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上場会見:pluszero<5132>の小代会長と森社長、中身が見えるAEI

28日、pluszeroが東証グロースに上場した。初値は付かず公開価格の1650円の2.3倍の3795円の買い気配で引けた。AIを使って経営課題を解決する技術開発やコンサルティングを提供する。第4世代AIとされる「AEI」(Artificial Elastic Intelligence=柔軟な人工知能)の開発にも取り組んでいる。4月には「仮想人材派遣」という新技術を発表した。小代義行会長兼CEOと森遼太社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

第3世代と第4世代のAIの違いについて説明する小代会長
第3世代と第4世代のAIの違いについて説明する小代会長

―初値が付かなかった
森社長:非常に期待してもらえているとひしひしと感じている。その期待に応えられるように運営しなければならない。目指しているAIは長期的なゴールだが、研究・開発の途上の成果物を用いて価値を創出し、短期的な期待にも応えられるようにしたい。

小代会長:嬉しくもある一方で、大きい期待にこれから応えていかなければならない使命の大きさにワクワクしつつもドキドキしている。本当に頑張るしかないという強い気持ちを持つことができて今ここにいる。

―どの部分が期待されているのか
森社長:まだ株主の声を聞いたわけではないので憶測になるとはいえ、AIはいろいろできることもあるが、できないことも多いことが認知され始めたなかで、限界を破ることができるAIに可能性を感じてもらえたのではないか。

小代会長:第4世代AIは文部科学省や経済産業省の言葉ではないが、「次のAIのワールドカップ」だと見ている。日本が10年間で戦うべき領域だと、そこに日本代表のようなつもりで出場して、結果を出したい。1人でも多くの人に応援してもらいたい。それが、今回上場を早期に選んだ理由でもある。ロードショーでもそのような思いを率直に伝えたし、今日の午前中のストックボイスでもそのような話をした。

そういった点を意気に感じてくれた人もいるのではないか。一方で、短期的にもしっかりと利益を出す足場固めもでき、そのバランスの良さを評価してもらえたのではないか。ただ、それをずっと続けていかなければならず、第4世代AIは、期待を実際の数字に転化していかなければならない。それをいかに続けられるかということで、今はまだ期待先行と見ている。

―上場の狙いは
非常にシンプルで、第4世代AIは規模の戦いではなくてスピードの勝負だ。そういったこともあり、我々は規模的には小さい会社だが、早期に知名度も上げたかった。必要な投資資金も獲得したかった。特に、文理融合型人材、日本代表的な人材が1人でも多く欲しい。上場することで、リスク選好度が多少低い優秀な人が門を叩いてくれるようになるのではないか、また、このような勝負をしていることをもっと多くの人に知ってもらい、門を叩いてくれる人も増えるのではないかと、このタイミングでの上場を目指した。

―プロジェクト型事業は、いわゆるシステム開発がメインか
開発よりは、ビジネスの形態が請負や準委任契約という形でソリューションを提供している。ITのシステム開発は、8領域のうち1つだ。それ以外に価値分析や業務改善、自然言語処理などは、全てがプロジェクト型の対象になる。

AIのサービス型(事業)を立ち上げるための開発に関してもプロジェクト型として今期についてはかなりの部分が計上されている。

―8領域は全てAIを活用しているのか
ITシステム・ハードウェア開発に関しては、AIが絡まないものも一部ある。100%AIというわけではないが、半分を超える割合でAIを適用している。

森社長:システムを作るなかでも、ゆくゆくはAI(を使う)という話で、そこを見越してデータベースやAPIの設計などが必要になるので、AIの知見がありシステム開発もできる会社という形で事業を組み立てている。

―サービス型は現在立ち上げる段階で事業として走り出しているのか
小代会長:今期に関してはサービス立ち上げのため、立ち上がっているわけではない。来期から部分的に立ち上がる。ただ、特許を取っているので、立ち上げ途中でも開発ライセンスの形で費用を収受するので、それはサービス型として計上している。サービスが始まっていなくてもサービス型の収益が上がっているのはそのような理由がある。

