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上場会見:ベースフード<2936>の橋本CEO、主食のプラットフォーマーに

15日、ベースフードが東証グロースに上場した。初値は公開価格の800円を11.25%下回る710円を付け、702円で引けた。麺やパン、クッキー状の完全栄養食を開発・販売する。製品である「BASE PASTA」は1袋、「BASE BREAD」は2袋、「BASE Cookies」は4袋で1日に必要な栄養素の3分の1を摂取できるという。今年8月末時点での月間定期購入者は13万8000人。橋本舜CEOが東京証券取引所で上場会見を行った。

プロダクトのアジャイル開発と関係するプレーヤーの統合、OMO(Online Merges with Offline)に強みがあると話す橋本CEO
プロダクトのアジャイル開発と、関係するプレーヤーの統合、OMO(Online Merges with Offline)に強みがあると話す橋本CEO

―初値が公開価格を下回ったことの受け止めは
我々としては、やはり事業をしっかり伸ばしていくことしかできない。例えば、我々は非上場の時に、5億5000万円を投資してもらったが、その時に3億円なら出す、4億円なら出すという人たちもいて、結果的に「5億5000万円を(出す)」という人が出資してくれて、その後(事業が)とても大きく伸びた。

今回のIPOはもう1回創業するつもりで取り組んでおり、今回が、3だろうが4だろうが5だろうが、5~10年後に見た時に「誤差だったよね」と言うことができると思う。創業以来のメンバーも残っているし、第2創業のつもりで、事業をしっかり伸ばしたい。食品を扱っており、3ヵ月ごとに商品を出せるようなものではない。我々としては人類を変えるような中長期のプロジェクトだと考えているので、その点も理解してもらえれば嬉しい。

―OEMで生産しているが、今のキャパシティで売り上げをどの程度まで伸ばせるのか。自社生産体制もあり得るのか
OEMで、キャパシティの天井はどこまでも来ないと見ている。パンによってはほとんどがOEMだ。なぜかというとコンビニが最もパンを売っているため、そのキャパシティがOEMだから枯渇することはない。ベースフードは定期購買のチャネルでもあるし、コンビニにも商品を卸している。主食が食べられなくなり、人口が減っていくなかで、健康な主食というハイプライスな物を、サブスクリプションの形で安定して、かつ日本最大の成長率で作っている。そういった意味でクライアントでもある。お金を払って買えないというわけではなく、OEMでキャパシティがオーバーすることは今後ないと考えている。

―日清食品グループの「完全メシ」が今年にブームとなったが、大手の完全食市場への参入は影響があるのか
日清食品の完全メシの売り上げがあるかは把握していないが、我々には6年間の積み上げがある。そういった意味では市場においてやはりまだ圧倒的な存在で、参入によって我々の売り上げが上下することはあまりない。

ただ、注目度が高まったり、マーケットが広がったりすることから、そこは強みだ。また、完全食という言葉は同様だが、ターゲティングや売り場、商品の内容自体、コンセプトが大きく違い、そこは棲み分けが発生していると見ている。

―ラインアップにご飯(米)を含める考えは
主食をイノベーションするコンセプトを掲げているため、創業当初からそれは当然考えている。ただ、どの商品を売り出すとは言えない。視野に入っているとだけ回答する。

―ブランドの拡張に関するキーワードに中食があったが、イメージするものは何か
具体的な商品の話はできないが、シンプルに中食はほとんどが主食料理だ。例えば、コンビニなどに置いてある中食で、主食がメインであるものではないのは、お弁当だけだと思う。ほかは、コンビニの中食コーナーでは、チルド帯のパスタ料理やラーメン、うどん、サンドイッチ、パンコーナーもある。おにぎりコーナーもあるし、カレーライスや丼、ピザ、豚まんもそうだ。中食のほとんどは主食をメインとしておかずはちょっとといった物になっている。それらは、ベースフードの主食を使えば全て完全栄養になるし、糖質や脂質、塩分、精白小麦粉のような健康に悪いものが含まれていないことになる。そうした物は全て展開できる。飲食に関しては、例えばハンバーガーのようにパンで挟んでいる。

―M&Aや海外展開は
M&Aは、予定していることはない。例えば、海外では、フードテックのスタートアップは、ITスタートアップと比べて数が少ない。今後出てくるフードテックスタートアップは、ベースフードの経験を使うことによって大きく伸ばすことができる。また、目利きという意味でも、フードテックスタートアップを目利きできる唯一の存在ではないか。そうした意味でフードテック業界の人が我々の話を聞ききにきてくれる。そうした人々(へ)の、M&Aではないが、投資のようなことも可能性としてはあり得る。

ベースフードは、プラットフォーマーとして様々な会社とコラボレーションしていることから、その資本関係も可能性としてはあると思う。いずれにしてもM&Aに使う予定はなく、まずはベースフードの事業をしっかり残していくことが大事だ。今回の資金調達もM&Aを目的としたものではない。

