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上場会見:南海化学<4040>の菅野社長、PPSと廃硫酸

20日、南海化学が東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1740円を45.57%上回る2533円を付け、3035円で引けた。塩水の電気分解で生成する苛性ソーダを中心に、さらし粉や硫酸、機能化学品、農薬、塩の加工・製造・販売を手掛ける。PPS樹脂の原料供給など既存事業の深耕や、廃硫酸の精製といった環境リサイクル事業を含めた多角化も進める。東レ<3402>や三和油化工業<4125>など複数社との協業を進める。菅野秀夫社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

自動車の軽量化などで用いられるPPS樹脂の原料となる水硫化ソーダの原料を全て持っているのは、国内では南海化学のみと話す菅野社長
自動車の軽量化などで用いられるPPS樹脂の原料となる水硫化ソーダの原料を全て持っているのは、国内では南海化学のみと話す菅野社長

―この時期に上場した狙いは
3つある。1つは、今までいくつかの新しいリサイクル事業に投資してきたが、投資したいものがたくさんある。これは環境や社会のためになる自信がある。にもかかわらず、簡単にお金を出してくれないなかでは、まず信頼を得なければならない。市場から資金を調達したい。財務の健全性を高めたい。2つめはレピュテーションだ。当社内の人材が自分で優秀なレベルにブラッシュアップしていく。もう1つは期待だが、新卒・中途の採用がしやすくなるのではないか。

―上場前の機関投資家とミーティングは、どの程度の数か。グローバルトップ企業と付き合いがあるので海外の反応はどうなのか
室井真澄常務:ロードショーは実働7日間で26社ほどに対応した。いろいろな意見をもらって、市場の視点や期待を肌で感じることができた。環境リサイクルに対する我々の今後の取り組みへの期待も実感しているので、成長の時間軸を早く示すことができるようにしなければならない。

―世界的にも競合がいないのか
菅野社長:米国では埋めたり燃やしたりしている。塩ビの世界でもドイツと米国は燃やしている。日本はリサイクル、もしくはセメント原料にする。距離と土地の広さが背景にあるのかもしれない。日本は、燃やすのではなく、高いエネルギーコストをかけるのではなく、リサイクルしようという流れで、選択肢としてもベターと判断され、そのなかで当社が使われているのではないか。

―PPS樹脂では、東レの増産ニーズに応えていくと思うが、クレハ<4023>やDIC<4631>とは取り引きはないのか
PPS樹脂をターゲットにするのは、今は東レだ。他に売っていけないわけではないが、売り切れていて、これ以上は増産しないと売れない。

―彼らも海外での成長を目指しているだろうが、南海化学から見ると、立地の強みは薄れていく方向か
当社の場合、作った水硫化ソーダというPPS樹脂の原料は、全て自社内で作り、船で輸送する。おそらく競争力がある。今、2社の名前が挙がったが、原料3種類をどこからか買ってくるので、「コスト競争力ではどうか」と常に比較しながら、競争の原理が働いていくと想定している。クレハは、供給力はあると見る。PPSでは、戦うのか味方になるのかは2社で決めてくれれば良い。

―廃硫酸などはリサイクル色があるが、その点で彼らとLCA(ライフサイクルアセスメント)計測などのニーズはあるのか
ニーズはあるが、まだ手を付けてはいない。

―廃硫酸リサイクルに関する三和油化工業との合弁事業について、同社もリサイクル分野に強みがあるが、協業の理由や役割分担は
三和油化工業は後ろにトヨタグループがついているが、同社が手掛けるリサイクルは2つで、1つは混練りという事業で、セメント用だ。もう1つは、溶剤のリサイクルで、塩素系かアロマ系。アロマ系というのは芳香族でBTX(ベンゼンやトルエン、キシレン)といったものを、きれいにして販売しており、硫酸は扱っていない。

彼らが得意でないのは酸とアルカリで、当社は硫酸を含めて酸とアルカリのリサイクルのトップメーカーだ。お互いにダブっていないので組める。4面が海に囲まれて住人がゼロで、環境アセスメントがない青岸工場を(南海化学が)保有しており、合弁を組んだ。

―廃硫酸が熊本からどんどん運ばれてくるとのことだが、TSMCとの関連なのか
まだ契約にはなっていないので何とも言えないのが事実だ。ただ、既に北上(岩手県)と四日市(三重県)からは来ている。

―中長期的な業績成長の全体像を描いているが、何年後に実現するものなのか
室井常務:会社としては3年と言いたいところだが、これは約束できるわけではないので、我々の将来目指すべき像ということで示した。現段階で時間軸を明言できないが、将来像を少しでも早く実現できるように取り組んでいきたい。

―絶対額や割合は
菅野社長:割合は開示した通りで、具体的な案件も公表してあり、タイムテーブルだけはよく分からない部分も若干あるが、そこでのパイが広がる。

―化学品事業で、苛性ソーダ事業からPPS樹脂原料に移行しつつあるのかもしれないが、現在と将来の割合は
正確な数字はないが、分かりやすく言うと、苛性ソーダは今、3万2000トンぐらいを製造している。PPS樹脂の原料はそのうちの3000~4000トンだ。水硫化ソーダをもっと作るのであれば、苛性ソーダの顧客の誰かを切るのかという質問にも聞こえたが、増産する。水素も苛性ソーダも硫黄も必要で全て持っているので、増産する。

―具体的な増産計画は
今はデボトル(デボトルネッキング=工程の改善)で十分対応できる。

―設備投資ではなく増員か
デボトルで人は増えない。一定の量であれば、デボトルで改造する。そのコストはかかるが、もう1基作るわけではない。ただ、日本のユーザーが本当にPPS樹脂用の水硫化ソーダを欲しいとなれば、増設、設備をもう1つ作らないと無理だ。これは2023年度中に検討して結果を出したい。顧客がコミットするかしないかで、当社が決めることではないかもしれない。

―中長期的な業績目標は。今期は売上高が昨年対比で11%増だった。直近までは4%ぐらいだったが、急に伸びているのは、環境リサイクル事業の電池以外の部分によるものなのか
菅野社長:まさにその通りだ。

―それは始まったばかりだが、その点の伸び率は
公表しなければならず、セグメント別も含めて中期経営計画を発表するタイミングが良い。予定ではあるが、3月期の決算で、監査法人の監査が終わって公表し、それとともに中期計画で、何をどこまで伸ばして、その金額は一体いくらなのかと開示するのが最良だろう。期待していてほしい。

―PBRが1倍を切っているが、今後の方向性は
室井常務:上場企業として、PBR1倍割れに対する改善策を施さなければならないことは責任と考えており、簡単なテーマではない。とにかく株価を上げて時価総額を引き上げていくことは、我々が取り組むことであると認識している。そうしながら状況を少しでも改善していく、今日はその初日だと思っている。

―将来的にプライムを目指すのか、課題は
上場基準があるので、現在の我々からするとハードルが高いと言わざるを得ない。少しでもそれに近づける会社にしていくのは、今後、成長分野をどの程度早く収益化できるか、そういったところも当然あろうかと思う。現段階で何年後に目指せるか何とも測りようがない。少しでもそういう企業になれるよう努力していきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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