株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイト

上場会見:INFORICH<9338>の秋山CEO、バッテリーで生活の隅々に

20日、INFORICHが東証グロースに上場した。初値は付かず公開価格である4600円の2.3倍となる1万580円の買い気配で引けた。スマホ充電器の貸し出しスタンド「ChargeSPOT」を運営する。「どこでも借りられて、どこでも返せる」をコンセプトに、コンビニや駅構内などでの設置台数は3万5000台を超える。中国のバッテリースタンドにヒントを得て2018年4月に現在のサービスを開始した。秋山広宣CEOが東京証券取引所で上場会見を行った。

秋山CEOによると、利用が習慣化して設置台数が増えると短時間でその場で充電して返すという短時間化が見られるという
秋山CEOによると、利用が習慣化して設置台数が増えると短時間でその場で充電して返すという傾向が見られるという

―買い気配で始まった。投資家の引き合いをどう見ているか
今の状況を見て身が引き締まる思いだ。足元に自信があると伝えたが、市場での株主の期待を裏切ることなく、油断なく前進を、まずは明日を迎えていきたい。

―この時期に上場した理由を聞きたい
3年前から1つのマイルストーンとして、ここでIPOをしたいと、一丸となって、香港や広州、日本のチームと進めてきた。まずは我々が目指したマイルストーンをしっかり達成していく。足元のビジネスに自信があるということを自社内でも皆で再確認をして、今回の上場に至った。ここからが本当に大事な、我々の姿勢、実績と考えて前進していきたい。

乾牧夫執行役員:この時期を選んで上場したわけではなくて、1年半前から決まっていた日程なので、それを変えなかったというのが正しい。この市場環境であって上場しているわけではなく、予定を変更せずに、ただそれだけの市場での評価を問えるだけの財務とファンダメンタルズ、特に5Gの市場のテーマ性が、来年にはかなり風が吹くと思っている。そのタイミングで上場企業でないのがあまりにももったいないと思い、想定通りに来ている。

―オファリングサイズがそれほど大きくないとはいえ、海外に旧臨時報告書方式で出た。海外機関投資家はどんなところが参加してきたのか。サイズが小さいと入りづらいというのはあると思う
橋本祐樹CFO:著名なロング投資家と言われるところも一部参加している。比率で言うと海外が6割を超えている。

秋山CEO:非常に少ない新株の発行になったが、そういうなかでは非常に良いロングオンリーの投資家を迎えられたと自負している。

乾執行役員:最低限出さなければならない発行数しか出していないので、黒字化のタイミングについていろいろ聞かれている。我々が、赤字がとてつもなく続く業態であれば、このぐらいの資金調達ではけっこうきついはずだが、逆にこの資金調達でも我々の成長の邪魔にならないぐらい、財務的な面に自信があるという表れとしても見てもらいたい。

―1台当たりの稼働率が増える仕組みを詳しく教えてほしい
台数が増えるほど需要が一定であれば、1台の稼働率は下がりそうなものだが、全ての累計台数1台当たりの稼働が上がっている。我々のようなサービスにはいくつか大切な点があるが、「返却安心感」が重要だ。

分かりやすい例で説明すると、今は忘年会もある年末になっているが、18時台に仕事が終わり、渋谷や銀座、六本木といった場所で、我々の大型チャージスタンドに出くわす。そこでちょうど「バッテリーが15%しかない。今日は帰りが遅くなる、どうしよう」ということで、利用者にとってはまさにピンチで、ニーズが生じる。ただ、借りようと思う前に、皆の胸に必ず去来する疑問がある。その人の住まいが千葉の市川市だったとする。「今日終電で戻るが、そこで返却できるスタンドがあるか」。そこに返せる場所があるという答えが出ない限り、バッテリーを借りてくれない。これが設置粒度の問題だ。