―開発ライセンス費用の収入は、業績予想の1割にもなっていないのか
10%で、開発ライセンスのサービス型の部分と、将来のサービスを立ち上げるために、プロジェクト型として計上したもの、その2つを足したものがAEI関連売り上げの10%に含まれている。

森社長は事業説明のなかで、無人線の自動運航や教育県連のプロダクトについて説明した
森社長は事業説明のなかで、無人船の自動運航や教育関連のプロダクトについて説明した

―自然言語処理技術に関して、「BERT(バート)」や「GPT3」といった汎用言語モデルには依存しないのか、そもそも使わないようなものなのか
森社長:決して使わないわけではない。ただ、BERTやGPT3では、本質的に回避できない問題点がたくさんある。例えば、中に入ってしまった差別的な偏りのようなものや、あるいは自然言語で表現されている情報の分布と、実際の世界での分布はかなり異なることが問題になっている。そういった分布の違いを反映できない点や、プライバシーの問題など様々な問題がある。

当社は、BERTやGPT3をベースとして物事を考えるのではなく、もう少し安全でホワイトボックスな手法をベースに、使えるところにディープラーニング的な言語モデルのようなものを組み込むアプローチを取っている。

―自然言語の独自意味表現の変換ができるそうだが、「本質的な意味を保持したまま機械が理解できる独自の意味表現に変換できる」とは、どのようなことか
N4(Neo Non-loss Normalized Network)とPSFデータ、パーソナライズ要約を積み上げて作っていくものだ。N4は、ネットワーク型のデータ保持をする構造で、古くは「ナレッジグラフ」と言われているものをベースにしているが、それを大幅に拡張したものだ。そこに情報を格納することで、意味の欠落を防いだまま多くの意味を取り出すことができる箱となっている。そのなかにPSFデータというものを格納することで、意味を高いレベルで保持した推論や処理ができるものを構築している。

―文理融合型の人材が活躍するとのことだが、今まではAI系の企業では理系に偏りがちに見える。例えば、依拠する言語学上の基礎的な理論などはあるのか
いくつかあり、形式意味論や文脈自由文法など言語学的なものや、哲学の領域では用法基盤、何をもって「理解する」や「意味」とするか、意識などがどのようなところから来ていてどのように定義されているかといったことを基礎に、N4の設計にフィードバックする。言語学や心理学などを中心とした人材と協働しながら作っていく。

―例えば、道徳感情数理工学といった領域と、AEIは関係があるか
非常に関係がある。倫理的・道徳的なAIの作り方というレイヤーと、作ったAIが倫理的・道徳的かというレイヤーの2段階がある。そのどちらに関しても当社のアプローチは優位性が出せるところで、特に作ったAIが結果的に倫理的・道徳的に振舞えるか上手く制御しようとすると、第2世代的AIのアプローチを取るしかない。

あるいは第3世代AIだが非常にしっかりしたコミュニティだけで作られた言語モデルを作る必要があり、それはあまり現実的ではない。そうすると、消去法的に第2世代AIでなければならず、既存のやり方ではスケールさせる点で答えが出ていない状態だと見ている。倫理・道徳という文脈では既存のやり方の延長では乗り越えられない壁が頻発する。

―他社との違いがやはりよく分からない。特定のジャンルに絞れば勝手にAIが判断する。例えば、船の自動運航について説明があったが、そのようなものは他社にはできないものなのか
小代会長:整理して話すと、プロジェクト型の例として船の話が出たが、プロジェクト型の部分に関しては、第4世代AIのみではなく、船の例にしても、3世代AIまででディープラーニングをベースとして手掛けた。

第4世代AIが今のものとどう違うのかという部分は、意味の見える化と精度の2軸がある。他社が何をやっているかというと、AIというと90%以上がディープラーニングをやっている。ディープラーニングでは、ビッグデータを読み込んでモデルを作るが、課題が大きくある。ブラックボックスになって中身が分からない。

