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上場会見:リンカーズ<5131>の前田社長、浮上する暗黙知

26日、リンカーズが東証グロースに上場した。初値は公開価格の300円を67.67%上回る503円を付け、450円で引けた。ものづくり企業同士のマッチングでイノベーション創出を目指すプラットフォーム運営などを手掛ける。クライアントの研究・開発、量産までの各プロセスの課題解決をワンストップで支援する。前田佳宏社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

前田社長は、今後の事業展開として、M&A領域への関心を示した
前田社長は、今後の事業展開として、M&A領域への関心を示した

―初値が公開価格を上回ったが、受け止めを
ひと安心はしているが、これをベースに今後いかに上げていけるかがポイントになってくる。この先の壮大な目標を目指してより盤石な基盤を作って事業を拡大させたい。

―上場の狙いは
資金調達も当然あるが、同等以上に知名度を向上させることによって、売り上げを上げやすくする。当社の顧客はBtoBで大手企業、製造業や銀行なので、いかに信用力を上げるかが重要になる。信用力を得ることで貢献していく。

もう1つが人材採用で、特にエンジニアの確保はなかなか難しくなってきている。我々の場合、強みの1つあるAIやデータベース、システムをいかに強化するかが、今後レバレッジをかけて成長できるかどうかの分岐点になってくる。いかに優秀な人材を確保できるか、そのための知名度を上げていくことがもう1つの背景になっている。

―マクロの環境に影響されやすいスタイルで、事業環境が大きく変わりつつあると思う。長いデフレから脱却できない、、あるいは円安の定着、金利の上昇、コロナ禍で続けられてきたゼロゼロ融資が終わるなど、地方企業をめぐる環境は厳しく、それが事業にどう影響するか
「Linkers Sourcing」と「Linkers Marketing」は大手企業から案件ごとに料金を受け取る事業だ。今、円安によっていかに輸出するかのほうが、効果が出てきて、日本電産<6594>もそうだが、大手企業も軒並み最高益を更新するところが増えている。

そういった意味で大手企業からの発注はむしろ今後は増える可能性があると見ている。研究開発費が原資となるので、大手企業は業績が伸びるほど研究開発費がそのうちの何%と決まっている。研究開発に割り当てられる金額も増えてくるので、逆にポジティブと思う。

一方で、「Linkers Trading」は、これまで日本のサッシメーカーの依頼で、インドネシアや台湾からリサイクルアルミを輸入してきた。そこはそれなりのダメージを受けている。逆に日本国内のアルミスクラップから再生材のサプライヤーの商材を、海外の大手に売り込む輸出を始めようとしている。そういった意味でTradingは影響を受けるが、今後は極力受けないようにフレキシブルに動きたい。

SaaS型マッチングの、「Linkers for Bank」では、融資や金融商品一辺倒の事業ポートフォリオでは非常に厳しいと銀行が2~3年前に気付き始めた。手数料収入を柱にすることを考え始めている。いずれそれが5~10億円になると、1つの柱として見られると思う。銀行としては、これを片手間にやるのではなく、マッチング事業にリソースを注ぎ始めている。

―競合の認識について
それぞれ競合が違うが、自社運営のマッチングサービスでは、例えば、Linkers Sourcingは、非上場企業でいうとナインシグマ・ホールディングスという会社がある。あとは、独立行政法人中小企業基盤整備機構のジェグテック(J-GoodTech)とよく競合する。Linkers Marketingではビザスク<>のサービス(がこれに当たる)。Linkers Tradingは専門商社などが競合になる。

SaaS型マッチングサービスは、ココペリ<4167>の「BigAdvance」というサービスが競合と見られている。「Linkers Research」はブティック系のコンサル会社やリサーチ会社など諸々のリサーチ会社が競合になる。

―「Linkers for Business」は、現在2機関が利用しているが、今後の成長の見通しは
基本は生保や損保など絶対数が少ない。劇的に拡大するというよりは、内部により浸透させることを考えている。生損保は、基本的には大企業なので、そこにいかに浸透させるかを重視したい。1つ背景があり、「Business」は、月額200万円のみならず300アカウントを超えると、1アカウント増えるごとにプラス数千円を課金していく。

