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上場会見:ポーターズ<5126>の西森社長、人材マッチングをDX

29日、ポーターズが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格である1570円の約2.3倍となる3615円の買い気配で引けた。人材紹介会社や派遣会社にクラウド型のマッチングサービス「PORTERS」を提供する。人材業界で働く40万人超がターゲットで、現在の顧客数は1万人程度。月額課金制で1ID(1万5000円~)から利用可能なサブスクリプションモデルとし、顧客ニーズに合わせてシステムやID数を変更できる。西森康二社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

求職者と募集企業という不特定多数の要素同士を結び付けるシステムの特性上、人材マッチングの場面に最適化されたクラウド製品の存在は非常に限定的であると説明する西森社長
求職者と募集企業という不特定多数の要素同士を結び付けるシステムの特性上、人材マッチングの場面に最適化されたクラウド製品の存在は非常に限定的であると説明する西森社長

―初値が付かなかった
株価についてはマーケットで形成されるものだが、投資家に高い期待値を得られたと感じている。

―上場の狙いや、踏み出すにあたり従前から認識していた課題などは
上場するうえで最も重要だと考えたのは、我々が今目指している雇用に貢献する事業は、日本に限らず世界中でこういった産業があり、そこに優れた情報マネジメントシステムのニーズがあることだ。かつ各国の各マーケットの状況が変わっていくなかで、人材マッチングビジネスはどんどん進化していかなければならない。DX 化を推進していかなければならない。そこで我々が貢献できる部分は大きい。

継続的に貢献をして、その度合いを拡大するためには我々の「POETERS」という器を運営する組織・体制が強固なものになり、その体制のなかでいろいろ役割を持った責任者たちが自立してマーケットを見て、そこに対して価値を提供する活動を営んでいく体制が非常に重要だと思った。上場を目指す時に、そのような体制面や、継続的な活動ができる会社か否か非常に強く審査されると聞いていた。これは、我々がマーケットに対して貢献するための非常に重要かつ必要なステップだった。

また、我々はサブスクリプション型で利益計画を立てやすい会社ではあるが、規模はまだ決して大きくない。こういった人材マッチングマーケットに、より最適な製品を提供するための、今よりも大きい様々な投資活動を描いて実行していく必要がある。その時に資金調達の手法を多様化して事業運営に臨むことも非常に大事なことだった。

もう1つある。人材と企業をマッチングする、人材という重要な情報を扱う企業の人たちが我々の顧客になる。我々のサービスが信用度と信頼度がより高く、安心して使っていもらえる、もしくは我々がパートナーとする企業との連携の信頼性が非常に高いことは重要だ。この上場プロセスで信用度を上げるための、当社のなかのチェック機能が働いていると思ったので上場を目指してきた。

―市場再編について聞きたい。この半年でグロース市場に期待していたものと現状の認識、今後海外展開をするうえで、グロース市場にこのような要素があると事業会社として嬉しいことはあるか
このタイミングでとか、今の市況で(上場したのか)という話をよく聞かれるが、我々はそこに関与する立場ではない。逆に我々としては上場を機に様々な活動をさらに強化したいので、しかるべきタイミングでしっかり出ていこうと考えていた。

天野竜人取締役:世界に打って出るというところもあるので、より世界の投資家から目が向くことになれば、非常にありがたい。また、それがブランド力になって海外展開が容易になると見ているため、期待していきたい。

―このビジネスを思い付いた切っかけは何か。人材業界に20年以上関わっており業界内の会社の困るところもよく分かるとのことだが、ターニングポイントは
西森社長:現在は、クラウドやSaaSが当たり前になっているが、我々が創業した時は、2000年前後に人材ビジネスの法改正があり、これまでは規制対象業種だったものが届出制に変わった。その時に、人材紹介会社が、年間で1000事業所が新たに許認可を取って増えていた。

当時は、見渡したところ、情報マッチングモデルに最適な情報システムは市販のものが全くなく、受託開発会社にオーダーして作ってもらったとしても、結果的に要件を満たしておらず、稼働していないということが業界に事実としてあった。

私も人材マッチングビジネスに関わり、その時に自らプログラミングをして、マッチングモデルのシステムを構築した経緯があった。そこで、自分たち自身の業務の生産性が非常に上がった。周りを見渡すといいシステムがない、購入してもちゃんと動かない。高いお金を払ってオーダーをしても納品後にすぐに動かなくなってしまう。良いものがなく、かつシステムを購入し、あるいは作ることは、お金を出す企業側にとってすごくリスクが高かった。

