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上場会見:ソラコム<147A>の玉川CEO、IoT基盤を世界で

ソラコムが26日、東証グロースに上場した。初値は公開価格の870円を79.66%上回る1563円を12時33分に付け、1338円で引けた。IoT(Internet of Things)の導入時に顧客企業が直面する共通課題を、業界をまたいで解決する。主力事業では、位置情報や温度などさまざまな情報を検知するデバイスを販売し、インターネットを通じてクラウドのプラットフォーム「SORACOM」に集まるデータの管理や可視化といった機能を一貫提供する。通信やクラウドの利用料金は月額制のリカーリング収益になっている。KDDIが2017年に買収し、大企業の支援を受けて上場する「スイングバイIPO」を標榜していた。玉川憲CEOが東京・大手町で午前中に上場会見を行った。

クラウドと通信に関するリカーリング収益と、デバイス導入に従って逓増するインクリメンタル収益が積み重なる収益モデルを説明する玉川CEO

―上場を迎えたことに対する受け止めは
朝からイベント続きで、証券会社で値が付くかを見て、セレモニーがあって、記者会見させてもらい、気持ちが落ち着く暇がないが、一言でいうと感謝しかない。「スイングバイIPO」なので、株主も多く、親会社のKDDIの関係者も多い。ソラコムのチームメンバーも皆頑張ってもらってここまで来られたので、本当に感謝しかない。

第3章と言っているが、上場ゴールという感じではなく、社会の公器として社会に認知されて進んでいくので、新しい責任を感じている。それと同時に、これまでできなかったことができるというわくわく感もある。

―IPOによって今後実現できること、実現したいことは
「スイングバイIPO」で今回、無事に上場することができたが、(事業展開の)第3章ということで、基本路線は大きく変わることなくグローバルのIoTプラットフォームを成長させて、リカーリング収益をしっかり伸ばす。グローバルに引き続き力を入れて、日本発のグローバルIoTプラットフォームにしていきたい。大型案件、戦略的アライアンスもやっていきたい。

IPOという意味では、グローバルでもIoTプラットフォーマーとして上場した会社はほとんどない。今日も、Facebookでcongratulationがめちゃくちゃ来ているが全然返せていない。上場は、凄く大きなポジティブなインパクトがあると見ている。

また、具体的な時期はないが、さらなる資金調達、成長投資も可能で、IoTのポートフォリオを広げていくための買収や出資も、より迅速にできるようになっていくと考えるので、非常に楽しみにしている。

―グローバルの技術者を獲得するためにストックオプション(SO)を発行していきたいとのことだが、目論見書を見ると新株予約権を12回付与している。なぜ「スイングバイIPO」をすることでできるようになるのか
目論見書でSOをいかにしっかり配布しているのか見てもらったと思うが、SOを配布できるようになったのは、2019年に髙橋誠社長に「スイングバイIPO」のことを相談して、その後、2022年の頭だったが、そのことがKDDIの取締役会で決議されて、IPOという道筋が決まったのでSOを配れるようになった。そこから配布して、5年経ってようやくここに至った。

IPOをする道筋がなかった場合は、買収された後は、ゴールに当たるところがないので、やれるとすると、KDDIの株式を受け取る、もしくは、我々は社内的にインセンティブの仕組みを作って、当時はソラコム・インセンティブポイントと呼んでいた。それは自分たちで言っている「オレオレプログラム」になってしまい、グローバルや優秀なタレントの人を惹きつけるような一般的なSOの仕組みではなくなってしまうので、今回の「スイングバイIPO」のような道筋をしっかり作れたことは良かった。上場すると、新しい形の株式報酬のプログラムも出せるようになるのでそこは非常に良いことだ。

―スタートアップから見た時の、「スイングバイIPO」と通常の上場の違いや利点は
一概にどれが良いとは言えない。シリーズA、BときてCまで進んだ時に、ベンチャーキャピタルから調達することも考えていた。上場することもM&Aも検討した。その上で、当時の我々はテクノロジースタートアップでまだ数年しか経っていなかった。

