株式・債券の発行市場にフォーカスしたニュースサイト

上場会見:ソシオネクスト<6526>の肥塚CEO、重要性増す上流の設計

12日、ソシオネクストが東証プライムに上場した。初値は公開価格の3650円を5.07%上回る3835円を付け、4200円で引けた。SoC(System on Chip、装置やシステムの動作に必要な機能の一部または全てを集約して実装した半導体チップ)分野の、特定の顧客のために設計される「カスタムSoC」のうち、上流工程の設計なども行う「ソリューションSoC」に注力する。富士通とパナソニック(現パナソニックホールディングス)のSoC事業を統合し、日本政策投資銀行(DBJ)の出資を受け、2015年3月に事業を開始した。肥塚雅博会長兼社長兼CEOが東京証券取引所で上場会見を行った。

肥塚CE0は、半導体市場全体の成長率6.2%を上回る8.0%で成長するカスタムSoC市場での立ち位置や事業の強み、今後の見通しについて説明した
肥塚CE0は、半導体市場全体の成長率6.2%を上回る8.0%で成長するカスタムSoC市場での立ち位置や事業の強み、今後の見通しについて説明した

―初値が公開価格を上回り、高値引けとなったことについて率直な受け止めは
株は上がることもあれば下がることもある、変動すると思っている。とにかく初心が基本で、2025年以降の第2の変革を見込んだ成長と考えており、企業価値をどのように増加させていくか(が重要だ)。また、情報開示、上場プロセスでの投資家とのコミュニケーションは個人的にも非常に有益だったので、基本をきちんとやっていきたい。

―足元で世界的に半導体株が軟調ななか、この時期に上場した狙いは。延期は検討しなかったのか
2点言いたい。足元の半導体市況やグローバル経済が、報道されているような状況であることは知っているが、半導体と言っても多種多様で、シリコンサイクルから影響を受ける。例えば、メモリーやパソコン、携帯のようなシリコンサイクルから受ける影響、あるいはマクロ経済の影響、地政学的な影響も、どの半導体のどの分野であるかによって違いがあると考えている。

我々だけについて言えば、今までの事業変革の過程で、ここ数年新たに獲得した商談の量産が順番に始まっていく。これが前提としての事業サイドの問題。

もう1つは、なぜこのタイミングかと言えば、今の話に重なるが、私がCEOになって2018年から、内部では第1の変革と呼んでいる。事業構造やビジネスモデルを転換してきて、これからは中期的な成長の見通しが立てられるようになった。

半導体はリードタイムが非常に長いので、今から2025年頃までの成長をどう考えるかということで、第2の変革を進めようとしている。そのような意味では、事業を分離して日本政策投資銀行に投資を仰ぐという時代の株主ではなく、新しいビジネスモデルを理解してサポートしてくれる株主と一緒に、次のさらなる成長を狙う。我々の切り替えに当たり最も良いタイミングだった。

―9月末に売出株数を引き上げたが
9月の決議当初は40.4%で、最終的に62.5%というのは、堅調な需要が確認できたことで我々が決めたことではない。証券会社や既存の株主との(協議の上だが)堅調な需要に尽きたのではないか。

―ソリューションSoC分野に乗り出せた理由は何か。背景には人的資源と先端技術への挑戦があったとのことだが、事業改革で課題となった事柄も含めて、どのような強みによるものか
私自身はカスタムマーケット、あるいは上流からの設計市場は伸びると思っていた。まず、マーケットスタイルで言えは、カスタムSoCが伸びると言われているが、そのなかで伝統的な後工程だけ、物理設計だけのASIC(Application Specific Integrated Circuit、特定用途向け集積回路)ではない分野が伸びるだろうという見込みというか需要側の要素があると思っていた。

もう1つは、会社のリソース側の状況だが、パナソニックと富士通の両方ともシステムのために半導体を設計できるエンジニア、しかもソフトウェアのエンジニアがいる。半導体の会社にしては、リソース側が物理的な設計だけではないエンジニア(がいる)。もちろん物理設計なり品質保証なりパッケージ化のエンジニアもいるが、エンジニアのリソース群と、マーケットを結びつけることが、私が(ソシオネクストに)来た時の事業転換の狙いだ。

