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上場会見:Laboro.AI<5586>の椎橋CEOと藤原COO兼CTO、共通知見を展開

31日、Laboro.AIが東証グロースに上場した。初値は公開価格の580円を106.03%上回る1195円を付け、1375円で引けた。AIとビジネスの知見を併せ持つ「ソリューションデザイナ」がオーダーメイド型AIである「カスタムAI」の導入・活用を支援する。新規製品やサービス創出、ビジネスモデル変革などで企業を成長させる「バリューアップ型AIテーマ」が主戦場。先例のないテーマに対するソリューションを開発する「バリュー・マイニング(VM)事業」と、そこで得られた知見を応用して展開する「バリュー・ディストリビューション(VD)事業」で事業規模を拡大する。椎橋徹夫CEOと藤原弘将COO兼CTOが東京証券取引所で上場会見を行った。

テクノロジーとビジネスの両方をつないていくことを非常に大切にしていると話す椎橋CEO
テクノロジーとビジネスの両方をつないていくことを非常に大切にしていると話す椎橋CEO

―初値の受け止めは
公開価格よりもだいぶ高い水準で初値を付けてもらえたのは確認して、非常に高い期待を寄せられているときちんと受け止めて真摯に糧にしていきたい。同時に、短期的な上場直後の値動きに一喜一憂せずに、ミッションを達成し、その体現としての業績を作っていくことで、長期的に本質的に企業価値を上げていきたいので、改めて期待を糧にしながら長期の視点で取り組みたい。

―初値が、2.1倍程度に跳ね上がった。適正価格がどうかは非常に難しい問題だが、売り出す株式が、公募・売出株式合計の3分の2ほどあるので、既存の株主への利益還元でも、調達金額でも、もう少し高い公開価格であれば良かったのではないか。上振れも踏まえて、その辺り、何か率直な感想はあるか
価格はマーケットで決まっていくので、どの水準が適正かを我々自身が言うことはなかなか難しい。短期では、類似企業の過去の傾向などを見ても、上場直後は少し振れる傾向がある。

一方で、AI業界全体としては、相対的に見ると高いマルチプルが付いた状況もあるなかで、長期的に我々の適正な企業価値をどう見ていくか、これから市場や投資家と対話しながら、見いだしていきたい。

―アナログ・物理データをデジタル化する「デジタイゼーション」と、業務効率化による生産性向上をもたらす「デジタライゼーション」が進んだからこその、バリューアップ(≒デジタルトランスフォーメーション)なのか。その2つが進まない限り、バリューアップAIの導入の部分が足踏みになるのではないかという素朴な疑問がある
2つの側面がある。確かにデジタイゼーションとデジタライゼーションが全く進んでいないと一足飛びにデジタルトランスフォーメーションには行きにくいこともある。逆に言うと、デジタイゼーションとデジタライゼーションが進んでいればトランスフォーメーションにチャレンジしやすい状況を作れるのは間違いなくある。その観点では、日本企業もそこはけっこう進んできているので、次はトランスフォーメーションへのチャレンジに進めやすい立ち位置に来ている側面もけっこうあるのではないか。

一方で、2点目の視点としては、とはいえ、完全に連続的なのかというとそうではないと思う。デジタイゼーションとデジタライゼーションが進めば勝手にトランスフォーメーションに移行していくわけでもない。元々既存の業務をちょっと効率化するとか改善するだけではなく、本当にビジネスモデルを変えるとか新しいサービスや事業を作っていくという志を持ってAIと向き合わないと、トランスフォーメーションできない。

デジタイゼーションとデジタライゼーションがまだ進みきっていなかったとしても、トランスフォーメーションをやっていくという志を掲げて、そこにチャレンジしに行くのは非常に価値のあることだ。

デジタイゼーションとデジタライゼーションの進展具合を、あまり制約条件と見ずに、AIのような新しいテクノロジーを使ってビジネスモデルを変える、長期の成長をしていくという思考をする経営者が増えていくと良いし、増やしていきたい。支援していきたい。

―戦略としては、特にデジタイゼーションやデジタライゼーションが進んでいないところでなくても、組みたいというところであれば「ぜひ」となるのか
そうだ。その観点で言うと、物理的な現場があって、ものづくりや相対的にデジタイゼーションとデジタライゼーションを簡単には進めにくいところのほうが、トランスフォーメーションを達成した時の成果は、むしろ凄く大きくなると思うので、ぜひそういう企業とも協業を、引き続き模索・展開したい。

