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上場会見:雨風太陽<5616>の髙橋代表、食でつなぐ都市と地方

18日、雨風太陽が東証グロースに上場した。初値は公開価格の1044円を26.44%上回る1320円を付け、1122円で引けた。岩手県花巻市でNPO法人東北開墾を2013年5月に設立。食材付き情報誌「東北食べる通信」を展開する。同市でKAKAX(現雨風太陽)を2015年2月に設立し、翌年3月に「ポケットマルシェ」に商号変更した。日本初のスマートフォンで完結する産直CtoCプラットフォーム「ポケットマルシェ(ポケマル)」を2016年9月にリリース。登録している農家や漁師は7900人でユーザー数は70万人。2022年4月に現在の社名とし、同年7月には生産者のもとで自然に触れる「ポケマルおやこ地方留学」をリリースした。髙橋博之代表が東京証券取引所で上場会見を行った。

ポケマルでは、生産者と消費者がダイレクトメッセージでやり取りでき、両者の距離が最も近いサービスになっていると話す髙橋代表
ポケマルでは、生産者と消費者がダイレクトメッセージでやり取りでき、両者の距離が最も近いサービスになっていると話す髙橋代表

―社名の由来は
岩手県花巻市に本社を置いていて、僕も花巻の人間だ。大谷翔平選手の前に、花巻は世界的な偉人である宮沢賢治を輩出した。宮沢賢治の詩に「雨ニモマケズ」というものがあるが、そこからインスピレーションを受けて付けた。

ポケットマルシェというサービス名と会社名は一致していたが、それでは食品ECしかやっていない会社だと思われがちだった。“都市と地方をかきまぜる”ための手段としての食品ECだったので、コロナ禍が明けて、人流も回復していく時に、地方留学系もやりたくて、この際リブランディングしようと会社の名前を変えた。

雨と風と太陽は天候だが、その土地の食材が育つには必要で、それを社会に置き換えた時に、その土地の力を引き出す存在になりたい。それが“関係人口”だが、そういう社会的な存在になりたいとの思いを込めた。

―初値の所感を
市場から高く期待されていると受け止めているので、役員を含めて期待に応えられるように一生懸命頑張っていきたい。

―NPO法人で設立してから、株式会社化して上場したのは、計画通りの流れなのか。
12年前まで地方政治に携わり、その後の事業もNPOだったので、社会性を訴えていれば良かった。NPOで小さく事業を始めて、小さく成果が出たので、生産者と消費者を双方向でつなげるのは1つの答えになった。

NPOではスピードが上がらないし、多くの生産者に消費者とつながる世界観は届かない。広げるには資本の力を借りなければならないので、株式会社化した。アプリを開発するのもエンジニアがいなければならないので、NPOではそれはできない。

賛同者に出資を募って、アプリを開発した。東北食べる通信は11年目に入り、年間12人の生産者を紹介して10年では120人だ。だが、ポケマルの場合は7年で北海道から沖縄まで7900人の生産者が登録し、スピードが一気に上がった。

最初から株式会社や上場を目指していたのかというと、ノーだ。その時々でベストな選択をして、結果としてここにたどり着いた。

―公開価格が、仮条件レンジ(840~870円)を上回る額で決まったが、戦略と受け止めを
大塚泰造取締役:インパクトIPOと言っている。インパクトというものが即座に会社の企業価値を高めるものではない。ただ、インパクトを出すことによって仲間が増える。

我々の会社に興味を持つ人や、それで株を買ってみようという人が増えるのではないかという仮説を持っていた。それに対してブックビルディング期間中に多くの応募が入って、20%の上限までレンジ外で価格が決まったことは、嬉しく思っている。

―日本の法人で「B corp」(米国のB-Labの認証を受けたサステナブルな企業であるB-Corporationの略)の認証企業は35社あるが、認証に対しての取り組みは
我々が掲げる「都市と地方をかきまぜる」、もしくは都市と地方の分断という課題が、グローバル、特に米国的な価値観で構築されているB corpに当てはまるのは難しいのではないか。

米国はほとんどが地方なので、都市と地方の分断といっても通じない。B corpは西海岸的な考え方によって構築されていると見ており、スコアリングをしても認証を取れるのかというと、今のところそこにはフォーカスしていない。