ただ、簡単にできるわけではなくて、先端技術に挑戦しなければいけない。あるいは、今までテレビを開発していた人が、車を開始しなくてはならない。そういう意味では、社員やエンジニアが新しい事業分野や先端技術に挑戦してくれた。リソースがあって、それがそのままマーケットにつながったという単純なものではなく、その間に新しい商談を獲って先端技術にチャレンジして、新しい分野にチャレンジするという私からすると、よくやってくれた、大変だったと思うとしか言いようがない。ある意味で、そこを乗り越えて事業構造を転換できた。課題はまだたくさんある。

―具体的な課題は何か
事業の転換は、エンジニアがいろいろな家電系を開発していたところを自動車に移るなど、人員は増加せずに、事業エリアとビジネスモデルを転換できた。

やはり、グローバル競争のなかできちっと勝っていくには最先端のなかで勝負するために、3nmやチップレットに投資をしなければならない。投資をするとは資金の問題もさることながら、エンジニアがその技術力を付けていくことが大事だ。

それから、我々のビジネスモデルは上流からアーキテクチャーまで全体を設計するという新しい分野に挑戦している。これはやり続けないと必ず負けてしまうので、資金よりもエンジニアの技術力の問題として努力しなければならない。

課題があると思っているのはグローバル化だ。グローバルな事業活動の統合は、顧客の7割が海外で購入も7~8割が海外で、エンジニアは日本だ。海外の顧客が増えている時に、我々のような共同設計タイプのビジネスでは、顧客と密にコミュニケーションしながらグローバルなビジネスを展開しなければいけない。それが本当にできているかということが課題だと思う。

グローバルな顧客に貢献できる技術力を持ち続けられるか。活動がそれにふさわしいようなグローバル・インテグレーションが可能か否か。日本のエンジニアを世界に繋ぎたいと思うが、それがないとできない。そうすることで開発効率を上げていかないと、良い商談を獲得すること、成長企業を獲り続けることだが、今頑張ってもらえないと2025年以降の成長がない。そうすると第2の変革に向けた課題は少なくない。

―日本の顧客は広がるのか。先端のニーズがないのか
7~8割というのは、獲得した商談ベース、開発している商品に関するもので、現在の製品の売り上げでは、国内がもう少し多い。

日本でも最先端分野に自社チップを使おうという動きがあるのは事実だ。我々もできるだけ役に立ちたい。パートナーとして使ってもらいたいと思っているが、実態では、やはり米国が世界で最もイノベーティブで、中国が同様にイノベーティブだ。我々の商談の機会からすると、米国なり中国なり、敢えて言うと欧州がアクティブだ。日本でもぜひビジネスを広げたい。

―NRE売り上げ(Non-Recurring Engineering、設計開発段階に顧客からその対価として受け取る売り上げ)額の中身や受注している中身というときに、3領域で最も伸びが大きく成長領域になっている部分は
商談獲得の残高が8800億円あると言ったが、そのなかの4分の1強が自動車だ。NRE売り上げに占める割合で86%だが、注力分野(の商談獲得金額)が、重点領域(の金額と大体同じ)で、増減はあるがこれを累積したものが8800億円で、データセンターやネットワークが2割ぐらい、スマートデバイスも2割弱ぐらいの構成になっている。

売り上げへの転換という点では、自動車は残高が多いが、リードタイムが長い。開発期間が長く、量産が少し遅れてくる。民生用や5G、データセンターのほうが早い。売り上げ貢献という意味では、期近のところでは、5Gやデータセンターが先に出てきて、車は後になる。自動車なり5G、データセンター、AR、この重点領域にはカメラも入っているが、比較的バランス良くある。

―アプリケーションのなかでも、どのような半導体が、ASIC特にカスタムSoCの需要が強いのか
どのようなチップというと、自動車のなかにコンピューターネットワークが入ったようなものだがその中心部に置かれる。またはLiDAR(Light Detection and Ranging、離れた場所にある物の形や距離をレーザーで計測する技術や装置)や5Gという領域だ。あとはARもそのような領域に入ってくる。

―車に関しては、車載半導体の専業メーカーがファブ(製造工場)を持って提供していると思うが、先端領域での競争をどう見るか
自社ファブを持つ領域は、テクノロジーノードでいうと、22nmや 28nmで、我々が手掛けているのは、NRE収入で16~17nm以上で、7割ぐらいだ。LiDARは16nmを使っているが、我々に来ている車のセンターの商談は7nmと5nmが多い。自社ファブを持つ会社はどちらかというとASSP(Application Specific Standard Product、分野やアプリケーションを限定して機能や目的を特化させた大規模集積回路)を担うので、我々とはあまり競合しない。競合したことはないと言ってもいいかもしれない。名前を敢えて挙げると、競合するのはMarvell Technology Groupだ。

