21日、揚羽が東証グロースに上場した。初値は公開価格の1400円を6.43%上回る1490円を付け、1790円で引けた。リクルーティングやコーポレート支援サービスを展開し、人的資本経営に特化した企業ブランディングを行う。コンサルティング後のクリエイティブ制作やWebマーケティングまでを一気通貫で提供する。湊剛宏社長が東京証券取引所で上場会見を行った。
―株価の評価は
ストップ高なので、非常にありがたいという感じだ。
―このタイミングでの上場について。9月期決算でもう少しで期が締まるが、コロナ禍からの業績が回復してきて上場を目指すなかで、第3四半期まで見てから上場したいという考えがあったのか
大川成儀取締役:我々はストックビジネスではなくてフロービジネスなので、ある程度業績が見えてからのほうが良いだろうということで、第3四半期が締まってからということになった。
―市況が見えづらいだろうが、株価で良い値段を付ける意味で上場を延期したのか
湊社長:株価で考えると、多分来期のほうが良かったのではないか。それよりも早く上場したほうがチャンス大きい。当社は大手企業のクライアントが多い。信頼感の面で、未上場ということで悔しい思いをしたことが結構あった。競合が電通や博報堂など大手なので、有利に仕事を進めるためにも、もう1日も早く上場したいと、お金のことよりもまず上場を優先した。
―上場に至る流れを具体的にイメージできたタイミングや、そこから必要な審査に向けての苦労や、外部の支援との関係などを聞きたい
私は元々映像ディレクターやプロデューサーだった。現場はめちゃくちゃ面白い。10年間ぐらいは現場のプロデューサーとして、経営しているよりも楽しいという感じでずっとやってきた。会社が大きくなっていくなかで、周りを見ていると上場してチャンスを掴んでいく会社が凄く多い。自分たちにもそれができるのではないかと考えて、2015年ぐらいから意識をするようになった。その後、幹部層を固め、経験者にも入ってきてもらい、社外のIPOのコンサルタントの人にも助言を受けつつ、今まで進んできた。
―垂直統合型のビジネスモデルが特長だが、競合がこのモデルをやらないのは参入障壁があるからか
元々、映像をやりたい人は映像が大好きだ。Webをやりたい人はWebが大好き、コンサルティングをやりたい人はやはりそれが好きで、価値観があまり相容れない。コンサルティングは、例えば、物凄くたくさん分析して、凄く細かいデータを作って、分厚い資料を作って、顧客にプレゼンテーションするような仕事ではないか。映像を作る人は、「こんな良い、かっこいい映像ができたぜ」みたいな、そういうモチベーションなので、文化として融合できない部分はある。
あとは、給与も少し違う。コンサルタントは非常に高いし、それに比べるとクリエイターはそこまで高くないので、同じ会社で同じ評価制度のなかで、その職種を同居させるのはなかなか難しい。それで他社は参入してこない。我々はハイブリッドという考え方を大事にしていて、コンサルティングもクリエイティブも両方大事だということは、社員に徹底させている。
よくあるケースは、コンサルティングをしている人は、業界ではクリエイティブをちょっと下に見るようなところがある。そういうことはなくて、両方大事にするのが顧客にとっては最も大事だという文化を形成していることが大きい。
―カルチャーとしてクリエイティブとコンサルのメンバーの融合を図るというが、賃金は違うのか
そんなに変わらない。
額田康利副社長:多分当社は、制作のクリエイティブに携わる人の処遇は、他社と比較してもそんなに悪くないはずだ。湊社長がこの会社を立ち上げたのも、クリエイターの人たちのプレゼンスをもっと高くしたいという思いがあって、この20年やってきているので、非常に配慮して運営している。
湊社長:元々リクルートで営業をしていた。リクルートは給料が高い。その後、映像制作プロダクションに転職した時に、びっくりするぐらい給料が低くて、もう家族を養っていくことができないぐらいの「これはやばいな」という給料だった。だが、クリエイターはとても良い仕事をしている。こんな良い仕事をしている先輩達が非常に優秀なのに、映像というだけこんなに給料が低いのはおかしい。
給料を上げていくためには、代理店やテレビ局の下にいるのではなく、クライアントと直で営業して、コツコツものを作るだけでなく、顧客とコミュニケーションを取ってプレゼンテーションできるようなクリエイターにしないと絶対に食べていけない。会社を作る時はそういう人材を育てていきたいということで、ほかのクリエイティブの会社に比べると、当社のクリエイターは給料が高い。コツコツ作るだけでなく、代理店の人と同じような仕事をしなくてはならない。プレゼンテーションやヒアリングをすることが、クリエイターに関しても今後は絶対必要になると思う。
