~特別企画・IR担当者座談会~
■比較でもやもや
―バリュエーションに紐づいてくる類似企業(コンプス)の選定について、類似業態など様々な基準があると思う。発行体からすると、どういうイニシアティブで動いているのかという点も含めて、似た業態がありそうなところからでは、森川さんはどうか
オーケーエムの森川氏:当社は1番分かりやすいと思っていて、まず製造業というところで、機械セクター。そのなかからさらにバルブメーカー複数社に一旦絞られて、最終的に同じ主要製品を扱う2社にまで絞り込んだ。
その2社でバリュエーションを付けるという話まで行ったが、最終的に1社の規模が当社と比べて大きすぎるということで、規模が近いもう1社に絞られた。バリュエーションの話にもつながるが、議論を深くというところは確かに主幹事とできなかったところはあるが、期間が短いなかでも複数回にわたって、主幹事からの説明や質疑応答もきっちりしてもらえた。その辺りは、もう少し高く付けたかったという思いはある一方で、それなりに納得感はあった。
―同種の業態が多いという意味では、アピリッツもそうだと思うが
アピリッツの永山氏:難しかったのは、Webソリューションという上流工程から下流まで一貫して顧客のサービスを開発する事業と、オンラインゲームの比率がちょうど半々ぐらいだったことだ。同じ規模で同じぐらいの比率でゲームと開発を手掛ける会社は、数が少なく、それぞれでコンプスを選んだとしても、今度はそのなかから、「ここはどうなの」という議論がある。
例えば、「それ、規模違うから駄目です」と弾かれたりする。「いやいや、規模じゃなくない?」という議論がある。また、半々であることからどうしても、ゲーム事業はボラティリティが高いので、「ゲームやってるからサイバーエージェントで出してよ」と言いたいが、「いや、サイバーは駄目です」と言われ、結局どこを選ぶかの議論は何回かした。
当社が思っているところと主幹事が思っているところのすり合わせは、最後に「そうだね!」という納得感を得られるところまではいかなかったが、当社はどちらかといえば、まずは上場してブランディングを確立させて事業の受注を獲得できる信頼感を得たいというのが1番だったので、そこはちょっと最後に呑んだというのはあった。
―類似業態が絞られるという意味では渡邉さんのところはどうか
ユミルリンクの渡邉氏:類似企業の選定に関しては、比較的ニッチな業態だったので、2~3社ぐらいがあったので類似企業に関しては、我々は特段言うことはなかった。議論としてあったのが、メールとショートメッセージのビジネスと2つあってショートメッセージのほうは、立ち上げ段階で売り上げの比率が数%と低かった。ただ、PERはショートメッセージの類似企業が高くて、「それをどの程度織り込んでもらえるの?」ということは話し合って、結果としては売り上げ比率でそれぞれ織り込む形に、証券会社にも着地してもらえた。
機関投資家たちとのロードショーを回って、その後に証券会社からいろいろなプラスやマイナス面のコメントや、類似企業で参考になったという情報をもらった。そこで見られた類似企業は、数は少なかったが、なんでこの業態なのか、「キーワードは一致するけどあまりにも違うよね」というところがあり、それには、相当な違和感を感じた。時間的にそれほど深く見られないところもあると思うが、「類似で比較されてもな」というのはかなり感じた。
―なかの人から見ても、もやっとするようなところがある
そうだ。
■シ団に聞いてみた
アピリッツの永山氏:ロードショーは意外と物凄く重要で、渡邉さんが話した通り、機関投資家も、普段、投資運用している会社と1on1をやっているし、そこにロードショーが入って、何コマも参加するなかで、それほどきちんと見る時間がないなか、小一時間で良さや成長性を感じさせられるのは、はっきり言って発行体次第だ。ここが非常に難しい。
役割分担だと思ったが、代表とCFO、IR担当の人は一緒に話すが、代表は当然事業への熱意は語れる。ただ、根拠のある数字をワンセットで伝えるとか、そういったことが非常に重要だ。いろいろな会社を見ていて、最初から上手なプレゼンをできる人が社内に潤沢にはいないが、急に40社近くに対して毎日まいにち朝から晩までロードショーを行うのは、前もって練習しておけば良かったとは思う。
―なかなか難しいところがあるかもしれないが、財部さんと三浦さんのところはどうか。まず、財部さんから聞きたい
グラッドキューブの財部氏:最初からずっと意識して上場準備中にやってきたが、「類似企業どこだと思いますか」というのをまず主幹事に出させて、3ヵ月に一遍ぐらいは議論していた。先程、渡邉さんが話していたように、「ちょっとだけ事業が似ているけど、全然似てないじゃん」という部分があったが、「結局売り上げと利益の規模、会社の規模ですよ」と言われたので、逆転の発想でいこうと、「その観点でもっとほかの企業を探してやろう」と思った。その時期になってくると、会ったこともなかったような証券会社が「シ団に入れてください」とわんさか営業に来る。