その時には我々の商いはないが、その人が自宅の駅周辺を見た時に、借りなかったがスタンドを見ることで我々のサービスを認知してくれた。そうすると、自宅の周りを歩いた時に、「セブン-イレブンやTSUTAYAに同じ台が置いてある」と分かってくる。そうすると次に同じ事象が起きた時に、借りてくれる。返却安心感を育てるためには、どうしても一定の設置粒度が必要になる。人ごとに生活圏は異なるが、設置台数に関しては場所取り合戦になる。

日本を代表するインフラのブランドの場所に置かせてもらっている。これを取ってさえしまえば、この安心感に対して、なかなか参入できない。台数が増えれば増えるほど、既存の台を含めて稼働率が上がる。当面の間続くと見ている。設置台数を増やしていくことが売り上げや利益を早く招来する。

秋山CEO:設置パートナーの大半は排他的に我々の台を置いてくれている。設置粒度と排他性がユーザーにとってのエコシステムを安定させ、利用の促進につながっている。

―バッテリーの耐用年数はどの程度か
乾執行役員:我々がレンタルに供しているバッテリーは、年数というよりも工場出荷ベースの仕様として、650回の充放電に耐える設計になっている。調達単価が2600円で、1バッテリー当たりの売り上げが360円なので、7~8回で元を取ってしまう。7~8回目以降に真水の利益が上がる体制になっているので、展開してからの収益性の蓋然性の1つと見てもらいたい。

橋本CFO:会計上は3年で減価償却する。

―バッテリーの紛失はあるのか
5日間経つと違約金として超過料金を受け取っているが、実際に発生しているのが1~2%弱だ。違約金を支払ってもらっても、その後半分ぐらいの人に返してもらっている。その半分ぐらいが本当に返されないという場合だ。

―設置するチャージスタンドの電気料金は設置先が負担するのか
秋山CEO:その通りだ。我々のサイネージは、6分間に1周しているが、そのうちの2分間を設置先に自由に使ってもらうコンセプトになっている。設置先としては、バッテリーを借りに来て、ついで買いをする人たちもいる。さらにはサイネージとしても利用してもらえるという側面から設置してもらっている先も少なくない。そのうえで、電気代は(全設置先に)支払ってもらっている。

―営業キャッシュフローの見通しは
橋本CFO:来期以降の業績予想をまだ開示していない状況なので、直接的な開示は難しいが、中期的にはしっかりと営業キャッシュを稼げるような企業になっていきたい。

―黒字化のメドは。どのような状況になったら黒字になるのか
考え方が難しく、設置台数が何台の時にどれぐらい稼働率が出ているかで(変わる)。設置台数が多ければ低い稼働率でも良いし、少ない設置台数であれば、高い稼働率が必要になる。順調に台数を増やしながら、黒字化を迎える事になるので、その時点の具体的な数字は難しいが、黒字化に向かってしっかり拡大していきたい。

乾執行役員:収益の建て付けとしては、毎回新しい物を作って売る製造型ではなく、どちらかと言えば携帯キャリアに近いサブスクに似たサービスだ。一度習慣化すると同じ人が使っていく。認知が広がっていくととも一定の累計稼働ユーザー数と、それを支える一定の稼働台数となったあるタイミングで損益分岐点を超えて自然と黒字化していく。設備産業的な特質を持つ。
―設備産業なので黒字化すると言ったがタイミングは。また、新規事業のスマートシティとは
秋山CEO:バッテリーでプライムロケーションを獲得していくと話したが、もう1つはインフラ作りだ。(質問への回答を)少し混ぜながら話すが、既に発表した通り、東京都の南大沢でもスマートシティ構想に入れてもらい、実証実験で展開をスタートしている。券売機モデルにもなっていると話したが、既に存在しているサードパーティのインフラの場所を借りて皆さんが使いやすい場所を街中に増やしていこうということが、スマートシティに関わる我々のポジションだ。また、場所を確保することによってサイネージを持つ。加えて、ビーコンでプッシュ通知も可能になる。諸々のアップセルのものが、スマートシティをより良くサポートできる存在になっていく。

