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上場会見:カウリス<153A>の島津代表、“悪い人情報”を共有

カウリスが28日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の1530円を87.91%上回る2875円を12時53分に付け、2957円で引けた。マネー・ロンダリングの検知サービスをSaaS型で提供する。独自のアルゴリズムでインターネットバンキングの不正送金などを探知する「Fraud Alert」は、銀行や証券会社のほか、膨大な個人データを持つ通信会社やインフラ事業者に利用されている。一般社団法人キャッシュレス推進協議会の不正利用関連情報確認データベース「CLUE」も手掛ける。島津敦好代表が同日12時に東京証券取引所で上場会見を行った。

ゼロサムのデータビジネスであり、モニタリングが義務付けられる金融機関のシェア50%を最初に獲った会社が勝つと話す島津代表。積極的な官民連携で規制をビジネスに活かすセキュリティベンダーは国内唯一ではないかという

―上場の受け止めと、午前中に値が付かなかったことに関して
少しドキドキして、そわそわしているが、上場した後に粛々と事業を進めていかなければならないので、株価の顔色を伺わないようにと従業員にも自分にも言っている。結果的に国益が守られるタイプのビジネスなので、株価に踊らされずに事業に集中していく。

―不正検知といえば、2020年にかっこ<4166>が上場した。違いは
彼らは基本的に年商10億円ぐらいのeコマースをターゲットにするので、スモールビジネス向けのSaaSという感じだが、我々はエンタープライズの金融機関にフォーカスしている。

日本の金融庁や警察庁のマネロン対策のガイドラインに準拠するプロダクトが勝つが、エンタープライズにフォーカスすると、逆にこちら側から「昨年1年間で、フィッシングの事故はこんなことがあった、口座の転売はこういう現状になっている。とするならばどういう打ち手を打つべきか、こういう事をモニタリングすべきだ」と政策提言して、その下でガイドラインが変わる。

ガイドラインが変わると、我々(の事業)にローカライズされていくので、参入障壁が高い。戦い方は、官民連携と、ターゲットが資金移動業のエンタープライズ。ここが大きな違いだ。

―クレジットカードと金融機関の不正について、金融機関のほうは各団体で連携して対策が進んで被害額が少ないと言われてきただろうが、今年になって急に増えたのは、生成AIの影響か
2つだ。生成AIが1つと、スマートフォンの普及率が2022年12月に94%を超えた。スマホを持たない人のほうが少なくなった。今はドコモやソフトバンクのショップに行くと、高齢者向けの教室がある。高齢者がいきなりスマホを持たされて、「○○銀行です」、「○○クレカです」と言われると素直に情報を入力してしまう。注意喚起をしなければならない。

これは構造的な問題で悩ましいのが、日本では、例えば、我々が犯行グループ同士で、「○○の銀行をやっつけて盗もうぜ」とやり取りをしたとしても、“黒”だという判定が出て、捜査令状で“黒”と言われないと、“悪い人情報”は流通してはならないという法律になっている。

米国ではFBIが「この人は危ない」と推定したら通信を傍受して、「何か怪しいトランザクションをしている」となったらメールとか電話を傍聴するが、日本はそれがないためにフィッシングメールが送り放題になっている。送っている人は誰か分からないがフィッシングメールがバンバン送られている。

日本には通信の秘密があるので、犯罪者と特定されるまでは送り放題になっている構造がある。どこかのタイミングでメスを入れないと、日本がフィッシングメールの送信件数が常にトップ5前後にいるので、官民連携していかなければならない。

―クレジットカード業界への進出の見込みは
二次元コード決済や後払い系の会社ばかりが顧客になっているが、CLUEというサービスを活用してクレジットカードに持っていかなければならない。二次元コード決済から始めた理由は、当時○○Payで事故が多かったので、そこで「“悪い人情報”を共有しよう」というのがあった。

二次元コードはあくまでもインターフェースなので、クレカや銀行からチャージするとなると、そのチャージ元が盗まれたら悪い人に使われてしまう。二次元コードをきっかけに、「クレカと銀行でもCLUEを一緒に使えませんか」という流れを作っていくことが、今年以降のチャレンジだ。

―長期的な成長戦略は。どの程度の規模の事業にしたいのか
マネロン対策市場がようやく2兆円まで拡大したが、そのほとんどが労働集約のヘッドカウントの人工商売なので、これをDXやデータを使ってひっくり返しての我々のビジネスになる。データ化すればもう少し安価にオペレーションが回せるので、現在の2兆円を頑張って大きくしていきたい。

TAMに関しても、GDPに占めるマネロン対策の比率が、欧米に比べて日本は小さいので、伸び代は大きい。粛々と事業を大きくしていきたい。

―他社とのアライアンスやM&Aの考え方は
M&Aは考えるフェーズではないと思う反面、アライアンス先は特定の株式会社というより、顧客と政府と考えている。今年の1月17日に金融庁で講演して、「こういう金融犯罪が世の中に起きていることをまず御認識ください」、「こういう打ち手があります」と話した。世の中で起きていることを知ってもらい、週次に近い形で情報交換をしている。

鮮度の高い情報を霞ヶ関に伝えることで、正しいガイドラインが早く作られる。ガイドラインが早く生まれると金融機関が準備し、国益が守られるので、官民連携を1番やらなければならない。

目の前で事故が起きているのがどういう手口なのか知っている人はまだ少ないので、警察庁と金融庁、経済産業省、総務省デジタル庁の担当者とやり取りしている。そういった人々に広く、目の前で起きている国益の毀損に関することを伝える。これが我々がやらなければならないことだ。

―事業会社株主のソニーグループと電通総研、セブン銀行などとの関わりは
ソニーとは2017~2018年に、彼らが保有しているサイバーセキュリティチームの人たちと経験の交換をして、ある顧客に商品を収めた。ソニーもサイバーセキュリティーに相当投資をしているので、彼らとのアライアンスのため株主になってもらった。

電通総研は、FINOLABという当社の入居先の運営主体で、彼らも金融機関の顧客がたくさんいるので、当社のサービスを提案してもらうパートナーとなってもらった。セブン銀行は顧客であり、電通総研を通じて商品を納めていた最初の顧客の1社だ。セブン銀行と電通総研とでプロダクトをバージョンアップしてきたので、プロダクトマーケットフィットの際に、両社に力添えを受けた。

―今は不正対策がメインだが、本人らしさを250項目で確認できるので、中長期的に、マーケティングや与信管理領域への応用は可能か
犯罪者かどうか、危ない事をやっているかをチェックするのが我々のマネロン系だが、与信チェックも、「ファイナンス的にこの人は大丈夫か」とチェックする。当社の顧客でも、与信が全然通らない人が、虚偽の免許証を作ってクレジットカードを作り始めることがあるので、周辺領域と思う。我々が犯罪者を抑止するとかダークサイドに落ちたユーザーを見付けるとなると与信マーケットに足が1歩入ってくる。

―株主還元策は
まず、事業を通じて株価を上げていくとことが約束の1つだ。当社の場合、黒字化して累損も解消している。しかも、今期は営業利益率が高くなるので、内部留保を配当で還元する。

―タイミングは
これから検討する。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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