5日、技術承継機構が東証グロースに上場した。初値は公開価格の2000円を35%上回る2700円を付け、3200円で引けた。2018年3月に設立。製造業を連続的に譲り受け、売却せずに事業強化や経営支援を行っている。新居英一社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

―社長の経歴が証券会社や産業革新機構などだが、このビジネスにたどり着いたきっかけは
創業の経緯から話すと、何をやるかはあまりよく分からなかったが、大学のときから会社を自分で作ろうと思い、その前に10年間修業したほうが良いと考えた。当時、プライベートエクイティに行こうと思ったが、新卒での採用がなかったので、みずほ証券に入って、負債のなかでもリスクの高い部分への投資であるメザニン投資を3年間やった。
その後、産業革新機構ができることを2009年7月に見て、これは非常に面白そうな会社だと感じ、2009年12月に入った。そこでプライベートエクイティの投資を7年間程やっていたが、その最中に2つの転機があった。1つは、ダナハー・コーポレーションを2010年頃に知ったことで、製造業を買収して大きくなる事業体があることを学んだ。もう1つは私の隣に座っていた人が、ヨシムラ・フード・ホールディングスに出資していて、業界は違っても、日本でも食品製造でM&Aをきっちり遂行して上場するというモデルが成立するのだと非常に勉強になった。それにより、産業革新機構にいたときに技術承継機構のモデルは機能するだろうと考えていた。
その後2016年12月から1年半、世界一周に行ったなかで、日本が尊敬されているものは、漫画とゲーム、アニメ、ものづくりだと感じた。「ものづくりで何かやりたい、日本で閉じた事業は作りたくない、グローバルに勝負したい」と感じた。ものづくりは輸出もでき、海外でM&Aもかなり成功している会社があるので、将来的に海外で買収を手掛ける機会もあるだろうと捉えて、2018年6月に帰国しその翌月に会社を立てたというのが創業の経緯だ。
―世界一周はどのような経緯だったのか
ある程度お金を得て落ち着いていたので世界を一周したが、世界経済に興味があったので、面白い国があったら投資したいと思い、各国のマクロ環境をかなり分析していた。どのような生活をしていて、どのような経済状況なのか現地を見ることが投資にとって1番いいと思うので、世界一周をしながら面白い国や政治、経済の状況を見ていた。そのなかで、ものづくりがいいと感じた。
―技術承継機構という社名だが、とても分かりやすい一方で、今時のベンチャー企業らしくなく、政府系機関のような名前だ。社名に込めた思いは
3つあり、1つは非常に分かりやすくて、我々がやっていることをそのまま表している。2つ目が私が産業革新機構におり、大義があるところでは非常にビジネスをやりやすいと感じた。産業革新機構の良いところと悪いところは、もちろん皆よく知っているだろうが、ビジネスを行うにおいて大義は非常に必要だと思い、この名前をつけた。3つ目はそれと関連して、我々も上場企業なので営利企業でボランティア活動ではないが、パブリックマインドを持っているという思いを込めてこの名前にしている。
―上場するにあたって特に注力したことはなにか
2つある。上場企業は継続した成長が求められると考えている。我々の成長の根源はM&Aをやっていくことなので、上場に備えて、今後も成長を示せるようにM&Aをしっかりやってきた。2つ目は管理の体制を整えてきたところだ。上場企業になるのは、公的な会社になるということなので、タイムリーに数字を出していく。あとはコンプライアンス違反があってはいけないので、そこの体制を整えること、この2点に注力した。
―なかなか珍しいビジネスモデルで、日本だとヨシムラFHDやGENDAも少し近いような気がするが参考にするモデルはあるか
すごく参考にしている。連続買収企業(Serial Acquirer)と位置づけているが、どういう事業体なのかというと、純投資志向のバークシャー・ハサウェイやソフトバンクグループと、統合志向のゼネラル・エレクトリックとニデックがあるが、我々はどちらのスタイルでもなく、自主独立を重んじるが、管理改善をしっかりやる。
日本のヨシムラFHDやGENDA、米国のダナハーCをベンチマークにしている。北米と欧州には、このような事業体が多くある。特に製造業でM&Aを繰り返している会社では、スウェーデンのIndutradeが、創業から製造業の会社を220回買収し、時価総額は1兆5000億円だ。Lifcoも似たような事業体で今まで製造業を201回買収していて、1兆円以上のバリエーションがある。Halmaは英国の会社だが、比較的大きな会社を買収していて、時価総額が2兆円近い。ダナハーCは20兆円以上あり、成熟した国でこういうモデルが機能するなら、いわんや日本をやと私は考えている。日本だと製造業で確たるダイレクトの競合はいないが、他の業種だと、ヨシムラFHDやGENDA、ジャパンエレベーターサービスホールディングスは、我々が参考にしている会社で、ヨシムラFHDとGENDAは非常に親しくしている会社でもある。
―自主独立を重んじつつ、管理をしっかりやるのは実際は難しいと感じる。どのようなノウハウがあるのか
管理の手法としては、2つある。1つは上場企業になることで、タイムリーに数字を出さなければならないことだ。また、コンプライアンスとガバナンスを構築しているのが我々の特徴だ。そのため、全部の会社の持分を100%保有し、取締役会のマジョリティーを取っている。銀行の送金権限も基本的には抑えており、これはお互いにとって非常に望ましいと考えている、不正が起きない体制を強固に構築している。
一方で、日々のオペレーションに関しては、箸の上げ下げにごちゃごちゃ言うのではなく、それぞれの会社の社長に任せる。社長ときっちりコミュニケーションを取って、一緒に議論しながら進めている。必要に応じて我々も現場の人と話し、実際にどうなっているのかを理解して、我々なりの視点を社長に提供する。
