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上場会見:ファーストアカウンティング<5588>の森社長、唯一の経理処理AI

22日、ファーストアカウンティングが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1320円を78.33%上回る2354円を付け、1953円で引けた。会計分野に特化したAIを開発し、経理業務の自動化を支援する。日本では中小企業向けのSaaSが多いなか、大企業向けのエンタープライズSaaSの可能性に着目した。経理処理を行うAIモジュールシリーズ「Robota」などを提供する。ストック収益が売り上げの93%を占める。6月末時点の導入社数は99社。森啓太郎社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

エンジニア陣の充実やパートナーセールス体制、デジタルと紙の請求書のいずれにも対応できることなどを強みとして話す森社長
エンジニア陣の充実やパートナーセールス体制、デジタルと紙の請求書のいずれにも対応できることなどを強みとして話す森社長

―初値の受け止めを
マーケットからの評価だと思い真摯に受け取っており、これからも業績を拡大することで、しっかりと株価にも反映できるように経営していきたい。

―津村陽介CFOに聞きたい。2018年に参画した時点から、IPOが具体的に進んだと想像しているが、最も注力しなければ上場できないと考えたところは
津村CFO:私は公認会計士で、社内にも公認会計士がほかに2人いて、体制を整えてきた。私が入ってきた時は、10人にも満たない会社であったが、それでも決算は会計士がいくらいても簡単ではない。

情報が正しくタイムリーに伝わってこないと、漏れたり間違ったりしてしまう。情報をタイムリーに吸い上げる仕組みを作るのがタイムリー・ディスクロージャーにとっては非常に重要なことで、その稟議や会議の仕組み、そういうものから会計情報に情報を吸い上げるところに注力した。そのほかの内部管理体制については粛々と規模に応じた内部統制の仕組みを作れば良かったので、元々なかったものから作るので比較的スムーズにできた。

■市場は昔から
―数年前を振り返って、日本でもエンタープライズSaaSが根付くような市場環境に変わってきたと考えるのか、それはどういったところがどう変わって受け入れられようになったのか森社長:日本の場合、中小企業向けのSaaSばかりだった。私はエンタープライズSaaSのマーケットは元からあったと思っており、ただ起業家のほうに、エンタープライズはなかなかハードルが高いという間違った概念が、日本でははびこってしまったのではないか。

ただ、多分ラクスのように大成功したSaaSがあったこともあり、どこに行っても中小企業のSaaSばかりなのかと思っている。私はアカマイ・テクノロジーズ合同会社でエンタープライズSaaSにずっと携わってきたので、昔から市場はあったと考えている。

―中小企業向けとエンタープライズ向けの売り上げ比率は、今後もこの形で推移していくのか。あるいは何か目標があるのか
今まで大体この割合(中小企業向けが約34%でエンタープライズ向けが66%程度)で来ており、中小企業にも経理契約者のニーズはあるので、おそらくこういった比率で行くのではないかと現在は考えている。

―電子帳簿保存法やインボイス制度など最近の経理の動きで、どういう事業環境になっていくのか
追い風になると考えている。インボイス制度は受け取った請求書を、「消費税が合っているか担保しなさい」とか「取引先が消費税を納めている業者か担保しなさい」ということで、確認作業に手間がかかる。

一方、電帳法は、電子で受けたものは電子で保管せよというのももちろんあるが、電子と紙が別々の管理になると、大手企業からすると、例えば、監査や税務調査が入るとすぐに出さなければならない。紙も電帳法対応しようとなると、日付と金額、会社名を入れる必要があり、カラーで200dpi(dot per inch)以上でスキャンしたのかといった、もはや経理処理とは言えないような作業も入ってくる。これをAIでチェックしたいニーズがあると見ている。

―電子インボイスの「Peppol」に取り組んでいて、現状では技術としては作っていても売り上げに貢献するところまでにはなっていないだろうが、見通しはどうか。端的に言えばどれぐらいから実際に売り上げが立っていくのか。例えば、10%なり20%なりが立っていくようなものなのか
直近では会計ベンダーによってしまうので、よく説明しているのがEUだ。EUはPeppolが発明された国々だが、去年の12月でちょうど10周年だった。Peppolで最も成功した国がノルウェーで、8割ぐらいだ。最も失敗した西ヨーロッパの国はドイツだが、20%だ。日本でも、10年後には大体20~80%ぐらいがPeppolになるのではないか。

