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上場会見:Will Smart<175A>の石井社長、交通を最適化

Will Smartが16日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の1656円を4.59%下回る1580円を付け、1722円で引けた。交通や物流業界などの事業課題に対して、 DX 技術を活かしたソリューションの企画や提案、ソフトウェア受託開発、運用支援を行う。複数社の空席やダイヤ情報などを統合して、バスターミナルや空港の利用者向けに情報を表示する「総合情報配信サービス」などを提供する。ゼンリンデータコムの社内ベンチャーとして2012年に設立された。石井康弘社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

ネットワークがつながりにくい移動体に関しても、365日24時間安定的にシステムを供給する技術を持ち、これまで大きな会社でしかできないだろうと言われていた社会交通インフラのシステムと運用について実績を積み上げてきた点が強みと話す石井社長

―初値が公開価格を下回った
仮条件が決められた状態で新しいルールが適用され、需要予測のなかで、より高い金額を公募価格としようと、昨年から決まったルールに準じて公募価格が決まった。当初の価格から見ると需要が高くなるであろうと20%上昇させた金額が、設定されたことが前提としてある。

それに対して初値が1580円になり、元々のニーズに近い、それを上回るものを超えたいという思いが非常にあった。ただ、日経平均株価が非常に下がっている状況で仮条件に近いところ(仮条件上限は1380円)に落ち着いたので、一定の需要にマッチした価格になったのが正直な印象だ。許容できる範囲内でスタートできた。株主に一定の期待があると理解しており、大事なのは今後のことなので、期待により応えていけるように精進していきたい。

―上場のタイミングについて、沿革も含めて聞きたい
上場をきっかけに株を放出したJR九州を始めとした事業会社6社との資本・業務提携を2019年度に結んでいる。同時に、ゼンリンの株式の保有比率も薄めていった。この時点で既に上場を目指すことは、ゼンリンも含めて機関決定をしていた。ゼンリンの100%子会社から少しずつ資本を希薄化させていくなかで、独立性を高めていこうというロードマップが作られた。

そこから一般的な上場準備に入っていくが、当社は“移動”を事業の中心とした顧客との取引がほぼ全てで、コロナ禍で顧客の業績が一時的に非常に急降下してしまった時期と重なった。2021年度や2022年度は当社の業績も影響をかなり受けた。ここで当初の計画より少し後ろ倒しにせざるを得なくなったというのが実態だった。

一方で今年度、黒字の基調に戻り、かつ足元を見ると、顧客の業績が非常に良好だ。例えば、インバウンド顧客の回復や日本の国内旅行や移動が復活しており、顧客の決算が軒並み良好だった。それに相関する形で我々も復活し、来期以降のパイプライン上にもそういった先行的な投資の部分も複数入っている。タイミングとしてはここから伸びていくことができ、過去から上場を決めていたという2つの条件を照らし合わせると、今年を発射台にすることが最も良く、ここからしっかり伸びていけるだろう、伸ばしていきたいという意志も含めて、次のフェーズに上がるためのスタート位置として定めた。

―コロナ禍で一旦遅らせたとのことだが、条件が整ってすぐに上場したのか。もう少し時間を置かなかったのはなぜか
内部統制の観点では何ら問題ない状態を作っていた。あとは事業性の部分で、我々の観点では、昨年度の決算から今年度、来年度という向こう3~4年ぐらいのスパンで見ると、ここからもう1回伸ばしていけるような市場環境にあると見ており、ここで成長資金も取り込むほうが、成長の機会を獲得できる可能性が高いと判断した。

―何社かの事業会社株主との関係は
筆頭株主のゼンリンは、当社が社内ベンチャーとして立ち上がった経緯もあって子会社としてあった。今回、株式の一部が放出され、関連会社となった。ゼンリンは、モビリティの分野では、位置情報・地図基盤で日本唯一ぐらいの会社になっている。彼らの地図・位置情報基盤を活用して自社のソリューションを高めていく。もう1つ、ゼンリンは全国に自治体の取引口座を持っている。その営業力で当社のモビリティのプラットフォームパッケージを、彼らと一緒に販売していく。

ENEOSは2019年にモビリティ・サービスを新規事業として始めて、当社はそのなかのENEOSカーシェアというサービスのシステム構築から運用・保守を担当している。カーシェアを中心に、周辺領域に関しても協業の検討をしている。そういった新規事業を手伝っていく関係が続いていくと考えている。

飛島建設は、同社が新規事業で始めた「e-Stand」いう事業があり、これは建設現場のDXを推進するプラットフォームだ。2019年に資本・業務提携して以降、事業が続いているので、これもまた事業を推進するうえでの関係維持となる。

