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上場会見:リアルゲイト<5532>の岩本代表、都心を濃く掘る

リアルゲイトが22日に東証グロースに上場した。初値は公開価格の1790円を112.85%上回る3810円を付け、3110円で引けた。築古ビルや新築案件をスモールオフィスやシェアオフィスといった「フレキシブルワークプレイス」に転用して提供。企画・設計・デザインから運営まで一気通貫して手掛ける。サイバーエージェント<4751>が2021年7月に買収した。岩本裕代表に事業の強みや今後を聞いた。

オフィスに特化することで、従業員が土日祝日に休日を取ることができ、働きやすい環境になっていると話す岩本代表
オフィスに特化することで、従業員が土日祝日に休日を取ることができ、働きやすい環境になっていると話す岩本代表

―6月22日に上場して3~4日経ったが
お祝いの言葉や花を受け取って、だんだん実感してきた。これからしっかり成長していかなければいけないと気が引き締まるばかりで、油断したり、喜んでいる暇はないという感じだ。

―このタイミングで上場した背景や意図は
1年半ほど前に親会社が変わってから決算を締めて、第2四半期が終わって最短のタイミングが今回だった。市場の状況はいろいろと変わるので、サイバーエージェントの藤田晋社長からも、「淡々と行けるときに、最短で行ってください」という言葉をもらい、最短で上場した。

―IPOに関することだが、発行価格を決める際に、テンポイノベーション<3484>やアズーム<3496>などほかの上場企業が参考になった。一般的な不動産と違って成長性のある少し異なった業態の銘柄が出てきたが、そうしたところも含めての評価をどう見るか
公募価格で、PER24倍近い評価で、それ以上の値段が付いたが、評価のポイントはストック型ビジネスだ。一般的に、不動産は売った買ったの世界で、売り上げや利益が安定しない部分もある。我々は、長期の契約のストック型収入が7割程度なので、これが評価された。

あとは15年間の実績だと思う。15年前に起業してから連続で増収を繰り返しているので、成長が期待できるとして現在のPERが付いたと見ている。

―都心部・築古のコンパクトなビルを中心に扱うなど5つの強みを訴求していたが、ビジネスモデルの独自性や、ドミナント展開、スモールオフィス特化型の話に関して、それを支える技術力や企画力の高さなども含めて聞きたい
シェアオフィスは、今は一般的になってきて、大手や海外の会社が、様々に手掛けている。我々のシェアオフィスは、築古ビルを直して、適正価格でフレキシブルワークプレイスとして貸し出すことが、独自性になっている。シリーズ化もほとんどしていない。

大体の会社がオフィスビルを扱ってオフィスにすると思うが、当社はマンションからホテル、商業施設といったものを使って、不動産の収益を第一に考えて直す。古いビルを適正に安心安全に直す技術力が差別化要素になっている。

15年前からスモールオフィスの供給を続けており、入居者のニーズを捉える運営に力を入れている。それによって現在1200社の会社が入居し、各社からいろいろな声を聞く。契約理由や、時にはクレームや退去理由もあり、それを的確に捉えて最新のニーズがある商品を作ることが強みになっている。

今後のドミナント戦略だが、引き続き渋谷区を中心とした都心を、濃く掘っていく戦略を取っている。一般的な不動産会社であれば、土地を求めて郊外に出るだろうが、我々が取り扱うのは古くなったビルなので、新築も築浅、築古も含めて現在ビルがある所で、将来も築古ビルが生まれてくることは分かっている。そこにとどまって、都心部で濃くドミナント展開をしていく。

―入居しているテナントの話を聞いてニーズを汲み上げているが、かなり仕組み化しているのか
契約理由や退去理由、クレームなどは仕組み化している。ただ、顧客の声もいろいろあるので、それをどこまで点数化するというところまではしていない。クレームなども含めて共有することで、現在こういうニーズがある、「こういうもの作りをすると、こういう問題がある」ということを共有して、最新物件に生かすという会議をしている。

―純粋な競合は見られないが、競合について
古いビルを1棟で借りて、そこに自社で投資をして事業をする会社はなく、古いビルを買う会社や、買って開発・新築を建てる、買って直して売る会社はけっこうある。借りるという意味で競合するのは、エンドユーザーだと思うが、事業として(リスクを)被って運営まで行いオフィスに徹している会社は意外とない。

―入居企業の内訳が、情報サービスを筆頭に、経営コンサルや映像・音楽といった小規模な事業者が多いが、景気の影響をどう受けるか、対策は
商品の広さが平均50平方メートル台なので、小規模事業者が多い。小規模事業者に絞っているのは差別化の問題だ。普通に大きく作って大きく貸すのは誰でも考える。手間であることは分かっているが、小規模事業者に向けて対策をしている。

