24日、インフキュリオンが東証グロース市場に上場した。公開価格の1680円を7.14%下回る1560円の初値を付け、1451円で引けた。丸山弘毅CEOと野上健一CFOが東証で上場会見を行った。

―初値の受け止めは。どのように株価を上げていくのか
丸山CEO:需給などいろいろな理由があり、短期的には一喜一憂せず、厳粛に受け止めながら中長期的な企業価値を向上させたい。当社のビジネスは決済のインフラとして、ここまで時間がかかってきたが、ここからは利益が出てくるビジネスモデルで、かつ、BtoBを中心に市場は大きく伸びるチャンスだと思っている。
業績面では、BtoBの市場を中心にエコシステムを盛り上げていく。そのためにプロダクトを磨いていくし、顧客にもサービスをどんどん提供していく。この大きな市場で我々の新たな次世代プラットフォームを活かして、中長期的に企業価値を高めていきたい。
―創業20年で今上場する背景や感想は
20年間かかったという印象もあるが、1つのサービスで大きく伸ばして上場するモデルよりも、日本のキャッシュレス決済のインフラを大きく変えることを考えてきた。次世代型の決済インフラにはいろいろなメニューがあるが、それが一通り揃い、やっと準備が整った。先にローンチしたプロダクトが伸びて全体でも黒字化でき、投資家にもこのモデルが今後広まっていくことに耐えられると理解してもらえた今が、そのタイミングだった。
―高市早苗新総理大臣にはどんな政策を期待しているか。また、“高市トレード”で日経平均も上がっている状況を、IPOの環境としてどう捉えるか
規律がありながらも財政を拡大していくバランスを取るような話も出ている。経済・財政面は我々にとっても非常に大きなポイントで、発表されている方針で進めることを非常に期待している。
野上CFO:投資家のモメンタムが改善していると感じた。ロードショーを実施する過程で、機関投資家の日本株に対する期待値やセンチメントが、全体として非常に改善しているのは心強く感じている。
それも踏まえて、当社は仮条件レンジやプライシングにかけて期待を踏まえた値付けをしたと考えている。一方で、TOPIXと日経平均の一定の乖離や、グロース指数との乖離を見ると、一定のセクターや規模の会社への投資が選好されている部分もある。
高市政権がスタートアップを重視しており、グロースにさらに期待してもらえると良い。今後は、個人投資家の投資環境にも引き続き一定の取り組みがあり得るので、グロース銘柄に対する投資センチメントの改善が、来年にかけて繋がっていくとありがたい。
―今年は、法人カードを扱うアップサイダーがみずほ銀行の連結子会社になり、インフキュリオンも三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の持分法適用会社になった。資本関係を含めて関係性をどのように発展させ、どのような会社を目指すのか
丸山CEO:みずほ銀行とアップサイダーの動きは重々理解している。対抗するわけではないが、我々はSMFGと法人ネット口座の「Trunk」を手掛けている。
三井住友銀行(SMBC)から機能が拡張されていくとの記者発表があり、それを実現しながら両者のビジネスを増やしていきたい。Trunk以外に新しい事業の検討も進めていくので、SMFGと当社で決済を中心に様々な価値を提供していきたい。
資本面に関しては、当社の経営陣を中心とした中立的な経営が非常に理解されている。幅広くいろいろな企業に技術やコンサルティングを提供することで、我々のレベルも上がり、それをSMFGに還元していく。この関係性が相互にWin-Winとなる。
―Trunkの影響は。全体に対するイメージでも良いので知りたい
あくまでイメージでの回答になる。我々が目指している成長で、売上や利益の比率がSMFGに出資を受けている比率に近づくような構成を見込めると良い。
国内BtoB市場が1000兆円以上あり、今の法人決済比率は0.7%だが、これがどこまで伸びるか。SMBCも含めメガバンクも加わり、我々も自社でサービスを提供しているが、法人決済デジタル比率が、少なくとも10%になるぐらいまでは頑張っていかなければならない。
―創業20年で突破する手段を整えたのだろうが、法人市場開拓の課題は。金融機関のほうがハードルは高いだろう
中小企業のデジタル金融は企業側のリテラシー、情報量を含めて、これまでは追い付いてこなかったが、環境が変わってきている。請求書などがデジタルになって、コロナ禍も踏まえて契約書もデジタルになる動きも出ている。SMBCがデジタルで口座を提供することになったので、両方のモメンタムが合致する環境と見ている。
加えて、我々のサービスの伸びを踏まえると、難しい金融よりも、もっと身近なサービスを広げていく。請求書は紙でもデジタルでも受け取るが、それを入金するのに銀行口座に行く、あるいは、「資金繰りが合わないから銀行に融資を申し込む」ではなく、「請求書が来たらカードで払えば良い」という一般消費者と同じ感覚の金融を、法人でも使えるようにした。
