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東京都が6回目のソーシャル債を発行へ、対象事業は過去最多の34

東京都 嵯峨和道 公債課長(2024年2月5日、東京都庁)
東京都 嵯峨和道 公債課長(2024年2月5日、東京都庁)

東京都が第6回ソーシャルボンドを今月に発行する。年限は5年で、発行額は300億円。主幹事は三菱UFJモルガン・スタンレー証券と野村証券、バークレイズ証券が務める。調達資金の充当事業数は前回債の28から34に増え、過去最多となる見込み。都の嵯峨和道公債課長はキャピタルアイ・ニュースに対し、「ソーシャル債は自治体の業務との親和性が最も高い。都民が関心を寄せている安全・安心の分野が調達資金の充当先であり、投資することで関連政策を後押しすることができる」と起債の意義を強調した。

・過去の発行実績(いずれも5年債)

条件決定 発行額 償還日 表面利率 対国債 対カーブ 基準 主幹事
2023/6/23 300 2028/6/20 0.190 12 12 国債 三菱/日興/GS
2023/2/22 300 2027/12/20 0.349 11 11 国債 野村/大和/GS
2022/6/24 300 2027/6/18 0.110 5 5 国債 三菱/GS/野村
2022/2/18 300 2026/12/18 0.100 5 5 国債 みずほ/野村/東海東京
2021/6/25 300 2026/6/19 0.005 9.6 絶対値 三菱/みずほ/GS/大和

発行額:億円/表面利率:%/対国債・対カーブ:+bp

■都営住宅建て替え・無電柱化が中心
34事業のうち、都営住宅の建て替えが充当資金の約3分の1を占める。住民の居住環境を改善させるほか、耐震化や不燃化によって防災性能も向上させる。同事業は過去にもソーシャル債の充当事業となっており、2022年度末までに2858戸の建て替えが完了し、2024年度末までの目標は3800戸となっている。嵯峨課長は、「社会的支援が必要な人々に焦点を当てており、ソーシャル債の象徴的な事業でもあるため、しっかりと進めていく」と述べた。

公共施設・インフラの防災・老朽化対策は資金使途の5割程度を占める。約8割をこれらの事業に充てた昨年6月の第5回債と比べると、今回債では比重が小さくなるものの、元日に発生した能登半島地震を受けて、その重要性が一層高まっている。都が最も注力している防災対策は電柱の地下化であり、大きな地震で電柱が倒壊し、避難や救助活動の障害とならないよう整備を推進する。

このほか、都営地下鉄におけるホームドアの整備やユニバーサルデザインの考え方に基づいた車両の更新などが新たな資金使途となっている。

■延べ260件参加、222件投資表明
2021年度に自治体として初めて都がソーシャル債を発行して以来、延べ260件の投資家が購入し、そのうち同222件が投資表明した。直近の第5回債の表明は72件と、過去最多を記録した。増加が著しい業態は諸法人で、72件のうち52件と、7割以上を占めている。これについて、嵯峨課長は「学校や特別養護老人ホームなど、調達資金の充当事業を営んでいる会社にとっては身近なことであり、投資意欲が高まっている」と話した。

第6回債の発行に向けて、7日にウェブセミナーを開き、中央・地方の計28件・37人の投資家が参加した。このほかに個別形式でもデットIRを展開している。

■ESGプレミアム、「少なくとも維持」
2022年6月の第4回債から1bpのESGプレミアムが付き、第5回債ではグリーンボンド(GB)と同じ2bpにチャレンジしたものの、1bpにとどまった。今回債のプレミアムについて、都は最低1bpの維持を目指している。嵯峨課長は「低利での調達が望ましいが、あくまで投資家とのコミュニケーションのなかで決まってくるものであり、一方的に決めるつもりは全くない」との立場を示した。

■来年度に初の外貨建てサステナ債
1月26日に発表した2024年度当初予算案において、都債の発行計画は3127億円と、今年度の当初予算から218億円増えた。そのなかでESG債の発行枠は今年度の1100億円から1300億円程度に増加する見込み。従来の円建てGBとソーシャル債に加えて、来年度は本邦自治体で初めての外貨建てサステナビリティボンドを発行する。

このため、単体でのソーシャル債は今年度の600億円に比べると規模が縮小する予定。ただ、都は引き続き数百億円の枠を確保するとしており、起債回数や年限などについては今後詰めていく。

東京都庁第一本庁舎(2023年1月21日、東京・西新宿)
東京都庁第一本庁舎(2023年1月21日、東京・西新宿)

[キャピタルアイ・ニュース 趙 睿]

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