8日、Veritas In Silicoが東証グロースに上場した。初値は公開価格の1000円を100.1%上回る2001円を付け、2501円で引けた。人間の細胞内でタンパク質の合成を制御するメッセンジャーRNA(mRNA)を標的として働き、病気の原因となるタンパク質合成を抑制して治療する低分子医薬品の開発に、製薬会社と共同で取り組む。創業者である中村慎吾社長が2000年代前半に開発した「インシリコRNA構造解析技術」などのデジタル技術と創薬技術を統合した創薬プラットフォーム「ibVIS(アイビス)」を活用する。中村社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―株価の受け止めを
非常に厳粛に受け止めている。この株価をさらに上げていくところにますます真剣な気持ちでいる。
―最近のバイオベンチャーを取り巻く投資環境について
日本の今のバイオの上場環境は非常に悪い、過去最悪と言われている状況であることも重々承知したうえでの上場だった。そういう意味では、もしかすると底を打ったのだろうかという気持ちもあるところで、そこに1つ、我々が風穴を開けることに協力できたとしたら、それに勝る光栄なことはない。
―バイオの上場環境が非常に悪いということで、最近では” 100均相場” と言って時価総額100億円ぐらいにしかならないという指摘もあるが、上場してバイオテックベンチャーに対する評価も見直されているのかという気はする。最近の状況をどう見るか
特にグロースでバイオというのは、長期的な目線で投資してもらいたいのに、どうしても短期的な目線で見られる。悪いニュースがあればすぐ下がるのは、残念な環境と思っている。
悪いニュースもあるだろうが、良いニュースも継続的に出していく。そういう形で、手本になるような形で進めていきたい。これをきっかけにバイオを見直してもらえればという気持ちで、気を引き締めている。
―国内ではなく海外、北米で上場しようとは考えなかったのか。IPOではなくM&Aを出口戦略とするほうが良いのではないかという意見もあるが、どうか
金融的には、我々の理解ではプラットフォームビジネスでは、米国では上場できない。今回の上場は、こちらで叶わなければ、業態を転換してハイブリッド化に向かっていって、その形でNASDAQ上場かと考えていた。喫緊に人材を獲得するために、まずはプラットフォームに親和性のある日本の証券市場で上場してみようとトライした。
もう1つは、金融的な見方ではなく、我々の技術、どういう風に薬を世の中に出していきたいかというところだ。非常にたくさんの薬を作るポテンシャルのある技術なので、1社で抱えていくものではない。武田薬品工業のなかでやっていた時にもその思いがあった。
そういう意味では製薬会社との資本関係は、完全にわざと切っている。製薬会社に中立な形で技術協力をして、たくさんのmRNA標的低分子医薬品を作り、いち早く市場に届けて困っている患者に出したいという点で、M&Aは考えていなかった。
―国内外の機関投資家の反応は
具体的に言えばロードショーの時の印象は、詳しく話せるのかどうかもよく分からないが、終えた後のアンケートの返答率が非常に高かった。バイオのそういったロードショーの後のフィードバックとしては、比率が最も高かったと言われているので、非常に期待が得られていたと感じている。
―元々在籍していた武田薬品を辞めて、2023年に同社と契約している。武田薬品に対する思いや感想は
武田薬品からいろいろな人材が出始める前に辞めている。辞め方が少し変わっていた。私のプロジェクト、mRNA標的低分子創薬を武田薬品でやらせてもらっていた。それが15年か20年はかかるだろうというものの最初の数年で、「そろそろ止めてください。方針転換です」ということで辞めることになった。辞める時に、その時の研究機材を受け取っている。1000万円分ぐらいのコンピュータなどをもらい、自宅に置いておく性質のものではないので、アカデミアに寄付した。そういった形で彼らは私の技術を1回全部手放しておきながら、1億5000万円の契約一時金で買い戻している。
私は、最初は契約しないだろうと思っていて、武田薬品から話があった時にも、ちょっとつっけんどんにしていた。途中で真剣な話をもらったので契約に至った。私を手放した時に意思決定した人が皆いなくなっていたことも、その後の契約までのプロセスをスムーズにしたかもしれない。一緒に仕事をさせてもらっている人は、昔の同僚や先輩なので、再集結してやっているような印象もあって、私としては非常にありがたい気持ちでいっぱいだ。
―当時は時代が良かったのかもしれないが、ペプチドリーム<4587>は上場前後には世界の名だたるメガファームと契約を結んでいた。mRNA標的低分子薬の探索に対して、国内外の期待値はどうなのか。それがこれからの契約にどのぐらい結びつきそうかという手応えについて
はっきりとは言えないが、国内外でmRNAを標的とする低分子医薬品に対する期待は、まだ1つの臨床試験にすら行っていないにも関わらず、各メガファーマすら参加しているという非常に熱い領域だ。そのなかで我々は、世界で初めてmRNA標的低分子医薬品の会社として上場に至った。社会的な信用性も得て、日本で最大の製薬会社である武田薬品との契約もできたので、ここから海外へ進んでいきたい。
