~特別企画・IR担当者座談会~
■人事と連携
―IRとHRについて聞いていきたい。いろいろな情報を見せていくなかでIRとHRの情報は同じものの別の側面に過ぎないという話もあった。採用の局面ではIR活動との関連でどのようなことが行われているのか
アピリッツの永山氏:採用は大事で、求人で出している情報は区分でいうとサステナビリティのところに切り口は違うが全部全く同じものが入っている。平均残業時間や教育研修制度なども全部出ていて垣根はない感じだ。逆に言うと事業を回していくためには人が大事なので、「採用はどうなっているんだ」と言われれば、決算説明会資料にも出ているし、「そういう教育はどうやっているのだ、難しいだろう」という質問があればサステナビリティ報告書に出ている。だから全て繋がっている。
最初からそうしようとしたわけではなく、投資サークルの学生といろいろな取り組みをする機会があった時に、「大学生が皆で集まって投資の情報交換をして投資してるの?」と思ったら、それもするけど主目的は、新卒でどこかの会社に勤める時には、会社をどう見れば良いか分からないから、企業分析のために集まっているらしく、そこそこの規模になっているようだ。「やはりその視点があるんだな」と思う機会があって、全部横串でどこに行っても同じことが書いてあるという風にするのは悪くないと思って、IRのサステナビリティのページも採用ページと同様の情報を開示するようにした。
noteの鹿島氏:当社で意識的にはできていないこととして、先程アピリッツの永山さんがお話しされたような、IRで出している情報とHRの情報を連携させること。現状、IRはIRで情報を出してHRはHRで新規で作っているものもあり、流用しているものもあるが、会社として意識的に融合できていないのは反省点としてある。
当社の場合は中途採用だけだが、中途採用の人でIR資料を見ている人は多く、例えば、会社の発する情報として先程の人的資本の話は採用向けにもアピールしたい。IRに閉じている反省はあるので、確かに同じコンテンツをHRの文脈でも出していくのは意味があるなと聞きながら思った。
グラッドキューブの財部氏:当社は同じ部署内にIRと広報・PRがあり、常に連携している、IRが起点で広報・PRとも連携しているのと同時に、HRもリレーションするようにしている。採用の媒体に書く文言についても、IR的な視点、PR的な視点でチェックを入れている。
ユミルリンクの渡邉氏:当社も中途と新卒採用を行っているが、完全一致までは至っていない。そこもやっていきたいという思いがあって、統合報告書というマテリアルを作った。採用・対投資家ともに説明内容は基本的に同じなので、採用に利用していけば良いという考えだった。完全に一致させていくことは進めていかなければならない。
ただ、採用やIRは一緒に考える機会が少なかったので、何かのマテリアルを作る時に目標を一致させたうえで出していかなければならない。作る途中のプロセスとして目標を一致させるうえでは非常に良い工夫だろう。
オーケーエムの森川氏:私も人事との連携が十分に取れておらず、マイナビの新卒採用サイトのほうが、情報量が多く、コーポレートサイトの採用ページは最低限の情報しか掲載できていない。広報を兼務しているため、ここは最低限、情報量を合わせていかなければならない。
広報でもIRでも同様だが、最近外部の関係者と話すなかで、丸井グループの事例をよく出している。同社は「eNPS(Employee Net Promoter Score)」という指標を年代別に公開し、「あるべき姿がこうで、20代のスコアが低いので、20代向けにこういった取り組みをしています」と実態を示している。現状と理想とのギャップを明確にし、少しずつ改善していることを外部に開示していくべきだと思っている。
第2次中計の策定に向けて議論の場が増えている今、人事や経営陣としっかり話し合い、理想の姿を明確にしたうえで、現状で何をすべきか、それをどのように外部に伝えていくのか考えていく必要がある。当社は上場前後にテレビやほかのメディアに取り上げられる機会が増え、広報やIRで発信した情報を見て入社してくれた社員や、社内の人たちが、「ちょっと実際とはギャップあるよね」と感じている。そのギャップを埋めていきたいと思っていて、広報・IRの担当者としてもっとできることはあると見ている。いろいろと試行錯誤しながら取り組んでいるところだ。