そこで思いついたのが、そのシ団の営業に来る担当者に、「うちの類似企業どこだと思いますか、3つ挙げてください」と宿題を出したことだった。その答えで判断しますというのではないが、そうすると自分たちが知らなかった企業が出てくる。そこで、主幹事のいう論点で近しい企業で高いPERがついている会社を、「こないだおっしゃっていた規模で言うと、ここは類似に当てはまりますよね」というやり取りを繰り返していた。
―相見積もりを取る感じに
最後は、主幹事の意見を呑んだ形になった。自分がそこまで引っ張ってきたものは結局選ばれなかったが、そこも候補に挙げることができたので、途中までは非常に良かったと思う。
―三浦さんは
noteの三浦氏:当社もどこをコンプスとするのかは、ずっと議論を重ねていた。CtoCのプラットフォームであるnote以外に法人向けSaaSのサービスも提供しているのでその要素もコンプスの中に入れて検討できないかとか、バリュエーションの議論に際してずっと議論していた。
上場を見据えて数年前から投資家とのミーティングは証券会社に設定してもらって実施していたので、そのなかで投資家に直接聞きながら、コンプス候補となる企業の株価の推移をウオッチし、証券会社が提案してきたものに対して、「こちらの企業であればどうなのか」というような議論を返し、少しでもバリュエーションが引き上げられないか検討していた。
財部さんが話していたが、当社もほかのシ団の証券会社に相談して、何か違った見せ方がないかという意見を聞いたり、既存の株主にもほかの見せ方ができないかと相談したこともあった。ただ、最終的には財部さんと同じく主幹事との議論のなかで、主幹事の意見を尊重しながら、という形で落ち着いた。
―発行体によってやる、やらないはあったと思うが、いわゆるインフォメーションミーティングは、あると有用なのか
グラッドキューブの財部氏:当社は行ったが、練習には良いのかという感じだった。
■上場後を見据えた構成
―ほかにこれは言っておきたいということは
オーケーエムの森川氏:財部さんの使い方は凄いなと思った。当社もシ団証券会社やほかの大手の証券会社にも、セカンドオピニオン的にいろいろな意見を聞いていたが、類似企業の選定以外でシ団証券をどのように活用したのか。
私は、主幹事のほうが少し同等か上で、発行体のほうが下みたいな感じの勝手なイメージがあり、財部さんの話を聞いていると対等以上にやり合っていたように感じる。
グラッドキューブの財部氏:主幹事と対等かこちらが上だと思っていたので、そのスタンスでやっていた。というのも、例えば、引受の担当者も物凄く尽力してくれているが、彼らはそれが仕事だ。彼らは私達の事業を経営しているわけではないので、あくまでもこちらが主導だという意識は常に持っていた。発行体が偉いとかではなく、対等か主導する意識でいた。
オーケーエムの森川氏:そのお話を聞いてそういう考えというか、スタンスは凄く大事だと思った。ほかにシ団証券をこう活用して良かったということはあるか
グラッドキューブの財部氏:シ団は、当社は主幹事を入れて全部で10社とけっこう多いが、後々のIRに活用したいというところがあったので、IRサービスが充実している、あるいはサポートしてもらえるという観点で全部選んだ。あとは、ネットが何割、対面が何割など持っている株主の投資家の関係を分布させた。
アピリッツの永山氏:当社も一緒だった。上場後を見据えてシ団を選んだ。例えば、ネットだとSBIだからSBIを入れた。SBIはデータを豊富にくれる。当社の株を売買してくれた人のいろいろなKPIデータをくれるので、そこは入れておく。
あとは、いちよしだ。当社は小型だったので、上場後に大きいところはレポートを絶対に書いてくれない。いちよしは意外と中小型をカバーしてくれているので、「ある程度経った後に書いてくれますよね、じゃあ入れるけどね」とか、地方に行ったときに、「地場で強いところだったらIRを頼める」というのを想像して選んでいた。
オーケーエムの森川氏:実際その全てのシ団証券と今でも付き合いが続いているのか。
アピリッツの永山氏:続いている。
noteの三浦氏:継続的に情報交換している先が多い。
グラッドキューブの財部氏:続けている。
アピリッツの永山氏:彼らとしても慈善事業ではないので、何でも良いから少し商いを発生させられるようにしている。「どこかのタイミングで、こういうことをお願いしますね」と。例えば、当社は自社株買いをしたが、それはシ団の会社で行った。規模は小さいとはいえ彼らも事業で、取引がいったん発生したところへのリソースの割き方を変えられるはずなので、小さくても良いから一旦取引をするとか、IR面談をお願いして、彼らにキャッシュが入る取引を少しだけお願いするということは行った。
オーケーエムの森川氏:一部、連絡を取り合わない会社が出てきていたので勉強になる。
グラッドキューブの財部氏:あとは、無料IRのツールも持っているので、その証券会社内の動画への出演や、何かしら1社1個は活用している。今まで全部無料で提供されている。
■露出はコスパ度外視