当社は営業スタッフ数は非常に少ない会社なので、岡谷鋼機からは販売パートナーとしてこれまでもサポートを得ており、今後も引き続き協力してもらう。同社は名古屋の会社で、新しいモビリティ分野での協業も模索している。

―自治体と連携して、公共交通の課題をこんなふうに変えていけるのではないかというイメージがあれば聞きたい
地方部では需要が減ると同時に、供給力の不足が加速度的に進んでいる。鉄道も一部にはあるがバスは特にそうで、路線網の維持が非常に難しい。熊本では日本で初めて5社による共同経営、地方交通を維持するために独禁法を適用除外にして、事業者間の連携をある程度スムーズにする取り組みが法律上認められている。

それに基づいて各社が持っている売上や乗降客の人数、路線のデータを当社が分析する。その結果に基づいて路線を統廃合し、新しい料金体系を作るといった最近よくあるEBPM(Evidence Based Policy Making)というエビデンスに基づいた政策立案を手伝っている。

このような取り組みを皮切りに、公表しているなかでも数地区の実績があり、今年度も複数の地区から話が寄せられている。地方交通を再編し効率化していく手伝いを、データを中心に行うところから始めたい。

次に、経営統合がされ、新しいモビリティ・サービスの必要性が出た時には、そこに新しいシステムが必要になる。将来的には、そのようなシステムの構築も視野に入れながら、整理の手伝いをしていくのが中心になる。

―総合情報配信サービスについて、何年か前に上場した表示灯<7386>は駅構内や周辺で情報を表示しているが、棲み分けているのか競合するのか、あるいは協業するのか
棲み分けるのが最も近しいと見ており、表示灯は広告収入を得るためにデジタルサイネージを展開している。そのなかで、周辺地図の案内などを無償で提供するビジネスモデルだと思う。

当社は企業のソリューションを手伝う立場なので、顧客が望むもの、またはその現場にとってより良いものを一緒に考えて、それぞれの地域・場所によって最適解を見つけていく。当社はソリューション提供の対価を得るビジネスモデルなので、そこに大きな違いがある。

―今までトラックで運んでいたものを鉄道や船舶での運搬に切り替えるモーダルシフトへの言及があるが、モビリティのモード間を横断するシステムを手掛けることは可能なのか。そういった事業の可能性についても聞きたい
当社がこれまで取り組んできたのは、個社ごとのシステムの効率化や、新規サービス、例えば、カーシェアを作り、それに類似するようなシェアリングサービスのシステム基盤の構築だった。今後そういったものをシステム間でつなげていくということ、それがMobility as a ServiceのMaaSになると思うが、そういったところにつなげていきたい。

まずは個社ごとにはなるが、それらを横断的につなげていくことで、よりシームレスな、、旅客であれば旅客向けのMaaSサービスになるだろうし、物流などでも同じ考え方と思うので、点を押さえて、その後に点と点をつなげていくことは将来の形としてはあり得るのではないか。

―ファニテックの買収もあり、システムの内製化を進めているだろうが、M&Aの方向と内製化の余地は
ファニテックの買収をきっかけに内製化を進めているのは事実だが、内部で掲げ、目標としていた内製化比率の目標を達成するような傾向で進めている。M&Aによる開発体制の充実について、有効性は社内でも一定程度検証できたので、今後もっと活用できるだろう。

100%には至っていないので、今後は採用を軸にしながらも、場合によってはその成功体験を活用することもあり得る。余白があって、今後内製化を進めていく方向で実現していきたい。

―業績は第4四半期に傾斜するのか
そうだ。

―ストック売上比率の中期目標は
目標として公開するものは作っていないが、これまでの傾向値を見るとストック型の売上は相対的に非常に伸びているので、そのペースを維持していきたい。また、もう少し拡大していきたい。現時点でストック売上の成長率が年率平均26.2%プラスの状態なので、これよりは上回るペースで増やしていきたい。

―調達資金の使途は
大きなところでは、開発体制を中心とした内部体制の充実がポイントになる。内製化をより進め、自社開発サービスに回す人材を増やさなければならない。もう1つ、内部のプラットフォームの強化に関しても投資が必要な状況だ。人の部分と自社の商品のところで、開発のある部分としては自社のサービスを作る人の部分に資金を回していく。

―株主還元の方策は
成長過程にあるので、配当に関して利益は成長投資に回したい。自社の成長をもって株主の期待に応えていくのが主たるものと考えている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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