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上場会見:JSH<150A>の野口会長兼社長、医療の知見を農園で

JSHが26日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の456円を95.83%上回る893円を付け、806円で引けた。精神科訪問診療コンサルティングや訪問看護の「在宅医療事業」と、障害者雇用支援事業「コルディアーレ農園」などの「地方創生事業」を手掛ける。障害者雇用支援では、都市部と比較して就業機会が少ない地方の障害者による農園(水耕栽培)での就労を通じて、サービス利用企業の法定雇用率充足を助ける。野口和輝会長兼社長が上場会見を行った。

野口会長兼社長は、訪問看護事業でのノウハウの蓄積を障害者雇用に活かすまでの経緯についても説明した

―初値が公開価格を大きく上回った
高い評価でありがたいと素直に思っている。

―ありがたいとのことだが、気持ちの引き締まり方や純粋な感想というか、驚きか想定内かというのがあればひとこと
当然のことながら初値を割るとか、一気に上昇するということもあるが、事業の拡大を継続して、地方創生事業のなかの切り口としては障害者雇用を継続して伸ばしていくことが株価に反映するのではないかと考えているので、そこは慎重かつ大胆に攻めていく。

―野口社長が以前経営していたN・フィールドに似た事業だろうが、新しい会社では、どういう方向性を追求していきたいのか
N・フィールドは全国47都道府県に訪問看護、特定のクリニック・病院と一緒に在宅事業をするのではなく、広く浅く官庁関係、保健所や役所も含めて、認知を上げていくのがN・フィールドのやり方だった。今回の在宅医療事業は、コロナ禍の前にクリニック・病院ともに、患者を待っているのではなく、医師に往診してもらう。1人でやっているクリニックの医師でカルテが3000~6000枚ぐらいが平均だ。

60歳以上の認知症の患者がかなり増えてきた。増えると受診に来なくなって、それが寝たきりになると、近隣に迷惑をかけないが、それまでは、徘徊や昼夜逆転があるので、その部分で「先生、そろそろ往診診療をしませんか」という。それを私自身がスタッフも含めて、医師とともに往診診療を行っていたらコロナ禍になった。

全国が、感染症の関係で往診診療が爆発的に受けて、関東、特に東京23区だけで1万訪問ぐらいをすっと受けられるようになった。当社の訪問看護がそれだけの仕事ができるようになってきた。それは各医師が往診診療することによって、専用の訪問看護の看護師をこちらで用意する。クリニックは、看護師は少数で事務員を多くして1日50~60人の患者を診察する。

医師用に在宅事業を作り上げていくので、給料の要らない看護師を設置するという真逆の形を取った。以前、N・フィールドを作った時、勢いよく出店して利益も出て、東証1部(当時)にも行った。

その時は、看護か介護か分からなかったのが世の中だった。「なんでそんな離職率の高い事業を上場させるのか」、「介護と一緒の報酬であれば採算が取れないだろう」という話もあった。看護師は報酬が(介護の)2倍ほどもらえるし、女性の職場なので結婚を機に退職し、離職率は高いが、70万人の看護師がもう一度職を探す。毎年5万人の看護師が出ると言っても、なかなか理解し難かった。

しかし、N・フィールドを作り、それが市場に出て2万ほどの訪問看護ステーションが47都道府県に設置された。看護師が医師に営業するのは、逆さまなことなのでなかなか難しい。医師に往診してもらうと、既存の患者が増えていくので、雛形を取ったが、今の在宅医療の事業のなかでやっている訪問看護や介護がそれを受けていけばWin-Winになると思った。どんどん推し進めると、「ちょっと野口、やっていることが違うのではないの」となるだろうが、一旦止めて、それを今、開示している状況だ。

そのノウハウを九州に移動させて、特に精神障害者を5割程度は農園で雇用している。その部分の雇用を維持できることで、本来であれば役所は障害者年金で面倒を見なければならないものが、東京の上場会社が社会保険も給料も出してくれる。田舎からすると、“外貨” を稼げて雇用が生まれて、そこにシルバー人材センターの人が、3対1の割合で管理監督者として雇用してもらえるので三位一体ではないか。

ただ、金儲けもさることながら、事故などが起きると近隣に迷惑がかかる。大分県と佐賀県、宮崎県で、試験的に訪問看護も併設して、地域の医療機関や保健所、役所にも見学してもらう。九州でも宮崎県にかなり出店を多くしているのは、ちょっと辺鄙で陸の孤島と言われている場所があるためだ。

そこに5~6店舗を出店することで、地元の農園長や生まれ育った人たちが、コミュニティを作れるという雛形をどんどん出していけば、他府県でも、障害者雇用はいろいろな形でやっていける。当社としては責任と開示を大前提として、初の障害者雇用をメインとした上場会社としてできたので、指摘も受ける形で、全面にこういう形を取れれば良い。

―障害者雇用を取り巻く環境を踏まえて、強みと今後の展開は
法定雇用率が0.4%上昇することで11万人の新たな雇用が増加することもあるが、九州には障害を持った人が100万人ほど住んでいる。そのなかで働ける20~60歳代までに絞ると、30万人ほどがターゲット層となる。今は千数百人で今後、1万人程度まで伸ばしていくに当たっても、障害を持つ人に雇用を生むことに関しては、何の支障もなく(自然に)進めていけるだろう。

―それを実現するための強みを今一度聞きたい
在宅医療事業で、精神も含めてノウハウを蓄積しているので、それを現場に注入しやすい。もう1つは、九州で展開しているが、各農園のヘッド、トップに関しては、指導する部分は福岡や東京から一時的に派遣するが、その地域で生まれ育った人たちを教育して育て上げているので、風土環境も含めて順応していくのではないか。