かつ、そのネットワーク内でマッチングが起こると手数料が当社にもシェアされる状況になっている。機関内でマッチングをいかに盛り上げられるかが、売り上げと利益の成長ドライバーとなる。機関数が増えるより、有力な機関にまず導入して、そのなかで活性化させる戦略を考えている。

―産業の主軸が製造業からサービス業に移るなかで、ものづくりにこだわる理由は
日本には、まだ眠っている技術があると思う。「Linkers Sourcing」で、大手企業のニーズ起点で中小・中堅大学を探す案件をやればやるほど、これまでなかなか見つからなかった会社が見つかってマッチングが進んでいる。有力な技術を持つ企業が情報を表に出していない。暗黙知の状態だ。誰にも気づかれない状態でずっとそのオペレーションが進んできている。

我々が大手企業の案件を投げて初めて反応して、浮上するケースがすごく多い。そう考えると、ものづくりの世界は暗黙知の情報が9割で、まだまだ眠ってる技術があると思っている。技術だけではなく、ヒトとカネを集中投資することで大きくしてハブ企業にできれば、ものづくりが復権できるチャンスがあるのではないか。

―なぜ眠ってきたのか
地方の企業はPRが上手くないのが大きい。そこの自治体や銀行がPRのサポートをできるかといえば、なかなかうまくできない。

―地方に技術が眠っていると強く感じたエピソードは
初期フェーズで扱った案件で、「段ボール防音室」をバンダイナムコが探していた。彼らは「歌ってみた」というサービスを行っており、(防音室)のなかに若者が入って歌っても音が漏れず、近所迷惑にならないもの(を探していた)。30デシベルの音をカットできる段ボール防音室を作れるメーカーを探してほしいという依頼があった。最初は東北だけから探し、30社ぐらい集まってきたが、27社ぐらいは単なる段ボールメーカーで、30デシベルどころか5デシベルぐらいしか下げられなかった。

そのなかの1社が「40デシベルぐらい下げられますよ」という。神田産業という会社で、元々ヤマハ向けに40デシベルぐらい下げられるダンボール防音室を作っており、技術的に高いレベルの音響ノウハウを持っていた。ただ、当時、神田産業のホームページを見ると、そういうことができるとは全く書いていなかった。どこにも情報として載っておらず、福島県産業支援センターのコーディネーターで60歳ぐらいの人が、日々出入りして知っていた。その人を経由して案件が入ってきた。そのような技術が本当にたくさんあるのだと当時思った。

―例えば、断熱や今後のことを考えるとそのような技術が眠っている可能性がある
断熱はあると思う。最近でも東北地方では電力コストがどんどん上がって、東北地方の企業には11月1日から30%の料金が上乗せされる。本当に悲鳴を上げている。特に夏場だとエアコンがフル回転する。温度も5度ぐらい下げないといけない。

そこに対して、北陸銀行がネットワークしていたある会社の「冷えルーフ」という断熱ルーフが刺さった。特殊なノウハウを持っていて、それを屋根に貼るだけで、エアコンを操作しないで温度の調節ができ、2~3年ぐらいでコストを回収できるらしい。そのような技術はなかなかホームページやネット上に出ていない。

―円安で海外に出ていった製造拠点が国内に回帰すると話す人がいるが
そこはあると思うが、大きなハードルがあって、AIやロボットを使って生産性を上げないと人が足りない。ASEANは、1人あたりの収入が600万円(の水準)を超えると、国外には人を出さないというデータがある。

インドネシアやベトナムもその水準に近づきつつある。ASEANから日本に人を引っ張ることができなくなっている。日本で製造業を拡大するためには、生産性をどんどん上げていかないと難しい。そういった意味で、Linkers for BankでDXの商材を中小製造業も含めて提供して、地方の中小企業をDX化する取り組みをしている。

―それができれば生産性が上昇する
私はそう思う。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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