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上場会見:楽天銀行<5838>の永井社長、エコシステムで新規にリーチ

21日、楽天銀行が東証プライムに上場した。初値は公開価格の1400円を32.57%上回る1856円を付け、1930円で引けた。楽天グループ100%出資のインターネット銀行。楽天エコシステムを基盤として、個人・法人向けに銀行サービスと付随する金融サービスを提供する。2022年12月末時点で1338万口座を持ち、預金残高は8兆8000億円。永井啓之社長が東京都内で上場会見を行った。

現状の自己資本比率11.7%を健全な水準としたうえで、投資家が満足するROEと預金者が安心できる自己資本比率の両立を基本戦略とすると話す永井社長
現状の自己資本比率11.7%を健全な水準としたうえで、投資家が満足するROEと預金者が安心できる自己資本比率の両立を基本戦略とすると話す永井社長

―上場の意義と今後目指したいことは
企業価値の向上を加速させる意味で、上場を申請した。2027年3月期までの中長期ビジョンを発表したが、これを実現するためには、現状の資本では少し足りないところがある。上場に当たって公募増資をしたが、開示している成長戦略を実現するために必要な資本を調達する。

2つめはビジネスを今後進めていくうえで、資本に限らず資金調整が必要な可能性がある。上場しておくことによって、その時に選択肢が増える。我々としては、できるだけ柔軟な資金調達を実現したい。将来のオプションを増やす。

それから3つめ。2027年3月期に向けて成長を加速させていくに当たって、我々は今でも楽天Gの子会社として消費者から一定の認知を得ているが、上場でさらに認知度が上がると考えている。認知度の向上を活用したい。

―上場のタイミングについて、当初は昨年の上場を計画していたが、今年3月下旬に上場が承認され、今日の上場となった経緯は
昨年の7月に上場を申請して、東証の審査を受けてきた。併せてマーケット状況を見ていたことも事実で、結果として、東証からOKをもらい、マーケット状況もまずまず揃ったところがこのタイミングだった。

―初値が1800円で、今も1900円ほどで取引されているようだが、プライシングは1400円で、想定仮条件の上限が1960円だったことを考えると、公開価格がかなり低く、今日のスタートがかなり良い。公募増資の話もあったが、もう少し高く売れたとの見方もある。証券会社とどのような議論があったのか
株価については、我々の業績がベースになり、成長可能性がどの程度あるかが材料になる。そのなかで、その時々の株式マーケットがどのような状況かということや、投資家のセンチメントが影響して、総合的に判断される。

最初に目論見書に価格を記載した時にいくらだった、ブックビルディングの時にいくらだった、ブックビルディングの結果いくらに決まったとか、今日の初値がどうだったか、それぞれある。

業績や将来の成長可能性については、我々がきっちりと責任を持って進めていくことだが、株式マーケットの状況や、投資家センチメントなどは、我々ではコントロールできない。

その時々で、証券会社の意見も聞きながら、最も適切な価格を決めていくことであろうから、それぞれのタイミングで適切な価格を決めた結果として、ある時点とある時点を比べて上がった、下がったというのはある。だが、それはいつのタイミングでも起こり得るものだろう。

―特に議論がなく、納得して公開価格を付けたという理解で良いか
我々よりも証券会社のほうがプロであることは事実ではあるが、当然、議論をしてきちんと説明してもらい、その根拠を示してもらったうえ、その時々で適切な判断をした。そのような意味で言えば、納得した価格だった。

―海外機関投資家とのコミュニケーションもあっただろうが、彼らからするとどのような印象があったのか。刺さったところは
海外投資家も国内の投資家も同じかもしれない。特に海外投資家のほうが興味を示したのは、我々が楽天エコシステムを使って、事業の成長をこれまで実現し、今後もその可能性が非常に高い点だ。

これだけの大きなエコシステムを活用できる銀行は、グローバルでもそれほど多くはない。ユニークな事業展開をしている企業であり、それが将来に向けて成長の可能性が高い。このことが海外投資家から一番興味を持ってもらった点だろう。

―仮条件の段階で、M&Gインベストメンツが5000万ドル分の株式購入にコミットした経緯と、ブックビルディングに与えた影響について
我々も投資家の1人として説明をしたことは事実で、それ以上の経緯は我々も知らない。証券会社はいろいろな話をしたのかもしれないが、我々としては、いろいろな投資家に説明したなかの1つに入っていた。これはもちろん認識している。面談の場でそれなりに評価された。そこから先はよく分からない。あのような形でコミットしてもらったことがどうだったかについては、一般的に言えばほかの投資家に安心感を与えるので良かった。

