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上場会見:ジェイ・イー・ティ<6228>の房野社長、国内・米国を攻める

25日、ジェイ・イー・ティが東証スタンダードに上場した。初値は公開価格の4630円を4.54%下回る4420円を付け、4045円で引けた。半導体洗浄装置の開発・設計と製造、販売、それらに付帯する保守・サービスなどを手掛ける。半導体の土台となるウエハーを同時にまとめて洗浄する「バッチ式」の装置と、1枚ずつ処理する「枚葉式」の装置を展開。前身であるエス・イー・エスは、過去にジャスダックへ上場しており、東アジア展開に注力してきた。その流れを意識的に加速させ、韓国と中国、台湾に拠点網を構築している。TOKYO PRO Market(TPM)に2021年3月に上場した。房野正幸社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

山と谷のある半導体市場のなかで、安定した継続成長の実現に注力したいと話す房野社長。近い将来に営業利益率20%を目指す
山と谷のある半導体市場のなかで、安定した継続成長の実現に注力したいと話す房野社長。近い将来に営業利益率20%を目指す

―初値の受け止めを
それがマーケットの評価なのだろうと思う。

―TPMを経由して上場したことに、特に意図があったのか
2017年に準備をスタートした。親子関係の問題やそういう目で見られるところを東証と相談しながら、2020年の秋の段階で、その頃はJASDAQか2部への上場を考えていたが、そこは難しいということになった。そうは言っても会社のなかのモチベーションなど、いろいろなことを考えると、一旦TPMに足跡を残した。その状態ですぐにスタンダードに向けて準備を進めて、今日を迎えた。

―バッチ式装置で東アジア圏でのカスタマイズ需要に応えてきたが、そういった需要の背景は何か
日本のメーカーはIDM(Integrated Device Manufacturer)と呼ばれており自分たちで製品を開発して、自分たちで物を作っていくので工程も決まっている。例えば、中国や台湾はファウンドリーが中心で、顧客がコロコロ変わる。半年や1年、何年契約というのがある。作る製品も変わっていく。そうすると自由度が高い装置でないと、ニーズに合わない無駄な装置が発生する。ファウンドリーは自分たちでレシピを決め、顧客が決めるのでそれを達成できるような自由度の高い装置を求める。国内は逆にそういうニーズが少ない。

―上場での資金調達額は。具体的にどう活用するのか
公募株式が60万株で25億円。オーバーアロットメントがどうなるかは分からず、その状況次第だが、基本的には新しい工場の土地を取得して建物を建設する。理由は、今使っている本社工場が25年以上になっており、かなり老朽化している。生産能も限界に近づいているので、生産能力を増強と新設、一番の大きな目的はR&D機能の強化にある。今の工場でもR&Dの機能はあるが、場所が手狭なので開発の人員がグループに分かれて3交代で取り組んでいる。やらないといけないテーマは多いが、研究開発の場所や、それを支えるユーティリティが充実していないので、そこは喫緊の課題と考えている。

―新工場の場所は。いつ頃着工して、いつ頃完成・稼働するのか
社員の7~8割が里庄町(岡山県浅口郡)と鴨方町(同浅口市)など今の本社工場に近いところにいるので、あまり遠くへ離れられないので、里庄町あるいは鴨方町あたりを考えている。広さとしては、今は工場が手狭になって外に数百台の駐車場を借りている状況で、倉庫も外部に数ヵ所広大なものを借りているので、集約して生産性を上げたい。2万5000平米ぐらいをメドに土地を、何件かメドはつけてある。来年には土地の整備を始めて2025~26年には、工場を稼働させたい。

―今の本社工場と比べて、生産能力的には同様なものか、それともさらに大きいものを作るのか
今の本社工場の生産能力は上限が200億円ぐらいで、今後新しく作る工場は、その1.5倍程度の能力を持たせたい。ただ、我々の生産方式であるサプライチェーンを作って、今は韓国にも製造工場があり、九州にも協力会社の製造工場があるので、バランスを取りながら生産能力を見ていきた。

もう1つ、我々は基本的に開発・設計はするが、加工は一切しない会社なので、売り上げに耐えられるだけのサプライチェーンを構築しないといけない。並行で進めないと、入れ物だけができても売り上げが上がっていかないので、その構築も大変なものと想定している。

―新工場稼働後に今の本社工場はどうするのか
当分は併用を考えている。

―工場の件だが、目論見書には浅口市と書いてある。これはまだ予定なのか
地権者の了解は大体得られたと聞いている。

―ここにできれば今の本社工場の1.5倍ぐらいの敷地の広さとなるのか
そうだ。

―機能としては工場と研究開発があり、目論見書では新本社となっているが、できたときには本社移転も想定しているのか
想定している。

―今ある本社工場の生産能力を残すとなると単純に2.5倍程度の能力が考えられるのか
そうだ。

―成長戦略で米国の強化について、サムスンの米国工場向けに、既に受注している案件があるのか
そうだ。

―日本国内では既に動いているのか
そうだ。元々、米国でスタートしようと思ったのはサムスンの話ではなかった。

2021年の秋に中国のマーケットが非常に活況だった。我々は韓国からスタートして台湾があって、そこに中国が拡大してきたが、そのままでいいのかという疑問もあって、まず米国のマーケットをやろうということで準備を進めてきた。

