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上場会見:FIXER<5129>の松岡社長、効率的なクラウドネイティブ

6日、FIXERが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1340円を35.97%上回る1822円を付け、1970円で引けた。Microsoft Azureに特化したクラウドインテグレーター。クラウドの利用を前提とする新規システム開発受託や、既存システムのクラウド移行などを手掛ける。パーソルプロセス&テクノロジーと厚生労働省が主要顧客。松岡清一社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

松岡社長は、Microsoft Azureのみならずほかのクラウドを運用する技術力も持っていると話した
松岡社長は、Microsoft Azureのみならずほかのクラウドを運用する技術力も持っていると話した

―初値が公開価格を上回ったことの受け止めは
本当にありがたい限りだ。まだまだ成長していこうと考えたなかでの船出の1日だったが、最初の価格を上回って値が付いたことに期待されている責任を感じた。

―アジャイル型でシステムを作るベンチャーや大手企業が増えていくなかでの差異化ポイントは
既にたくさんの会社がクラウドそのものを使うが、100ヵ国以上4400社のなかで、FIXERが世界中で一番クラウドネイティブであるという賞をMicrosoftから2021年に受けた。このクラウドネイティブというところが我々の差異化ポイントだ。ただ、インフラとしてクラウドを使っているだけで、やり方は旧態依然とした設計・開発手法で扱っている会社が多いなかで、一番の差別化と考えている。

―クラウドならでは作り方を熟知しているのか
説明が難しいが、クラウドをやるために作った会社なので、入社した際には最初からクラウドで勉強する。例えば、部品として提供しているものを組み込んでシステムを作ることが簡単にできる。クラウドを知らない人たちは、既に提供されているサービスそのものを開発したり、自前の製品に置き換えたりするので、我々の目から見ると少し非効率な構築をしていると思う。そこを(我々は)日々提供されるサービスを取り込みながらやっているので、高い生産性でビジネスを展開できている。

―厚生労働省関連で、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」に関する案件で、サーバー監視と運用、HER-SYS (新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)との連携を担当していたのか
先日、COCOAの停止が発表された。例えば、特定の人の集団のなかに誰か陽性の人がいるのか、陰性かという判定を担っている仕組みがHER-SYSで、問い合わせがあると陽性か陰性か判定を行わないといけない。その部分を連動する形で手伝っていた。

―世界水準の技術力があると投資家も評価しているが、その一連の業務はFIXERの技術水準からは容易なものだったのか
作る手法の簡単さ難しさもあるが、最初に公開したバージョンから 70回以上バージョンアップをした。厚労省の人たちも、初めての日本全体のパンデミックで、どんな機能があれば感染症を防ぐ対策が打てるのか、日々検証しながら改修してきた。どちらかと言えば、改修して不具合なく動かせる運用面での苦労のほうが大きかった。

今日現在も、新しく簡易入力の仕組みを提供しているが、入力が医療現場で日々逼迫するとなると、簡易入力にしてくれという(要請)がすぐ来て、それに対して即応してテストし、完全な形で維持する運用の難易度が高かった。

―SaaS事業は重量課金制で、HER-SYS関連事業が終了することで減収減益の見込みだが、今後の見通しについて聞きたい
石沢裕行氏(IR担当):自動架電は従量課金なので、新型コロナウイルスの感染者数と健康観察の数に連動した売り上げになる。どのぐらい感染するか見通しにくいので、投資家に迷惑をかけない非常に保守的な計画を作った。年間100万人の感染を前提に、9月でそれに近い実数を超えている状況ではある。

そのほかのプロジェクトに関しても契約が見えているものや、確実に契約を結んでいるものだけに限定している。アジャイルとフロントローディング(型の開発手法)なので、受注してから開発して提供するまでの期間が短いものがけっこうある。そういったものは計画に入れずに作っている。4月入社で人がたくさん入ってきてくれるが、そのような人たちを増やしながら、売り上げと利益を増やしたい。

いわゆる完全なストック型収益ではないと保守的に見積もった結果として理解してもらいたい。今後、COCOAだけでなく「HER-SYSもどうなるのか」という話もあるが、そこで我々が特に何か知っていることはない。既に受けている内示や契約に基づいて計画を作っている。

―成長戦略に関して、今までの事業のやり方を踏襲しつつも、中小企業を対象とする流れか
松岡社長:中小企業は定義がなかなか難しいが、どちらかと言えば、年間10億円を超えるようなプロジェクト型サービスは、社員のリソースによるところが大きくなる。自動化を通じて提供できる部品を、中小型のプロジェクトにも適用して顧客数を増やしていきたい。人手が入ってプロジェクト型で進めていく大型案件もやりつつ、そこで生み出した部品を中小規模の案件に対しても適用しながら、規模を拡大したい。

―現状では、大規模な官公庁の案件に皆でかかりきりのようなイメージだが、今後大きなところに偏り過ぎると事業リスクにもなる。顧客数をより広く増やすことで事業リスクを軽減させていくのか
事業リスクを減らす意味合いと、既にたくさん引き合いがあるところに応えられていないので、より多くの案件に応えていきたい。そのために、部品化したものでそこに何とか適用しながら応える意味合いもある。1社でも1案件でも多く手掛け、役に立つことで結果的に顧客数の拡大も図っていく。

石沢氏:プロジェクトサービスを我々に依頼する過去の顧客は、基本的に非常に大きかった。そこよりは小さいとしても、いわゆる一般的な中小企業のイメージよりは大きい。上場企業といってもラージキャップからスモールキャップ、ミドルキャップとあってミドルキャップでも大きな会社が多い。ある程度の規模の会社の数を増やし、応えていくことをイメージしている。数十人という(規模の)会社がSaaSを入れるとかソフトウェアをインストールするというよりは、もう少し大きい顧客に応えていくと考えてもらいたい。

―日本政府の共通クラウド基盤である「ガバナンスクラウド」として、Microsoft Azureが10月3日に取り入れられたが、事業への影響はあるか
松岡社長:前回落ちてしまったことで、我々も非常にショックを受けた。やっと入ってくれたかと胸を撫で下ろしている。Azureが落ちたことで、昨期もAmazonのAWSを使ってシステムを作ってほしいという依頼があった。これまではAzureの請負が目立っていたが、今後AWSやほかのクラウドの上でも我々の技術力を提供していきたい。

―一方、国産クラウドが入札に参加しなかったが、日々クラウドに関わっているなかで国産クラウドに足りないものは何か
石沢氏:ほかの会社との関係もあり、大事なパートナーとなる会社も含まれているので、この場では答えにくい。

―配当政策は
現状、配当は出しておらず、黒字をずっと維持している。直近に急成長したので純資産や総資産が非常に小さい。例えば、大規模システムを請ける場合、顧客からも、何かあった時に対応できる資金力があるのかという不安もある。

また、事業を拡大するには手元資金が重要になり、一定期間は内部留保を高める。成長への投資がしやすい環境や、顧客から安心して仕事を任せてもらえる状況を作りたい。配当も重要なので、そういった環境が整った後に検討したい。市場もグロースなので、投資家はまずは配当よりも成長を期待していると思う。それを実現して十分成長し、配当を優先できる時期が来たらしっかり検討して応えたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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