第3世代AIを超えたAIを作ろうとすると、乗り越えるべき最初にして最大の課題は、ブラックボックス(化)の解消だが、意味の見える化は相当難しい。ディープラーニングの場合は、ビッグデータを入力すればモデルが自動で出てくる。それぞれの意味をどう捉えるかを考えていない。そこに逃げずに向き合って、文理融合型人材を投入して、意味をまず見える化することが最も難しいところで、我々の特許の中心になっている。

意味を見える化したものが、意味の表現形式N4だが、それを集めたものがPSFデータというデータベースだ。それは、ある意味知能をモデル化した、見える化したものだ。そういった基本技術があると、パーソナライズ要約ができる。

既存のAIでは、相手に応じて言うことを変えてしまうことが多い。「子供には子供向けの情報を」というような形で「この人にこれを伝えるのは無理だから他のことを言おう」と「What」を変える。我々のパーソナライズ要約はそうではなく、言い方「How」を変える。伝えるべきことは変えずに相手に応じて言い方を変える。

例えば、パソコンのトラブルシューティングの場合、相手がITの専門家であれば専門用語で説明し、初心者であれば噛み砕いて説明する。そのことで、教育であっても広告であっても、業務では目の前の事からは逃げられないので、相手に合わせて言い方を変えることができる。そのためには、見える化された意味が必要となる。それが最大の違いになる。

別の観点で、競合について話すと、ディープラーニングを利用する第3世代AIが一番のライバルだ。もう1つはナレッジグラフという意味を見える化した第1~3次を融合させるもので、そのまま第1~3世代AIがライバルとなる。

AEIは、どちらかというと第1~2次AI寄りの、意味を見える化したものだ。いかに見える化されているかはとても大事で、欧州ではGDPRという一般情報保護ルールがあって、説明責任を果たせなければAI企業に罰金を科す動きが出てきている。米国もつい最近、バイデン大統領が「AI権利章典」という形で説明責任を果たせるAIでなければならないとした。AI業界自体が説明責任を果たせないと駄目になっている。過去のデータを使ってモデルを作るので、過去に人種差別があったらそれがそのままコピーされてしまうことがある。それを業務で使うと中身がブラックボックスなので説明責任を果たせない。

モデルの精度は、そのまま世のなかに役立つか、業務に通用するかという度合いだ。ディープラーニングは役に立つ度合いはそこそこでブラックボックスだ。

我々は大きく3つ工夫をしている。1つ目は推論効率の向上がある。推論は、嚙み砕いて話すと、既存の知識を使って新しいことを導き出す行為だ。勉強に例えると、ポイントを掴んで応用し、未知の問題も解けるものと想像してほしい。一方で、ディープラーニングはビッグデータなので、丸暗記だ。丸覚えの人よりも、ポイントを掴んで応用できる人が伸びるのは、実生活でイメージが湧く。

2つ目は動的更新だ。意味を見える化することに再注力した。そうすると、人種差別が駄目なのであれば、「人種差別は駄目だ」というルールをAIに対してすぐに書き換えられる。3つ目は、我々も機械学習を使う。人間でも直感的に判断することがある。それは言語化できないので、ブラックボックスだ。そこは積極的に使う。

精度と非ブラックボックスという2つの軸は、トレードオフになっている。なかなか超えられないが3つの工夫でトレードオフの壁をぶち破って第4世代AIを実現する戦略を採り、かつ特許も去年の秋の時点で取った。

最初から第4世代と言っていたわけではない。偶然5年間ずっと手掛けて昨年特許を取ったものが、昨年ぐらいから文科省や経産省が「今後10年の日本の戦うべき領域だ」と言い出して、我々そのものだとして第4世代AIという言葉を使っている。そこでかなり先行している。ただのAI銘柄ではなく第4世代AI第1号銘柄で証券会社からも評価され、ロードショーや、仮条件の設定を見ても、投資家から評価を受けたのはそのような部分だと思う。

―違いではなく、pluszeroならではの強みは
他社との違いが、そのまま我々と同じような動きを、世界で先行してできているプレーヤーがいないのが、文科省や経産省が名だたる専門家や経営者を集めて日本が戦うべき領域として選んでいるので、先行プレーヤーがいるわけではない。意味を見える化することが当社ならではのものだ。そのやり方をすれば第4世代AIができると考えているかといえば、まだそういう状況ではない。

