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上場会見:シンプレクスHD<4373>の金子社長、ビジネスとテックを重ねる

22日、シンプレクス・ホールディングスが東証1部に上場した。初値は公開価格(1620円)を2.47%上回る1660円を付け、2060円で引けた。同社は機関投資家の資金運用業務や外国為替証拠金取引(FX)ソリューションなどのシステムを、ビジネスとテクノロジーに通じた人材のチームで上流から下流まで一気通貫で開発する。2013年10月にカーライル・グループをスポンサーとするMBOで東証1部の上場を廃止した。金子英樹社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

開発するシステムのソースコードの著作権を留保することで、1度作ったものを2度作る必要がなく、工数が下がると話す金子社長
開発するシステムのソースコードの著作権を留保することで、1度作ったものを2度作る必要がなく、工数が下がると話す金子社長

―初値が付いた後にストップ高まで買われたが、感想は
当社は1回MBOをしており、再上場案件だ。公募をしていないのでファンドのイグジットが中心となるIPOで、市場からは相当ネガティブな見方もあることを覚悟した。まずは海外の機関投資家にきちんと今の在り様を理解してもらい、ネガティブ・ファクターをどれだけ打ち消せるかという戦いだった。

元々、国内外の比率を50%対50%と決めていたものを、ロードショーが終わった段階で35%対65%と海外比率をぐっと高められた。海外の多くの投資家に評価されたところから我々の活動が始まり、非常にうまくいった。初値は公募価格を若干上回るところで始まり、最後にずっと買われ出してきたのは、個人投資家に不安をあたえるファクターがありながら、地道に海外投資家からの信頼を得たことが結果となって表れた。

―海外機関投資家とのコミュニケーションを大事にしたのは、金融・海外に関する実績があったからなのか。今後も海外機関投資家を歓迎する方針か
以前上場していた期間が11年あり、全体のムード、例えば、再上場案件やファンドのイグジット案件であるというムードに流されずに、理性的に我々のビジネスモデルを理解して評価し、そのうえできちんと値段をつけてもらうために、最初は海外の投資家にリードしてもらうのが良いという経験があった。

主幹事を務めたSMBC日興とみずほに相談した際も、海外機関投資家にまず理解してもらい、きちんと評価を受けたうえで国内の機関投資家、国内の個人投資家にいったほうが、価値を正確に把握してもらう1番良い道筋ではないかという結論だった。

―2021年3月期の導入企業68社は、ほぼ金融機関か
元々我々が手掛けている「金融フロンティア」という領域は、主にトレーディングやリスク管理を行う証券会社や銀行のキャピタルマーケット、ネット証券やネットFX会社が中心だった。我々が「クロスフロンティア」と呼ぶ新規領域に関しては、生命保険会社や損保会社のネットチャネルや、インターネット専業会社としての生命保険会社の全システムを作っている。

これらの領域は機能も顧客層も重複しない。広義では全て金融ということになるかもしれないが、最近ではゼネコンのERPも手掛けており、領域は拡大する。新規領域の開拓に本格的に参入したこの5年ほどで、採用社数がぐっと上がってきた。まだ売り上げは小さいが、これから「Simplex Way」で深掘りする顧客が続々と増えている。

―ゼネコンは技術力を見ての依頼だったのか
ERPを開発するパッケージベンダーで、ワークスアプリケーションズという会社がある。そこは元々人事のパッケージで、日本で1番の会社だ。そこがERP分野に進出するときに、パッケージベンダーで、ゼロからものを開発することが少ない会社であったため、初期の段階から手伝っていた。

―効率的な開発を可能とする「Simplex Library」は、スイッチングコストを高めるなど、顧客を囲い込む効果もあるのか
金融機関の顧客は、シンプレクスと仕事をしたら、「基本的に、顧客の競争優位に関わるノウハウ以外の一般的・汎用的な部分の著作権はシンプレクスに帰属するものだ」と、完全に認知している。唯一我々だけがそう認知されている会社だと思う。

新しく生保や損保の領域に出ていっても、同様に認知されつつあり、著作権を全て得ている。それを使うことで、結果として効率的な開発ができる。それとともに、現場でシステムの運用が始まった時に、ワンチームで最上流から最下流まで手掛けるために、改善提案ができる。これがリピートオーダーとして入ってくる。システムが時代遅れにならず常に最先端をいける。

一旦リリースされた後に、ほかの会社にリプレースされるケースはほとんどない。この10年間に1~2件と数えるほどだ。それ以外は我々が導入したシステムがこの24年間全て生きている。あるいは、我々の次世代ソリューションで世界が進んでいるという意味では、囲い込みという目的は果たせている。

