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上場会見:ミライロ<335A>、障害者手帳電子化の普及へ

3月24日、ミライロが東証グロースに上場した。初値は付かず、公開価格の270円の2.3倍となる621円の買い気配で引けた。障害者手帳をデジタル化した「ミライロID」を開発し、提供している。また、障がい者への適切な対応に関する「ユニバーサルマナー」の研修実施や、遠隔の手話通訳などのサービスなど提供する「ミライロ・コネクト」を手掛けている。垣内俊哉社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

ミライロIDのユーザー数の拡大を目指す垣内社長

―初値がまだ付いていないが、初日の感想や投資家に一番伝えたいことは
まず、本当に初値が付かないほどというのは、単純に驚いている。元の元をたどれば、私と民野(剛郎副社長)が事業アイディアを大学の教室の片隅で練っているときは、「NPOのほうがいいんじゃないか」というような声が多く寄せられていたが、ビジネスにこだわった。これまでの日本のバリアフリーは、人権運動やアドボカシーの文脈で動いているものが多かった。

例えば、1970年代に川崎バス闘争があった。あるバス会社を障害のある人々がジャックするというものだ。これは、乗車を拒否されたからというもので、「自分たちの権利はちゃんとあるんだ」という形だった。また、大阪の地下鉄でもエレベーターがない駅に障がい者が大挙して押し寄せて、駅員に無理やり運ばせ、疲弊させて、エレベーターをつけさせる運動も過去にあった。それはそれで日本のインフラを前進させるという役割が間違いなくあった。

ただ、それで長続きするかと言ったらしない、広がるかと言ったら広がらない。しっかりビジネスとしてやっていかないと、「お互いに儲かったね」や「お互いにちゃんと利益が出たね」、「コストが減ったね」という話にならないと広がらないし、続かない。このため、ビジネスでなければならないということを我々はずっとポリシーとして持ち続け、今日まで15年やってきた。こうしたなか、上場という1つの節目に到達できたことと、初値が付かないほど皆が高い期待をしてくれるのは本当にありがたい。まずは、期待を裏切らないよう、これから着実に業績を伸ばし広げていけたらいい。

投資家には、この事業は間違いなく、大きな風呂敷を広げれば、日本だけでなく世界でも求められることだと伝えておきたい。皆知っている通り、超高齢社会である日本だからこそ、バリアフリーをもっと進めていかなければならないという議論も高まってきた。それは日本だけでなく、今後他国においても進んでくる。そして世界で暮らす障がい者は、日本と比べればもっと多く、10億人を優に超える。当社の余力としては、グローバルに打って出るような状況ではもちろんないが、しっかりと事業成長を果たした折には、世界中の障がい者やその家族にも貢献していけるような会社になっていきたい。長い目で温かく見守ってもらえたら嬉しい。

―グローバル展開で例えば、どこかの事業者と連携するなど、なにか構想はあるか
一番は「ミライロID」だ。障害者手帳が世界各国でバラバラで、例えばEUでもバラバラだ。EUでの統一の動きは、せいぜいカード化の議論にとどまっており、昨今のウクライナ情勢なども考慮して、議論は一旦止まっている。米国も州ごとにバラバラで、残念ながらアフリカなどに関しては、そのような身分証や制度設計もなされていない。どの国からスタートするのかで言うと、まだ明確なものはもちろん持ち合わせてはいないが、「ミライロID」の仕組みやソリューション、サービスをゆくゆくは世界各国で、それぞれの国の政府とも連携しながら実現できたらいいと描いている。