―一般論としては親子上場の問題点が指摘されることもあるが、投資家にどう説明していくのか
最大の問題は、特に株主の視点で少数株主の利益が守られるか、これが非常に大きなことだ。もう少し具体的には「経営の独立性はどうなる」ということだろう。我々の場合は、従来楽天Gの100%子会社だったが、金融行政面では、経営の独立性を従来から求められていた。

楽天Gは従来100%の親会社ではあったものの、銀行の経営に指示や口出しをしてはならない。それに加えて、その独立性を守るための仕組みも既に構築され、長年運用してきた実績がある。これを運用していくことで、我々については十分に少数株主の利益を害するようなことがない事業運営と意思決定ができる。

様々な投資家と話をすると、少数株主の視点からも、楽天銀が、経営面ではなくビジネス面で、楽天エコシステムを活用して事業を拡大し、収益性を高め企業価値を上げていけば、少数株主の利益にも適うとして、多くの少数株主からも賛同を得ている。

大事なことは、ビジネス面では楽天エコシステムとのシナジーを追求するが、経営面では従来通り、経営の独立性を適正に確保する。そうすることで、親子上場の問題は解消できるのではないか。

―楽天エコシステムを活用するが、その外に顧客が増えていけば、さらに良いのではないか。どのような戦略を描いているのか
エコシステムでメリットを得ているのは、新規顧客の獲得で、これが一番大きなポイントだろう。日本の人口1億2500万人ぐらいのなかで、楽天会員は1億人を超えている。個人顧客を獲得するために、リーチすべき顧客基盤という点では、極端な言い方をすればエコシステムだけをカバーしていても、ほぼ全ての日本の顧客にリーチできる。そのような意味で、エコシステムを最大限活用すると言った。

今でも非金利収益のうち、楽天Gのサービスから得る金利収益は25%ほどだ。75%ぐらいは外から得ている。エコシステムの活用で楽天の会員から新規顧客を獲得して、実際にマネタイズする場合は、エコシステムだけに依存しているわけではない。

顧客獲得後は、グループのサービスと連携した、例えば、楽天証券と連携したマネーブリッジのような便利なサービスを提供する。そのことで、顧客の楽天銀に対するロイヤリティが上がる。そうすることで、顧客は我々のサービスをもっと使ってくれる。外部から得られる収益も増える。

新規の顧客獲得はエコシステムにかなり依拠する。その後の収益の獲得という意味では、エコシステムのみではなく、今でも大半が外から得られている。かつ、新規顧客については、エコシステムに依拠することによって、ほぼ(全ての)日本の消費者にリーチできる。エコシステム外の新規の顧客をあえて取りにいく必要があるかというと、効率が悪くなるだけではないか。

―メイン口座数が、2018年度時点で100万口座だったものが、足元では360万口座に急激に増えている。比率では29.3%になっているが、メイン口座数がここまで伸びた理由は。また、メイン口座比率は他行と比べてどうなのか。29.3%は、給与と口座振替の口座だが、口座振替のみの割合は

口座数が増えているので、メイン口座比率と口座数の増加を両方掛け合わせるとメイン口座はかなり大きく増える構造にある。それは、我々のサービスを顧客に実際に使ってもらうと、他の銀行よりもどれだけ便利か顧客が実感する。

もう1つは、顧客がサービスを使えば使うほど楽天ポイントを付与する。顧客からすると、他の銀行のサービスを使うよりも、楽天銀のサービスを使えばポイントがもらえることは、そちらが得だということになる。

利便性と経済合理性が揃うことで、顧客が我々の口座をより使おうとする。そうなってくると、「給与をここに入れれば、いろいろなサービス使うと簡単ではないか」となる。他のところに給与入れると、お金を楽天銀に振り替えたうえでサービスを使わなければならないが、「ここに給与が入っていればそのまま使えるのが一番いいではないか」となる。

生活のなかで電気代やガス代、水道代、携帯電話の代金、クレジットカードの支払いなど様々なものがあるが、そのような引き落としについては、楽天銀に集約したほうが便利だということになって、メイン口座が増えている。

他行との比較だが、多分、メイン口座比率をきちんと出しているところは非常に少なく、加えて銀行によって定義も全く違うので、比較不能だ。答えられるだけのデータが世のなかにないということで理解してもらいたい。

我々のメイン口座の定義は、給与振り込み口座もしくは口座振替口座だ。この内訳は開示をしていないが、口座振替口座のほうが現時点で給与振り込み口座よりも多い。

―BaaS(Banking as a Service)事業は、無理をして数を追わないとのことで、自動車やリテール、住宅といった話が寄せられているが、それは現在検討中のものなのか
ストレートに言うと、話が寄せられたことがあるものと理解してもらいたい。そのなかで引き続き検討しているものもあれば、断ったものもあるので、その全てが、今生きているパイプラインかと言われれば、そうではない。