■いろいろな「Robota(ロボタ)」
―AI OCR(Optical Character Recognition=光学文字認識)の技術的優位性は
創業したての時は、当社もAI OCRに非常に力を入れていた。精度においても、当社は業界で最も高いと言われているが、AI OCRだけでは経理の処理はできない。経理担当者からすると、勘定科目、仕分けができないと会計システムを導入できず、「仕分Robota」という経理業務AIモジュールを作った。「領収書Robota」と「請求書Robota」がOCRに当たる。

経費精算する時に、A4の紙に請求書をたくさん貼る会社も結構多い。たくさん領収書が貼られているとOCRできないので、台紙から切ってきてあげるものが「台紙切取Robota」というAIだ。

日本の商習慣では請求書を送るが、請求書をそのまま送り付ける人はそんなに多くなく、まず1ページ目には「このたびは取引ありがとうございます」というお礼として送付台紙があって、請求書が来て、3枚目以降にエビデンスがあるというのが多いと思う。ただ、会計システムに必要なのは請求書だけなので、それだけを取ってきてあげるものを「振分Robota」として用意している。

そういった経理処理に必要なものを並べているのがOCRとの大きな違いであり、唯一、経理処理を自動化できるAIベンダーと考えている。

―葛鴻鵬CTOが2017年の参画したことによって、AI OCRの質が飛躍的に高まったのか
葛CTOに関しては、非常に優秀なエンジニアだと思っており、OCR領域では多分1番ではないか。請求書領域では非常に難しいフォーマットのものが出てくる。例えば、「請求書の明細を見たいです」という顧客が来た時には明細も読めるようにする。業界によっては「こんな形の請求書があるのだろうか」という変わった請求書が来ることがあるが、それもAIで読み解くことができるのは葛CTOのおかげなのではないか。

■照合を自動で
―生成AIを、具体的に経理のどの分野で使うのか
経理の分野では、照合作業という支払う前に確認する作業がある。そういった分野で使っていこうと考えている。

―照合作業で機械学習、生成AIを通してどう活用するのか、具体的に
公開していない情報なので申し訳ないが、答えられない。

―照合作業での生成AIは、今開発中か
そうだ。

―いつ頃提供するのか
一部を使い始めている状況だが、照合作業でもっといろいろな生成AIを使うことができると考えている。

―照合作業ではデータ、数字のチェックだろう。生成AIは文章を作るようなイメージがあるが、確認と生成の相性の関連性は今考えにくいが、中身は言えなくても具体的に業務でどのように活用するのか
生成AIは、拡散モデルやLarge Language Models(LLM)などいろいろなモデルがあるが、我々のなかでは、あくまで照合作業といった経理担当者の意思決定などをサポートするAIを作っている。

―生成AIの活用に関する論文を読むと、OCRの精度向上にTransformer(深層学習モデルの一種)を使うと理解したが、基本的にはAI OCRの精度向上に活かしているという文脈で話しているのか、それ以外のところに生成AIを使っていきたいのか
両方だ。OCRの精度が高まると顧客の業務の自動化率が上がるので、当然生成AIも使っていく。我々が研究発表している論文にも、OCR精度向上が含まれている。

それ以外に関しては照合作業に出てくる判断の部分に関しても、生成AIが必要なのかと思っており、着手し始めている。

―データを持ってきて教師学習をする時に会計の分野では、法律のAIベンチャーで問題になったような弁護士法72条の非弁行為の話と似たような法的な問題はなかったのか
顧客からの了承を得て学習に回しているので、そこで問題になったケースはない。

■AI開発からグローバルへ
―今後の経営目標は
エンタープライズSaaSなので、グローバル展開をしていきたい。生成AIのイノベーションが起こっているので、より経理担当者の役に立てるように、生成AIを中心としたAIを磨き上げ、業務の効率化、生産性の向上に寄与することで日本の大手企業の企業価値向上のための時間リソースを確保できるようなAIを、経理の人に提供したい。

―グローバル展開と生成AIでの成長のうち、メインはどちらか
グローバル展開は日本で作ったものを横展開するので、私達が海外展開する前にAIを磨き上げることが必要になり、どちらが先かと言われると、両方大切だが、生成AIに先に着手し、優先順位を上げていく。

―今の生成AIにどんな課題があるのか。
おそらくグローバルで誰もやったことがない領域にチャレンジしているので、要件定義といったところが1番チャレンジングなところではないか。

―要件定義…
どういったものが生成AIで解けるのかというところだ。経理領域でやった人がいないチャレンジをするので、そういったところが、これからある課題かと思う。この領域はだいぶ詳しい会社ではあるが、先進で走っている人がいない分、チャレンジがある。非常に今後のやりがいがある。