―「ミライロID」が中心の事業になると思うが、障害のある人にとってのデジタルは、障害のない人とは価値が違い、非常に重要な意味を持っているという理解で良いのか。今後のデジタル展開について、さらにやっていきたいことや拡大していきたいところは
言ってくれた通り、障がい者にとってデジタルやITのソリューションの普及は、彼らの生活や就学、就労を劇的に変えているものだろう。例えば、皆が使っているiPhoneのiOSであれば「VoiceOver」が、Androidであれば「TalkBack」という機能がある。それを駆使することで、全盲の人もLINEやX、Facebook、または皆のそれぞれの媒体も読み上げられる。今まではそれができなかったので、点字の新聞を読まなければならないなど、彼らの情報リソースは限られていた。

また、障害者手帳に関しても1949年の制度以降ずっと現物でなければならない縛りがあった。ただそれを電子化していこうと。残念ながら世界各国に障害者手帳はあるが、電子化できているのは、今のところ日本だけだ。そうしたことを含めて、日本は1歩も2歩も進んでおり、デジタルの力を活かして彼らの生活を変えていこうと動き出している。障がい者がますます積極的に買い物や食事、旅行へ行く、そういった世界が広がっていくと期待している。

―「ミライロID」のユーザー数の拡大に関して、具体的にどのような戦略なのか
2019年7月のリリース時点は、採用してくれた事業者がたったの6社で、全く広がらなかった。 1民間企業のアプリだからということで、なかなか多くの事業者に信頼してもらうことも叶わない状況だった。ただ、マイナンバーカードやマイナポータルと接続した結果、政府としてもこれを広げていくことが、障害のある人々のマイナンバーカードの取得率向上にも繋がるだろうし、障害のある人の外出機会の増加にも繋がるだろうということで、官民一体となって進めてきた。

最初に国土交通省は、鉄道局から鉄道事業者に、自動車局からはバスやタクシーの業界団体に発信してくれた。先日は、厚生労働省からも各自治体に案内してもらった。現状、積極的に県民・市民に発信してくれる自治体は、1700あるなかでも300に過ぎない。ここをもっともっと伸ばしていけば、多くの自治体で利用され、多くの障害のある人々にも利用してもらえるだろう。今は関東や関西にぐっと集中しており、例えば、東北や中国、四国、私が育った岐阜県など、まだまだ十分に知られていないところもある。これから政府の人や自治体の皆と連携することはもちろん、ありがたいことに、鉄道事業者は中吊り広告などでも発信している。駅の人からすると毎回確認したくないので、発信して使ってもらったほうがありがたいというところだ。まずは知ってもらうことが一番重要で、今回上場した理由はまさにそこにある。「ミライロID」をなかなか知られていないことが多かったので、今回を機に多くの人や企業、自治体の人に知ってもらえれば、着実にユーザーも増え、活用してくれる事業者も増えると期待している。

―より多くのインフラ企業とのシステム連携を図りたいということで、鉄道や自動車、飛行機、船舶などは先行的に進んでいると思うが、それ以外で、企業名はけっこうなので、交渉を進めていたり、ミライロとしてこういうところと組んだり、より広がるだろうと想定しているところはあるか
皆にとっての利用頻度が一番高いものは公共交通機関であることは間違いないが、地方のそれこそ岐阜や愛知、三重の東海3県などは車であり、車における様々なソリューションが重要だろう。

駐車場精算機の連携は彼らの生活を劇的に変えている。障害のある人の料金精算のときは、係員に障害者手帳を見せるほか、ポールが置いてあったら、車椅子の人は係員に電話しなければならない。毎回降りてポールを何度かどかすなどの対応が必要だ。聞こえないドライバーもまた問題で、インターホン越しで会話もできないので、障害者の割引適用などができなかった。これは広島市の駐車場からスタートした。天野マネジメントサービスという会社と一緒に始め、次いで東大阪、福岡、今では東京都内の駐車場でもかなり広がってきている。企業名は公開しているところなので触れてもらってかまわない。今はパーク24<4666>や名鉄協商などあらゆる駐車場精算機のメーカーと連携している。