―振動制御のAIの開発の話と、(その派生形と見られる)半導体製造装置の制御AIに関する話は、両方ともVM事業に属するのか
事業セグメントとしては単一のセグメントになっている。その理由として、プロジェクトごとに厳密に、100%VM、100%VDという形の切り分けが難しいこともけっこうある。先行例がないVM、それを応用したVDを手掛けている。

質問に直接答えると、建物の揺れを抑える制震のAIと、半導体装置の制御のAIは、それぞれ先行例がないVMのテーマと見ている。一方で、その間に関連性はあり、制震のAIで培った深層強化学習という技術領域の応用方法が、かなりの部分が半導体製造装置の制御にも使える。それぞれ先行例のないユニークなテーマではあるものの、裏側のノウハウや技術は、かなり共通性を持って展開しており、VMからVDへの展開につながる1つの例でもある。

―VM事業とVD事業の定義的な切り分けは、もう少し噛み砕くとどうなるか
今の例では、半導体の製造装置を制御するAIを、工事計画の最適化や生産計画の最適化などに使っていく取り組みを、その先の流れとして取り組んでいる。近いソリューションをそのまま適用していくことができるので、VMからVDへの典型的な展開と考えている。

全てのプロジェクトで、根っこのところで共通するノウハウはありつつも、比較的ダイレクトに展開できるものを、特に典型的なVMからVDへの流れとして整理している。ただ、ここは0か1ではないので、相互に連関しながら広がっている。

―人材戦略について。オンボーディングも含めてどのように進めていくのか
高度・ビジネスプロフェッショナルな人材の獲得競争が非常に激しくなっていると見ている。まず、定量的な条件でも競争力がある水準をきちんと作っていくことが、必要条件としてある。

そのうえで推していきたいのは、最先端のAIのテクノロジーを使いながら、それをリアルな実際の社会・産業の問題に適用して、社会的・産業的にも非常に価値のあるテーマ、成功したらインパクトが非常に大きく出るようなテーマに取り組む機会がある。知的にチャレンジングで、できたら凄いという機会を提供できる。特にそういう難しいチャレンジや誰も解けていない問題を解きたい人材に対しての訴求力を高めていく。

オンボーディングと言ったが、そのなかで、「ソリューションデザイン」というコンセプトや能力は、世のなかでまだきちんと定義されていない。それを初めから持っている人材は非常に少ない。そういったことをやりたいという人たちに集まってもらい、昔からいるメンバーを中心に相互に切磋琢磨しながら、そのなかでの育成にもかなり力を入れてチームを作っていきたい。

藤原COO兼CTOは産総研で機械学習や音声信号処理、自然言語処理の研究に従事した後、ボストンコンサルティンググループやAIスタートアップを経て、椎橋CEOとLaboro.AIを共同で創業した
藤原COO兼CTOは産総研で機械学習や音声信号処理、自然言語処理の研究に従事した後、ボストンコンサルティンググループやAIスタートアップを経て、椎橋CEOとLaboro.AIを共同で創業した

―コストの話だが、GPUの価格が高騰している部分もある
藤原COO兼CTO: GPUの調達価格は最近、ChatGPTなどのLLMの影響で上昇している傾向にある。資金使途としても、インフラ構築とGPUサーバーの構築を予定している状況だ。一方で、LLMの開発に使うような大規模な数のGPUが必要というよりは、1つひとつの案件を遂行するうえでは、比較的小規模な調達で十分に賄える。全体的に価格が上がり、供給が減っている状況はありつつも、現業のプロジェクトを賄う観点では、大きな障害にはならないだろう。

―調達資金の使途は
椎橋CEO:4点あり、主に3つだ。特に、優位性や成長戦略に関わるところで、人材採用・育成に使っていく。もう1つがマーケティング。「イノベーションを起こしていく」、「AIでバリューアップするんだ」というコンセプトを対外的に広く認知してもらうのもそうだし、具体的にニーズを持っている企業に当社を見付けてもらい一緒に取り組みをしていくためのマーケティングとなる。また、先ほどのGPUの質問でもあったが、3つ目は計算資源を中心としたインフラの構築だ。いずれも成長戦略としては非常に重要な要素であり、これらに充てていく。

―株主還元の方針は
短期的には、まずはグロースを優先して、成長に回していくことを検討していく。一方で、投資家・株主になってもらう人たちは、ステークホルダーとして、当社が活動していくなかで非常に重要なパートナーである。投資家や株主への還元の在り方は、中長期的にはいろいろなオプションを考えていきたい。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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