ある業界のA社からそのような話が寄せられたということは、ある業界のB社からも話が寄せられる可能性があるということだ。A社では断わったが、B社では話を進める可能性もある。

―進行中のプロジェクトではなく、あくまで例示か
そうだ。

―配当性向など株主還元は
我々の目の前には大きな成長のチャンスがある。その実現のために公募増資をした。短期的には成長戦略の遂行に集中したいので、無配で考えている。数年経った段階で、その成長戦略が予定通り実現できている、もしくはその時に、投資家の要求水準が今と同じか違っているのか環境は変わるので、レビューをする。その時の状況を踏まえて、引き続き無配の戦略でいくのか、配当の支払いを含む資本政策を考え直すべきなのか再度判断する。短期的には無配で行きたい。

―今後、資本調達の可能性が出てきて、オプションを増やしたいとのことだが、今後はまた増資をして調達をするということと理解した。配当は数年間無配とし、今後考え直すことがあるとの話だが、もし次に増資する際には、配当は払うという決断をしたうえで、そのようなエクイティストーリーを描き、調達して成長を目指すのか
発音が良くなかったかもしれないので正確に伝えるが、3つあるといった(上場の意義の)1つめは公募増資だ。これは明らかに増資。2つめは、将来資金調達が必要になった時に、そのための柔軟性・オプションを確保したい。資金調達のなかには、資本調達を含むが、デットの調達も含むので、必ずしも資本だけのことを話したわけではない。私の発音が悪かったとすればお詫びするが、そのような趣旨と理解してもらいたい。

そのうえで、「そうは言ってもそのなかには資本調達が入っているのだろう」と言われればその通りだ。ただ、最初の公募増資で、2027年3月期までの中長期ビジョンを達成するために必要な資本を調達することが今回の目的で、そのために公募増資をした。2027年3月期までの現状の成長シナリオを実現するうえでは、今回の公募増資の金額で必要な調達はできている。この成長戦略が大きく変われば別だが、そうでなければ、2027年3月までに必要な資本調達は終わっている。

その先も含めてということであれば、資本調達の可能性はゼロとは言わない。ただ、その時に配当するかしないかについては、我々としては、その時何のために資本調達が必要になるのか、出資する側の立場からは、配当を払うことが合理的なのか、配当を払わずに、その資金を成長に回したほうが合理的なのかは、投資家との話し合いで決めていくべきことなので、その時、何のために資本調達が必要なのかによって、もしくは投資家のその時の考え方によって、配当の有無は変わってくるだろう。

―今後最も資金を要するところは
一番お金がかかるのはシステムコストだ。日本の銀行では珍しいが、自社の社員がシステムを開発し、運用し、保守をする。全てをコントロールしている。多くの日本の銀行の場合、ベンダーに依存していることがかなりあるが、我々は社員が全て管理している。同じシステムを作っても、他の銀行よりかなり安いコストで作れるし、運用コストも低い。

システムは確かにお金がかかるが、毎年投資しているので、今後、例えばどこかでシステムコストが膨大に膨らむかというと、毎年コンスタントに投資をしていくことが大事であって、どこかで大きく膨らむ必要はないだろう。

今後ともシステムに関して、現状プラスアルファぐらいの投資をしていく。どこかで大きな支出が必要になるかという質問の趣旨だとすれば、我々としては、現状の投資戦略の延長線上で全てのものは賄えるだろう。

―将来的な資本政策について、今後追加の資金調達が必要になった時、例えば楽天Gによる追加の売り出しや、公募増資による希薄化もあるが、親会社の持ち分が50%未満になる可能性があるのか。エコシステムや楽天Gとのシナジーを考えれば、過半数を保有し続ける必要があるか
公募増資については、2027年3月までは、今の計画を前提とすると必要な資本調達はできている。これ以上の公募増資は、現行計画を前提とすると必要ない。売り出しについては、親会社が決めることなので、我々が決めるわけにいかない。

楽天Gは今回のIPOに当たり、楽天銀を、連結子会社のステータスを維持したうえで上場させると発表しているので、それを前提と考えると楽天Gとして、ここから売り出しをすることは、現時点で私としてはあまり想定していない。最終的には親会社の判断だが、連結子会社で今は63%ぐらい持ち分があるので、ほぼ良いところという気はしている。

―株主優待はどうか。楽天ユーザーは、そういったものも期待しているのではないか
議論をしている。無配にすると考えた時に、特に個人投資家から見ると、株主優待という形での何らかのメリットを付与することはあり得る選択肢だ。一方で、機関投資家からは、株主優待は非常に評判の悪い制度なので、どの辺でバランスを取るかということになる。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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