―今の受注環境やNREを見ている時に、長いレンジだと思うが、マクロ経済の悪化などで車の先行きが変化していないのか
車の5nmや7nmの開発は、今の車の需給やマクロ経済の影響を受けずにかなり活発だ。次世代を見てシステムをどう作り、将来の半導体をどうしていくかを考えており、非常に活発だという印象を受けている。商談も実際に活発だ。

自動車はマクロ経済の影響を受けると思うが、過去4年間ハイレベルで獲ってきた。実際に売り上げにつながるのは、早いもので来年度や再来年度と順番に量産されていく。

中期計画の見通しや売り上げを立てる時には、いろいろなリスクをカウントしなければならないが、今のいろいろな部品が足りないであるとか、需給変動が我々のビジネスの成長にに対してはダイレクトに影響することはない。もちろん既存の部品もあるため影響はあるが、それを見込んで計画を作っている。

―公開している売上高はリスクを見込む保守的なものか
客観的に保守的かどうか議論があるが、主観的には保守的に見ているつもりだ。

―5nmの量産スケジュールと、開発中の3nmのロードマップは
5nmは、TSMCの車載向けの量産が始まるかどうかという状況になっている。我々の量産は、数年後、2024年や25年頃から始まっていくのではないか。

3nmは、一般的な意味ではテストチップを開発中で来年には仕上げたい。車が3nmにいくためにはファブ側の用意ができていない。車に限って言えば、かなりハイパフォーマンスの分野で準備を進めて、いつでも応えられる。ただ、3nmに関心を持つ顧客もいるので、3nmの情報をできるだけ早く取って、どのような課題があるのか準備しておかなければならない。

―5nmに関する韓国や台湾のファブが潤沢ではないと思うが、顧客の求めに応じ供給するためには
実態を言うと、5nmはまだ量産を始めていないので、7nmの話になるが、昨年度はウェハーの供給不足で顧客の要求に十分に応えられる状態になかった。今年度や来年度は、かなり緩和されると見ている。先端分野はある程度収まっているのではないか。ファブとの関係は、いろいろなレベルできちんと付き合っているし、先端領域でいろいろな開発をしている。

また、我々は部品屋なので、顧客の名前は言えないが、ファブの側は固有名詞を含めてエンドの顧客をよく知っている。ウェハーの安定的かつフェアな供給は、我々の今のプレゼンスから見て、それほど心配していない。現在について言えば、今年度や来年度は、制約はかなり緩和されてきている。

―台湾有事が起きたら
地政学的な問題は、先端半導体でビジネスをやっていると常に気を配っている。いくつかあるが、米国なり欧州でのファブの建設というか支援が始まっているので、我々としては、1つは、イノベーティブな市場である米国や中国で、各国の市場や地政学的な問題を見ながらも、バランスよくビジネスを拡大していくことに尽きる。

加えて、米国や欧州での先端ファブの設置を見ながら、我々もそのエコシステムのなかで何ができるか考えていかなければならない。

―半導体の超微細化と3次元化がこれからも進む一方で、限界もあると言われているが、今後の見通しと対応方針について
ひと言で言うと「More than Moore(モア・ザン・ムーア)」というのかもしれないが、微細化が進んでいくと、2.5Dとか縦に積み重ねるとか、チップレットにするなどいろいろな技術が出てくると思う。2.5Dなり3Dなりチップレットを使うと、ますますSoC全体が、SoCはSystem On Chipなので、上流の設計やSoCのアーキテクチャ全体の設計が重要になってくる。そういう時代になると、我々のビジネスモデルがさらに活きる。

そのために我々がやらなければならないことがある。例えば、3nmの技術をきちんと持つ、あるいはチップレットに投資をするなど、設計難易度の向上に対する対応をしなければならないが、微細化だけでいろいろなことを解決できる時代ではなくなったということが、カスタムの、自分のSoCを持ちたいという背景にある。あるいは上流の重要性も増してくるということにつながっているのではないか。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

関連記事