グローバルの部分にも関わるが、生活の隅々までバッテリーを起点にして入っていけるINFORICHであるということ、さらには日本のみならず、既に海外を展開しシェアもしっかり取っている日本発の世界に通じる1つの企業として認識し、投資を考えてもらいたい。

乾執行役員:スマートシティに限らず、このビジネスは、外部経済依存性が非常に高い。例えば、あるスマートシティだけで貸し借りできる物があっても、別の場所に帰るので便利ではない。インフラを作ることはものすごく大事だ。1つの場所でスタンドを置くかどうか競り合いになった時に、そのブランド(設定予定場所の運営者)は、「そこだけではなく、これ以外で(バッテリーを)貸し借りできる場所がどれだけあるのか」と考える。そこを超えられるための一定の台数を当社は設置し切ってしまっている。事実上のオセロの四隅を取っている。黒字化のタイミングは言えないが、このタイミングで我々が上場しているのは、いろいろな意味で自信があるからしているというところで理解してもらいたい。

―黒字化のメドが言えないということだが、仮に来期なのか、その次なのか5年後なのか10年後なのかでかなり印象は違う。根拠をもって言いにくいとしても、ある程度その意気込みとして社長がどう考えているのかしっかり発信した方がいいと思うが、改めてどうか
このコロナ禍が非常に緩和してきて、街中に人が出ることが多くなってきた。それのみならず、インバウンドに関しても、日本にも足を運ぶ人々が増えてきた。我々の足元を非常に強くしているきっかけになっていることは、推測してもらえると思う。遠い将来というよりは、実業として利益を出していく体制に、早々になっていきたい。

―早々にというのは2~3年内にはというイメージか
橋本CFO:5年まではかからない。

―海外でも需要はあるのか。競合はどこか
秋山CEO:日本にないものを持ってくるある意味ではタイムマシンビジネスだと思っている。このサービスは2015年に香港で展開していた事業を目にして、2018年に日本に持ってきて、日本初で展開を開始した。ただ、日本でブラッシュアップすることが、我々の価値だと思っており、そこにサイネージやビーコンを付けているが、こういった物は中国では展開されていない。そこに差を付けて、グローバルに展開する。いろいろなプレーヤーが海外にいる。ただ、なぜ我々が香港でさえ8割に近い市場を取れているかというと、グローバルに展開するに当たって必要とされるライセンスを保有しているからだ。

中国で展開しているプレーヤーのなかでは、グローバルの水準に達していない会社もいることから、グローバルに展開できるライセンスによる参入障壁の高さを作って展開できている。世界的に見ても競合との違いと理解してもらいたい。

乾執行役員:ライセンスというのは、具体的にバッテリーの仕様にまつわるもので、メーカーのルールがあり、それに達してないと展開できない。そのライセンスを持っていない会社がグローバルで時々散見される。彼らが自分たちの自国市場以外に展開していくうえでそれが足かせになっている。我々は最初から世界で使えるバッテリーとしてのライセンスを全て具備している。

―海外で何か国か展開しているが、日本で借りてフランスで返すというようなことができるのか
秋山CEO:できる。1万アンペア以上だと飛行機に持ち込めないため、バッテリーの容量が5000アンペアになっており、飛行機にも落ち込んでもらえる。

―新規事業としてチャージスタンドをターゲットマーケティングに使う場合、成長可能性資料でカメラの設置や画像認識に言及しているが、将来的にいわゆる1to1マーケティング的なものへの応用を想定しているのか
将来的には、その機能を利用した先のサービスの提供を視野に入れている。直近はまず実証実験の段階で進んでいる。

―かなり細かく広告を表示できることになるが、個人情報関連で問題があると思う。プライバシーの話はどう考えるか
今、使っているビーコンを含めて自社保有のデータがない状況だ。我々はグローバルに展開しているため、その国に合わせたニーズとルールにしっかり準じながらの展開と、できる限りのサービスの向上を考えている。

―株主還元の方針について教えてほしい
現在は考えていない。黒字化を達成したあかつきには、株主への還元を検討していきたい。

―今は成長投資を優先していくのか
その通りだ。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]