■学生との接点
―学生の投資サークルの話が出たが、IRに関する学生向けのイベントがいくつかあると聞いている。そちらは主に新卒採用に影響するのかしないかというところだろうが、IRという仕事がどのようなものかを伝える機会でもあるのではないか。そういった点を踏まえ、新卒採用向けのインパクトなどについてあれば聞きたい
アピリッツの永山氏:イベントには出ていない。そういう交流があるから出てくれないかという話と、投資サークルが集まって、上場企業の1つをIRとして自分たちが勉強してIRプレゼンをするという全国大会があるらしく、そのなかの1つのサークルに「ちょっと壁打ちしてください」と言われて関わった経験があった。
将来的にはHRになるかなと考えている。大学生はどうしても大企業しか知らない、プライムのすごい上のことしか知らないし、そういう取り組みに参加することによって、「小型やスタートアップなどいろいろあるよ、調べてみれば?」という意味では、遠い未来になるがつながるかもしれない。
逆に、学生の思考が知りたくて参加した。現時点で採用に繋がるかというと、そうではないが、そういったことを知る意味では凄く良かった。選ぶ基準も誰もが知っている企業となるので、当社のことは知らないし、でも何か接点があると見る。分析する能力は持っているので、「ほらね、言うほど悪くないでしょ」という話にはつながるのではないか。まだ、何か取り組みをしている感じではない。
オーケーエムの森川氏:当社は、アピリッツの永山さんが登壇実績のある「IRキャンパス」への参加を予定していた。これは、経済アナリストの馬渕磨理子氏と当社の社長が対談し、そこに学生を中心にリアルとオンラインの両方で参加するものだ。当社の場合は、京都での開催を予定していたが、諸事情により中止となってしまった。
また、2月には「学生投資連合USIC」が東証などと連携して開催する大学生対抗IRプレゼンコンテストに協賛し、参加した。十数社が参加し、各大学のチームと協力して、学生が10分で当社のIRプレゼンを行い、最終的に評価されるという形式だった。永山さんが話したように、取材インタビューを受けて学生とプレゼン内容について相談する機会があり、学生にとって「オーケーエムは何が分かりづらく、どこを強みと捉えているのか」を学ぶ良い機会になった。
さらに、その内容をスライドにまとめてプレゼンする大会の当日には自チームを含む各大学の参加者とも交流できた。こうしたイベントは、ダイレクトリクルーティングの場としても活用できるのではないかと感じている。
―各社全て行うようなところではないだろうが、そういった機会があれば積極的に活用していきたいのか
ユミルリンクの渡邉氏:当然、正しく伝わるように、分かりやすくなるように、開示も含めていろいろな資料を作っているつもりではあるが、全く知らない人がそれを外から見た時にどのように映るのかは、作り手とは全く別の見え方がすると思っている。
特に学生であれば人的資本の点や、そもそも私達がやっているビジネスはどのように映るのかというところは生の声を聞きたい。機会があればどんどん出ていきたい。
noteの鹿島氏:新卒採用は具体的にはまだやってないが、学生やいろいろな人と直接話すのはIRもそうだし、IRに限らずサービス自体に対するフィードバックもC向けサービスを展開するnoteとしては非常に重要だ。若い人の意見はとても貴重なので、私的にはウェルカムだ。
グラッドキューブの財部氏:学生がIRの資料に目を通すことによって、会社のどこを見れば良いのかとか、その企業の方向性を知ることができると思っている。現在のところ、学生向けのIRイベント企画はないが、一種の社会貢献として、もしそういう機会があれば学生のためにやりたいと思った。また、自社でインターンをする時に、それを課題にしても面白そうなので、来年ぐらいから使おうかなと考えていた。
■正解がない仕事
―これまで4回話を聞いてきてIRとPRとの垣根、HRとの垣根もない。インナーブランディングというか社内向けに何かしていくことでもあり、社内をまとめていく作業も多くあるのではないか。IRの役割も含めて最後に一言いただきたい
