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上場会見:エキサイトHD<5571>の西條社長、勝ち筋を探す新規事業

19日、エキサイトホールディングスが東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の1340円を26.87%上回る1700円を付け、1610円で引けた。子会社のエキサイトは、米Exciteの日本子会社として1997年に設立。ジャスダックに上場していたが、業績の低迷で2018年7月にTOBで上場を廃止した。「エキサイトニュース」などのプラットフォームや、インターネット接続サービスのブロードバンドのほか、TOB後にSaaSやDX、D2C事業に参入した。西條晋一社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

西條社長は、TOB後には「人」を重視し、評価制度を待遇を良くし、若手がアクティブに動くようになったと話した。
西條社長は、TOB後には「人」を重視して評価制度を変え、待遇を良くし、若手がアクティブに動くようになったと話した。

―初値と終値の受け止めは
市場でいろいろ予想している人もいて、1500円から1700~1800円ぐらいではないかというところもあり、我々もバリュエーションについては証券会社と慎重に検討した。IPOディスカウントみたいなものが公募の段階では含まれていて、それが大体20~30%と考えると、公募価格の大体20~30%上、IPOディスカウントがなくなるので、そのぐらいは1つの目線と考えていた。

今日の初値は予想通りというか、冷静に受け止めている。終値は初値の上下10%か5%ぐらいと思っており、良いスタートを切れた。出来高はけっこうあった。90億円ぐらいかもしれないが、ある程度注目を得られたので良かった。80億円では、時価総額1回転ぐらいした。

―TOBを行った理由は
私はインターネットの上場会社での経験があり、ベンチャーキャピタリストでもあるので、企業分析には自信がある。エキサイトの話が寄せられた時に、上場企業だったので、公表されている資料を徹底的に見た。事業内容は粗利が非常に出るもので、規模も50億円以上の売り上げがあったので、「これが黒字にできないわけがない」という直感が働いた。ただ、伊藤忠商事が経営していて、あの素晴らしい業績を出している伊藤忠が手をこまねいているので、「ちょっとこれは何かあるな」と思っていた。

もう1つは40%を占める従業員がエンジニアだったというのは非常に魅力的に感じた。私は元々会社を作って採用活動もしていたが、80人のエンジニアを雇おうとすると、膨大な資金と時間がかかる。これをショートカットできるのは良い。いわゆるAcqui-hiring(人材獲得を目的に行うM&A)ができるのは魅力的だったというのがチャレンジした理由だ。

―TOBで経営陣は全て変わっていると思うが、社員は何割程度残っているのか。伊藤忠との関係は
伊藤忠との関係では、(自身が同社の)出身ということもあって仲良くさせてもらっている。ただし、エキサイトを通じたビジネスでは、今は、取り引きはない。

従業員は、一般的なインターネット企業で同じような規模の他社と当社の退職率はそんなに変わらないのではないか。年10%少しというレベルなので、おそらく当時の従業員の半分は残っている。

石井雅也CFO:エキサイト単体で、当時が200人で、減った分は4年で50人ぐらいだ。

西條社長:今日も朝ここでセレモニーをやっていたが、(出席したのは)ほとんど元々いた人たちだ。

石井CFO:役員は、エキサイトのブロードバンド事業管掌の木下秀爾執行役員は生え抜きで、技術担当CTOの藤田毅執行役員もそうなので、外から入ってきた者と生え抜きの人をミックスして経営している。

西條社長:歴代社長は全部伊藤忠から来ていた。役員についても、例えば伊藤忠の人がいて、経営企画や監査役も伊藤忠の人で、社員に上が変わることに対してのアレルギーがなかった。創業社長がいて変わると「何か会社が変わった」と思うかもしれないが、新しい経営陣もスムーズに受け入れてもらった。辞めないように、最初に私と石井で1対1のミーティングを行い、彼らの意見や思っていることにも耳を傾けながら、不満や窮屈に思っていることを解消していった。