そのような身近なサービスで、手軽に資金繰りを少し改善させ、手間を減らせる。金融業務がデジタルになる、BtoB業界がデジタルになる大きな話と、身近で慣れているサービスの展開が相俟って非常に伸びていくチャンスが来ている。
―ライバル企業はどこか、差別化のための強みは
直接的な競合企業は存在しないと理解しているが、いくつもメニューがあるので、そのメニュー単位、例えば、決済代行や端末では上場している会社が手掛けている。ただ、我々はBtoBに強いし、タクシーの後部座席に置く決済端末など特徴があるものをたくさん持っている。ビジネスモデルとしては近いが、単純な競合ではない。
特に強いのがカード決済で、その発行基盤を扱っているが、そうした分野は新しく参入する企業を中心に提供しており、新規の技術を使いやすい。そうすると直接的な競合はなかなかない。旧来からあるシステム開発会社の基幹システム構築と比較されて、どちらが機能として使いやすいか検討されているようだが、マーケットやニーズが違う。
システムを提供する会社は、言われたものを作り、作ったことがあるものをもう1回コピーのような形で作る。我々はコンサルティングしながら作るので、常に先を見通しながら、仕組みを作り、それをコンサルなどを通じてどんどんブラッシュアップする。そこが当社の優位性に繋がっている。
―後払い決済などでいろいろなプレーヤーが参入しているが、競合優位性は
BtoB決済はいろいろなサービスが立ち上がってきて市場が勃興しつつある。当社の1番の強みは、クレジットカードの仕組みを基盤としていることで、例えば、クラウドサービスなど海外のサービスを日本で使うなどさまざまな場面で利用できる。口座の情報を見ながら与信枠にする、デビットとクレジットの考えを融合して与信枠を設定するようなAPI(Application Programming Interface)を活用して、かなり柔軟な設計ができる。
国際ブランドネットワークにアクセスできることと、APIを中心に柔軟な設定ができる。これが単品のメニューよりも柔軟性や拡張性が高い。それが今後も競争優位性になっていくのではないか。
―実質的な競合はシステムインテグレーター(SIer)で、現在は共同で活動するケースもあるとのことだが、インフキュリオンにできることが広がっていく前提で、それらとの関係性はどうなるのか
我々は、BtoBのアナログな業務を変えていく。市場としては、人の作業や無駄な業務を効率化する、何かを再構築する、デジタルに変えていく観点では、あらゆるIT系企業がユーザー企業とWin-Winの関係で市場を作っていくプレーヤーとして存在している。
そのなかで一部、SIerが持っている仕組みを、我々のものに変えることが起こり得るが、既に一部のSIの会社は当社の株主にも加わっており、共同でプロジェクトを行っている。
例えば、大企業向けの特別にカスタマイズが必要な領域でSIerが関与し、我々のインフラをそこに組み込んだほうが効率的な場合、両者で成し遂げるプロジェクトもある。その意味では、SIerは大きなアナログマーケットを変えていく過程でそれぞれの強みを活かして共同で取り組むプレーヤーと考えている。
―機関投資家は2028年度以降の業績を期待しているようだ。定量的には難しいかもしれないが、2028年度は業績がどのように盛り上がっていく見込みなのか
我々のビジネスモデルは、決済のインフラが一定程度揃って、その利用に応じて収益が伸びる。時を追って顧客を増やしていくと、従量売上が増えて利益が伸びていく。「中期的な目標を2028年に達成するとしたらどの程度の売上・利益になるのか」という意味では、ビジネスモデルと成長性が投資家に評価された。
―中期経営目標である、取扱高(BtoB GTV)の平均成長率約50%、連結売上高の同約25%、連結売上総利益の同30%以上、連結売上総利益率50%以上、連結EBITDA15%以上は、いつ頃までの達成を目指すのか
野上CFO:中期経営計画については、必ずしも具体的な期限を区切って定めていないが、当面の中期的な目標として、株式市場の参加者の信頼にしっかりと応えていくために示している。
―売上が指数関数的に伸びるとのことだが、なぜ売上高を平均で示しているのか
BtoB GTVの平均成長率50%が、我々の最も重視している指標だ。この指標に紐づいた“我々のエコシステムを通っていくトランザクション”が増えていくごとに得られる手数料としての売上高の、全体に占める割合が増える過程で、GTVの成長率が50%により近づいていく構図となっているので、「指数関数的に」と伝えた。
平均成長率は、この売上高の成長率を目指して毎年計上していくものだ。世界的に見ても、投資家は決済を取り扱う会社に対して、「通っているトランザクションからどれだけ収益を得ているか」と質問する機会が多いため、粗利益を敢えて開示している。粗利益を重視して、トランザクションごとの成長性とともに、収益性の確保を伝えたいので、売上高と総利益について、それぞれの平均成長率で定めた。