一方で、話が変わるかもしれないが、100均相場というなかで、なぜ今上場しているのか、なぜもう少し成長してからでは駄目なのかというところはある。我々からすると、もしこのまま成長したところでも100均相場だった場合には、我々の実際の価値との乖離がより進んでしまう。今は人材の獲得を一番の目的として、まずは上場しようとして目指した。ここから成長を続けて、もしかしたらペプチドリームの上場時の姿に近づき、さらに、できたら並んでいければと考えている。
―既存契約の潜在収益について、契約一時金・研究支援金・研究マイルストーン(ⅰ)を最大総額17億8000万円(取得済総額5億5000万円)、開発マイルストーン(ⅱ)を最大総額80億5000万円、売上マイルストーン(ⅲ)を最大総額1050億円と表現しているが、もう少し詳しく聞きたい
4社との契約書があり、秘密保持契約などで、どの会社がどの程度の契約額なのか説明できないなかでの苦渋の書き方だった。4社との契約中に書かれている具体的な金額だ。ここまで行ったらいくらとか、何年でいくら受け取れるという話を、3年以内のもの(ⅰ)と、3年から10年のもの(ⅱ)、10年から向こうに当たりそうなものを売上マイルストーン(ⅲ)として、それぞれの総額を書いている。満額を取っていこうと考えているが、それらの枠も新たな契約をすることで拡大につなげていこうということだ。
―3年後には最低でも5億5000万円というのは、ほぼ確実か
5億5000万円は2023年9月の時点で既に受け取っているもので、そこからさらに3年以内に、最大総額17億8000万円まで大きくしていこう(というもの)。さらに、3年以内に持ってもらえるものを新しい契約などで積み重ねていけば、3年以内であっても取得総額を大きくできる。今どれぐらいかは話せるものではないが、それを目指している。
―今はプラットフォーム型のビジネスモデルで、今後自社パイプラインを持つハイブリッド型になり、将来的にはスペシャリティファーマになっていくとのことだが、ハイブリッド型の段階で、プラットフォームとパイプラインの事業バランスをどう取るのか
日本の投資家が黒字である会社を期待しているということで、黒字を維持しつつ、その範囲内で、ハイブリッド型ビジネスとなり得るパイプラインを育てていくという前提で想定している。
仮に、日本の投資家の金融的な考え方が一段進んだとすれば、それこそ赤字を掘ってでもパイプラインを作っていく形になるだろうが、株主との対話を通じて決めることで、まずは黒字を維持する範囲でのパイプラインの創出を検討している。
―スペシャリティファーマになっていきたいとの話だったが、いつぐらいにしたいのか。その後、どんな形のスペシャリティファーマになるのか具体像を教えてほしい
時期についてははっきり約束はできないが、皆が考えているより早い時期を想定している。成長のやり方としては、金融的な方法も含めて見ている。
我々はmRNA標的の低分子医薬品に注力しているので、そこにスペシャリティを求めた会社になっていく。
―調達資金の使い道について
かなりの部分を人材の獲得に使い、中期経営計画中では、ハイブリッド化していくためのパイプライン創出にも、ほぼ同額を使っていく。
―必要とする人材は、どのような人材像なのか
これまでのところは、我々の技術を作っていくという意味でmRNAの卓越した専門家が在籍している。一方で、製薬会社との共同創薬研究が進んでいるなかで、製薬会社に職を求めるような人材が必要となる。そこには上場しているという社会的な立ち位置も重要なファクターになってくるだろう。今回の上場を機に、優秀な人材の獲得に大変期待している。
―2024年12月期の業績について
2月13日に発表するのでそちらを(参照してほしい)。
―2019年の製薬企業以外との共同研究、そこでは「インシリコRNA構造解析技術」を高める意味合いもあったそうだが、製薬企業以外との連携、例えば、プラットフォーム上で計算をするといったことは、今後の事業のなかであり得るのか
今、1つ話せることとしては、昨年12月に発表したが、我々の株主でもある三菱ガス化学<4182>と提携の検討を始めている。こちらは核酸医薬品を作ることになるが、三菱ガス化学は、製薬系企業でないが、最終的に核酸医薬品を製造したいという希望があり、共同作業になる。そういった新しい形での事業協力も模索していきたい。
―そういった事業を通じて、今のプラットフォームの精度や効率性がさらに高まっていくものなのか
製薬会社との研究を通じて、どんどん技術を向上させてきた。三菱ガス化学のような別の視点を持った製薬系ではない会社との事業協力を通じて新しい刺激を受け、新しい知見を積み重ね、技術の幅を持たせていこうと考えている。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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