ビジネス的にもインフラを作ってグローバルにしていくという意味で、非常に足の長いビジネスであることを総合的に見た時に、M&AでKDDIグループに入ることが最善だと考えた。

そこからさらに「スイングバイIPO」という道筋ができて、無事に出来た。昨年度に1回申請して延期して、その時はもう駄目かと思い、今となっては、当時それぞれの段階においてのベストの意思決定と全ての努力をやってきた。

スタートアップのビジネスモデルやマーケットの状況、チームの状況、どれぐらいの目線で経営しているかによって選択肢は変わってくる。今まではIPOかM&Aしかなくて、どちらかを選ばなければならない状況から、M&Aしても、さらにその後IPOがあるという選択肢が1つ増えたことは、スタートアップの経営者やチームの皆にとっては非常に良いことだろう。

事業説明と質疑応答の間には、玉川CEOとKDDIの髙橋誠社長、上場後もソラコムへの投資を継続する WiL, LLCの伊佐山元 CEOによるトークセッションが行われた

―KDDIの元で、プラットフォームを使ってもらって広げ、お墨付きを得たことのほかに、例えば、リソース面で支援してもらったなどKDDIからの支援について教えてほしい
いろいろあるが、例えば、モバイルコアをソフトウェアで、自分たちで作っている意味では先進的な会社だが、基地局などは持っていない。

5Gの「SORACOM Air」というサービスを出したいといった時も、どうしてもパートナーが必要になるので、そういった時も、KDDIのチームから、早い段階で5Gの基地局やテストをするための設備も出してもらい、5Gのサービスを開始する時に、研究開発を一緒にやらせてもらった。

昨年は、Starlinkを販売しつつ、SORACOMのプラットフォームと一緒に提供するという発表をしたが、そうした場合でもKDDIがStarlinkの日本での販売権を持っていたので、協業が可能だった。

―KDDIは今後どのように関与していくのか。保有比率65.7%から持分法適用会社になり薄まっていくだろうが、資本と事業の両面でどのように変わっていくのか
IPO前は、65%強ぐらいから、IPOのタイミングで25%以上の流動性を作らなければならないので売り出してもらい、IPO後のタイミングで40%強ぐらいになっている。

今後、KDDIが売り出す予定はなく、持分法適用会社として、これからも緊密な関係性を作りながら、「スイングバイIPO」後の第3章として成長を引き続き支援してもらえる。

―KDDIがソラコムの株を持ち続けるメリットは何か
KDDIの視点は分からないが、「スイングバイIPO」を決めた時の話は先進的で、クラウドネイティブで、アジャイル開発によってどんどん新しい機能を取り入れていくことを好む顧客もたくさんいるので、グローバルでソラコムならではのプラットフォームを広げていくことで、そのプラットフォームをKDDIにも使ってもらう。もしくは一緒に新しいIoTプラットフォームとして出していくことができる。そういった形でKDDIグループに貢献できる。

―事業の継続性の観点で聞きたい。プラットフォームのSORACOMはAWS(Amazon Web Services)に完全に依存するものなのか。AWSが、不調といったレベルではなく、もう少しシビアな状況になることを想定した場合に、通信コアを単純にコピーすれば、ほかのスケーラビリティのあるクラウド上で事業を継続できるのか

我々は、通信コアシステムをパブリッククラウド上、特にAWSの上で作って動かしてきた実績がある。その仕組みは、AWS出身の安川健太CTOも含めて、片山暁雄SVPも、AWSの技術者が入っており、そもそもクラウド上で動かす時に、万が一サーバーレベルで、あるいはデータセンターレベルで、もしくは地域レベルで落ちたとしても、継続して動かすことができるような設計のベストプラクティスを積み上げて作ってきた。単独の障害によって影響が出ないように設計している。