―要するに、その生成AIの研究開発をこれからやる
今もやっているし、これからもやっていきたい。

―研究開発は、サーバーの購入、人材の採用でコストがかかる。事業化に時間がかかるが、収益を上げるために研究開発をこれから行い、どう収益を上げるのか
既存の顧客がいるので、既存の顧客のための生成AIを作っていく過程で収益を得ながら、開発できると思っている。大手の既存顧客が多いので非常に恵まれている環境と考えている。

―グローバル展開は、日本で作ったものを横展開する。要するに、海外向けの新しいプロダクトを開発するわけではないのか
そうだ。日本で作ったものを海外に横展開しようと考えている。

―それは既存顧客で、海外にも進出している日系企業に展開するのか
日系企業ももちろん対象になるが、ローカルにいる会社も追っていきたい。

―グローバル展開に関して、現状どのような対応をしているかは分からないが、IFRSなど他国の会計制度に対応する際に追加の開発が必要になってくるのか。海外で競合になり得るところが今あるのか
IFRSであったり、海外の商習慣は必ずあると思っており、請求書は国によって商習慣が異なるので、そういったところで若干のマイナーチェンジは必ずあるだろうと予想している。

海外の競合では、現在はAIで「ABBYY」という会社があると考えており、私達がまだ知らない未知のローカルベンダーも来ているのかと想像している。

■経理に一点集中
―経理処理は商取引と連結している部分もあると思うが、BtoBのECやマーケティングなど、他領域との連結可能性については
当社はあくまで経理向けのSaaSなので、業界ドメイン的には経理に関連する領域のみをやっていこうと思う。それがナンバーワン戦略であり、AIの会社なので、可能性としてはいろいろな横展開ができる。例えば、自動車のナンバープレートを読むものや、名刺をAIで読んでほしいという問い合わせも創業時からたくさん来たが、全て断ってきた。

この業界に特化することで勝ってきた会社だと思うので、ナンバーワンになる領域は経理領域であると意思決定をして今まで経営してきたが、これからも同じような戦略で進めたい。経理領域のみ、経理の人のみにかわいがっていただくAIを擁したい。

―経理のAI活用という一点集中はリスクとして心配事もあるのではないか。横展開という機能的なものではなく、グローバルで地理的に分散させる意識があるのか
グローバル展開に関しては、現在英語の請求書が読めるようになっているので、既にグローバルの会社である楽天やブラザーに提供を始めている。英語圏には出やすい状況だ。既存顧客はほとんどが大手なので、いろいろな国の請求書を入手できる状況になっているので、多言語展開を進めていく。マーケットニーズが高いところから入っていこうと考えている。

―次は中国語か
既に案件として相談を受けて、基礎研究を始めている。文字自体は読める状況になっており、これからもっと磨き上げて「発票(发票 )」という請求書に関して、研究・開発をしたい。

一点突破はリスクもあるが、ランチェスター戦略や孫子の兵法で一点突破とよく言うが、それに相当する。大手はどこにもいるので、私達が勝ち残れるエリアはどこなのか考え抜いたうえで、エンタープライズSaaSで、大手の経理の人に喜んでもらえるAIを磨き上げることに、これからも心血を注いでいきたい。よく皆に「田舎ヤンキーみたいだね」と言われる会社だ。村で1番強い会社を目指している。特にOpenAIと喧嘩したいと全く思っていない。

―生成AIはLLMでもなく、単純な拡散モデルもなく会計特化型とのことだが、商慣習が入ってくると、当然文法の絡みも入ってくると思う。OpenAIと喧嘩するわけではなく、完全にクローズドなものをオリジナルで、サーバーやGPUを自前で確保しつつ作っていくとなると、初期投資だけではなくランニングコストも結構かかってくる印象があるが、価格に転嫁していくので問題ないのか
エンタープライズなので、顧客のROI(Return On Investment)が出るところは開発できるし、そうでない業務、コストが高すぎるものに関しては作らない判断になるのではないか。

■エンジニア採用に憂いなし
―売上高50%成長は今後も続くのか
今後の成長をまだ発表していないが、母数、分母が大きくなるので、そこは母数に応じて変化してくる可能性はある。