―従業員のエンゲージメント対策は、今いろいろなところが打ち出している。インナーブランディング領域での強みは
額田副社長:当社は、人を中心に企業のブランディングをしている会社だ。20年余りしてきている。そこが、そうではない会社との違いがある。インナーブランディングは人と人の繋がり、人と会社との繋がりを非常に重要視しているので、20年余りそこに着目してブランディングしてきた知見・経験、ノウハウあると自負している。インナーブランディングやエンゲージメントが盛り上がっているが、そこが他社との差別化ということで引き合いがある。
湊社長:一般的なブランドコンサルティング会社が、まずインナーブランディングのコンサルに入るが、大事なのは、その後、それをどうやって浸透させていくかで、これはクリエイティブの力だ。例えば、映像でその会社の社史を非常に魅力的に作って社内外に展開していくとか、グラフィックで、自社を誇りに思えるようなものを作って社内に展開していくとか、これはコンサルティング会社にはできない。
これを両方やっているのが我々の強みで、クリエイティブだけできる会社は、最初のコンサルティングの部分を一緒にやっていないので、顧客に対しての理解が浅いままに作ってしまうところがある。それではなかなか良いものができない。コンサルティングからクリエイティブまで一気通貫でやっていくところが当社の強みだと感じる。
額田副社長:クリエイティブをやっている強みがそこにある。人の心を動かしてナンボというところなので、人の心を動かすツボを、クリエイティブを通してつかんでいるので、上流からクリエイティブまでしっかり全部できるのが、顧客に評価してもらえている。
―海外でのエンゲージメントの調査はいろいろな基準のもとに行われているが、日本でインナーブランディングを行う上で、日本独自の基準というか、揚羽が世界とは違う視点で取り組んでいるものはあるのか
当社はそれをやっていない。世のなかにはツールがたくさん出ていて、例えば、リンクアンドモチベーション<2170>の「モチベーションクラウド」や、アトラエ<6194>の「Wevox」など、エンゲージメントを測るツールはたくさんある。
我々は、基本的にはそのデータを顧客から共有してもらい、そこでコンサルに入るやり方をしている。当社も一時期、ツールを持ったほうが良いかと思ったが、世のなかには物凄く溢れていてレッドオーシャンなので、今から参入するのも遅いし、特に顧客は間違いなくデータを持っている。それを共有することで十分なのではないか。
―定量的なエンゲージメント計測に関しては、顧客の保有データを共有するなかで見ている
基本的にはそうだ。
―エンゲージメントの調査でツールを持っている会社は、データを基にコンサルティングを始めることはないのか
アトラエはやっていない。リンクアンドモチベーションはやっている。
―バッティングはしないのか
アトラエはコンサルをやっていないのでバッティングしない。当社もWevoxの代理販売を行っていたぐらい仲良くしてもらっている。リンクアンドモチベーションとは、最初は競合する。例えば、「インナーブランディングをやりたい」ということで声がかかる。我々は課題解決の方法がクリエイティブ制作によることが多い。例えば、モチベーションの上がる映像やグラフィックを作り浸透活動を行う。彼らは、研修という課題解決手段で、入口ではちょっと当たるが最終的には競合はしない。
―揚羽自身のインナーブランディングはどうしているのか
当社はエンゲージメントが非常に高くて、先日も東洋経済新報社から出た『1300万件のクチコミでわかった超優良企業』という口コミの調査から調べた本で、全日本企業が対象として入っているかは分からないが、チームワークが良い会社で第4位だった。また、20代で成長できる会社4位。今日上場したのでそこには入らないが、未上場企業のなかの総合順位で20位だ。2位が確かサントリーで、11位が竹中工務店、揚羽が20位という感じで結構いろいろやっている。こういう商売をしているので、従業員がモチベーション高く仕事をしてくれることが凄く大事だ。
エンゲージメントが最も上がった施策は社員旅行だ。「社員旅行なんて今の若い人たちがもう行きたくないんじゃないの」と思って、「俺たちの自己満足って思われるからやめようやめよう」と言っていたが、いざやったら社員旅行が、エンゲージメントが最も高かった。