そこに偶然サムスンの受注が重なり、「米国のマーケットをきちんと攻めていくことを考えなければならない」と準備はしてあり、上場申請しているなかで子会社を作ることは難しいので、上場が終わるまでタイミングを待っていた。上場を果たしたので、急速に動いていけるようになる。

―米国に子会社を作ることを考えているのか
そうだ。

―国内向けには、今話題の国産半導体などがあると思うが、連動したものはあるのか
北海道に(生産拠点を新設する予定が)ある大手半導体メーカーでなされるものは、元々日本にはその技術がないことから、IBMの技術を導入した。ただ、IBMは物を作れるが量産はしていない。技術を日本に導入して量産工場にするということで進めている。もう1つ、そこの代表者は少量多品種生産を標榜している。

半導体は、ウエハーを投入してから完成までに大体2ヵ月から下手すると3ヵ月ぐらいかかる。それを、QTAT(Quick Turn Around Time)という非常に短い時間で商品を出していく考え方で、今IBMで使われている装置では、それを達成できない洗浄工程がある。その洗浄工程を我々が持っているHTS-300という特許があるが、それに合致して、ちょうど共同開発を始め、あちらの会社がNEDOの申請をして、受理された。我々に再委託するということで決まったので、それを足がかりに量産設備まで共同開発を進めていくことになると見ている。

―装置のタイプとしては、パッチ式か
枚葉式だ。

―カスタマイズ需要が少ない日本市場をどう攻めるのか
日本では営業をかけていなかったので、先ほどの北海道のほうや、これから日本はパワー半導体にかなり力を入れるようなので、そちらに向けて準備をして動き始めている。

―今後日米のマーケットを開拓した時に、例えば、売り上げや生産の地域別の構成比は
我々が当社をスタートした15年前は、世の中はグローバル化と言われていた時代で、設計は日本あるいは米国で、半導体のチップ生産基地は東アジアがやるというような時代だった。我々はそれまでに米国に支社を持っており、日本国内の営業もしていた。

ただ、東アジアに特化することで、米国の支社も一旦畳み、日本国内の営業担当者もいなくした。ここ数年そういう状況にガラリと変わってきたので、準備を進めてきた。経営の安定を考えると、アジアだけではなくて、米国と国内を含めて、4分の1ずつぐらいは持っていきたい。

―日本と米国、韓国、中国か
そうだ。

―半導体の微細化が進んでいるが、そういった状況の変化に対して、洗浄装置が要求される技術というのは高度化していくものなのか。どう対応するのか
この1週間ぐらいで、中国のSMICが7nmを作ったというニュースも出ていたが、我々のような製造装置メーカーから言えば、最初から予想していたことだった。普通のニュースでは「EUV (Extreme ultraviolet)を使わないとそんなのは作れないんだ」という話があったが、あれはDUV (Deep ultraviolet)、あるいはもっと線幅の広いスキャナー(露光装置)でも、生産性を無視すれば、いくらでも小さいものはできる。現在、TSMCが3nmや5nmを作ったと言っているが、彼らの良品率は25%に到達していない。本当に経済性があるのかということを考えると、ちょっとちぐはぐだ。

洗浄装置に関して言えば、基本的に水で洗う薬液を使う工程は変わらないので、最先端の洗浄でも、レガシーな洗浄でも、同じものが使えると見ている。ただし、最先端のデバイスでは、今まで使っていないような技術、例えば、NAND型フラッシュメモリなどが特徴的だが、非常に高層化する、平面ではなくて、上に積む工程が増えてくる。高層化の部分での洗浄は、今までの洗浄では満たせない洗浄をしなければならない部分が出てくる。

ただ、基本的なところはほとんど共通で、スキャナーのように、この工程用のスキャナーというボーダーがないのが洗浄機だろう。そういう高層化の部分では、フラッシュだけではなくメモリーも、あるいはロジック半導体もそういう方向に行く。高層化に求められる技術開発は進めており、現実に取り組んでいる。

―リチウムイオン電池に関する製造装置事業に2014年に進出したと目論見書にあるが、現状と今後は
リチウムイオン電池の製造装置ではなく検査機だが、我々とは関係ない第三者の会社が製造していた。その会社がサービスサポート網を築けないことから、我々が引き取って継続させた。

その頃は、リチウムイオン電池は、今の形状のリチウムイオン電池で、その検査機をそれなりに作っているが、中身が全固体電池に変わっていこうとしており、我々としては継続しながら全固体電池でも検査機としてのニーズがあるか見極めたい。ただ、現実的に言うと、全固体電池と言いながら有機溶剤を使っている。そういうニーズはあるのではないか。その時には、全固体電池では世界でトップを走っているのは日本なので、日本でのマーケットはそれなりに拾えるのではないか。

―株主の売出しで親会社のZEUSの保有比率がどう変わるのか。今後の関係は
マーケットは違えども、ある意味親子上場に近いような状況で、関連当事者取引にもなるので、東証からは66.7%未満にするという指導があり、そういう株数で売り出してもらった。

今後の方針だが、当社が始まって2021年まで利益を重ねてきたが一度も配当しておらず、2021年にTPMに上場して、第三者の株主ができたので、配当性向20%で配当した。儲けてすぐに配当で還元するという会社でもないし、今回の上場でも、韓国資本90%以上の会社から、日本の会社になるという意味での上場でもあるので、急激に株数が減っていくことはない。ZEUSからはずっと筆頭株主でありたいと言われている。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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