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上場会見:エコム<6225>の高梨代表、顧客と作る加熱の最適解

3月31日、エコムが名証メインに上場した。初値は公開価格の1680円を2.02%上回る1714円を付け、1672円で引けた。工業炉をオーダーメイドで設計・製造する「産業システム事業」と「保守サービス事業」を手掛ける。炉のIoTメンテナンスサービス「Miterune(ミテルネ)」などDX化も進める。関西電力<9503>やノリタケカンパニーリミテド<5331>と資本業務提携している。高梨智志代表に事業の強みや今後を聞いた。

主力事業である機械のオーダーメイドのほかにも、熱交換機を搭載した省エネバーナーなど自社製品も扱うと話す高梨代表。引き合いは強いようだ。
主力事業である機械のオーダーメイドのほかにも、熱交換機を搭載した省エネバーナーなど自社製品も扱うと話す高梨代表。引き合いは強いようだ。

―上場してしばらく経つが、今はどのような状況か
3月31日に上場し、いろいろなセレモニーや記者会見があり、管理部を始めスタッフが、かなり苦労して上場したので、非常に安堵している。だが、事業に休みはないので、翌週からすぐに上場会社として取り組んできたが、株価を見ると評価はまだ低い。それに対してIRを含めて企業価値を上げていこうとスイッチが完全に切り替わった。1ヵ月前とは全く違う心境で事業を展開している。

―業界のトレンドについて
我々の業界は、工業炉や加熱設備を扱い、エネルギーを非常に使う。熱を加える=エネルギーを使う業界なので、2050年までのカーボンニュートラルという世界的な動きのなかで、社会的な責任が重い。統計では、日本の排出量の13.6%であり、相当な量を排出している業界にいる。そのなかでやらなければいけないのは、CO2を排出しない機械を提供していくことで、それが社会的な責任になっている。具体的には、省エネルギー、加熱時間を短縮する省時間、省スペースがトレンドだ。

―事業の強みについて
カーボンニュートラルを目指して、省エネルギーや省時間を達成するのが業界のトレンドなので、その付加価値をどのように作り、提案していくかが大切になる。「ヒートトライアル」という受注段階で生産プロセスの最適解を顧客と一緒に作り出していく受注活動を行う施設(ヒートスクエア)を持っている。それが当社の強みになっている。

―メンテナンス事業ではどうか
メンテナンス事業が祖業であり、1985年の創業から行っている。既に500を超える顧客があり、1000を超える設備を手掛けている。安定収益のストック型ビジネスを持つのが強みではないか。

―工業炉に関して、ヒートトライアルを行い受注につなげる場合、顧客あるいはエコムにとってのメリットは何か
顧客にとっては、業界のトレンドであるカーボンニュートラルにリーチした最適解を見つけられることが1番だ。もう1つ、ヒートトライアルは顧客の開発の一部に該当する。設備を保有する顧客は少ないため、熱に関する開発行為を代行できることが顧客にとってメリットになっている。

一方、当社にとっては、付加価値のある製品を提供できるメリットがある。通常は、顧客が開発をして仕様書を作り、それを広く配って安いところから買うことが多い。だが、当社は川上の開発段階から関わるので、ほぼ特命で競争なく受注することができる。

もう1点、オーダーメイドの業界では、作り直しの問題がある。据え付けはしたものの、「こうじゃなかった」とか「もっとこうしたい」、「もっと短くできないか」、「もうちょっと温度を調整したい」ということがオーダーメイドの業界では起こるが、当社は熱のプロセス自体を最初に決めるので、作り直し問題というか出戻りが少なくなる。

―他社はヒートトライアルのように、顧客の開発に関わらないのか
自分たちのショールームのようなテストセンターを持っているが、我々はいろいろなテストができ、いろいろな熱源を持っている。顧客にとってはオーダーメイドという側面もあるが、メーカーを選ぶ前に、メーカー色なくトライアルできる。使い勝手良くアプローチしてもらえるのではないか。

―オーダーメイドで炉を作る時に、いろいろな部品を使うとみられるが、相性の問題や、クライアントのニーズで、部品の選択の幅はかなり細かく分かれるのか
細かく分かれる。例えば、熱を放出させずに省エネルギーにしていくためには断熱材などが大切になってくる。その時にいろいろな断熱材を提案できる会社であることや実績があることが必要になる。ガスバーナーや電気ヒーターについても、1種類や2種類ではなく、多くの実績とテストを行っていれば、そうした提案ができる。そのような実績と、機器部品メーカー、サプライヤーとの付き合いなど総合力で提案内容が変わってくる。

―メンテナンス領域の、IoT遠隔監視のサービス「Miterune(ミテルネ)」の競合優位性は
1つは、クラウドサービスになっていることだ。顧客も我々のようなサービスマンも、基本的にはいつでもどこでもデータを見ることができる。また、発売当時は未上場企業だったので、クラウドサーバーの信用力という点で、不安を持つ顧客がいたことから、関西電力との資本業務提携で、大手のクラウドサービスを使うことによって信用力が担保されている。