―農園というとエスプール<2471>が競合だろうが、差別化ポイントや、今後のバッティングについて
宮崎洋祐取締役:バッティングは考えられる。農園を使う、雇用する側はエスプールと比較しながら選んでいると見られるが、当社の強みは、障害者が働くことに際しての農園での支援体制だ。一義的には雇用主が主体的に取り組む必要があるが、我々は雇用主が必要とした時にバックアップできる体制を、人を農園に直接配置する。

例えば、看護師を配置しているので、雇用主が雇用した障害者の体調が悪くなった時や、精神的に不安定になった時には、我々の職員がすぐに相談に乗ることができ、アドバイスをすることができる体制は強みだ。農園に常駐しているので、いつでもすぐにその場で対応できるところは大きい。

障害者が働きやすい環境を作るとことにかなり力を入れていて、運営する農園の9割程度が屋内の農園なので、農園とはいうが冷暖房を完備していて、水耕栽培で野菜を栽培する。バリアフリーで看護師も常駐しているので、働く障害者も特定の障害者だけではなく、精神障害者も知的障害者も身体障害者も、車椅子が必要な障害を持っている人だけでなく内臓の疾患を持つ人も安心して働けるハード・ソフトを整えている。

―農園で収穫した作物の出先は。その拡充は
一般流通と企業食堂での利用、子ども食堂・児童養護施設への寄付という活用方法がある。半分以上は、我々が一旦買い取って地域の食品スーパーやレストラン、ホテルに買ってもらう仕組みになっている。これも多分ほかにない特徴だ。

―どこか1ヵ所に偏っているのではなく、取引先はそれなりにあるのか
生鮮なのであまり遠くに運ぶと傷んでしまうので、基本的にはほぼ全て地元で消費する。例外的に、「地場くる」という当社が運営するECサイト経由で、郵送を前提として他地域への販売にも取り組んでいる。

―農園で育てる作物が葉物のリーフレタスだとすると、それなりに足が速い。今後の展開として、品種を増やしていろいろな販路を拓くような計画はあるのか。今後1次産業の就労者が減少するといった問題があり得るので、そういったところの下支えになる可能性は
野口会長兼社長:17店舗を九州で運営するなかで、葉物を扱うのはその成長が早く、障害を持つ人がある程度の作業をできるからだ。一方、生産性の観点で、その対価に見合うのかと、社内ではいろいろなハーブも含めて、オイルを使った観賞用の物などの栽培を並行して行っている。

しかしながら、葉物(栽培)に関しては一定に維持する。九州で出店をしていく間は、知的も含めて精神に障害を持つ人にも、常日頃から仕事を与えていくことを重点に置く。営業活動で上場会社やそれに類する会社の人事担当者に、当社の営業担当者がその話をして、まず理解してもらう。

障害者にシュレッダーの前に座ってもらって、その作業だけを短絡的にやるのではなく、社会復帰して能力がどれだけ上がったかという評価も、社内で表を作っている。当社では独自に参考資料を作り、参加している会社に、あくまでも参考資料として(周知して)いる。各企業が前のめりになってもらい、障害を持つ人を雇用している。(並行してノウハウを蓄積するなか、)今はそちら(葉物栽培)に特化している。

―投資家からは、農園の事業が九州の外に広がっていくことは期待できるとのことだが、仮に外に出ていく場合に解決しなければならないことは何か。例えば、賃料や気象条件などがあるかもしれないが
宮﨑取締役:九州からほかの地域に出ていく場合、気象条件はあり得る。九州では例えば、台風や雨が多い地域なので、それに対する諸々の備えをしながら運営している。

北陸や東北地域に行けば、おそらく雪のなかでの農園の運営、例えば、障害者の通勤をどういう形で支援するのか、大雪があった時に、既に農園で働いている場合にはどのように帰宅してもらうか(が課題となる)。あとは寒さだ。九州は熱中症をリスクの1つとして運営しているが、非常に寒いなかでどのようにすれば障害者が安心して働ける環境を作れるか。職場環境やオペレーションをどうすれば良いか見つけることになっていくだろう。

それ以外の部分については、おそらく地域によって雇用する側の企業に大きな差はないと考えられる。障害者はその地域で生活しながら職場を探す必要があるので、今言ったようなところに我々がどう取り組んでいけるかが、他地域に展開するうえでのポイントになるだろう。

―出店計画は基本的に九州を中心に、その他のエリアは、その先に考えるのか。それとも、視野に入れながら検討していくのか
野口会長兼社長:1万人の雇用を生むまでは九州だけでも順当に進み、5万人であろうが6万人であろうが(余力がある)。以前から北陸や北海道、東北、四国でも、「この辺でやってくれないか」というのはある。企業も九州に注文して障害者雇用をやってもらっている。関東でもそういう話が当然ある。

一部、当社の在宅医療事業の看護師が、東京の上場会社の人事総務の担当者に、障害を持つ人をどうサポートすれば良いのか、アスペルガー、自閉症のちょっと軽いもののような社員にどう対応したらいいのか、以前は監査法人や訪問看護のように1時間いくらという形で料金を受け取って支援したこともあった。

ただ、農園事業が九州で定着して雇用も継続できるとなれば、公器の会社にしてもらったので、そういう依頼があれば、当社としても動かざるを得ないだろう。

―需要に応じて検討していく
そういうことだ。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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