が高まっているなかでは、情報の機密性をどの程度担保して自社向けにカスタマイズして開発できるのか、もしくは、OpenAIも含めてどのLLM(Large Language Model)が良いのか見極められるプレーヤーが重要になってくる。

―生成系AIを含む第4世代AIを手掛けるpluszero<5132>のAEI(Artifitial Elastic Intelligence)や、エクサウィザーズ<4259>、JDSC<4418>などでもいろいろなものを作っている。可能性の話だが、他社製の第4世代との接続や協業はあるか
あり得る。第4世代は、定義として曖昧さを持っている。例えば、pluszeroが言う第4世代は、恐らく(言葉の)意味理解の領域に重きを置いている。我々はマルチモーダルAIにかなり注力しており、第4世代のなかでも棲み分けがある。

生成系AIもそうだが、1から作るのが我々のミッションではなく、技術をきちんと使いこなすことが目的になる。そういう意味ではOpenAIもそうだが、他社が作る良いAIエンジンがあれば、積極的に使いこなしていきたい。

―Ridge-iもChatGPTに関する情報検索システムの提供開始を発表したが、ChatGPTがこれだけ流行したことで、ビジネスがやりやすくなった、あるいはこれまでと違った新たな展開ができそうな変化はあるか
AIがかなり注目される凄いきっかけにはなったのではないか。特に、これまでAIは学習しなければ、なかなか使うイメージが湧かないことが課題だった。ChatGPTの凄いところは、学習の手間なしに、皆がAIの凄さを体感できることだ。多くの人がAIの可能性に気付いた点では良いもので、我々への問い合わせでもChatGPTが再注目されていると感じている。

―フロー型の収益からストック型の収益に移行している一方で、受注できるプロジェクト数が人数の制約を受けるとのことだが、今後の方針として、ストック化の蓋然性が高いものに優先的に取り組むのか
成長ドライバーでは、戦略ファームとの提携とも少しつながるが、設計の段階からライセンス収益を見込んだ大型プロジェクトの優先的な確保が重要になる。

その場合、開発フェーズのプロジェクトを単発で受託するよりは、上流工程から戦略を作るほうが、ストック収益につながる大型のプロジェクトを組成しやすい。フロー収益を獲得するタイミングで、あらかじめストック収益が見込まれるプロジェクト設計に注力している。

―中長期的に、AIライセンス提供サービス、解析サービスの比率を増やしていくのか
現時点では売上高のトータル8%となり、増加のペースも年間数%ぐらいと想定している。当面は、AI活用コンサル・開発サービスが主体である体制は変わらないと読んでいる。

―今はマーケットインの形で開発するものが多いが、プロダクトアウトの意味で、興味・関心のある分野の開発に当たっているのが衛星関連と見受けられる。その辺りをもう少し広げると、どのような領域に関心があるのか
マーケットインで1つチャレンジしたこともある。安全安心をテーマに、プロダクトとして出してみたいという活動を行った。実際には、用途や目的に合わせてかなりカスタマイズしないと顧客の満足度に到達できないというフィードバックが社内の経験としてある。

現時点では生成系AIが比較的大きいテーマだが、宇宙・人工衛星の分野では、環境や森林伐採といったテーマで、共通したニーズや問い合わせが寄せられることが多い。これは汎用的なソリューションとして成り立つかもしれない。それ以外は、中途半端に解くよりは、フロー収益の形で、きちんと要望を聞いて作り込むフェーズを設けたプロジェクトを主体に進めたい。

―小規模かつ領域を限定したバーティカルなLLMがいくつか登場している。または開発に着手しようという事例がどんどん出てきているが、そういったものと、マルチモーダルAIの関係はどのようなものか。補完関係にあるのか
補完関係もあると思う。GPT4はマルチモーダル対応を始めているので、被るのかもしれないが、現状、LLMはほとんどテキストデータにしか対応できていない。我々は画像や音声データなどに強みを持っている。LLMを組み込んだソリューションを作るうえで、この辺りと相性が良いのではないか。

創業時にテーマを絞ろうと、これまでは文字系のものにはあえて取り組まなかった。ただ、LLMの凄いものができ始めたので、ようやく自然言語を組み込んだソリューションをすぐに出せる土俵になってきた。どういうものができるか、プロダクト的に出していくのか、個社ニーズを解きにいくのか、ちょうど社内の1番の研究ディスカッションになっている。

―AI系の企業は人材確保に難儀するだろうが、人材確保の方針やオンボーディングについて聞きたい
まさしく人材が1番大事といったところは、AIに限らなくても本当に重要な課題だ。我々がプロジェクトや会社の規模を決める律速として感じているのが、ビジネスと技術をきちんと分かるプレーヤーが回せるプロジェクトの数を規定していることだ。

これまでは中途採用とリファラルを中心としていたが、新卒や第2新卒レベルの人に、私や小松平佳取締役がビジネスをきちんと教えると、1年でそういったことができるプレーヤーに成長する。そのような社内の人事育成の方針が最も成功率が高いという経験を積んできた。今後、イメージとしては、国立大卒業程度の情報学科卒の新卒や第2新卒辺りの人を積極的に採用する。社内での育成機会を重点的に増やし、人材不足をカバーしたい。

―今後の業績目標でマイルストーンとして目指したいものは
トップラインでプラス30%ぐらいに目線を置いた事業計画を立てられればと想定している。ただ、AIの変革が起きているので、成長投資をどのぐらいするのか事業計画を立てているところで、株主との対話などを通じて、タイミングと規模を検討している。

―配当について。当面は先行投資を優先するだろうが、どのぐらいの段階から実施するのか
中井努取締役:まだ規模も小さいので、配当については未定で、もう少し大きくなってからだ。中期経営計画の範囲内では未定の状況で、中計を乗り越えた辺りからは、株主の期待に応えるために、配当も検討していきたい。

―中計は何年までのものか
3年間程度と見ている。

―それは事業計画のことか
現時点では、今期の業績予想しか出していない。プラスアルファで売り上げを30%伸ばしていくと言ったのは、目線としてそのような事業計画を社内で調整しているということだ。

―予定では、新しい事業計画は来年度からか
今年度の決算発表時には出すことになると考えている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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