これの何が良いかと言うと、まず障がい者からすれば、わざわざインターホンを押さなくてもPayPayのバーコードを示すような形で本人確認を終えて精算できる。そして何よりも、係員を張り付けておく必要がなくなったので、駐車場ごとの人件費削減や人手不足の問題解決にも繋がっている。自治体からすればコストを一気に下げられるので、障がい者にとって便利というだけではなく、自治体にとってコストが下がって、ありがたいというところに繋げられている。これは社会性と経済性に資するだろうと、ビジネスとしてインフラ企業との連携を皆と進めている。

―かつては様々なトライをしていたが、大きく3つの事業に集約している。何か印象的なものや、こういう失敗があったがこういう教訓を得たなど、エピソードはあるか
民野剛郎副社長:創業期は、大体1年に1つずつのペースで様々なバリア解消のソリューションを提供してきた。いずれもバリアバリューという当事者の視点を活かしたソリューションを自信を持って提供していたが、事業という側面で難しさを感じた。

創業期は、私も垣内も大学生だったので、学生の視点を活かして、大学向けに障害のある人々の視点を活かした調査やバリアフリーの地図作りを行った。ただ当時は、まだ障害のある学生の入学者数も少なく、それをしっかりと受け取って、お金を払ってくれる大学は限られており、1年目は120万円程度の売上でしかなかった。

社会的意義はあるものの、これだとなかなか持続性が出ない。ビジネスとしてしっかりと行っていく必要があるということで、転機になったのが、ユニバーサルマナー研修と検定の事業だ。ハードはどうしても変えていくことにコストがかかってしまうので、コストをかけなくても事業者や大学機関ができることは何なのかというと、ハートを変えていくだけでも、障害のある人が入学できたり、または店舗に入れる。

きっかけをくれたのは大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどで、年間9万人ほどの障害のある人が訪れており、関西という土地柄もあり、どうしてもその人たちからクレームが多かった。すごく困っていたなかで独自の研修を提供させてもらった。それが今では1つの検定という資格のサービスまで発展し、うまくビジネスとして回り始めたことが、創業期のエピソードとしてある。それは当事者や顧客の声を聞いてサービス開発し続けてきたからこそ、生まれてきたサービスだと思う。

―3つの事業に集約し、主に付加価値事業の「ミライロID」と検定・研修の2つにとりわけ投資をするとのことだが、具体的にどれくらいの額を考えているか
資金の投資額の割合として最も高いのは、ソフトウェアの開発だ。主に内訳として「ミライロID」の開発、またはユニバーサルマナー研修と検定に関して、コロナ禍前までは実地での開催が9割以上だったが、コロナ禍なってから、eラーニングの開発を行い、現状6割以上がeラーニングやオンラインの売上比率に変わっている。 労働集約のモデルからシステムを活かした、より高利益率な体制に変えていくところを投資額として考えている。

―金額は具体的に
総額1億円を超える投資額を見込んでいる。

―4月開幕の大阪・関西万博に伴う需要や期待する効果はあるか
当社も万博に関しては、一部事業として関わっており、1つはボランティアの研修を請け負っている。パリオリンピック・パラリンピックのときもそうだったが、このハートの部分を伝えることが、万博開催以降もレガシーとして残っていく。そうした技術は日常でも役立てるものだと思うので、その部分に貢献したい。

もう1点が、デジタルの仕組みを使ったサービスで、聞き馴染みのないサービスかもしれないが、遠隔の手話通訳サービスを万博でトライアルを行う。聴覚障害のある人が訪れた際に、手話通訳の人を常駐させることは難しい。これは、タブレット端末などを使ってボタンを押してもらうと、当社の手話通訳者が常駐している大阪と東京のコールセンターに繋がって、第三者通訳を行うサービスだ。日本でも少しずつ、インフラとして電話リレーサービスが普及してきたことで認知されつつあるが、そうしたことも万博を通じて世界に対してもしっかりと発信できると考えている。

[キャピタルアイ・ニュース 北谷 梨夏]

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