―黒字化の見通しについて、個人向けの食品で成長を安定的にしていくことがキーになるが、マレーシア系の筆頭株主は、日本の地域中小企業がASEANやイスラムマーケットへの進出の支援を意図している。黒字転換のための戦略や見通しについては
明言はしていないが、早期に黒字化できる経営にしたい。PNB-INSPiRE Ethical Fund1投資事業有限責任組合の件では、我々の事業モデル自体をそのまま持っていくのは難しい。日本の生産者のものを海外に持っていくことは、十分に可能性はある。ただ、それによって黒字化できるものではない。

―黒字化の時期については言及が難しいだろうが、売り上げをKPIに定めている。当面の売り上げの伸び率は、足元の5割をイメージしているのか
その通りだ。

―黒字化に向けてもう少し具体的に
安定的に食品EC部門は伸びている。最近で伸び率が多いところは自治体向けのサービスの売り上げが大きく伸長している。こういったところをそのまま伸ばしていく。特に、営業の人員の採用など、上場での信頼感の醸成で力を入れていくことで売り上げを増やしていく。

―インバウンド向けの旅行系サービスについて。将来的に、観光コンテンツを自社で作って、OTA(On-line Travel Agency)のように販売するのか、自治体の観光コンテンツ支援にとどめるのか。
前者だ。OTAとしてやるかどうか、もしくはOTAの下で実際にコンテンツを開発してランドオペレーター的に動くようなものは計画している。

ただ、現状では自治体はインバウンドの集客に困っている。昨今ではガストロノミーツーリズムなど、訪日外国人は食には非常に興味がある。その人たちと農漁業を自治体がうまく接続できていない部分がある。自治体と一緒にコンテンツを開発することは、十分にできるのではないか。

―実際に取り組んでいるのか
大分県の案件はそのような形で取り組んでいる。

―偶然、雨風太陽と書いてあるエプロンを着た生産者を見掛けたが、今後の在り方として、オンラインのみならず、おやこ地方留学以外にオフラインに関してやってみたいことはあるのか
大崎マルシェ(JR大崎駅)で出店している。コロナ禍の前も、何度かそういった機会はあった。常設でオフライン展開していく想定はないが、スポットで生産者を都会に呼んできて接点を作ることも引き続き行いたい。

―経営指標のなかに、売り上げや利益のほかにもインパクト指標を設定している。両指標が衝突する可能性はあるのか
例えば、私が担当する人流創出では、岩手へのおやこ地方留学は2倍ぐらいの申し込みがある。利益を優先すると単価を上げる、供給に対しての需要が多いので、価格を上げて利益を出すのが、一般的な利益を出すためのアプローチだ。

だが、なるべく多くの小学生に地方で夏休みを過ごしてほしい。そうすると受け入れるキャパ・供給側を増やすほうに意識が向く。新しい場所での開催は、最初の投資コストがかかるので、収益面では1ヵ所でやったほうが儲かる。子供が何人過ごせるのかという数を重視しているので、短期的な利益を犠牲にしてでも、そのような判断をすることが、意思決定の衝突の象徴的な部分だ。

―売り上げや赤字・黒字に対して今までよりもシビアな株主の視線が注がれるが、そのバランスをどう取るか
髙橋代表:上場する目的が仲間を増やすためだと話したが、個人の株主やファン株主を増やしていきたい。社会性と経済性の両方を追って地域を持続可能にしていく。当社も持続可能になっていくことに共感する個人株主に、裾野を広く支えてもらうことが大事だと思っている。株主は選べないが、この指(ミッションやビジョン)を明確に掲げれば掲げるほど、そうではない人たちはこっちを向きにくくなるので、丁寧に情報発信しながら個人のファン株主を増やしたい。

―新領域や新サービスへの投資について具体的に
大塚取締役:具体的に伝えられるものではないが、旅行系サービスでは、夏休みにホテルを4週間も借り切って運営している。そうすると我々も施設側もリスクを負っていくので、施設を一緒に運営していくといったことを想定している。我々がインバウンドに直接提供していくところもある。

生産者のネットワークからいろいろなことを聞き、ほかにも地方が抱える課題はさまざまな面がある。そういったことにサービスを提供していければ良い。

―配当はいつ頃か。優待も含めて考え方を聞きたい
具体的な時期については現時点では言えない。
髙橋代表:まだ赤字なのでいつから出すとは言えないが、株主優待は来年以降に考えている。我々のサービスや、「都市と地方をかきまぜる」ことに参画してもらえるような優待などの仕組みを考えていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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