アピリッツの永山氏:自分が完璧にできているとは思わないが、感覚的にいうと例えば、IR・HR、事業は、本当は切り離すものではない。例えばよくある話だが、IRを頑張っているが事業の業績が悪いから時価総額が上がらないのではなく、そのための事業をどのようにしていくのか市場の声を真摯に受け止める。当社でいえば採用をもっとちゃんとしていかなければと思ったら、別の切り口、HRの情報を外に発信しなければと考えている。
個人的には飽き性なので、決算説明資料会資料を作って登壇して話してというのが面白いのかと言えば、それは5回ぐらいやったらもう飽きてしまう。そうであればもっと時価総額を上げたいという時に、事業側へどのように提言するかというと、「あ、僕が言ってるんじゃないです、株主が言っているんです」、「機関投資家がこういう風に期待しているんです」というのを伝える。
強いて言うなら担当として「IRは自分がやります」ということで、採用も事業もPRもIRも目的は全部一緒だなというのを実感している。たまたま起点がIRなので、自分の立場や役割からすべてを活用して企業価値向上につなげていきたい。1個1個は完璧ではないがそうやって動いていけば、近い将来、皆さんに価値を認められるようになるのではないか。
ユミルリンクの渡邉氏:多分IRという言葉を付けてしまうと、世間からは何か決まった領域しかやらないように見られる気はする。私自身もそこまで経験があるわけではないが、会社という単位やビジネスも含めて俯瞰して見る力が必要で、自分1人でできないことのほうが多いので、会社の人や場合によってはステークホルダーを含めて協力してもらう、まとめていく力が必要なのかと思う。テクニカルなところというよりは最終的にビジネスでどうやって協力できていくかのスタンスを持っている人は、当然IRではなかったとしてもいろいろな部分に転換が効くのではないか。
noteの鹿島氏:お2人の話を聞いてそうだなと思ったのは、IRは投資家コミュニケーションだけでなく、永山さんもおっしゃったように、財務や事業戦略、人事・組織戦略、全て関係してくるということ。それらを横断的にとらえて、会社の成長のために市場とコミュニケーションして自社の価値を適正な水準に持っていく役割で、求められる視座が広い。
会社の人員構成として事業を見る人は当然いる、人事もほとんどの会社で専任者がいる。一方でIRはこれまでそんなに力を入れている企業が多くなく、それが最近東証要請などで注目を浴びてきて、これはとても良いことだと考える。東証や発行体、投資家サイドもいろいろな取り組みをしているなかで、まだまだベストプラクティスが模索されている状況だと思うので、面白いエリアで非常に掘りようがある。当社も力を入れてやっていきたい。
オーケーエムの森川氏:現在、私は3社目で、2社目と3社目で約7年にわたりIR業務に携わっているが、IRの仕事には正解がないと感じている。企業によって異なるだけでなく、そのフェーズや規模によっても異なる。こうした難しさがある一方で、やりがいでもある。周囲の人と話しているなかでも、ほかの業種や職種にくらべて非常にやりがいを感じながら仕事ができていると実感していて、それは今の仕事や職種だからこそだろう。ただ、IR専任ではないため、専任で頑張っている他社の担当者の姿を見ると少しモヤモヤすることもある。
「専任だったらもっといろいろできるんじゃないか」とか。逆に皆さんが話したように、私は経営企画と広報、IRを兼務しているので事業に深く関わることができる。例えば、株主・投資家の意見を経営陣に直接伝えたり、外部から講師を招いて、役員向けのトレーニングを行ったりと、マーケットの視点を取り入れながら企業価値を高めるサポートができる立場にいる。
このような仕事ってとても希少だと思っていて、まさに“正解がない”仕事だと思う。これからもこの職種で仕事を続ける限り、皆さんと情報を交換しながら、確実にやるべきことを積み重ねていきたい。ウルトラCのような特効薬はないので、自分なりに精一杯やっていくだけだ。
グラッドキューブの財部氏:本当に皆さんが話している通りだと思っていて、私もインベスターだけではないという思いがあった。IRというよりもSR、ステークホルダーリレーションだと当初から意識していた。IRは会社の中心であり、役員はもちろんのこと事業そのものにも連携している。機関投資家だけでなく従業員も含めたすべてのステークホルダーと対話していくためにIRを位置付けて進めていきたいと考えている。
(了)
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