―メディアをどう見たかどう使ったか、どう使うべきだったかについて。今日議論に参加している発行体の皆さんは、当社の取材に関してはかなり好意的で、対応してもらったが、大手ではなく、よく分からないメディアから取材の依頼が来た時、第一印象としてはどうなのか、忌憚のない意見を聞きたい
アピリッツの永山氏:自分がいる会社のステージをどう自覚しているかだろうと思っていて、小型という自覚が自分のなかにあったので、小型イコール誰も見てくれない、尖った商売をしていない、既存の世のなかにあるビジネスをしている以上、そんなに目立つわけではないので、メディアに頼らざるを得ない。逆に言うと「ありがとうございます」という話になる。
よく、「それって非効率だよね」とか、「費用対効果が…」という意見もあるが、そんなの四の五の言ってはいられない。はっきり言って時価総額100億円以下で効率なんて考えていたら、どこにも出られないという思いだったので、非常に逆に感謝している。自分たちからメディアを発掘して、アプローチするのはPRの分野では当たり前のことだが、そこまでリソースを割けないなかなので、来てもらえる時点で、もうどこでも受ける。もう何でも出るという感じでやっていた。
当社にはPR専門の人がいない。メディア活用の仕方が社内にノウハウがなく、「BtoBだから、別にそんなのいらなくない?」という風潮もある。だが、だんだんPRとIRの垣根がなくなってきているので、メディアの活用は今後の課題と考えている。
―いろいろな発行体に取材を申し込むと、「BtoBだから」と断られることもあるし、時折、主幹事に止められているという話もある。どう使っていくかには、いろいろ考え方があるが、とにかく露出していくことが必要という考え方があることも分かった。財部さんは前回、ほかの発行体の決算説明会にメディアが流れてしまったという話もあったので、どう人を集めるかも含めて苦労もあるかもしれないが、上場準備中にこういうことをしておけば、ということはあるか
グラッドキューブの財部氏:上場準備中にこれをやっておけば良かったというのはないが、広報も見ているというのもあって、日経新聞とも日頃から関係性を保っている。準備の段階で最初から相談していた。シ団経由でメディアに出るとか、そういうことはけっこう意識して、割と何でも出すようにしていた。逆に、出ることで怪しまれるメディアみたいなのもある。そういうものは必ず避けていた。
―渡邉さんはどうか
ユミルリンクの渡邉氏:当社も永山さんと一緒で基本的に中小型なので、しかもBtoBと全方位において地味なので、そこを重々認識している。まず名前を覚えてもらわなければならない。そこに関しては、選り好みするつもりは全然なく、むしろメディアの人から声をかけてもらえるのであれば、社長も含めてどんどん出ていきたいというスタンスでやっている。
ただ、どう活用してきたかという面では、上場準備にばかり時間を取られて、IRも含めて上場後をなかなか考えられていなかった。PRもやっているのでPRの領域で知っている会社にも声を掛けさせてもらうなど、本当は前もって考えてやっておけばよかったというのは、振り返ってみると後悔しているところはある。正直に言うと余裕がなくて全然考えられもしなかったし、1個もできていなかったというのが今思うところだ。
―noteは、かなり早い段階からPR・広報とIRを分けて活動していたが、話を聞こうと思った時も、広報担当者につないでもらった。そういったことも含めてメディアとの向き合い方は、かなり前から方針があったのか
noteの三浦氏:当社の場合は、一般にはそれなりに知名度のあるサービスに育ってきたものの、法人向けのサービスを伸ばしていきたいということもあって、より知名度を広げていくために、上場のタイミングでどれだけ露出できるかPRチームがかなり前から戦略を練ってきた。
メディアリストを事前に作っておいて、上場承認が下りたタイミングでこちらからアプローチするなどかなり力を入れて動いていた。上場前にこちらから社長取材を打診し、上場の会見にもできる限りたくさんのメディアの人に来てもらえるようにと、かなり早期にアプローチしたことで、上場のタイミングでかなりメディアに露出できたと思っている。
―森川さんはどうだったか
オーケーエムの森川氏:当社も渡邉さんや永山さんと同じで、BtoBかつ小型株で扱っている物もバルブという皆さんが普段目にしないような製品を扱っているので、まずは社名を知ってもらうというところで、そこはもう選り好みせずに、ただ、「ちょっとこの媒体はどうなの」みたいなところは、当然避けつつだった。
あとは、上場当日とその翌日に、滋賀県のローカルの放送局であるびわ湖放送の制作会社と密に連携を取って、滋賀県から上場当日に東京まで来てもらい、朝一の証券セレモニーから上場セレモニーまで撮影してもらい、さらにその翌日、滋賀県でもだいぶ久しぶりの上場だったこともあり、滋賀県の三日月知事に表敬訪問をさせてもらった。そこで京都新聞や中日新聞を含め、多くのメディアに集まってもらえた。
(了)
第3回に続く
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