また、遠隔監視をクラウドサービスで商品化しているメーカーはほかにはないと思う。ただ、自社の製品に対するサービスとして、ネットワークをつないで遠隔で見ることは、技術的には可能であるので、それを遠隔監視と位置付ける会社はある。

―他のメーカーが作った炉に対しても汎用的に設置して使えることや、クラウドであるところが際立って違うのか
そうだ。我々のメンテナンス事業の85%程度は、他社設備のメンテナンスや点検であることが1つの特徴であり、メーカーを選ばずに、監視機器の取り付けができるという展開をする会社はいない。

―工業炉のセグメントとメンテナンスサービスのシナジーは
メンテナンスで創業しており、事業を約38年続けているが、20年ほどは、メンテナンスをすることで信頼を得て、技術力が評価されて機械設備の案件を受注してきた。メンテナンスを行っていると営業でアポイントを取らなくても顧客の工場に入れる。そういう意味で信頼関係や人間関係、技術情報を、当社のなかで蓄積することができた。それをきっかけに、機械設備の引き合いを得て成長してきたことが相乗効果としてある。

今はそれを1つの柱として継続している。加えて、開発代行のヒートトライアルをもう1つの営業の柱に取り組んでいる。機械設備を販売することで、メンテナンスが自ずと付いてくる。両輪で相互にシナジーを持ちながら事業が成長してきている。

―投資家は設備や人材のキャパシティの今後に注目したが、見通しは
ものづくりをオーダーメイドで行い、受注が旺盛になると、人員と製造の組み立て工場が必要になる。

資本業務提携をしているノリタケカンパニーリミテドは、同業で売り上げが150億ぐらいとなっている。我々の保守・産業システム事業では15億~20億円ぐらいで、10倍ぐらいの規模をこなしている会社だ。この会社は100%ファブレスで事業を行っている。売上高40億~50億円から、この10年ぐらいで150億円ぐらいまで急成長した。外注企業のマネジメントで、ものづくりを展開している。我々もそこに魅力を感じている。

成長していくには、自社で全てやるのではなく、ファブレスでのものづくりが必要で、そのノウハウの蓄積を、資本業務提携の1つの要素に位置付けている。取り組みは始まっており、ノリタケの外注先に、当社のメソッドを導入して産業システムの機械を作っていく。数件の実績がある。まだ自社工場で製造できるが、キャパシティがオーバーした場合、ファブレスで売り上げを伸ばしていこうと考えている。

―成長戦略について
ヒートスクエアが成長戦略の1番大きな柱になる。そこで行うヒートトライアルで、加熱テストのバリエーションやテスト環境を充実させることで、顧客に、さらに高付加価値な機械施設を提供できるので、その拡張が本丸になる。

―拡張の余地は大きいのか。炉の温度帯を広げるなど展開の可能性は
加熱テストは、いろいろなやり方がある。大雑把に言えば電気かガスか蒸気かという話になるが、電気のなかにもマイクロ波や赤外線があり、ガスでも電気でも温度帯が違い、いろいろなパラメータがある。

顧客のニーズを捉えて、最適なテスト機を導入していく。また、ヒートスクエアのオープンは2022年の8月で、テストキャパシティを大きめに取ったので、テスト機の拡張とそのためのスペースは十分に用意している。

これもまたアライアンスの話だが、ノリタケと我々の守備範囲には違いがある。ノリタケは昔から陶器、いわゆるセラミック事業から入っている会社なので高温炉に非常に強い。我々は1000度以下の中低温に強い。ファブレス以外の協業もいくつかあり、温度帯や攻めている業界が違う。また、ノリタケもかなり大きなテストセンターを小牧(愛知県)に持っている。お互いのテストセンターの融通をテーマにしている。顧客と話しながら、我々あるいはノリタケのいずれが担うのか、商流はどうするのかなどを随時話しながら、シナジーを出すべく進めている。

―相互送客などでシナジーがどんどん出てくるのか
アライアンスも成長戦略の1つと位置付けているので、深化しながら売り上げ利益の最大化を目指す。

―業績目標は
2023年の7月期で公表している数字が、言えるところではあるが、個人的な思いとしては、早期に売り上げ30億円を成長戦略も実行して早期に達成していきたい。

―名証上場だが、今後の上場市場について
地域柄や我々が関わる自動車業界も含めて、親和性の高い上場市場と考えているので、名証に上場したことは非常に意義のあることだ。一方、取引量や市場での流通を見ると、東証にステップアップしたいという目標がある。東証のレギュレーションが再編によって少し上がっているので、企業規模を大きくしなければ簡単に行けるとは思っていない。早期に30億円を目指してステップアップしていきたい。

―株主還元の考え方は
配当性向20%ぐらいで始めて、継続的に少しずつ上げていきたい。上げたり下げたりではなく、常に少しずつ上げて、株主に安心・満足してもらえるのが良い。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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