我々は、産業として重要な人材マッチング産業のシステム化での企業のリスクを低減してで常に進化するソフトウェアサービスを提供できれば、人材マッチングビジネスを通じて雇用が進んでいろいろな企業の活動がより活性化されるのではないかと考えた。そこで、我々が当時作っていたものをより進化させて、汎用的に提供する形で事業をスタートした。

―AIシステムの開発は内製化しているのか
全て内製化している。

―AI人材の不足が言われるが、確保の方策は
特別にこれをすると確保しやすいという方法はない。他社と同様に苦労しながら体制を作っている。特にAI のビジネスでは少数精鋭で進めている。スピーディーに製品のアップデートやAIエンジンのアルゴリズムの改良ができている。当分はこの体制で進めたい。

―顧客規模のイメージはどのようなものか
同じ人材マッチング企業でも、人材紹介と派遣では異なる。人材紹介業界は、業界の全体で雇用を生み出す仕事に携わる従業員が10人以下の会社がマーケットの95%を占める。大規模では1000人とか何千人という規模になるが、非常に小規模な会社が多い。一方で、派遣会社は、もう少しオペレーショナルな業務が多く、1つの売り上げを上げるのに、10~20人といった人員が業務に携わる。小さい規模でも10~20人という会社が多くなる。

我々の顧客構成では、我々のクラウドサービスを使ってもらうユーザーは、1社あたり100 IDを超える会社が社数にすると全体の約1%で、10~99IDの会社が23%、1~9IDの会社が75%の比率になっている。

―成長戦略で東南アジアのマーケットの話があったが、シンガポールでの2021年の拠点開設のほかに今後の展望は
今、シンガポールを拠点として、その周辺の東南アジアの各マーケット、例えばインドネシアやタイといったところにも情報発信をして、顧客を作っていく。顧客となった企業にカスタマーサクセス活動を展開していく。現在最も大きなユーザー数があるのは、人口が多いこともあるだろうが、インドネシアとなっている。ただし、我々が提供できているユーザー数は本当に小さいシェアだが、シェアといえるものには届いていない。そこに貢献できる余地がある。

日本では、例えば求職者が転職をする、仕事を探す時は日本に存在するいろいろな転職サイトを使って仕事を探す。マーケットが違えば、例えば、求職者が自分に適した仕事を探すツールや手段は全く異なる。それ以外にそれぞれの商慣習で異なってくるので、それぞれのマーケットに最適化した製品とサービスが必要になる。

日本のなかでは言語の壁がある。欧米にはこのようなクラウドサービスがたくさんある。我々が日本でこの人材マッチングビジネスマーケットにクラウドを提供してることで、欧米各社がなかなか参入できない。これは我々が日本というマーケットに最適化した製品とサービスを提供できているからだ。この知見を活かして、特に言語の壁があるアジアのマーケットで「きっちりと顧客を作っています」ということが重要となる。

―海外の顧客は日系企業かローカルの企業か
現段階では日系の企業が多い。

―将来的にはローカル企業向けの事業も進めていくのか
日系企業は、現地でも日系の人材や日系の企業を顧客としてサービスしている。やはり大きいのは現地の人材をターゲットにした人材マッチングビジネスだ。そのローカルの企業、雇用を生み出す活動をする業務従事者に、クラウドサービスをしっかり提供できる状況を作っていきたい。

―配当の方針は
非常に重要な施策だが、現時点で2022年12月期には配当を行う計画はない。また、今後も投資家に価値を提供していく点で、マーケットで顧客数をしっかりと増やしていくという活動で、売り上げと利益を拡大することが重要だ。当面の活動としては、内部留保として、事業への投資を想定している。

―岸田文雄総理が、今、日本経済で人的リソース(HR)が重要だと言い、経済産業省も人材版伊藤レポート2.0を出しているが、国のHRへの関心がポーターズの業績に対して追い風になる、あるいは要望はあるか
我々の顧客である人材マッチング会社は人材派遣や紹介だけでなく、国や自治体が行う様々な就労支援事業を受託して運営することが多い。就労支援の事業は、期間限定のものだが、そこに我々のクラウドサービスをスピーディーに最適化でき、運用できることに利点を感じて利用してもらう企業が複数ある。

我々の営業部隊は、自治体や国の事業に対して直接アプローチすることはないが、雇用の創出・拡大に貢献していく使命・目的を持っているので、そういったところにどんどんチャレンジしたい。我々にとってもおそらくプラスの動きだと見ている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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