―この時期に再上場しようと思った理由は
マーケットを見て、もう正直しょうがないと思った。今日の上場のバリュエーションが、相場が良ければ1.5倍や2倍になるかもしれない。御存知の通り、上場準備をしている期間は、新規事業やM&Aが非常にやりにくい。新規事業をすると、「この新規事業の成長の蓋然性はどうなるんだ、1年ぐらい様子を見てみよう」ということになる。M&Aをすると、新しく買収した会社の内部統制がどうなっているか「1年様子を見よう」となると、いつまでたっても上場できない。

新規事業やM&Aをできるのが強みなので、その行動が制限されることを考えれば、一刻も早くIPOしてそこからどんどん積極的に動いていく。株主はエグジットをするつもりはないので、今回は売り出しをしていない。

―SaaS・DX事業で新分野に進出する際の基本的なコンセプトは
まず、SaaSに関しては、皆さんが知っている通り、既に大きな企業が複数ある。フリーやマネーフォワード、Sansan、ラクスといった時価総額で2000~3000億円が付いている大きな企業もあるが、基本的には、そういった企業と正面で戦うのではなく、割とニッチなところから入っていきたい。

経営企画のSaaS「KUROTEN.」は、市場にプレーヤーがあまりいない。会計のほうはたくさんいるが、管理会計をする時には、会計上で計上している勘定科目を別の科目に置き換えて管理する。我々のシステムは、総勘定元帳を、会計データを取り込んで管理会計しやすいような科目に置き換え、部署や部門コードなどに細かく分けたうえで分析できる。一方、ニッチで入るがその周辺にはいろいろチャンスがあるので、そこからシェアを取って、横に広げていく。そのためには、周辺マーケットの規模がある程度見えているところに参入する。

FanGrowthも、ウェビナーやセミナーをコントロールできるプレーヤーは市場にいっぱいいるが、ウェビナーそのものを企画して、PDCAを回していく部分を提供するプレーヤーは少ないがニーズはけっこうある。FanGrowthがコンサルティングとSaaSの機能以外に、セミナーの共催相手を探せるプラットフォームも、まだ無料だが、別途提供している。そこには500社が登録している。セミナーを自社1社だけで開くと集客が難しい。ところが、4社ぐらいで共催すると、それぞれの会社が告知するので、当然集めやすくなる。共催の相手を探すニーズがあるが、探せるサービスは、世のなかにほぼ存在していない。

そういったところに目を付け、我々にとっての見込み客を集めて、それをコンサルティングやSaaSに誘導していく攻め方をしている。勝ち筋や戦い方を考えて検証しながら、いけるぞと思った事業に関して推進している。

―BtoBの新規事業、SaaS・DXの見込み客をどう獲得していくのか。営業とマーケティングに注力する前夜の状態にあるとのことだが、調達資金は既存のプラットフォーム事業と、ブロードバンド事業に回すので、どう進めるのか
SaaSの顧客獲得に関しては、FanGrowthという集客の1つのルートであるウェビナーについては、他社にコンサルしているぐらいなので、自社でノウハウをかなり蓄積している。来月頃から本格的にKUROTEN.のウェビナーに注力していく。営業も1人しかいないので、拡充していく。また、カスタマーサクセスの人材を拡大していく。

経営企画の領域なので、テレビCMやウェブ広告を打ちまくる感じでもない。まず実績を出しつつ、経営者の横の繋がりがかなりあるので、そういったところを辿ってユーザーを獲得する。人を増やすところなので何億円も注ぎ込むイメージではない。

―プラットフォーム事業の顧客基盤が、成長のエンジンになっているメディアだが、昨今はトラフィックの減少があった。コロナ禍もあったので、カウンセリングも含めて遠隔型のサービスが伸びたが、今後の見通しについて、そのユーザーの獲得エンジンになっているので、それをどう伸ばしていけるか、またハードルのようなものはあるか
石井CFO:コロナによる特需や、その影響がなくなった後だが、カウンセリングに関しては、そういった影響はない。特に電話占いやお悩み相談は自宅でかけることが多く、コロナで家にいる時間が増えることは後押しになった。ただ、その後も、特に今期は前期以上に伸びている。この4月も従来以上に伸びている。サービスの質が上がって、確実にリピートされている。カウンセリングに関してもその影響はない。