海外展開については、コストをコントロールしながらやっていくべきで、これに関しては私自身の信念として新規事業でも海外展開でも、お金が解決するものではないと考えている。規模を小さくユニットエコノミクスを見てプロダクトマーケットフィットしたらグロースさせていくというスタートアップの基本手順を踏んでいけば、コストがかからない。そういった形でベースフードも伸ばしてきた。大きなお金を使った時もあったが、その経験を生かして今があり、海外展開においても日本でやってきたよりもよりスマートな形でやっていくことができる。

―味の素との協業を一昨年に発表したが、大手食品メーカーとのコラボ戦略は
我々はもう現時点で、ほぼ全ての食品業界の人たちとコラボレーションしている。というのは、小売りでもコンビニ各社と付き合いがあり、原材料も15種類以上使っていて、OEMの工場自体も複数にわたる。そうした意味では、我々は垂直統合型の従来型の食品会社と違って、プラットフォーマーとして様々な会社と御一緒していく形で味の素に限らず本当に様々な会社の協力の下に進んでおり、今後も進めていく。

―R&D(研究開発)に関して、Deeptechの活用で食感や味覚の操作ができるとのことだが、海外進出の際のローカライズはどうするのか
まず大事だと考えていることは、ローカライズしなくても売れる商品を作ることだ。もちろんパンの好みは国ごとに分かれると思うが、例えば、フランスのパリの一番人気のバゲットを、日本人が食べて美味しくないかというとそうではないだろう。ワールドナンバーワンな商品を作ることが大事で、そこにテクノロジーを使っていく。誰にとっても、これはどう考えても食感も風味も美味しいというものを(作り)、嗜好性の問題にしないということだ。

ただ、テクノロジーの問題でどうしてもできないものがある。例えば、豆を使ったパンはどこの国に行っても豆の味がする。豆を使ったパンだが小麦粉のようなすごい芳醇な香りがするものは、どの国でも作れない。

R&Dとグローバル化の関係では、食品技術の領域では日本はまだまだトップクラスで、かつ、消費者が求める美味しさのレベルも日本は世界トップクラスなので、日本で売れる物や日本でしか作れない物がグローバルに出ていき、大きく人気になる可能性は十分にある。それに関しては、米国に駐在してテストマーケティングした時から変わらない考え方だ。

―しばらく赤字が続くイメージだが、マーケティングコストのかけ方の考え方については
マーケティングに関しては、LTV÷CPA=2以上で運営しているため、そもそも単月では赤字が見えるが、実際には1万円の広告コストをかければ、2万円の限界利益が返ってくることから、長い目で見ればそれは黒字となる。メガバンクを含めた(金融機関から)融資を回転資金として受けていて、見た目上赤字になっているが、ビジネスモデルが違う。作った物をコンビニなどで売るだけではない。定期購買というサブスクリプションで新しいビジネスモデルによる見た目の差だと見ている。

一方で、昨年までは、例えば、売り上げを年間3倍といった形で伸ばしてきたが、今後はそこまでの規模感にはならない。このため、1.5倍程度で伸ばしていく場合には、必然的に新規の割合が減り、広告宣伝の割合は減る。また、オーガニックでの獲得も当然重要なので、商品がより美味しくなり、バリエーションが増えれば、継続率が上がり、過去に止めた人が復帰する、友人からの紹介が増えることによって広告宣伝費を圧縮していくことができる。

―SDGsとの関連でフードロス削減に取り組んでいるが、国内産の食材の活用に関してはどう考えるのか
SDGsも、そもそも項目がいっぱいあるので、全てをまんべんなくやるというよりは、ピンポイントでやっていくべきで、私が最も大事だと思っているのは3番のヘルスケアだ。あとは13番の温室効果ガスの削減。これに関しては、「DRAWDOWN ドローダウン ― 地球温暖化を逆転させる100の方法」という本によれば、フードロスの削減と植物性中心の食生活が温室効果ガスの削減余地のランキングでトップ5となっている。

主食という世界で最も食べられている穀物の13%、皮の部分を捨てている。そこに糖質以外の豊富な栄養が含まれている。それを美味しく主食に含めることができれば、世界最大のフードロスが減らせる。また、プラントベースドミートのようなものが米国で人気だが、そもそも肉が主食であるのは米国だけで、世界での主食は、やはり炭水化物だ。そこに豆類を美味しく含めることが、温室効果ガス削減に大きく寄与できるテクノロジーだと考えている。

一方で、日本の社会課題の解決も大事で、食料自給率を上げていくことや、今だと食料安全保障の問題がある。そこはまた別の社会課題としてリーチしていかなければならない。そこは社会課題を克服するために今考えている。今も両方の物を使っている。

―株主還元について配当や優待の将来的なイメージは
山本陽介CFO:まずは、やはり事業を伸ばすところにお金をしっかりと使っていくことで、配当については、具体的に今検討しているものはない。株主優待などに関しては、当然我々の顧客が株主になることもあり得るため、今後検討の対象になると見るが、現時点で具体的に検討していることはない。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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