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上場会見:TalentX<330A>、狙いは転職潜在層

18日、TalentXが東証グロースに上場した。初値は公開価格の750円を36.8%上回る1026円を付け、990円で引けた。リファラル採用ツールの「MyRefer」とスカウト採用のマーケティングツール「MyTalent」、オリジナルの採用サイトが作成できる「MyBrand」を、大手企業を中心に提供している。鈴木貴史社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

「MyRefer」の導入事例について説明する鈴木社長

―公開価格を上回ったが、初値の感想は
率直に言うと結構ニュートラルだ。グロース市場のマーケットが決して良いとは言えない状況で、なぜ上場したかというと、採用マーケティングの1丁目1番地のブランドポジションを獲得することに尽きる。皆からの支援に大きく感謝しつつも、当社の社員もそうだが、皆に伝えているのは、今回は本当にスタートだと考えている。

―決算書を見ると、売上のかなりの部分が現金として残っていると思うが、そこの戦略は
当社のサービスは、売上に関しては月額のランニング収益になる。一方、企業からしたら、基本的には一括で入金してもらっており、前受金が多いモデルだ。現状においても、大きな調達を必要とせずにも資金が入ってくるのを確立できていると思う。

―紹介会社に依存していた企業が、Myシリーズを登録すると自社でやるからこそ難しかったり、上手く使いこなせなかったりすることも出てくると思うが、解約率が低い戦略や強みはなにか
言ってもらったことは、まさにその通りだと思う。当社はそのようななかで、プロダクトでは極力、企業の工数をかけないような機能を実装している。例えば、リファラル採用の社内の広報活動はMyReferが全てオートメーション化してくれる。大手の企業となると、エンジニアの職種や営業、バックオフィスなど様々な事業部門があると思うが、リファラル採用の制度を作って、「インセンティブ10万で紹介してね」という一律のメッセージとしてもなかなか促進されないところがある。誰に対してどのようなコンテンツをどのタイミングで配信するかをオートメーション化することによって、使いこなせないという事象にならない工数をかけない設計をしている。

またもう1つ、これまでのノウハウでカスタマーサクセスにも注力している。例えば、リファラル採用と一口で言っても、スタートアップの会社や製造業の数万人を超える会社、外食の会社、介護施設などで浸透の仕方は変わってくる。そのようなところを企業に伴走しながらサポートするのも我々のノウハウとしてはあると思う。

―目立ったライバルがいないというが、今後ライバルになりそうだと意識している会社はあるのか。また、そことの違いは
挙げるとすると、BtoBのSaaSの領域の企業だろう。やはり今の日本は、未曾有の労働人口減少時代で、HRテックと呼ばれる市場が非常に盛り上がっている。そのようななかで、後ろの領域の人材の管理である、タレントマネジメントや勤怠・労務管理などから参入するプレーヤーもいる。我々のように、採用という入口の部分からHRテクノロジーを駆使してプラットフォームを形成しているプレーヤーもいるだろう。世界的に見ると、おそらくHRテックのプロダクトはスタンドアローンではなく、今後は繋がっていく。よって、意識しているプレーヤーを挙げるなら、他のHRテックの領域やBtoBのSaaSの領域のプレーヤーだ。

違いと言うと、日本はDXがかなり遅れているかつ、HRではかなりガラパゴス化した市場が形成されてきたと思っている。いわゆる新卒一括採用で終身雇用だ。そのようななかで、タレントマネジメントや労務管理と勤怠管理など、既に発生している管理業務を効率化するSaaSからプレーヤーが増えてきている認識だ。ここはかなりレッドオーシャンの領域で、そこではなく、採用の領域にSaaSで切り込んでいるのが、今のところ珍しいポジションを築いていると感じている。採用の領域に管理の領域のSaaSが踏み入るのは、難易度も高いので、採用マーケティングでプラットフォームを形成し、参入障壁を作りたい。

また、ほかのHRテックのプレーヤーとも、このプラットフォームでAPI連携などをして繋がっていくと見ている。我々が当社のみであるというスタンスではなく、採用マーケティングのプラットフォームでポジショニングをとっているので、そういう意味では明確にバッティングするかというとそうでもないだろう。

―今後のさらなる成長に向けてのリスク要因やボトルネックが足りていない部分についてどう考えているか
今後のリスク要因を挙げるとすると、BtoBのSaaSのモデルで、マーケットも既に存在し、かつプレーヤーも少ないなかでいうと、一気に人材を増やし、ここの面を獲得していきたい。思った以上の速度で人員が獲得できなかった場合は、1つのリスク要因になってくるだろう。そのあたりは、当社の事業計画も基本的にリスク要因やリスクファクターを踏まえたうえで計画をしているので大きな問題ではないと見ている。

―今後、大手企業を開拓していくという話だったが、より開拓したい業種や業界はあるか
特にこの産業に注力をして攻める営業方針は掲げていない。例えば、リファラル採用で言うと、エンジニアの友達はエンジニアだし、介護士の友だちは介護士だし、施工管理の友だちは施工管理の人で、業種を問わず攻められるのが特徴だ。日本の大手企業4000社に、一気にこの概念を広めていきたい。