メディアに関しても、特にエキサイトの場合、スマホよりもWebで見られる時間が長い。ウーマンエキサイトに関しては、コミックエッセイという漫画のコンテンツを増やしている。それを定期的に閲覧するユーザーが多いこともあり、足元では特に影響はない。下がっている部分はウーマンエキサイト以外のニュースとブログだ。これに関してはGoogleの検索のアルゴリズムのロジックが年2回ほど変更され、昨年の9~10月で若干マイナスに効いた。ただ、そこからは横ばいなので、トレンドが大きく変わったものではない。

―大株主の構成で、西條社長が過半を持つ形か。売らない方針か
西條社長:売却して何かを得たいということはない。一方で、もちろんプライム市場も目指していく。今日の段階で流動性が30%弱なので、プライムに行くには35%を確保しなければならないこと考えると、自分が売りたいと思っておらず、売らないと思うが、シェアは下げていく。できれば市場で資金調達をしていきたい。頑張って企業価値を上げて、せっかく上場したわけなので、資金調達で使っていきたい。ユナイテッドさんが今10%以上持っているので、そこが10%を下回ってくれば、そこも流動性としてカウントされる。流動性だけという意味だけでは、ユナイテッドがいくらか売れば比率は上がる。

―投資会社やほかの部分では売る可能性があるのか
そうだ。

―最近にわかに流行っている生成AIは、業務にどのようなインパクトを与え得るか。事業機会も含めて聞きたい
できることが3つあると考えている。1つは、コスト削減や業務の効率化だ。例えば、ブロードバンド事業では、カスタマーサポートの機能は外部に委託している。ほかのサービスもそうだが、カスタマーサービスは物凄くコストがかかっている。顧客の対応に関して、生成AIを導入することで、そもそも質問が発生しないような改善に取り組める。それから、既に発生した質問に対してAIで回答していく。人件費や外注費の削減をしていく取り組みができる。

2つめは、今あるサービスのUI/UX、ユーザー体験や、ユーザーが操作するインターフェースを良くしていく。我々が提供しているSaaSもそうだし、新しく会社で導入した人事系のソフトなどに登録すると、最初は使い方が分からない。そのうえ、基本的にメニューにあることしかできない。生成AIのインターフェースを入れて、言語で「こういうデータが見たい」、「こういうところを知りたい」と、検索エンジンに入れるように入力すると、そういったデータが上がってくる。

今まではそのようなことをしようと思うと、社内外のエンジニアに頼んで、「今、こういうメニュー画面しかないから抽出できない。データベースを打つSQLを考えてくれ」という時間がかかっていた。生成AIでデータベースを見にいけば、誰もがエンジニアの助けなくいろいろな角度でデータを見ることができる。そのような機能が実装できる。今提供しているサービスのユーザー体験を良くしていくことを考えている。

3つめは、我々が得意としている新規事業だ。スマホシフト、iPhoneが出てから、当時は想像もしなかったようなビジネスがいろいろ出てきた。メルカリが出てきた時も、「いやいや、ヤフーがあるじゃないか。何が違うんだ」というような反応も多かったが、スマホだからこそできるユーザー体験のサービスが、PC中心のヤフーオークションとは別に必要だった。

そのような意味で、今回の生成AIは、先ほど話したコスト削減や、既存事業の進化に加えて、今まで皆さんが全く考えていなかった新しいサービスが世のなかに生まれてくる可能性を秘めている。海外のほうが進んでいるので、海外のいろいろな会社も注視しているし、自分たちでも、社内でAIカンファレンスを来月に開いて、いろいろアイディアを持ち寄り、発表する。そういった取り組みを通じて新規事業を創出していきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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