―年平均50%成長について、Trunk以外のパイプラインはあるのか。SMBCで伸ばしていくのか、それ以外の案件でも伸びていくのか
丸山CEO:SMBCの発表前から100%成長しており、既に我々の仕組みを利用している企業も、エンドユーザー企業を増やしている。新しく我々の仕組みを利用する企業も増えているので、層を重ねながらの成長率と想定している。SMBCもその層の1つではある。SMBC以外にもいくつかパイプラインがあり、そういった新しい企業による伸びも含めての50%成長だ。
野上CFO:GTVについて補足すると、今期の着地は3800億円程度を見込んでいる。SMBCとの取り組みが、引き続き構築途中なので、今期の業績としては、我々のオーガニック成長で3800億円をある程度達成していきたい。
―直近の第1四半期ではペイメントプラットフォーム(PPF)事業が赤字で、それ以外は黒字だが、PPF事業は先行投資期間にあり、長期的には大きな成長の柱なのか
事業の状況として四半期対比でも成長していく側面もあり、世の中のトランザクションのボリュームはどうしても下期に偏重する。我々のコストは、経常的に動いているものが必ずしも売上と連動するわけではないので、第1四半期は収益が出にくい。期が進むごとに売上高やセグメント収益でも、第1四半期の損失をできるだけ取り返したい。
―PPF事業でのセグメント目標であるCAGR35%以上、店舗向けのマーチャントプラットフォーム(MPF)事業での目標CAGR15%以上についてもう少し詳しく聞きたい。MPFは成長しているものの、どんどん成長するイメージが湧かない。PPFはこの成長を維持できるのか
丸山CEO:MPF事業に関しては、端末と新規事業の2つがある。我々が提供している端末は例えば、タクシーの後部座席にあるタブレットで、それがどんどん広がる。タブレットと一体にして決済できるものを組み込むのが強みなので、店舗向け端末での争いというよりも、改善余地がある業界のDXに組み込むものが伸びて継続成長できる。また、アクワイアリングシステムが今期にローンチするので、この成長が加わると15%は十分に達成し得る水準と見ている。
PPF事業は、BtoBで使われる「Xard(エクサード)」と「Winvoice」。Xardはクレジットカードの発行基盤で、法人カードなどに利用される。Winvoiceは企業の請求書をカード払いにできるもので、これらが大きく牽引している。これ以外にも「WalletStation」がある。これは大きなプロジェクトを順次、時間をかけながらローンチしていく。高成長のBtoB事業と大規模プロジェクトのWalletStationの業績ミックスでCAGR35%が継続する。
WalletStationの大きなプロジェクトは、JR西日本や、直近では北國銀行など大きな企業が導入し、足の長いものが多い。受注したものや受注が見込まれるものを見据えており、安定的にしっかり伸ばしながら、BtoB決済事業が牽引していく。
―いろいろな決済方法に対応できるが、ステーブルコインやデジタル通貨などによるBtoB決済について、将来性をどう見ているのか
ステーブルコインや預金トークン、CBDC(中央銀行デジタル通貨)などさまざまな動きはあるし、我々もいろいろな検討に参加している。可能性としては十分にあり、ビジネスのチャンスの1つと見ている。ステーブルコインや預金トークンなどがいろいろあっても「どう使うのか」、「果たしてコストが下がるのか」など議論があるが、構造的にはこういったものが広がっていく素地は十分にある。
Trunkで提供できるサービスは、口座もカードもある。預金トークンやステーブルコインなどいくつかの手段が出てきたときに、エンドユーザーにとっては、「それらを統合して(残高が)いくらあるのか」、「与信枠がいくらあるのか」が重要になってくる。支払を受け取る側も、「どれでいくら受け取る権利があるのか」となるので、我々のようにいろいろな決済を統合する仕組みは、預金トークンやステーブルコイン、デジタル通貨も含めてますますニーズが高まってくるのではないか。
―少子化で国内のパイが減る。海外展開は
日本ではBtoB市場の効率化は大きく伸びるチャンスで、各企業が生産性を高め、自動化や、より効率的なキャッシュマネジメント、資金繰りの改善も含めて、大きな可能性がある。
日本でやることは多いが、一気通貫の決済インフラ型ビジネスはグローバルでも通じる部分がある。まずは国内に集中していくが、海外企業からの問い合わせもあるので、どこかのタイミングでグローバルも検討できる。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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