―文理融合型の人材について、ただでさえIT人材が枯渇しているが、余計に絞ると獲得競争が大変だと思うが、採用はうまくいくのか
森社長:基本的にはうまくいくと考えている。インターンの学生や大学院生を早期に囲い込めているのが大きい。文理両方に興味がある人は多い。ただ、日本の場合はダブルメジャーのようなものはほとんどない。普通はどちらかの進路を選ぶが、当社の場合は大学1年生の時点で、そういった興味がある人間を早期に発見して、ダブルメジャーに近い専門を持つ人間を育成できている。

(採用率)4%の門戸は狭過ぎるので、インターンのプールをもう少し大きくすることができる。そのような形で、事業の拡大の様子を見ながら大きくしていく。

―財務上のKPIについて売上高成長率は直近で30~40%となり、粗利率は50%程度を維持しているが、当面はこの数字で推移するのか
プロジェクト型に関しては、25~30%を目標とした推移を想定している。サービス型は、最低限30%以上の目標を設定している。粗利率に関しては55%程度の水準を維持できれば良い。

―AEIが業績の過半を占める時期は
5年後に50%、10年後に80%のイメージだ。

―それは売上高か利益か
小代会長:実質的なことで言うと売り上げはベースとしてあり、そのなかで利益が、その半分がまず売り上げで認識してもらえば良く、売り上げがそうなった時に利益がどう変化するかという計算をする。

―5~10年後のそれぞれのステップや目標、どこを強化して成長していくのか
現時点で言えることは5年後にAIが半分、10年後に8割というレベルを目指していこうというイメージを共有している段階だ。オフィシャルに中期経営目標として数字を打ち出しているわけではない。来期から立ち上がっていくものの進捗状況を見つつ固めて、できるだけ早いタイミングで、投資家に伝えたいが、確定はしていない。

―今期に黒字化したが、成長投資が必要になった場合には、利益にそれほどこだわらないのか。それとも黒字にこだわるのか
森社長:今後数年に関しては、重要視する指標は、売上高成長率と粗利率なので、営業利益や経常利益を重視しないと読める。考え方としてはAEIへの研究投資をためらわずに行いたい一方で、短期的な期待や収益を上げなければならないと認識していて、営業利益率に関しては、現状の数値・水準を据え置きながら成長していく計画だ。

―「仮想人材派遣」は、メタバース上で遠隔業務支援などをするのか
小代会長:メタバース空間の中で業務を遂行するようなものと同様に、遠隔で仮想人材がクラウドネットワークを通じてリモートで仕事を行うことができるという意味では、通じるところはある。

―定型的な仕事をするのか
そうだ。

―技術開発上の課題は
意味を見える化しているところに関しては、精度を段階的に上げていくので、今のレベルでも来期からサービスを部分的に立ち上げる以上、現場では役に立つレベルには達しつつある。ただ、精度を上げていく必要がある。

現場でサービスとして展開するとなると、UIも必要になり、その開発や宣伝も進めてなければならない。サービス立ち上げに向けて、具体的に急ピッチで進めている。分野ごとにパートナーも違い、スピード感が若干違うので、それぞれ最適なスピードで進めるために動いている。

―アビストと丸紅情報システムズ、大手商社に関しては、販売面でのパートナーなのか
営業的な部分もある。ただ、基本的にはサービスを一緒になって立ち上げていく観点で話をしているパートナーが多い。単純にAEIを販売するよりは、AEIで、例えば、ITの運用・保守の領域でAEIを全面的に取り入れた事業自体も一緒に立ち上げてしまおうというものだ。先方に営業だけを依存するということではなく、それ以外の部分も含めて、コラボしていくケースが多くなっている。

―配当はいつ頃始まるか
全く予定は未定で理解してもらいたい。最終的には株主へのリターンが最大化されることが意思決定の原則なので、ベストだと思うタイミングが来れば当然配当するだろう。今は、AEIがスピード勝負だと考えているのでその分野に再投資することが、結果としてトータルの株主へのリターンを最大化することに繋がる。当面はそうなる。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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