―社員1人あたりの採用が30万円まで下がるという話で、大手企業であれば可能かもしれないが、中小企業展開などについて
大手企業だけではなく中堅企業も対象だと考えている。当社が定義しているのは従業員数100名以上の企業になる。これは日本においても対象者数がかなり多いマーケットになっているので、大手企業の開拓と同時にこちらも一気に進めていきたい。一方、従業員100名未満のいわゆるSmall and Medium Businessの企業においては、実際にニーズはあるものの、当社としては例えば、リファラルを効率化していくと言っても、テクノロジーを活用せずに、人力でオフィスを練り歩いたら、もしかしたら一定までできるかもしれないので、優先順位としては一旦劣後している。ただ、MyBrandやMyTalentは、Small and Medium Businessの企業からのニーズも大きくなっているので、事業の戦略としては、大手企業、中堅企業、Small and Medium Businessのステップで事業開拓していきたい。

―TalentXのプラットフォームを導入することで採用コストが1人あたり30万円と大幅に削減できるという説明があった。導入企業のなかでは、採用した1人あたりのコストだけではなく、人数なども企業は重視していると思う。成果や実績はあるか
富士通は年間数百人採用しており、外部の人材エージェントなどに依存していたため、コストが大きくかかっていたという課題があった。また、製造業からDXの会社にトランスフォーメーションしていくなかで、IoTのエンジニアなど、従来の手法ではなかなかリーチできない人材にアプローチする必要があった。2018年からリファラル採用のMyReferを本格導入してもらい、累計450人の採用に至った。これを単年で言うと、初年度に20人だった採用数が、2022年は90人超、2023年は160人超で、かなり大きな成果が出た事例だ。

三井住友海上火災保険も同様に年間のキャリア採用を今後強化していくなかで、9割近くをエージェント採用に依存していた。 キャリア採用は年間250人採らなければならず、新しい優秀層にアプローチすることで、例えば、過去の新卒や中途の辞退者の2年後は競合に行って即戦力の人材になっていると思うが、そのようなところにMyTalentを活用してマーケティングをしたり、また、アルムナイと呼ばれる自社を卒業した社員のデータも構築して、そこにマーケティングした事例がある。

日立製作所はタレントアクイジション部で、よりジョブ型人材で変革していくなかで、採用マーケティングを強化していきたいということで、MyReferとMyTalent、MyBrandを活用して一気に採用マーケティングを行った。面白いのが、アルムナイで導入後半年で約500人登録し、そこから決定という事例だ。

―経歴書を見ると、2015年10月にコーポレートベンチャーとしてこの事業を創業したとのことだが、どうして元々の親会社でこの事業を育てずに、新しくベンチャー企業として会社を設立したのか
私自身、元々世の中のインフラになるようなサービスを生み出したいとの思いで、インテリジェンスに入社している。起業していく前提でまず入社した。リファラル採用の構想を考えて、事業を立ち上げたわけだが、当時2015年で、スタートアップ界隈も調達環境はそんなに悪くない状況だったので、スタートアップとして創業するかどうかといった転機があった。インテリジェンスでは、社内のいわゆる新規事業の制度、「ゼロtoワン」というものがあり、そこで通過したものには大きな調達と環境が提供された。ありがたいことに皆に支援してもらい、MyReferの事業をコーポレートベンチャーとしてサポートしてもらえた。

一方で、既存の人材紹介や転職メディアの事業とはカニバリする事業モデルでもあると認識している。例えば、近年立ち上がったスキマバイトのサービスも、同様のサービスがリクルートで2年前にあった。その事業を踏めば踏むほど既存のタウンワークなどのサービスとカニバリしていくところで、大企業のなかで既存のビジネスを破壊するイノベーションを起こしていくのは、イノベーションのジレンマがかなり発生する。そのようななかでMBOしていくことは元々考えていたし、そういった思いをサポートしてもらえた結果と思っている。

―新卒一括採用と終身雇用が崩れていると言ったが、大きな流れとして人材不足があることは分かる。そのほかに例えば、採用する側とされる側でどういう意識の変化が転職市場で起きていると考えるか
採用される側で言うと、日本においては労働人口7000万人のうち、1年間で転職する層は300万人少々で、5%だった。総務省のデータでも出ているが、転職はしないものの潜在的に、「希望している」、「良いオファーがあれば聞いてみたい」、「いい話があれば聞いてみたい」といった我々は転職潜在層と呼んでいるが、この層が1000万人を突破したと言われている。求職者や転職する側の志向性の変化としては、従来のように転職活動は、ひっそりとクローズドに悪であるみたいな世界線から「少し良い話があればちょっと聞いてみたい」という兆しが見えつつあると感じる。

これは転職だけではなく、副業やフリーランスの流れもあり、雇用の流動性が広がる兆しが見え始めていると思っている。このような流れを踏まえたうえでの企業の人材獲得は、転職を考えている人材に対してアプローチをしても、他社と取り合いになる。実際問題、人材紹介は便利だし、当社も使ってはいるものの、1社だけではなく、複数社併願で推薦されるので、他社との条件合戦に巻き込まれてしまう。当社は戦わない採用と呼んでいるが、企業側としても、そういった自前で潜在層に獲得をしていくようなチャネルの必要性は感じ始めているだろう。特にこういったジョブ型雇用も影響していると思う。

[キャピタルアイ・ニュース 北谷 梨夏]

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