―関連して利益面の成長率は
売上総利益率といった粗利が急速に改善しているが、これは利益の源泉であり、あとはどれぐらい人を張るのかということだ。

現在で、例えば、人を増やすのをやめてしまうとなると、営業利益は今日の8.5%よりもぐっと広がって、倍ぐらいになると思う。だが、私達が描きたいのは、トップラインを伸ばしながら利益を出していくことなので、適切な水準で人を張り、よく国内SaaSがやる赤字になりながら上っていくというのは、なかなかマーケットで許されない環境になっている。利益を出しながら、かつ、投資を打ちながら、粗利を意識し、営業やカスタマーサクセス、エンジニアを適切に雇いながら、事業を拡大させていく。上場ゴールしない会社、昨日も経営会議で事業計画を、ガチで缶詰でやっているような会社なので、まだまだやる気がある会社だ。

―来期の具体的な成長戦略と、投資は
成長戦略と密接に関係してくるが、投資の打ち所ということで生成AIはどうしてもおカネがかかる。生成AIのコンピューティングリソースとしてAIのサーバーで、生成AI用に1億円弱の投資を行う。海外展開と新しいサービスを提供するので、そこにも1億円弱の投資をしたい。あとは採用だ。適切に事業を伸ばしていくには採用費用もしっかり投下していく必要がある。

―人材の奪い合いが起きているなかで、エンジニアをどう確保するのか
当社はエンジニア採用が非常に強い会社で、今年のエンジニア採用が半年で完結したので、これからも心配の要素はない。

―どういう工夫をしているのか
頭の良い、未来を見通せるエンジニアは、AIが全てになることを理解していて、非常に能力が高いエンジニアが当社にどんどん来ている。今AIを学んでいないエンジニアも必ずAIが来ると皆分かっている。非常に勉強熱心なので、当社に入って学ぶ。

元々は例えば、PythonとかJavaが得意だったエンジニアが当社に来てエンジニアになることもでき、それを考えて非常に魅力的な労働環境なので、私達は人材確保には苦労しないと考えている。

■VCの手厚いサポート
―株主のSpace Investmentは
私の会社だ。

―SaaS系に投資しているベンチャーキャピタル(VC)がたくさん参加しているが、入ることによる何らかのメリットは。資金か
どのVCを入れるのかは非常に重要で、幸いにして予定よりも資金をたくさん調達することができたので、今回はVCをだいぶ選んで出資してもらった。

皆凄く優良なVCで、私達は12年間SaaSをやってきたが、分からないことがあり、米国ではどうなっているのかアドバイスを得た。SaaSのプロが多く、我々が知らないことを教えてもらい、事業に取り入れた。また、上場のプロセスでも教えてもらった。VCのなかでも分からないことに関しても、証券会社や上場経験者を紹介してもらい助言を仰ぐという手厚いサポートを得た6社だった。

―マイナビやKDDIの場合、今後も何らか事業上の付き合いが、既にあるのか、今後あるのか
先方次第だろうが、あると思う。現在では何か特別な契約や縛りがあるわけではない。KDDIに関してはグローバルブレイン経由で、彼らは非常に良いアドバイスをしてくれたプロの投資家だと考えている。

―(株主のなかに)信託型ストックオプション(SO)だと思われるものがあるが、これについてはどういう扱いになるのか。一部の会社では、税金が増える分を負担するものもあるが、ごく限られた経営陣だけだったらそんなこともないかもしれない。どう割り当て、会社としてどうするのか
津村CFO:従業員向けに設定している信託型SOで、国税庁の見解が公式に発表され、譲渡所得課税ではなくて給与所得課税になった。我々は発行しておらず、これから3回に分けて発行するもので、特に従業員が今まで得たものを返さなければならず、そこを会社として負担しなければいけないという発行をしている会社とは違う。これまで通りこの信託型SOで付与していこうというインセンティブプランとしては、引き続き使っていきたい。

■経営参謀の時間を創出
―どういう会社にしたいのか。どういう価値を提供していくのか
森社長:制約を取り払うことで自信と勇気を与えるというのがパーパスとなっているので、経理担当者の様々な制約を取り払うことで自信と勇気を与えていきたい。上場会社の日本のこの失われた30年の1番の課題は、企業価値創造だと思っているので、企業価値を創造するためには、CFOを中心とした経理の人が経営参謀だ。

例えば、会計システムへの入力や確認作業をAI化することで、インテリジェントな人が事業部に寄り添うことで利益率を向上し、株主還元を実現するための時間を創出することが非常に重要と考えている。そういう価値を提供することで社会に貢献していきたい。

―株主還元の時期について
既に黒字転換をしている会社で、現在は配当がないが、業績を拡大して、株主向けの利益還元を意識して、なるべく早めに実現したい。

―メドについては、今は言えないのか
公開情報ではないので申し訳ない。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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