我々の特徴として、クラウドの上で動かすが、マルチキャリアという形で、KDDIだけでなく、海外の通信事業者と提携することで、複数のコアを、複数の通信事業者をパートナとして動かしている。万が一、1つのSIMが動かないことになったとしても、ほかのキャリアやクラウドの組み合わせで動かすことも可能だ。顧客が求める耐障害性レベルに合わせて、選択肢を提供できるようにしていきたい。

―成長戦略で、コネクテッドカーの領域を挙げているが、KDDIも会社を米国で設立しようとしており、ソフトバンクも買収しようとしている。そのなかでの強みは
ソラコムの強みはいくつかあるが、2つ挙げるとすると、特にグローバルの通信事業者と何年もかけて提携をしていて、キャリアのカバレッジも非常に広い。

特に、アジアやヨーロッパなどいろいろな地域で、複数の選択肢を用意して組み合わせてカバレッジとして提供できる強みがある。また、モバイルコアを持っているので、例えば、ある顧客が、この地域でもっとカバレッジが必要であるとか、5Gや4Gのカバレッジが必要といった時に、すぐに提携してそれを提供することも、我々だからこそできる。

もう1つは、クラウドネイティブという言い方をしているが、クラウドにデータを貯めるIoTプラットフォームとしては、他のプレーヤーと比べてもその成り立ちから、強い機能性や新規性を持っており、今後コネクテッドカーといえど、先進的なものに関してはクラウドにデータを溜めていく会社も多い。我々は非常に強力な、カバレッジとクラウドネイティブな機能を提供できる。

―通信事業者向けのプラットフォーム提供を成長戦略で挙げていたが、具体的には。また、5Gコアのクラウドでの構築は、いろいろなベンダーがやっているが、比較した時の優位性は
通信事業者向けのビジネスは、KDDIと一緒の研究開発をグループ入りしてからずっと続けてきた。当社の売上の10%弱ぐらいは、KDDIとの研究開発や、同社向けのプラットフォーム提供でできている。今後もそれを継続していきたい。今、海外の通信事業者からも、ソラコムのようなプラットフォームへの興味が高まってきている。

IoT向けのプラットフォームをセルフサービスで提供する仕組みはAmazon由来の非常にユニークなやり方で、興味を持つ顧客も増えてきている。クラウドにつなげることができるグローバルコネクティビティという観点でも、興味を持たれている。海外の通信事業者に対してプラットフォームを提供することは、創業当初から考えていたが、直接エンドユーザーに提供するプラットフォームの規模もようやく大きくなって、知名度も上がり、上場したことによって、より安心感も増えたということで、こういったビジネスの機会が広がる。

―今後、大型案件が成長のカギになり、エンタープライズの案件を捌けるパートナーの開拓が重要になるだろうが、パートナー戦略について
IoTのエコシステムが重要で、創業の時からそれは変わっておらず、今、認定のパートナー企業は200社を超えてきている。IoTのSORACOMの認定資格者もいて、事例もあって、補完的なサービスを提供しているパートナーの数がそれぐらい存在する。

最近は、グローバルでもパートナー向けのプログラムを拡張しており、グローバルパートナーも増えている。プラットフォームビジネスなので、我々のプラットフォームをなかに含む形でインテグレーションしてもらい、ソリューションを出すパートナーも非常に重要だ。

パートナープログラムのなかに、上位認定のセレクテッド・パートナーという上位プログラムを作って、さらに手厚い支援をしていきたいので、これまで以上にパートナーエコシステムに投資をして、一緒に成長していきたい。

―大型案件を開拓していくということで、政府調達領域への進出の可能性は
政府調達の領域においても、今後そういった機会があれば取り組んでいきたい。特に大型案件は例えば、KDDIやほかの大企業と組んだり、単独だけではなく、パートナーアライアンスを組んでいくことも、積極的にしていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]