また、上手くいった事例は横展開にすることが非常に大事で、これは各社の取り組みもそうだし、社長とのコミュニケーションも同じだ。例えば、60代の社長にはどういったコミュニケーションの取り方が良いのかや、後継者を育てることが大事で一緒に育てて上手くいったから他の会社でも同じことをやろうかというような、ノウハウをマニュアル化している。それを全社員が見られるようにし、それを譲り受けた会社に提供できるように再現性がある取り組みをしている。
―人手不足への対応は
人手不足が各社の最大の課題だが、現場の人も管理の人も採るのが難しくなっているし、後継者をどうするのかが皆の悩みだが、現業が忙しくて採用に手が回っていない会社が多くある。例えば、ハローワークに求人票を出しているがそれっきりで、ハローワークのほうを向いて祈っている。そんな祈りは通じないので、きっちりハローワークの人とコミュニケーションを取ったり、高卒の人を採るのであれば、高校の先生に9月1日に連絡して、あとは様々な媒体に出したら、ミニマムに課金する。そういったノウハウを各社に転用することで、採用は結構上手くいっていると感じる。
―製造業に特化しているが、今後の展望として製造業と密接に関係があるような他業種に対しての事業展開は考えているか
製造業に特化しているが、1点付言すると、製造業のなかで分散することを非常に意識している。製造業のなかで例えば、半導体に特化するような考えを置きがちだが、それは非常に危険だと思う。やはりマクロエコノミーのダウンターンは必ず来ると見ているので、半導体や自動車、化学、機械など様々なリスクを取ることで、不況に強い体制を作ることを意識している。
今後、製造業以外に取り組むかというと、商社やメンテナンスメインでやっているところは常に検討している。ただ製造業以外はやる必要がなく、フィールドが広くて、ターゲットとしている会社は12万社もある。非常に広大なところに我々は取り組んでいるので、あえて製造業以外をやる必要ない。海外の成功事例を見ても、製造業とそれに関連した業種に特化して200社ぐらいスウェーデンの会社もM&Aしているので、そのような会社の軌跡を追っていくだろう。
―今までに買収した会社は、売上高の比率としては国内向けが多いのか
そうだ。今までの傾向として15~20%程度が海外の売り上げになっているが、顧客の最終的な売地は海外というケースがやはり多い。例えば、日本の半導体製造装置向けに部品を出していると、その後ろは誰かと言えばTSMCやサムスンだったりする。最終的に取っている海外のエクスポージャーという意味では半分くらいと整理している。
―投資家周りから、海外の比率をもっと上げてほしいなどの意見はあったか
特になかった。
―買収してみたらうまくいかなかったとか、経営者を変えなければいけない、結果的に売却せざるを得ないといった事例は今までに無かったのか。また、今後あり得るのか
もちろん事業なので10社譲り受けて10社絶好調というのはないだろう。少し厳しい状況に陥っている会社はあるが、全体としてはきっちりEBITDAを出している。苦しい会社に対しても支えるという方針だ。でこぼこがあるかもしれないが、元々長い目線で、この技術だったら最終的にはもっと伸びると見てやっているので、支えていく。
いずれ売却するかしないかみたいな議論は出るかもしれないが、現状は考えていない。やはりレピュテーションが大事だと思うので、「儲かるから売る」や「厳しいから売る」というのは、言っていることとやっていることが違うとなるだろう。そうした言行不一致は非常に良くないので、あくまで譲り受けた会社を支援して苦しい状況だったが、今黒字を出している会社が実例としてあるので、自信を持ってやっている。
―上場すると、株主からは短期志向な意見を出してくることがあると思うが、投資家周りでこのような意見が出たことはあるか
投資家の属性によって話すことは変わるだろうが、マクロ環境がとにかくプラスになっていると言ってもらえている。日本の少子高齢化に伴う後継者不足、2つ目は日本の低金利を活かしたビジネスモデルだというところ、マクロの観点で我々は評価をもらっている。それ以外のバリュエーションをどう考えるかは投資家自身の判断だろう。
―業態の特徴から利益を捕捉しにくいが、調整後EBITDAで分かるのか
非常にいい指摘だ。昨年の成績を2月に出して、同時に2025年12月期の着地見込みを出そうと考えているが、今後のM&Aは入れない数値を検討している。一方で、我々はM&Aが本業なので、今後M&Aをしていくたびに基本的には上方修正する。それが単年度で見ると、初期的に例えば費用がかかることなどが起きがちで数値がよく見えにくいところもあるだろう。その場合は2026年の12月期も含めてフルイヤーでM&Aが寄与するとこのようなEBITDAになるといった開示をしてコミュニケーションをとる。GENDAもこのようなやり方をしている。数値が外から見にくいところがあると思うので、開示し、マーケットの皆と対話しながら、どれが1番望ましいかを考えていきたい。
―上場企業のTOBについて。買収する層は割と儲かっている会社だと見ているが、一方で上場企業を買収するとなると、PBRが1倍を割っている会社などがターゲットになると思うが、その辺りのイメージはあるのか
上場企業でもEV/EBITDAで見るとかなり割安になっている会社もある。きっちり収益を出せているが、バリエーション上で割安という会社もあるので、そのような会社と一緒になりたい。
―PBRが1倍を上回っていても全然関係ないのか。買収の対象になるのか
PBRはあまり見てない。ブックバリューよりキャッシュフローのほうが大事だからだ。
[キャピタルアイ・ニュース 北谷 梨夏]
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