回転が速いことはデメリットでもあるが、それをなくすために、我々は大体30日ぐらいで新しいテナントに物件を貸し出す。社内に建設チームやWebを更新できる制作チーム、設計士、営業人員がいるため、社内で全部完結でき、テナントが抜けた場合に原状回復して、速く埋めている。

景気が良くなる時は、スタートアップが生まれ、投資される会社が多いが、景気が悪くなっても縮小移転の受け皿がある。また今回のコロナ禍でも、今まで需要のなかったサラリーマンが借りる例があった。家の傍でテレワーク用に、メンバーシップで個人がシェアオフィスを借りることがあったので、景気が悪くても良くても需要はあるというデータが出ている。

―一方で、テレワークを全廃してまたオフィスに戻ろうという動きもあるが、そういった流れは、事業にどの程度影響がありそうなのか
テレワークを止めてオフィスに戻る流れは、一部のメンバーシップで貸しているフリーデスクと言われる会員の減少に現れている。だが、我々が営む事業の中心は、スモールオフィスとフロア貸しのフレキシブルオフィスなので、事業上影響することはない。

逆に、オフィスや店舗を拡大する、ショールームなどを立地の良い場所に作る需要が増えており、好景気に戻っていくと、オフィス回帰が起こるのは我々にとって好都合なことが多い。

―渋谷の再開発を含め、都内でいくつかのエリアで再開発がまだありそうだが、築古ビルがそういった開発の影響を受けることは
再開発のビルで物凄い坪数を作っているが、渋谷はまだ少ないほうだろう。港区や麻布台などはもっと出る。大規模開発は止まらないので、坪5万円近く払って入居できるテナントは、我々からすると全く別なので、それはそれで借りる人はいると思う。

ただ、築古ビルに入っていたテナントがそちらに移って困ってしまうのは増えると見ている。その困ったオーナーを助ける仕事をしているので、再開発で困るオーナーが増えることは喜ばしくはないが、需要が増える現状がある。

―事業面では追い風になるのか
でき過ぎても価格破壊が起きてしまうので、適度な再開発と空室がある状況は、我々にとっては追い風になる。

―今後の成長戦略や目標について、ドミナント展開の話で、限られたエリアで、より濃密に展開し、運営物件の大型化を目指しているようだが、それも含めて聞きたい。
ドミナント戦略は、今までやってきた場所にビルがたくさんあるので、エンドユーザーの賃料を正確に捉えて、事業を濃く展開していくことは変わらない。運営面積を増やしていくなかで、平均坪単価と物件の稼働率を保てば、売り上げと利益が上がっていく、毎年大体15~20%ずつ成長していきたいと考えている。

上場によって資金もできたが、これまで資金の壁というよりも人材の壁があった。古いビルを直してワンチームで物事を作っていくには、運営も含めて経験者があまりいない。今、100人いる社員を的確に増やしながら、プロジェクトリーダーとなれるような技術も持っている人材を増やしながら業績を上げていく。

―事業をこれまでの展開エリア外に広げた時にどうなるのか投資家が心配していたが、それは杞憂で、そもそもドミナントの域外に出ていく発想がないのか
ビルは物凄い数がある。23区内に9545万平方メートルのビルがあって、都心5区内にその66%が集まっており、6200万平方メートルとなっている。渋谷区と港区だけで2400万平方メートルある。我々が手を付けられているのは、たった6万平方メートルで、渋谷区・港区のなかだけでも、0.3~0.4%だ。

やはり、慣れてきて確実に貸せるエリアで取り組んでいく。また、新築ビルも古くなってきてしまうので、それも取り扱ってくる。逆に言うと、耐震補強や増築など技術力を増やして多くの課題を解決できる力をつける。また、オフィスビルだけでなくホテルや店舗、住宅もフレキシブルオフィスに変える技術力をつけることで取り扱えるベースが広がる。それによって拡大していきたい。

―扱う面積が大きくなっていくと、その段階で競合環境は変わるのか
ビルの規模では競合は変わらないと想定している。単純な事をやればやるほど競合が増える。築浅のビルや、一般的にビルを売買するというビジネスを展開していくと、ライバルはいくらでもいる。技術面を掘り下げていって、ライバルがいないところに、お金があってもできないところに広げていくのが我々の戦略だ。

―そういった技術を深めていくことで、ビル以外の構造物に展開していく可能性はあるかあくまでも不動産と建物というところは変わらない。ただ、最近では新築が広がっている。本来は築古ビルのなかで事業を行い、適正価格で貸すというのが我々のフレキシブルワークプレイス事業だ。ただ、コロナ禍では、例えば、新築のマンションの下にシェアオフィスを入れ込んで全体の価値を上げるといった事例もある。