―グループ会社のDeep Perceptの役割と業績寄与の見通しは
Deep Percept はAIを研究するラボのような位置付けになっている。ここで研究されたAIにまつわるアルゴリズムが、例えば金融フロンティア領域では、FXの事業会社のトレーディングで使われる。あるいは、最近ではキャピタルマーケットのプロが市場を分析する際に使う。保険会社で事務処理をする際の、AI-OCRという書類の読み取りをする仕組みなど多岐にわたる分野で使われる。その会社単体で売り上げを上げるというより、開発したAIの技術がシンプレクスでソリューションのなかに組み込まれて使われるイメージだ。

―そうすると技術開発は全て内製化するのか
そうだ。

―DX(デジタルトランスフォーメーション)/戦略コンサルを始めるが、業界をどのようにリードするのか
これからはビジネスとテクノロジーがほぼ一緒に重なって、戦略が立てられ実行されなければならない時代で、これがDXだと考えている。「ビジネスも分かってテクノロジーも分かる」のが創業以来のコンセプトだ。我々のDXは1997年に始まったと思っていて、単に最近のトレンドに乗るのではなく、本来我々がやるべきだと思っていたことが、24年間経って、今世の中で注目されている。最先端の企業として頑張っていきたい。

―DXコンサルは乱立しているが、競合他社にどう打ち勝つか
DXに焦点を当てたコンサルティングの意味で、強みは母体としてテクノロジーを持っていることだと思う。我々は、業務もテクノロジーも経験がないが最もポテンシャルの高い人たちを新卒で採用し、両方を教えてハイブリッドな人材にすることで伸びてきた会社だ。顧客の事業会社にDXのコンサルティングをしてみると、そのような人材を求めていて、どう育てればいいのかという依頼を受けることもある。

仮想通貨に関して、ブロックチェーン技術が最も多く使われているのが、仮想通貨の取引所や交換所のウォレットの部分であり、市場分析にAIをかなり早い段階から使っている。システムを作るなかで、クラウドを含めたキー・テクノロジーを使う1番の実績や、組織を作ってきたノウハウがコンサルティングに活きる。

例えば、日本で3倍ほどの規模になっているアクセンチュアや、すごい勢いで伸びているベイカレント・コンサルティングと比べても、テクノロジーを中心に据えた実体を持ちコンサルティングに進出できるのは我々の大きな特長と考える。

―再上場で株式市場からの資金調達も可能となるが、今後の資本調達コストの考え方は
フリー・キャッシュ・フロー(FCF)が前期の時点で50億円を超えている。一方でMBOなどに伴うデットが200億円程度ある。ネットでは110億円ほどで、それに対してFCFが50億円ほどだ。投資は全てFCFで賄える中期経営計画になっており、公募増資を行わなかった。

ただし、機動的にファイナンスができるようになり、最も使う可能性があるのはM&Aだと思う。例えば、テクノロジーやコンサルティングに特化したブティック・コンサルティングファームやテックファームについて良い形で買収できる会社が出てくれば積極的に取り組みたい。今、ブティックのエッジが効いた会社のバリュエーションは当社よりもさらに高くなっていて、買いにくい。向こう3年間の中計のなかには一切入れていないが、そのようなバブルが落ち着いてきた時に買収できる案件があれば、その費用をエクイティで調達する可能性はある。

ただ、ネットデットが110~120億円というレベルで50億円のFCFを稼げている。簡単に言えば、2年何ヵ月かで純有利子負債がゼロになる。最初はデットの量に注目して、できるものはデットで調達して、足りない場合に初めてエクイティファイナンスを使うという考え方だ。基本的に資本コストを下げていきたい。

―採用の強化について、どの程度増やすのか
今まで100人台の新卒採用だったが、現時点で、来年4月の内定承諾者が220人ほどだ。基本的に新卒採用を200人台に倍増させる。トップ10%の人材にこだわり、出身大学もそのようなところを中心に二百数十人を集める。これから中計の3年間では、退職率の改善と中途採用に本格的に乗り出す。そこでも大きなマーケットを作れるのではないかと思う。

―開発は、下請けに全く外注していないという理解で良いのか
下請けへの丸投げはない。ただ、当社では、社員のエンジニアと社内に常駐している契約エンジニアが合わせて500人ほどいる。そのときの開発量の波があるので、500人の人員でクッションになってもらう。彼らも社内に常駐してもらい、場合によっては一緒にトレーニングもする。

これからは、できれば社外から来て常駐してくれているエンジニアに、サーティフィケーションのようなものを付けて、「シンプレクスであればこのエンジニアをこれだけの評価でいつでも雇う用意がある」ということを示してあげることができればいいと考えている。

―今日上場したコアコンセプト・テクノロジー<4371>の取引先に、シンプレクスとの記載があったが、どのようなことか
彼らはPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)に強みを持つ会社だ。彼らも我々のところに常駐して一緒にチームメンバーとして頑張ってくれている素晴らしい会社だ。

―配当性向30%だが、今後は
安定的に継続していくことが基本と考えている。今のところは30%で続けていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]