あとは、1年に1回、誕生日に全社員から寄せ書きが贈られる。「いつも良いデザインしてくれてありがとう」とか、それがめちゃくちゃ高い。また、今回、ミッション・ビジョン・バリューを作り直したが、それを全社員でやった。そのワークショップがエンゲージメントを非常に高めている。
額田副社長:若い人を中心に受けているが、メンテナンスとして意識しているのはフィードバックだ。チーム単位でもあり、1on1もある。こういったフィードバックの時間、それから新しく策定したミッション・ビジョン・バリューの浸透を図るための毎週月曜日の朝会を、オンラインとリアルとハイブリッドでやっている。これはいわゆる独唱・和唱ではなく、社員が体験を通じて解釈したミッションや行動指針、価値観を発表する。これも1対Nに対しての発表よりは、よくある(オンライン会議システムなどの)ブレイクアウトルームで4~5人の塊で自由に話していくというフラットな組織運営もやっている。そういったことも積み重なって、先ほどの口コミの評価を得ている。
―インナーブランディングのみならずコーポレートに関して、1社ごとの予算もかなり大きいので、これからより注力していきたいとの話だったが、売上高構成の考え方は
湊社長:リクルーティングとコーポレートの割合では、去年が大体6対4ぐらいでコーポレートが多かった。今期は7対3ぐらいになりそうだ。そこまでハイペースかどうかは分からないが、8対2や9対1になっていくのではないか。リクルーティングは絶対額が減るわけではなく、おそらく一定になってくるので、どれだけコーポレートが上がっていくか次第だろう。
―サステナビリティに関するブランディングに注力し、利益を高める見通しは
額田副社長:単一セグメントだが、リクルーティングとコーポレートという支援領域を大きく2つに分けている。サステナビリティ・ブランディングについては、コーポレートのなかの一部で、どちらかというとテーマだと見ている。サステナビリティだけでマネタイズさせようというよりは、テーマをしっかり捉えていくという位置付けだ。最終的にはコーポレートを育てていく1つの種だと考えてもらいたい。
―社員数140人程度だが、中途と新卒の割合は
最近は中途のほうが多い。
湊社長:55対45ぐらいだと思う。
―中途の人たちはどういう領域から来るのか
制作部隊は割と同業から来る。営業は、あまり同業がいないので、いろいろなところから来る。最近はリクルートが多かった。不動産も都市銀行からもいた。
額田副社長:営業をやっていた人は職業・業態に関わらず来る。コンサルティングとクリエイティブが好きだという人が、営業をやっていて、そういう志向の人がドアノックしてくれる。業種であまり偏りはない。
―7億円の調達資金の使途は
大川取締役:対外的には、今後の成長のための人材投資が最も大きい。成長のためには人材だけでなく広告宣伝などもあるが、まずは人という形でやっていく。借入金の返済に回すことはあるが、今後の成長で何が良いかというのをこれから検討していく。まだ決まったことはない。
―人材をどう育てていくのか。そこに資金を注入していく具体的な使途は
額田副社長:当社はグロース市場に上場するということでベンチャー的な位置付けだが、幸いにも20年のなかで培ったノウハウの型や伝えるメソッドがある。いろいろな出自の人が入社するが、そのメソッドやノウハウに基づいて多能化を推進して、一人前にしていく期間が短いので、割と早期に戦力化しやすい。
いわゆるコンサルタントやマーケッターは人材獲得が非常に難しいイメージがある。アクセンチュアやマッキンゼーのようなところの、バリバリ稼いでいるコンサルタントを引き抜いてこようと思うと資金も獲得競争も大変だ。軸を若干ずらして採用し、社内で育てることで人材価値を高めている。入口は少しスロースタートになるが、半年後には戦力化している。
―採用してからの育成に今回獲得した資金をどう使っていくのか
採用してから資金を投じて育てるというわけではない。OJTとOFF-JTを合わせて育成することになる。
―獲得した資金は採用に投じるのか
そうだ。リクルーティングの獲得のところだ。
湊社長:人員を少し増やしていこうということだ。
額田副社長:当社は、上場企業とそのグループ会社800社ほどを中心に取り引きしているが、認識としては、これらの会社にきちんと当たり切れていない。当社の取引の流入経路は、既存の会社だ。この会社に十分当たれていないので、しっかり当たっていく頭数を増やしていくことが当面の課題と思っている。
[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]
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