あるいは二次空室に苦しむ一般的なオフィスビルもある。大規模開発の新築ビルができた時に、築浅で10~20年ぐらい経った中途半端な規模のオフィスビルが苦しんでいる。そのビルを差別化する時に、普通のオフィスビルのなかにシェアオフィスや会議室を導入して、全入居者に貸して価値を高めたいとの依頼が増えている。

―総合的に既存建築物のバリューアップにも広がっていくのか
既存建築物のバリューアップも広がるし、新築も含めたフレキシブルオフィスを入れて賃料を上げるソリューションが増える。

―新築の設計・施工の段階から関わり、シェアオフィスの提案にもつながっていくのか
現在、3年後や5年後のプロジェクトも取れていて、全体で70個あるうちの2割ぐらいが築浅や新築のプロジェクトになっている。

―今後のKPIは
稼働率と平均単価を保つことが指標の1つになる。もう1つはプロジェクト数と床面積と見ている。プロジェクト数は大きいプロジェクトが取れれば数ばかりを増やすことはないので、床面積が最重要になる。純粋に床面積を増やして貸せる面積を増やす。それが売り上げ・利益に直結する。

―そのための人材採用の戦略は
建設業界は人が足りないとよく言われるが、例えば、一級建築士や一級施工管理技術士は、直接応募で人が比較的順調に来てくれる。建設や設計は、そうした人がデザインし、決めたものを設計し作っていくのが普通だ。だが、我々の場合は、プロジェクトメンバーに入り込んでもらって、どうやれば安く良い建物を作れるか、どのような用途変更が高く貸せるかを根本から考え直す。入社した社員に何が良いかと聞くと、一緒にものづくりの根本を決めていく楽しみがあると言っている。

そういうものづくりをする会社なので、かっこいいものを作って赤字でもしょうがない。エンドユーザーに対するものづくりも、収益もそうだし、企画営業も含めて全社員に良い意味でのものづくりの楽しさを味わってもらうのが特徴となっている。その楽しさを教えて人を育てて採用していく。

―最近、アパレルのアダストリア<2685>が住宅分野に進出してくるという話に接した。不動産領域への異業種参入をどう見るか
住宅はマーケットが分かりやすいので参入しやすい。例えば、住宅をいくら貸せるかは、マーケットが出来上がっていって、築何年、駅から何分の、この大きさなら坪いくらということが、誰でも分かるようになっている。

ただ、シェアオフィスに関しては正直分からない。築45年のこの原宿のビルを坪4万5000円で貸せると分かる人はいない。これは、物作りや運営の仕方にノウハウがあって、生活必需品の住宅と違うからこそ、オフィスは良いものを作れば、価値を感じてお金を払ってくれる人がいる。逆に、普通の物を作れば普通に買い叩かれる。そのノウハウがあるからこそ、異業種の参入が怖いとか怖くないというのは、あまり考えたことはない。

―上場すると、経営の自由度が広がることで、連携やM&Aを考える人たちもいるが
資金と信頼という意味では、経営の自由度は広がるのかもしれない。ただ、いろいろな方面に対して、合理的な説明ができないものはやりにくいという意味では経営の自由度が狭まることもある。

上場資金を使ってほかの事をやるために上場したわけではない。例えば、次のステップでは物件を保有したり、ファンド化したり、我々が今やっていることで資本を使って、ビジネスを広げることがまだまだある。本質をあまり変えずに拡大していくことが我々の成長戦略になる。

―2021年から2022年にかけて長期借入金が膨らんでいるが
大きいマスターリース物件を借りると、その内装費などで膨らむ部分もある。加えて、物件の購入を始めている。一昨年ぐらいから2~3物件を購入し、その借入金が膨らんでいる。

―サイバーエージェントとの事業上の関係は。渋谷を盛り立てていきたいとのことだが
親会社との過度な取り引きや、そこに頼った会社経営では上場できないので、かなり独立を認められて、尊重してもらい事業を進めている。藤田社長とも話しているが、サイバーエージェントはスタートアップなどに投資しているため、その辺りの連携を深めて、グループの強みをもう少し出していきたいという構想はある。

―株主還元の方向性は
投資資本を使い財務基盤を固めて、事業に使って会社を成長させるのが一番で、しばらくの間は会社の成長を通して、株主に還元していきたい。

―ある程度落ち着いた段階で、配当なども考えていきたいというところか
配当はもう少し先と思う。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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